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第14話:死線を超える風雲児
#19
しおりを挟むノヴァルナがヘルメットを軽く叩いて奏でるリズムは軽快だ。
スタタタタン、スタタタタン………
それに合わせるかのように、『クォルガルード』が艦を大きく揺らせる。艦橋の前方視界の眼前を通過する敵のビームが眩い。
スタタタタン、スタタタタン………
航宙操舵手はすでに、サイバーリンク用のヘッドセットを頭に被っており、オペレーターからの報告を聞いての操舵ではなく、BSIユニット操縦と同じように、NNLとサイバーリンクし、緊急操舵を行っている。
スタタタタン、スタタタタン………
感が右舷へ大きく傾いた直後、艦橋の左側で猛烈な閃光が起こる。遠隔操作式の防御デバイスであるアクティブシールドが、敵戦艦の主砲の直撃を喰らって消し飛んだのだ。
スタタタタン、スタタタタン………
損害報告と指示が飛び交う中、ノヴァルナは緊張感も見せず、そのリズムが伴奏となっている歌―――『閃国戦隊ムシャレンジャー』の主題歌を小さく口ずさむ。
「燃やせ、熱い魂、炎の心…砕け、悪の企み、侵略者―――」
直後に腹にズシンと響くような揺れ、艦の後部上甲板が、敵の主砲弾に抉り取られた旨の報告が入る。ダメージコントロールを担当する副長が即座に指示を出す。ノヴァルナの傍らに立つササーラが、苛立ちを感じさせる声で、「くそ。こっちの砲撃は効いてないのか」と言う。周囲の喧騒を他人事のような目で見ているノヴァルナの、口ずさんでいた歌の一番が終わった。
「―――閃国戦隊、ムシャレンジャーーー」
するとその時、待っていた整備班長からの、『センクウNX』応急修理完了の連絡が入る。間髪入れずヘルメットを抱えて席を立ち、打って変わって表情を引き締めたノヴァルナは、「出撃する!」と強い口調で告げるや否や駆け出して、格納庫と直通のエレベーターへ飛び込んだ。
ドアが閉まると同時に、再び『クォルガルード』が回避行動で、大きく艦体をくねらせる。ノヴァルナは「おっと!」と声を漏らし、右腕でヘルメットを抱えて、左腕でエレベーターの壁を押さえて体を支えた。全長二百メートル以上ある『クォルガルード』の見せる、まるでサーフィンでもしているような挙動に、それだけ厳しい状況であるにも関わらず、ノヴァルナは上機嫌になった。
「いいねぇ。いい波、来てっぞ!」
するとエレベーターが格納庫に到着。ドアが開いて飛び出したノヴァルナは、軽く目を見開いて「あれっ!?」っと声を上げる。
「左腕、付いてんじゃん」
それは発艦準備が進められている『センクウNX』だった。ベグン=ドフとの戦いで失った左腕が、元に戻っていたのだ。速足で近付いて来た整備班長が告げる。
「飛行の際、バランスが悪くなりますので、予備の腕をつけました。ただ未調整で戦闘には使えませんので、ご了承ください」
BSIユニットの修理・整備機能を持つ『クォルガルード』は、ノヴァルナの専用艦という事もあり、『センクウNX』の主要な予備パーツを積み込んでいる。その中には頭部や両腕、両脚があり、一度なら喪失しても元に戻す事ができた。取り付け自体は基部が胴体への嵌めこみ式となっており、そう難しいものではない。
ただ今回はノヴァルナが無茶をし、自分で『センクウNX』の左腕を引っこ抜いたため、結合部が破損して完全稼働できるようにするには、時間が足らなかったのである。
主君の再出撃に反対の整備班長だったが、それでもどうせ送り出すのであれば、出来るだけの事はしたいという思いだった。速足で『センクウNX』へと向かうノヴァルナに同行し、状態を告げる。
「先ほどの戦闘で想定以上の、かなりの負荷がかかったと思われ、機体の各関節駆動部がダメージを受けています。ですので、出力を七十パーセントぐらいに抑えて頂かないと、どこが壊れてもおかしくはありません。ご無理はかえって危険です」
言葉のうちに『センクウNX』の前へ到着したノヴァルナは、ヘルメットを被りながら「わかった。サンキューな」と礼を言った。その直後、『クォルガルード』が再び急激な回避運動を行い、天地が左へ大きく傾く。ノヴァルナと整備班長は近くの手摺りに咄嗟につかまり、転倒を免れた。するとノヴァルナは「なるべくそうする」と、不敵な笑みを残して『センクウNX』のコクピットへ乗り込んだ。肩をすくめて大きなため息をついた整備班長は、最後まで修理と整備を続けていた部下達に命じる。
「殿下が発艦される。みんな、引き上げろ!」
それに合わせて『センクウNX』が発する重力子ジェネレーターの金属音が、アイドリング状態から一段と甲高くなった。ただ整備兵全員が引き上げ、待機所の扉が閉まると格納庫内の空気が抜けて、金属音は逆に急激に小さくなって遂には聞こえなくなる。
手短に計器のチェックを終え、ノヴァルナは管制室へ告げた。
「『センクウNX』、シークエンス省略、緊急発進する! フレームロック解除、右舷外部扉開け!」
「了解」
命令に従って『センクウNX』の機体を固定していた、フレームのロックが解除された。同時に格納庫の右側の壁がスライドを始める。
だがその扉が開き切る前に、『クォルガルード』が急旋回に入り、その直後に猛烈に揺れた。格納庫の天井から火花が降る。直撃ではないものの、艦のどこかに損害が出たのだ。しかもその衝撃で『センクウNX』は、艦の外へ放り出される。
「おおおっ!?」
転がるように回転しながら宇宙へ飛び出た、『センクウNX』のノヴァルナはすぐに体勢を立て直し、今の攻撃を受けた『クォルガルード』の損害状況を、外から見た。艦の上部が斜めに抉られ、所々から火花が噴き出している。
「あんま、余裕かましてる場合じゃねーな…」
口元を引き締めたノヴァルナは、ラフ・ザスの旗艦『ゴルワン』に向けて、一気に機体を加速させた………
▶#20につづく
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