銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

文字の大きさ
120 / 508
第6話:駆け巡る波乱

#10

しおりを挟む
 
 敵艦の発射した迎撃誘導弾は電子妨害フィールドの影響で、命中精度が著しく低下していた。だがそれでも大量に撃って来られては、ノヴァルナ達の脅威となる。ともかく敵機との交戦の邪魔になるのだ。さらに軽巡航艦や駆逐艦が次々に突っ込んで来て、小口径ビーム砲を撃ちまくって航過しようとする。

「クソがぁッ!」

「あああッ、ウっゼぇッ!!」

 ナガート=ヤーグマーやヨリューダッカ=ハッチといった、若手『ホロウシュ』達が罵り声を上げて操縦桿を引き、機体を操る。切迫した状況になると、つい昔のままの荒っぽい物言いに戻ってしまうが、厳しい訓練の賜物で、上達した操縦技能が滑るような機体機動を生み出し、敵弾の命中を許さない。そこにノヴァルナの小隊以外の『ホロウシュ』を指揮する、ヨヴェ=カージェスからの指示が入る。

「全機、敵BSI部隊との戦闘は近接用武装を使用し、超電磁ライフルは弾種を対艦徹甲。特にノヴァルナ殿下には敵を近づけさせるな」

 と言いながら、カージェス自身はすでにライフルの弾種変更を完了しており、急接近して来たイースキー家のBSIユニット『ライカ』を、ポジトロンパイクで一刀両断に斬り捨てると、続いて突進して来た敵駆逐艦からの迎撃砲火を難なくやり過ごし、航過間際に超電磁ライフル連射、艦尾の重力子ノズルを破壊して航行不能に陥らせる。

「このようにやればよい」

 ヨヴェ=カージェスは、ノヴァルナの親衛隊である『ホロウシュ』として、高いレベルで最もバランスのとれた武人であった。それが複雑な戦闘行動をいとも簡単にやってのけて、当たり前のように言い放つと、若手の『ホロウシュ』達は皆が、「げ…」と声を漏らし、胸の内で“勘弁してくれ”と呟く。スラム街育ちの若手『ホロウシュ』にとっては、カージェスのような根っからの武人の示すレベルの高い戦闘技能は、いまだ真似出来ないからだ。

 ただそんな彼等もノヴァルナに対する忠義は、カージェスに負けてはいない。惑星ラゴンのナグヤ市のスラム街で、何の希望も無く、ただ必死に日々を生きるだけであった彼等に、明日というものを見せてくれたのがノヴァルナだったからだ。

「カージェスのおっさんに、負けてられっかぁあああ!」

 叫び声を上げたシンハッド=モリンのポジトロンパイクの斬撃が、敵機を袈裟懸けに斬り倒し、同じ小隊のセゾ=イーテスが超電磁ライフルで、迫り来る敵艦の艦橋付近に徹甲弾を連続して叩き込む。
 ヨヴェ=カージェスはラン・マリュウ=フォレスタと同期で今年二十二歳。それを“おっさん”呼ばわりは当人としては些か心外だが、それで若い『ホロウシュ』達が奮い立つなら、少々口元は引き攣るが安いものだった。

 敵のBSI部隊と宙雷部隊の二重攻勢を、必死に排除する『ホロウシュ』達。

 ただ敵の数は多く、戦況は膠着状態となる。まだギルターツ軍の追撃部隊は広範囲に転移出現し続けており、包囲された形のノヴァルナの第1艦隊と第6艦隊は、それらに対する対処に忙殺されている。

 そんな中でもノヴァルナと、ササーラ、ランのウイザード中隊第1小隊は、カージェスらとはまた違う連携で、敵を片っ端から排除していた。

 射撃照準センサーにロックオンした敵の駆逐艦に向け、ササーラが超電磁ライフルの対艦徹甲弾を二発、三発と撃ち放つ。艦橋を中心にドカ、ドカ、ドカ、といった感覚でエネルギーシールドを貫通され、開けられた穴からスパークを噴き出しながら、明後日の方角へ漂流を始める。

 そしてその駆逐艦の突撃で出来た死角から飛び出して来る、一個中隊分はあろうかという、ギルターツ軍の量産型BSI『ライカ』。迎え撃つはランの『シデンSC』だ。こちらは通常弾頭の超電磁ライフルを連射し、立て続けにBSIユニットを撃破。ただ数に物を言わせて、ランの単機による弾幕を潜り抜けた数は、それなりにある。だがその先にいる目指す目標―――ノヴァルナがまた難物であった。

「へぃ、らっしゃえ!」

 まるで商店街の八百屋か魚屋の店主のように、陽気な声を上げるノヴァルナ。だがその双眸は笑っておらず、鋭い眼差しと攻撃的に吊り上げた口角をもって、超電磁ライフルのトリガーを引く。
 たちまち三機の敵BSIユニットが、胸部や腹部に銃弾を受けて爆発。慌てて回避運動を取った残る四機の『ライカ』と二機のASGULが、照準を付け直した。
 ところがその時にはすでに、ノヴァルナ自身も『センクウNX』を緊急加速、元の照準射点にその姿は無い。『ホロウシュ』が作り出した電子妨害フィールドの中では、探知機能も低下している。

「ランはそのままササーラと、敵艦の接近を排除しろ!」とノヴァルナ。

 ノヴァルナ機を見失ったイースキー家のパイロット達は、反射的に視覚で探そうと、コクピットを包む全周囲モニターを見回した。

 だが秒速単位で機動する宇宙戦闘で、人間のナマの視覚が、敵味方の機体の動きを捉えるのは、ほぼ不可能だ。ASGULパイロットのヘルメット内に鳴り響く、近接警戒警報と被弾警戒のロックオン警報。しかも表示はゼロ距離、驚愕の表情でモニター表示に従って上を見上げたそこには、ポジトロンパイクを振り下ろて来るノヴァルナの『センクウNX』の姿があった。

 ポジトロンパイクでASGULの一機を両断したノヴァルナは、そのままパイクを一旦手放し、超電磁ライフルを素早く引っ掴むと振り向きざまに一連射。攻撃態勢に入ろうとしていた、もう一機のASGULを撃ち砕いた。

 だが敵はまだ四機、四方からノヴァルナの『センクウNX』に襲い掛かる。

「ノヴァルナ様!」

 援護に向かおうとするラン。だがノヴァルナはそれを押し留めた。

「来なくていいっての!」

 そう言いながら、ノヴァルナは手放していたポジトロンパイクを握り直すと、機体を緊急発進させる。目標は四機の敵BSIユニットの内、一番接近していた機体だ。敵が発砲。だが『センクウNX』を急速スクロールさせたノヴァルナには当たらない。

「てめーの頭の上の―――」

 撃って来た敵に反撃のロックオン。トリガーを引く。

「蠅共ぐれぇ―――」

 爆散した敵機には目もくれず、ノヴァルナは即座に『センクウNX』の機体を翻した。そこには目前に迫る敵のBSI『ライカ』。上段から振り下ろして来る敵のポジトロンパイクを、ノヴァルナは自らの機体が左手に握る、ポジトロンパイクで受け止める。

「始末できねぇほど―――」

 敵機のポジトロンパイクを打ち防いでおき、ノヴァルナは右手の超電磁ライフルの銃口を、敵機の腹部にピタリと押し当てて弾を撃った。

「いつまでも―――」

 ノヴァルナはさらに、流れるような動きでポジトロンパイクを振るう。その先にいたのは残る二機の敵BSIユニット。ノヴァルナ機の斬撃を一機のBSIがポジトロンパイクで打ち防ぐと、もう一機が下段から、ポジトロンパイクを振り抜いて来る。ピンチに思える一瞬。

「ガキじゃねーんだよ!!」

 だがノヴァルナは咄嗟に『センクウNX』の左足で、敵機が下段から振り上げて来るポジトロンパイクを蹴り飛ばして軌道をずらし、もう一機が打ち防いでいたポジトロンパイクを振りほどくと、横に一閃。下段から斬撃を放って来ていた方の、敵機の首を刎ね飛ばす。

 頭を失ったその機体だが、しぶとくノヴァルナ機のポジトロンパイクの柄を、掴んで奪い取ろうとした。

 ところがノヴァルナの対応も早い。ポジトロンパイクは敵機の奪い取るに任せ、その勢いで今度は腰のクァンタムブレードを掴んで起動、健在なもう一機が、袈裟懸けの斬撃を浴びせるより先に、居合斬りの如く振ったその切っ先が脇腹を引き裂いた。そして返す刀で頭部を失った方の敵機も肩口から両断、四機の敵機を僅かな時間で片付ける、驚異的な操縦技術を見せたのである。




▶#11につづく
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中

あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。 結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。 定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。 だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。 唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。 化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。 彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。 現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。 これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。

ソラノカケラ    ⦅Shattered Skies⦆

みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始 台湾側は地の利を生かし善戦するも 人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される 背に腹を変えられなくなった台湾政府は 傭兵を雇うことを決定 世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった これは、その中の1人 台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと 舞時景都と 台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと 佐世野榛名のコンビによる 台湾開放戦を描いた物語である ※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。 最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。 本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。 第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。 どうぞ、お楽しみください。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...