12 / 508
第1話:大義の名のもとに
#11
しおりを挟むだがこのヴァルツの艦隊出動―――よく考えれば、腑に落ちない事がある。
それは、キオ・スー家のダイ・ゼン=サーガイが今回の対ナグヤ家戦で、イマーガラ家から伝えられた施策では、イマーガラ家側に寝返ったナルミラ星系独立管領ヤーベングルツ家と、イマーガラ家のモルトス=オガヴェイが艦隊を出動させ、ヴァルツ艦隊をモルザン星系に足止めさせるはずであったからだ。
連戦で消耗して艦艇数は減ってはいるが、ウォーダ一族の中でも勇猛で鳴らした精鋭のモルザン星系艦隊は、ナグヤ側の大きな主戦力である。そんな彼等を参加させない事が、今回のキオ・スー側の作戦の根幹を成す案件の一つであった。そのヴァルツ艦隊が何事も無くモルザン星系を後にし、ノヴァルナの援護のためオ・ワーリ=シーモア星系へ向かったのだから、どこかで齟齬が起きたのだ。
その齟齬の原因は先日、ノヴァルナがミ・ガーワ宙域内まで遠征して、同盟の契りを果たし、ムラキルス星系で共同作戦を行った、独立管領ミズンノッド家である。
イマーガラ軍の圧迫で窮地に立たされていたミズンノッド家当主シン・ガンは、新当主ノヴァルナ自ら指揮を執り、ナグヤ軍全力出撃で応援にやって来た事に対し、大変な恩義を感じていた。
そのためミズンノッド家は、ナルミラ星系で艦隊出撃の動きがあるのを察知すると、即座にノヴァルナに連絡。それと同時に先のムラキルス星系攻防戦を生き延びた、残存艦隊の全てをナルミラ星系方向へ出動させたのだ。
こうなるとヤーベングルツ家とモルトス=オガヴェイは、部隊を動かせなくなった。ナルミラ星系を空けると、ミズンノッド艦隊の襲撃を受ける恐れが出て来たのである。
ヤーベングルツとオガヴェイのどちらか一方をナルミラ星系に残し、他方をモルザン星系へ向かわせる手もあるが、オガヴェイの本来の役目は、ヤーベングルツ家の監視であるためそれは出来ない。
結局、ヤーベングルツ家もオガヴェイも部隊を動かす事が出来ず、難を逃れたヴァルツ=ウォーダはノヴァルナからの要請に従って、モルザン星系恒星間打撃艦隊を出動させたのだった。
ただ…イマーガラ家への忠義に全てを懸けたあのセッサーラ=タンゲンが、己の死に際して遺した戦略が、果たしてこの程度の事で挫折するものであろうか?
その答えが分かるのは、もう少し先の話である―――
ともかくヴァルツ率いるモルザン星系艦隊の出現は、彼等がオ・ワーリ=シーモア星系外縁部に超空間転移した直後、驚愕をもってキオ・スー家首脳陣の知るところとなった。そしてそれと前後して、ヤーベングルツ家から、本拠地ナルミラ星系へミズンノッド艦隊接近につき、外征不能の連絡があったのである。周囲の反対を押し切って同盟国への信義を通したノヴァルナの行動が、この時になって生きて来たというものだった。
一方、キオ・スー城では窮余の策として、およそ八十隻ある星系防衛艦隊の三分の二をヴァルツ艦隊の迎撃に差し向け、残り三分の一を惑星ラゴンの反対方向から、ナグヤ家の本営であるナグヤ城へ向かわせる事を決定した。ただしこれは、ナグヤ側の星系防衛艦隊約三十隻を引き付けるためで、こうする事でキオ・スーとナグヤ双方の主戦力となる、恒星間打撃部隊の数的優位を維持しようと考えたのである。
キオ・スー城地下の総司令部では、ディトモス・キオ=ウォーダが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、巨大な戦術状況ホログラムを見上げて、傍らの筆頭家老ダイ・ゼン=サーガイに問い質した。
「本当に勝てるのであろうな、ダイ・ゼン!?」
「お任せあれ」
重々しく頷いたダイ・ゼンは、巨大ホログラムスクリーンとNNLで連動した、小型のホログラムスクリーンを眼前に展開し、それを指先で操作し始める。スクリーンには惑星ラゴンとその月が表示されており、平面であったスクリーンからそれらが飛び出して、文字通りの立体映像で二人の前に浮かび上がった。
月の艦隊基地『ムーンベース・アルバ』はキオ・スー家が保有しており、一方のナグヤ家は、ナグヤ城上空に艦隊駐留基地の『ショウ・ヴァン』がある。
ノヴァルナ率いるナグヤ艦隊の目的は、この『ムーンベース・アルバ』から発進して、『ショウ・ヴァン』とナグヤ城へ艦砲射撃を目論む、キオ・スー艦隊の迎撃であると推察できた。そうなるとキオ・スー家からすれば、総司令官のカーネギー=シヴァよりノヴァルナを屠るのが主目的であるから、叩くべきはナグヤ艦隊であるのは明白だ。
「ノヴァルナ艦隊との戦場は、我等に選ぶ権利があります」
これが我等の最大の優位点にございます―――と続けたダイ・ゼンは、さらにディトモスに作戦の主旨を述べる。それを聞き終えたディトモスは納得顔で頷き、「うむ。頼んだぞ」とダイ・ゼンに告げた………
▶#12につづく
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中
あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。
結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。
定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。
だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。
唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。
化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。
彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。
現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。
これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。
ソラノカケラ ⦅Shattered Skies⦆
みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始
台湾側は地の利を生かし善戦するも
人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね
たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される
背に腹を変えられなくなった台湾政府は
傭兵を雇うことを決定
世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった
これは、その中の1人
台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと
舞時景都と
台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと
佐世野榛名のコンビによる
台湾開放戦を描いた物語である
※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち
半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。
最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。
本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。
第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。
どうぞ、お楽しみください。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる