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第13話:烈風、疾風、風雲児
#07
しおりを挟むシャトルに乗っているのは『クォルガルード』と『クーギス党』の、航宙科と機関科の人員が、一機あたり三十人…すし詰め状態である。
未使用艦にはそれぞれシャトル一機分の三十名が派遣され、ともかく対消滅反応炉を起動。艦を恒星間を含む航行だけは可能な状態にして、ユジェンダルバ星系へ輸送するのが今回の計画だ。
宇宙海賊である『クーギス党』はこういった行為に慣れているのか、効率よく散開して未使用艦に接近していく。艦と艦の間隔は二十キロはあり、素人では隣の艦の目視も難しい遠さだが、高速移動するBSIやシャトルにすれば、指呼の距離と言っていい近さである。
先頭をきって未使用の軽巡航艦の一隻に接舷したモルタナのシャトルは、三十分も経たないうちに、ノヴァルナのところへ報告を入れて来た。
「あんたの予想通りだ。この艦は作業用アンドロイドを乗せていて、整備が行き届いているよ。一時間もありゃあ、航行出来るようになる感じだね。たぶん、他の艦も同様だろうさ」
ノヴァルナの予想とはこの泊地に置かれている未使用艦は、『ヴァンドルデン・フォース』が根拠地のリガント星系を襲撃された緊急時に、逃走や挟撃に使う事を想定し、短時間で起動できる状態にあるはずだという事である。
「了解した。急いでくれ」
機体を大きくスクロールさせながら、真面目な口調で応じるノヴァルナ。相変わらず周囲には、なんの動きも見られない。
だが、それは突然やって来た―――
ノヴァルナのヘルメットの内に響き始めるロックオン警報。
“敵だ!”
咄嗟に操縦桿を倒し、九十度ダイブに入る『センクウNX』。サイバーリンクが反応があった位置を、直接脳内に伝えて来るのを感じ取り、ノヴァルナはそちらを振り向く。その直後に発射反応、誘導弾が三十発!
「一度に三十だと!?」
くそったれ、景気のいいこった!…と続けようとした言葉を飲み込み、ノヴァルナはさらに機体を急旋回させる。逆さにしたビール瓶に、安定翼を付け足したような不細工な誘導弾が三十発、その全部が自分に向かって来ると知ったからである。
余計な言葉を言っている場合ではないとノヴァルナは、『センクウNX』を砲艦が並んでいる区域に突入させた。砲艦の間を縫うように飛ぶ事で、追って来る誘導弾の動きを鈍らせるためだ。
一隻の砲艦の外殻をスレスレに掠める『センクウNX』。二発の誘導弾が、外殻から突き出た超空間通信用アンテナに引っ掛かり、衝突して爆発を起こす。その爆発を回避して動きに無駄が出来た残りの誘導弾に、後方へ振り返った『センクウNX』が、ライフルの銃弾を浴びせる。四つ、五つと砕け散る誘導弾。だがまだ二十発以上の誘導弾が迫る。それにこれらを発射した敵の正体がまだ不明だ。
直角に近い角度で急速移動をかけ、超電磁ライフルを放つ『センクウNX』。
「ラン、ササーラ。敵を見たか!?」
「いえ…」
「こちらも忙しくて…」
ランとササーラにも、十五発ずつの誘導弾が迫っており、それぞれが自分の乗る『シデンSC』を対処させる事で手一杯らしく、攻撃を仕掛けて来た相手が、どのようなものか分からないようであった。
それに対して敵の正体を伝えて来たのは、未使用の軽巡航艦を起動しようとしているモルタナからだった。そしてその口調は切迫している。
「端にいる二つの艦が動き出したよ!…なんだい、ありゃあ…変型?…艦じゃなくて、ロボットの類だ!!」
モルタナは指摘したのは、泊地に置かれた未使用艦の中で、ノヴァルナがその姿を見て“強襲降下艦ではないか?”と訝しんだ、二隻の宇宙艦だ。
その二隻は泊地に並ぶ五十六隻の宇宙艦群の両端に位置し、通常の宇宙艦とは異なる、細長い三角柱を横にしたような特異な形状をしている。その底の部分に多数のハッチが並んでいたため、ノヴァルナは惑星の衛星軌道上から、地上部隊を乗せた降下カプセルを一度に大量に放出する、強襲降下艦だと思っていたのだが、そのハッチが誘導弾の発射口だったのである。
しかもその三角柱は縦に三分割して、さらに細くなると根元のエンジン部分でバラバラに回転、“Y”の字型へと形を変えていく。そして細長く伸びた三本の三角柱は、二箇所で変形して関節部を形成した。変型を完了した機動兵器は、関節部の状況を確かめるように、二度、三度動かしてみる。それぞれの先端部にある発射口は、大口径ビーム砲のようだ。
「ロボットだと!?…自立型機動兵器かよ!!」
モルタナの報告を聞いて、ノヴァルナは吐き捨てるように言い放った。ヘルメットの中では鳴りやまない近接警戒警報。幾つかは減らしたものの、まだ十発以上の誘導弾が『センクウNX』を追って来る。機体をさらに加速させたノヴァルナは、一隻の砲艦を艦尾から、渦巻きを描いて包むように航過した。その動きについて来る誘導弾。
“まずはコイツらを片付けてからだ!”
振り向いた『センクウNX』は、超電磁ライフルを連射する。次々と爆発する誘導弾だが、あと二発というところでライフルの弾が尽きた。弾倉を交換する余裕もなく、ノヴァルナは咄嗟に『センクウNX』の腰に装備した、クァンタムブレードを引き抜いて、この二発を斬り捨てようとする。
ところがそこに、新たなロックオン警報―――
しかも“ピーッ!”と鳴り続けるのはいつ命中弾を喰らっても、おかしくない状況だ。戦場慣れしているノヴァルナであっても、冷や汗交じりに機体を翻す。次の瞬間、敵の機動兵器が大口径ビーム砲を発射した。
自立型機動兵器が放った大口径ビーム砲が、『センクウNX』の足元にある砲艦を直撃する。反応炉が稼働していない砲艦はシールドを張っているはずもなく、この直撃に大爆発を起こした。
「うあっ!!」
目の前に広がる閃光とコクピットを激しく揺さぶる衝撃に、ノヴァルナは叫び声を上げる。砕けた砲艦の破片が機体に激突し、損傷が発生した事を知らせる警報音が鳴り始めた。
“クソッ! あのビーム砲、戦艦並みじゃねぇか!!”
操縦桿とフットペダルを操作して、機体のコントロールを取り戻したノヴァルナは、赤い損傷報告のリストが走るホログラム越しに、ビームが飛んで来た方角を見る。自分を追って来ていた誘導弾の残りは、今の爆発に巻き込まれたらしく、反応が消えていた。だが敵の機動兵器からの、照準センサー反応はそのままだ。そしてロックオン警報。
「チィ!」
舌打ちしたノヴァルナは、咄嗟に『センクウNX』を宇宙空間で横滑りさせて、回避運動に入る。その至近距離にほとばしる、薄緑色の曳光粒子を纏った、極太のビーム。今度はノヴァルナの遥か後方に浮かぶ、砲艦の左舷をザクリと削り取っていった。
ノヴァルナは単に回避運動を行うだけでなく、敵の機動兵器との距離を詰める。『センクウNX』のスキャナーが届く距離になると、より詳細な、敵の機動兵器の解析情報が入るようになった。
“Y”字形に変型後の、機動兵器の最大長は200メートルはあり、完全無人の自動機械だ。駆動機関と制御部分は中央にあって、三本の長いアームは攻撃システムを内蔵していると思われる。この未使用艦の泊地の番兵として、普段は宇宙艦の姿で潜んでいたのだろう。
“スニーク・プローブの探知機が気付かなかったって事は、センサーで見張っていたんじゃなく、カメラ・アイか何かで、動くものが侵入して来るのを、見張っていたに違いねぇな…”
隠密性重視のスニーク・プローブは通常、自らセンサー波を発する事は無く、敵のセンサー派を検出する事を優先している。そのため超高感度のカメラアイを使用した、“大昔の”警戒システムをスルーしてしまったようだ。こういうケースを意識的に想定していたのであれば、やはり『ヴァンドルデン・フォース』の司令官、ラフ・ザス=ヴァンドルデンは相当、用心深い人間だと知れる。
ノヴァルナがそこまで考えを進めた直後、機動兵器が再び主砲を発射した。しかしノヴァルナもそれは読んでいる。敵の主砲は戦艦並みだが、エネルギーチャージに時間がかかり、連続発射はきかないタイプらしい。ビームを素早く回避した『センクウNX』は、反撃の超電磁ライフルを撃ち放った。ところがその銃弾は、機動兵器の目前で弾かれる。
「野郎、エネルギーシールドってか!!??」
▶#08につづく
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