銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

文字の大きさ
13 / 508
第1話:大義の名のもとに

#12

しおりを挟む
 
 時を同じくして、ミノネリラ宙域国首都惑星バサラナルムでは、晴天広がるイナヴァーザン城の上空で、二隻の総旗艦級戦艦が向きを前後させ、並んで通信を交わしていた。一隻はドゥ・ザン=サイドゥの旗艦『ガイライレイ』、もう一隻はギルターツ=サイドゥの旗艦『ガイロウガイ』である。

「ではギルターツ。そちらの方は頼んだぞ」

 ドゥ・ザンは司令官席に座り、通信ホログラムに映る嫡男ギルターツに告げた。

「うむ。ドゥ・ザン殿も、ご油断なきよう」

 ギルターツは大きな目でドゥ・ザンを見据えて応じる。自分の父親を“ドゥ・ザン殿”と呼ぶ異質さは相変わらずだ。

 それを合図に二隻の総旗艦級戦艦は、反転重力子の光のリングを放って、それぞれ反対方向へ上昇を始める。だがドゥ・ザン=サイドゥもギルターツ=サイドゥも、ノヴァルナの援護に向かうのではなかった。

 ミノネリラ宙域と領域を接するシナノーラン宙域の星大名家タ・クェルダ家と、オウ・ルミル宙域星大名ロッガ家が国境付近に艦隊を移動させて、ミノネリラへの侵攻の気配を見せたため、その備えとしてサイドゥ家も艦隊を出動させるのだ。

 タ・クェルダ家は重臣のバルバ=バルヴァとマーサ・トルード=ナイト、マスゲード=ガルーダという、“タ・クェルダ四天王”の内、三人が艦隊指揮を執っており、ロッガ家に至っては当主ジョーディー=ロッガ自らが率いる第1艦隊が動いていた。この威力偵察とは思えない戦力の投入に、サイドゥ家としても主力を出さざるを得なくなったのだ。

 シナノーラン宙域方面は“ミノネリラ三連星”を付けたギルターツに任せ、ドゥ・ザンは自らの第1艦隊と、懐刀の重臣ドルグ=ホルタの艦隊を連れ、オウ・ルミル宙域へ向かうつもりである。

 ギルターツの乗る『ガイロウガイ』の後ろ姿をスクリーンで眺め、ドゥ・ザンは傍らに立つドルグ=ホルタのホログラムに語り掛けた。

「いやはや、星帥皇陛下とミョルジ家の和解が、このような形で影響するとはの」

「まさに…」とドルグ。

 優れた軍略家のドゥ・ザンはタ・クェルダ家とロッガ家の今回の動きが、ノヴァルナと戦う事になったキオ・スー家へのイマーガラ家の側面支援だと見抜いている。娘のノアとノヴァルナの婚約で、イル・ワークラン、キオ・スー、ナグヤというウォーダ家の複雑な事情を、より詳しく把握するようになったからだ。

 特にロッガ家はミョルジ家と星帥皇室の争いで、星帥皇室側最大の支援勢力であったのだが、新たに星帥皇となったテルーザ・シスラウェラ=アスルーガが、ミョルジ家と和解して傀儡となる事で、紛争の長期化で皇都宙域が混乱するのを回避したため、戦力に余裕が出来たのだ。

 さらに言えばロッガ家は昨年、宇宙艦の恒星間航行に不可欠な希少鉱物、『アクアダイト』の秘密産出の件で、ナグヤ家のノヴァルナに妨害され、それが遠因となってミョルジ家に予想より早く、星帥皇側の戦力が整わないうちに皇都宙域に侵攻された、という大きな“借り”がノヴァルナにあった。

 そうであれば、その恨むべきノヴァルナに借りを返すこの機会に、ロッガ家が手を貸すのは必然的とも言える。またタ・クェルダ家については、イマーガラ家と同盟を結んでいるため、協力するのは道理と言える。そしてこの部隊移動に当主のシーゲン・ハローヴ=タ・クェルダがいないのは、イマーガラ家の仲介のおかげで宿敵ウェルズーギ家と休戦する事が出来、新たな支配地となったシナノーラン宙域の経営に専念しているのだろう。

 ドゥ・ザンが見たところ、イマーガラ家の目論見はノヴァルナのナグヤ家と縁戚関係を結び、強力な同盟者となったサイドゥ家が、ナグヤ家とキオ・スー家との決戦に、応援部隊を派遣させないための牽制行動と判断して間違いない。

 ただ、イマーガラ家の暗躍を見抜いたところで、ドゥ・ザンに牽制行動への警戒部隊を出動させる以外の手立てはなかった。放置しておけば、本当に領域を侵食される事になるからだ。

 しかしそのような状況の中でも、ドゥ・ザンは総旗艦『ガイライレイ』の司令官席に背中を沈め、ニタリと人の悪い笑みを浮かべた。その表情をみて、ドルグ=ホルタのホログラムも目を細める。

「ですが、ノヴァルナ様は流石と申せましょうな」

 ドルグがそう言うと、ドゥ・ザンは大きく頷いた。

「なにしろ、あのノアが選んだ婿殿じゃからのう」

 ノヴァルナはイマーガラ家の策略を読んで、今回の作戦では初めからサイドゥ家に援助要請を出していなかったのだ。そのためドゥ・ザンはタ・クェルダ家とロッガ家に対し、充分な戦力を差し向ける事が出来るのである。どこまでも澄んだバサラナルムの青空を見据え、ドゥ・ザンは告げた。

「この戦いは婿殿が勝つ…その祝賀を兼ね、いよいよノアと婿殿の婚儀じゃ」



▶#13につづく
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中

あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。 結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。 定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。 だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。 唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。 化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。 彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。 現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。 これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

ソラノカケラ    ⦅Shattered Skies⦆

みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始 台湾側は地の利を生かし善戦するも 人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される 背に腹を変えられなくなった台湾政府は 傭兵を雇うことを決定 世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった これは、その中の1人 台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと 舞時景都と 台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと 佐世野榛名のコンビによる 台湾開放戦を描いた物語である ※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()

処理中です...