銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第18話:閉じられし罠

#16

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 最初の異変はマゴディの部隊が撤収して約二時間後、4月5日の正午に起きる。

「星系外からの艦隊反応?」

 オペレーターからの報告に眉をひそめたのは、第四惑星フェクサンの宇宙要塞を攻略中の、ウォーダ軍第28艦隊司令官のコルモル=シドンだった。ウォーダ軍の一番右後方に配置した、駆逐艦からの通報である。

「三人衆の増援部隊か?」

 旗艦の司令官席に座るシドンの、傍らに立つ参謀が問い質す。通信科のオペレーター席から、一人の士官が立ち上がって応じる。

「分かりません。しかし、かなりの数の艦がいるようです」

 これを聞いて司令官のシドンは、即座に三隻の駆逐艦を確認に向かわせるよう、参謀に命じた。ウォーダ軍の増援ではないのは確かだが、星帥皇室が独自に部隊を出して来た可能性があり、一方で三人衆が本拠地のアーワーガ宙域から、新たな増援を呼び寄せていた可能性もある。

 コルモル=シドンは元はロッガ家の武将で、当主ジョーディー=ロッガの右腕とまで言われていた事もあった。当然それだけの才覚を有しており、出現した正体不明の艦隊に対する対処も速い。宇宙要塞攻略に温存していたBSI部隊を、この正体不明の艦隊が敵であった場合に備えさせる。これに加え、同じく宇宙要塞攻略を行っている独立管領、コレット=ワッダーに連絡を入れる。ワッダーも元はロッガ家に従属していた身だ。

「ワッダー殿。我が艦隊は、いま現れた謎の艦隊に備える。苦労を掛けるが、少し戦線を支えてもらえるか?」

 シドンからの直接通信に、ワッダーは「了解した」と二つ返事で応じる。こちらは“コーガ五十三家”の一つで、やはり実戦経験も豊富であり、正体不明の艦隊の出現という事態の重要性は、充分に理解している。



 するとおよそ十五分後、正体不明の艦隊へ接近していた三隻の駆逐艦から、新たな情報が入った。先方が名乗って来たというのだ。そして判明した正体は、思いも寄らないものだった。シドンは困惑の表情で、報告を受ける。

「なに、『イシャー・ホーガン』からの艦隊だと?」

 『イシャー・ホーガン』は、ここからそう遠くないオ・ザーカ星系にある、イーゴン教の総本山の名称である。シドンの言葉にオペレーターが応じる。

「はっ。基幹艦隊クラスの艦隊が五個。目的は我がウォーダ軍の、支援だそうであります」

 支援?…支援だと?…と、シドンは頭の中で訝しんだ。支援してくれるというのであれば、まずウォーダ軍の本陣から通達があるはずだろう。
 
 シドンは艦橋中央の戦術状況ホログラムを見遣る。『イシャー・ホーガン』艦隊との距離は、およそ22万5千まで縮まっている。迷っている時間は無い。

「通信士。『イシャー・ホーガン』艦隊に、我が艦隊との距離22万で停止、待機するよう伝えろ。そして総旗艦に、支援の件を問い合わせるんだ」

 戦場においてはビームや誘導弾が飛び交うだけでなく、電子妨害戦もいつも激しく火花を散らしている。総旗艦からの、『イシャー・ホーガン』艦隊が支援に来るという連絡が、届いていない場合もある。

 ただやはり総旗艦『ヒテン』からの返答は「ノー」だった。そして『イシャー・ホーガン』艦隊は、繰り返し告げる停船指示に従わない。シドンはBSI部隊に発艦を命じた。

「発砲許可はどうしますか?」

 参謀長の問いに、シドンは眉間に皺を刻んだ。まるでチキンレースである。突然現れたとはいえ、『イシャー・ホーガン』とは敵対関係にあるわけではない。先に手を出させて開戦の口実にするのは、古来から使われている策だった。とはいえ、効果的であるのも間違いない。

「発砲は―――」

 指示を出そうとするシドン。ところがその時、『イシャー・ホーガン』艦隊の方から全周波数帯通信で、呼び掛けと宣言が始まる。

「ウォーダ軍の将兵に告げる。こちらは『イシャー・ホーガン』派遣軍司令長官、ベリウス=マキャンネルである」

 この通信は当然、ウォーダ軍総旗艦『ヒテン』でも受信されている。ノヴァルナは、司令官席で腕組みをして、ベリウスの次の言葉を待った。

「長年に及ぶ皇国の戦乱に、我等が信仰する科学の進歩は滞り、宇宙真理の追及による知的生命体の更なる進化の道は、閉ざされて久しい。事ここに至り、イーゴンの教えに導きを求めたる我等は、“銀河布武”を標榜し、今や戦乱の元凶となったウォーダ家を、武力によって打倒する事をここに宣言する!」

 当初の“支援に来た”という言葉から一転、銀河皇国に多数の信者を有する、イーゴン教の宣戦布告。その衝撃的な話を聴いたにウォーダ軍の将兵は、誰しもが唖然とする。同時に『イシャー・ホーガン』艦隊もBSI部隊を発艦。戦艦と重巡部隊はシドンの艦隊に向けて、砲撃を開始する。だがシドンもロッガ家の重臣であった身、敵となった『イシャー・ホーガン』艦隊より先に、主砲射撃を始めた。

「ワッダー殿。要塞攻略は中断し、ここはノヴァルナ様の本隊と合流しよう」

 シドンの判断は正しい。ワッダーもすぐに同意する。

「わかった。そうとなれば長居は無用。すぐに離脱だ!」




▶#17につづく
 
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