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第1話:大義の名のもとに
#11
しおりを挟むだがこのヴァルツの艦隊出動―――よく考えれば、腑に落ちない事がある。
それは、キオ・スー家のダイ・ゼン=サーガイが今回の対ナグヤ家戦で、イマーガラ家から伝えられた施策では、イマーガラ家側に寝返ったナルミラ星系独立管領ヤーベングルツ家と、イマーガラ家のモルトス=オガヴェイが艦隊を出動させ、ヴァルツ艦隊をモルザン星系に足止めさせるはずであったからだ。
連戦で消耗して艦艇数は減ってはいるが、ウォーダ一族の中でも勇猛で鳴らした精鋭のモルザン星系艦隊は、ナグヤ側の大きな主戦力である。そんな彼等を参加させない事が、今回のキオ・スー側の作戦の根幹を成す案件の一つであった。そのヴァルツ艦隊が何事も無くモルザン星系を後にし、ノヴァルナの援護のためオ・ワーリ=シーモア星系へ向かったのだから、どこかで齟齬が起きたのだ。
その齟齬の原因は先日、ノヴァルナがミ・ガーワ宙域内まで遠征して、同盟の契りを果たし、ムラキルス星系で共同作戦を行った、独立管領ミズンノッド家である。
イマーガラ軍の圧迫で窮地に立たされていたミズンノッド家当主シン・ガンは、新当主ノヴァルナ自ら指揮を執り、ナグヤ軍全力出撃で応援にやって来た事に対し、大変な恩義を感じていた。
そのためミズンノッド家は、ナルミラ星系で艦隊出撃の動きがあるのを察知すると、即座にノヴァルナに連絡。それと同時に先のムラキルス星系攻防戦を生き延びた、残存艦隊の全てをナルミラ星系方向へ出動させたのだ。
こうなるとヤーベングルツ家とモルトス=オガヴェイは、部隊を動かせなくなった。ナルミラ星系を空けると、ミズンノッド艦隊の襲撃を受ける恐れが出て来たのである。
ヤーベングルツとオガヴェイのどちらか一方をナルミラ星系に残し、他方をモルザン星系へ向かわせる手もあるが、オガヴェイの本来の役目は、ヤーベングルツ家の監視であるためそれは出来ない。
結局、ヤーベングルツ家もオガヴェイも部隊を動かす事が出来ず、難を逃れたヴァルツ=ウォーダはノヴァルナからの要請に従って、モルザン星系恒星間打撃艦隊を出動させたのだった。
ただ…イマーガラ家への忠義に全てを懸けたあのセッサーラ=タンゲンが、己の死に際して遺した戦略が、果たしてこの程度の事で挫折するものであろうか?
その答えが分かるのは、もう少し先の話である―――
ともかくヴァルツ率いるモルザン星系艦隊の出現は、彼等がオ・ワーリ=シーモア星系外縁部に超空間転移した直後、驚愕をもってキオ・スー家首脳陣の知るところとなった。そしてそれと前後して、ヤーベングルツ家から、本拠地ナルミラ星系へミズンノッド艦隊接近につき、外征不能の連絡があったのである。周囲の反対を押し切って同盟国への信義を通したノヴァルナの行動が、この時になって生きて来たというものだった。
一方、キオ・スー城では窮余の策として、およそ八十隻ある星系防衛艦隊の三分の二をヴァルツ艦隊の迎撃に差し向け、残り三分の一を惑星ラゴンの反対方向から、ナグヤ家の本営であるナグヤ城へ向かわせる事を決定した。ただしこれは、ナグヤ側の星系防衛艦隊約三十隻を引き付けるためで、こうする事でキオ・スーとナグヤ双方の主戦力となる、恒星間打撃部隊の数的優位を維持しようと考えたのである。
キオ・スー城地下の総司令部では、ディトモス・キオ=ウォーダが苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、巨大な戦術状況ホログラムを見上げて、傍らの筆頭家老ダイ・ゼン=サーガイに問い質した。
「本当に勝てるのであろうな、ダイ・ゼン!?」
「お任せあれ」
重々しく頷いたダイ・ゼンは、巨大ホログラムスクリーンとNNLで連動した、小型のホログラムスクリーンを眼前に展開し、それを指先で操作し始める。スクリーンには惑星ラゴンとその月が表示されており、平面であったスクリーンからそれらが飛び出して、文字通りの立体映像で二人の前に浮かび上がった。
月の艦隊基地『ムーンベース・アルバ』はキオ・スー家が保有しており、一方のナグヤ家は、ナグヤ城上空に艦隊駐留基地の『ショウ・ヴァン』がある。
ノヴァルナ率いるナグヤ艦隊の目的は、この『ムーンベース・アルバ』から発進して、『ショウ・ヴァン』とナグヤ城へ艦砲射撃を目論む、キオ・スー艦隊の迎撃であると推察できた。そうなるとキオ・スー家からすれば、総司令官のカーネギー=シヴァよりノヴァルナを屠るのが主目的であるから、叩くべきはナグヤ艦隊であるのは明白だ。
「ノヴァルナ艦隊との戦場は、我等に選ぶ権利があります」
これが我等の最大の優位点にございます―――と続けたダイ・ゼンは、さらにディトモスに作戦の主旨を述べる。それを聞き終えたディトモスは納得顔で頷き、「うむ。頼んだぞ」とダイ・ゼンに告げた………
▶#12につづく
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