41 / 508
第2話:混迷は裏切りとともに
#20
しおりを挟むディトモスの困惑はともかく、戦術状況ホログラムではノヴァルナの旗艦『ヒテン』がヴァルツ艦隊から集中攻撃を受け、後退を始めていた。ナグヤ艦隊からヴァルツ艦隊への反撃も振るわず、動揺しているのが手に取るように認識出来る。
「まったく、キオ・スー市民を人質にする、うぬらもうぬらなら、それを巻き添えにしようという甥御も甥御よ!!」
ダイ・ゼンに吐き捨てるように言い放った画面上のヴァルツは、その画面の映らないところにいるらしい自分の乗艦の参謀達へ命令した。
「戦力は向こうの方が上だ、今は引かせるだけでよい。深追いはするな!」
ダイ・ゼンはすかさず、腰を低くしてヴァルツに弁解する。
「ヴァルツ様のお怒りはごもっとも。我等としても甚だ不本意なれど、キオ・スーの領民を人質同然としたは、生き延びんがための窮余の策。ノヴァルナ様のご器量ならば領民の身を案じ、軍を引いて、交渉の席について頂けるものと思っておりましたのですが…」
「ふん。ものは言いようよな!―――」
「………」
詰る口調のヴァルツに、ダイ・ゼンは言葉を返せず押し黙る。するとヴァルツは幾分声を柔らかくして続けた。
「―――だがまぁよい。今はこの場を落ち着けてから、話の続きをしようぞ」
「かたじけなきお言葉」
「うむ。では甥御達をナグヤ上空まで後退させたのち、改めて連絡を入れる」
「はっ。お待ち申し上げております」
そう言ってダイ・ゼンは深々と頭を下げ、ヴァルツとの通信を終える。宗家当主でありながら終始放置された感のあるディトモスは、苛立ちを隠さず問い質した。
「いったいどういう事なのだ、ダイ・ゼン。まるで話が見えんぞ!!」
するとダイ・ゼンはディトモスを振り返り、殊更に恭しく一礼して告げる。
「どうやらウォーダきっての猛将ヴァルツ殿を、ノヴァルナめから離反させる事に、成功したようにございますれば、お館様におかれましてはご安心を」
「なんと! それはまことか!!??」
理由を申せと急かすディトモスに、ダイ・ゼンはこの致命的な敗戦に際し、自分が取ったイチかバチかの策略を開陳した。
それによれば敗戦直後、キオ・スー市に戒厳令を敷き、市民の逃亡を阻止してナグヤ艦隊に対する人間の盾に使用。艦隊の撤退を迫るための交渉材料とする旨を、ダイ・ゼンは先にヴァルツだけに漏らしていたというのだ。
ダイ・ゼンが人間の盾の事をヴァルツに知らせた理由は、ヴァルツにノヴァルナとの交渉の仲介役に立って欲しいがためだった。だが当然、そのような話を持ち掛けられても、性格的に領民を人質にするような手口を嫌うであろうヴァルツが、承知するはずがない。
しかし実はダイ・ゼンも、ヴァルツのそういった拒絶反応をはじめから見越していた。その上でダイ・ゼンは、ヴァルツにこう尋ねたのである。
「もしノヴァルナ様が人質にした領民の巻き添えも顧みず、キオ・スー城への艦砲射撃を行おうとされた場合、ヴァルツ様もそれに従うのでございますか?」
こちらの話の方が本題だと気付いたヴァルツの表情は不快さを増し、散々ダイ・ゼンを詰ったあとにきっぱりと言い放った。
「我が甥御はああ見えて、領主としての物事の道理を心得ておる。罪のない領民を巻き添えにするような非道は、行うはずがないわ!」
強い口調で突き放して来るヴァルツだったが、ダイ・ゼンも自分の命が懸かっているのであるから必死だ。
「ですが万が一! 万が一、領民の巻き添えも辞さず、艦砲射撃をお命じあそばされましたら、ヴァルツ様におかれましてはどのようなご決断を!?」
「そのような事、あり得ぬ!」
「ですから、万が一!…万が一の場合と!!」
ダイ・ゼンの執拗な問い掛けに、苛立ちの限界といった口調でヴァルツは告げた。
「万が一、そのような事となったなら、わしが甥御を実力で止めるまでだ!!」
そんないきさつをダイ・ゼンが語ると、ディトモス・キオ=ウォーダは半信半疑といった体で尋ねる。
「そのような話の程度で、ヴァルツの行動を離反ととってよいのか?」
するとダイ・ゼンは賭けに勝ったような顔を、ディトモスに向けて応じた。
「いえ。これはきっかけにございます」
「きっかけ…と申すか?」
「はい。ヴァルツ様に対しては、百歩も二百歩も譲る必要がありましょうが、まずは我等が生き残り、キオ・スー家をディトモス様のもとに存続させる事こそ重要。上手くあの大うつけが短気を起こしたこの機会を、利用するしかございません」
ダイ・ゼンの言葉に、低く「ううむ…」と唸って考え込むディトモスであったが、自分自身ほかに何も手立ては思い浮かびもしないらしく、「わかった、ダイ・ゼン。そちに任せる」と頷くしかなかった………
▶#21につづく
0
あなたにおすすめの小説
転生幼子は生きのびたい
えぞぎんぎつね
ファンタジー
大貴族の次男として生まれたノエルは、生後八か月で誘拐されて、凶悪な魔物が跋扈する死の山に捨てられてしまった。
だが、ノエルには前世の記憶がある。それに優れた魔法の才能も。
神獣の猫シルヴァに拾われたノエルは、親を亡くした赤ちゃんの聖獣犬と一緒に、神獣のお乳を飲んで大きくなる。
たくましく育ったノエルはでかい赤ちゃん犬と一緒に、元気に楽しく暮らしていくのだった。
一方、ノエルの生存を信じている両親はノエルを救出するために様々な手段を講じていくのだった。
※ネオページ、カクヨムにも掲載しています
追放料理人とJKの異世界グルメ無双珍道中〜ネットスーパーは最強です〜
音無響一
ファンタジー
わーい、異世界来ちゃった!
スキルスキル〜何かな何かな〜
ネットスーパー……?
これチートでしょ!?
当たりだよね!?
なになに……
注文できるのは、食材と調味料だけ?
完成品は?
カップ麺は?
え、私料理できないんだけど。
──詰みじゃん。
と思ったら、追放された料理人に拾われました。
素材しか買えない転移JK
追放された料理人
完成品ゼロ
便利アイテムなし
あるのは、調味料。
焼くだけなのに泣く。
塩で革命。
ソースで敗北。
そしてなぜかペンギンもいる。
今日も異世界で、
調味料無双しちゃいます!
ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります
はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。
「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」
そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。
これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕!
毎日二話更新できるよう頑張ります!
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
婚約破棄された伯爵令嬢ですが、辺境で有能すぎて若き領主に求婚されました
おりあ
恋愛
アーデルベルト伯爵家の令嬢セリナは、王太子レオニスの婚約者として静かに、慎ましく、その務めを果たそうとしていた。
だが、感情を上手に伝えられない性格は誤解を生み、社交界で人気の令嬢リーナに心を奪われた王太子は、ある日一方的に婚約を破棄する。
失意のなかでも感情をあらわにすることなく、セリナは婚約を受け入れ、王都を離れ故郷へ戻る。そこで彼女は、自身の分析力や実務能力を買われ、辺境の行政視察に加わる機会を得る。
赴任先の北方の地で、若き領主アレイスターと出会ったセリナ。言葉で丁寧に思いを伝え、誠実に接する彼に少しずつ心を開いていく。
そして静かに、しかし確かに才能を発揮するセリナの姿は、やがて辺境を支える柱となっていく。
一方、王太子レオニスとリーナの婚約生活には次第に綻びが生じ、セリナの名は再び王都でも囁かれるようになる。
静かで無表情だと思われた令嬢は、実は誰よりも他者に寄り添う力を持っていた。
これは、「声なき優しさ」が、真に理解され、尊ばれていく物語。
蒼炎の公爵令嬢 〜追放された私は、最強冒険者と共に真実の力に目覚める〜
雛月 らん
ファンタジー
「お前は出来損ないだ」——家族に見捨てられた令嬢が、最強の冒険者と出会い、真の力に目覚める異世界ファンタジー!
公爵家に生まれたエリアナは、幼い頃から魔法の制御ができず、家族から冷遇されてきた。
唯一の味方は執事のポールだけ。
人前で魔法を使わなくなった彼女に、いつしか「出来損ない」の烙印が押される。
そして運命の夜会——
婚約者レオンハルトから、容赦ない言葉を告げられる。
「魔法も使えないお前とは、婚約を続けられない」
婚約破棄され、家からも追放されたエリアナ。
だが彼女に未練はなかった。
「ようやく、自由になれる」
新天地を求め隣国へ向かう途中、魔物に襲われた乗り合い馬車。
人々を守るため、封印していた魔法を解き放つ——!
だが放たれた炎は、常識を超えた威力で魔物を一掃。
その光景を目撃していたのは、フードの男。
彼の正体は、孤高のS級冒険者・レイヴン。
「お前は出来損ないなんかじゃない。ただ、正しい指導を受けなかっただけだ」
レイヴンに才能を見出されたエリアナは、彼とパーティーを組むことに。
冒険者ギルドでの魔力測定で判明した驚愕の事実。
そして迎えた、古代竜との死闘。
母の形見「蒼氷の涙」が覚醒を促し、エリアナは真の力を解放する。
隠された出生の秘密、母の遺した力、そして待ち受ける新たな試練。
追放された令嬢の、真の冒険が今、始まる!
奇跡の少女セリア〜私は別に特別ではありませんよ〜
アノマロカリス
ファンタジー
王国から遠く離れた山奥の小さな村アリカ…
そこに、如何なる病でも治してしまうという奇跡の少女と呼ばれるセリアという少女が居ました。
セリアはこの村で雑貨屋を営んでおり、そこでも特に人気な商品として、ポーションが好評で…
如何なる病を治す…と大変評判な話でした。
そのポーションの効果は凄まじく、その効果は伝説のエリクサーに匹敵するという話も…
そんな事から、セリアは後に聖女と言われる様になったのですが…?
実は…奇跡の少女と呼ばれるセリアには、重大な秘密がありました。
私が騎士団の司令官ってなんですか!? ~聖女じゃなかった私は得意の料理で騎士たちの心を掴んだら食堂の聖女様と呼ばれていました~
あんねーむど
恋愛
栄養士が騎士団の司令官――!?
元社員食堂の職員・白城千鳥は、ある日突然「聖女」として異世界アルゼリオン王国に召喚される。
しかし期待された聖女の力はまったく発現されず、判明したのは彼女がただの一般人だという事実。
役立たずとして放逐されるかと思いきや、千鳥は王宮食堂で料理人として働くことに。慣れない異世界生活の中でも、栄養管理や献立作りを通して騎士たちの体調を支え、静かに居場所を築いていく。
そんなある日、問題児ばかりを集めた新設部隊アルゼリオン王国騎士団戦術騎士隊【アルタイル】 が発足。なぜか千鳥が司令官に任命されてしまう。
戦えない、魔法も使えない、指揮の経験もない。
困惑する千鳥を待っていたのは、王子である身分を隠している隊長のエドガー、年下で聡明だが一途すぎるノエル、俺様で口の悪い元衛士隊のクラウディオ、外見に反してサディスティックでマッドサイエンティストのフェルナンド、癖も事情も抱えたイケメン騎士たちだった。
最初は反発され、軽んじられ、失敗も重ねる千鳥。それでも彼女は騎士一人ひとりと向き合い、少しずつ信頼を勝ち取っていく。
聖女でも悪役令嬢でもない。戦場に立つことすらできない彼女は、やがて隊員たちを導く司令官として成長していく。
★にキャラクターイメージ画像アリ〼
※料理モノの物語ではありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる