銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第14話:死線を超える風雲児

#24

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 駆逐艦の爆発は通常のものより遥かに大きかった。それは艦が爆発する際に作動する、対消滅反応炉の最終安全装置を解除しており、燃料であるコアシリンダー内の反転液化水素を蒸発させずに、全て対消滅爆発させたからである。

 三隻の駆逐艦の爆発は、ラフ・ザスの戦艦三隻を包み込んだ。

 その中から飛び出して来たのは、キノッサとネイミアを乗せたシャトルだった。ただ操縦できているわけではなく、斜めになった機体をコマのように回転させて、である。

「ひえええええーー!」
「きゃああああーー!」

 操縦室で悲鳴を上げるのはキノッサとネイミア。するとそんなシャトルを、人型に変型した二機のASGUL『アヴァロン』が受け止めた。『ホロウシュ』のセゾとヴェールのイーテス兄弟だ。セゾが通信で「大丈夫か?」とキノッサに呼び掛ける一方、ヴェールは収まりつつある爆発光を見据えて言う。

「やったか!?」

 いずれかのものとも分からない、引き裂かれた艦の一部が広がる中…しかしそれらを押しのけて、ラフ・ザスの『ゴルワン』が巨体を現した。

「!!!!」

 仕留めきれなかった事に、ノヴァルナ側の兵士達は誰しもが、表情を強張らせて息を呑む。

 『ゴルワン』は外殻の数箇所が大きく抉られているものの、自力航行していた。しかも遠隔操作式のアクティブシールドも、まだ二枚が稼働しており、艦の両舷を守っている。駆逐艦が自爆する直前、随伴する二隻の戦艦が『ゴルワン』の前へ進み出て盾となったのだ。司令官ラフ・ザス=ヴァンドルデンと共に、修羅の道を行くことを決意した彼等の、恐るべき鉄血の結束力の発露である。

 ラフ・ザスの巨艦は茫然とした感の漂うノヴァルナ側の隙を突くように、破損した重力子ノズルが出せるだけの速度で一気に加速をかけた。針路は無論、惑星ザーランダだ。

「くそッ!!」

「奴を止めろ!!」

 我に返ったノヴァルナ側の兵士が声を上げ、座席の肘掛けを叩き、『ゴルワン』への阻止行動を開始した。だがノヴァルナ側は対艦誘導弾も宇宙魚雷も尽き、残っているのは軽巡クラスや駆逐艦クラスの主砲、そしてそれ以下の兵器だけである。それでも全艦が、持てる兵器を『ゴルワン』へ向けた。

「ザーランダには!…俺達の星だけには行かせるな!!」

 異口同音にそう叫んだのは、三隻の軽巡航艦を運用している、ザーランダの志願兵達である。母星の目前まで迫られ、その声には悲愴感があった。

「距離を詰めろ! 至近距離ならこのふねの主砲でも効果ある!」

「そうだ、いざとなったらさっきの駆逐艦のように、体当たりだ!!」
 
 だがザーランダの兵士達の焦りは、完全に裏目に出た。勝手に全速前進に入る三隻の軽巡航艦に、『クォルガルード』のマグナー艦長が戻るように命じるが、時すでに遅しである。『ゴルワン』の左舷から接近しながら、三隻はしきりに主砲を撃つが、『ゴルワン』は残った二基のアクティブシールドを左舷側へ回し、艦体への直撃をほとんど防いでいた。対する『ゴルワン』は、待ち構えていたように主砲塔を素早く旋回すると、三連装の主砲を放つ。

 引き付けられた形の軽巡航艦達は、まず先頭を走る一隻が、多数の直撃弾によって瞬時に砕け散った。そして後続の一隻も、ひとたまりもなく火の玉と化す。艦の三分の二ほどが吹き飛ばされ、プラズマスパークが纏わりつく艦底部だけが、火球の中から姿を現す恐ろしい光景だ。
 三隻目はこの光景を見て我に返ったのか、急速左回頭して退避行動を取る。そこに襲い掛かる『ゴルワン』の主砲ビーム。その一撃は軽巡航艦の右舷側を、エネルギーシールドごと抉っていった。

「ザーランダまでの距離は?」

 破片を撒き散らしながら、苦しみのたうつように逃走する、三隻目の敵軽巡の姿に、何の感慨もない眼を向けながら、ラフ・ザスはオペレーターに問い掛ける。

「約五万です」

 その報告を聞き、ラフ・ザスは軽く頷いた。あと十分もすれば、集束延伸射撃を使用せずに、『ゴルワン』の主砲を惑星ザーランダの地表に、直撃させる距離へ到達できるだろう。

 もはや『ヴァンドルデン・フォース』は潰滅だ。だがラフ・ザスも、ここまで彼について来た将兵も、いつかはこうなる事を覚悟していた。無力な他者に不条理な恐怖と絶望を与える事で、刹那的にならざるを得ない過去から、目を逸らして来た報いが来る日の事を覚悟していたのだ。そうであるなら、最後までその意思を貫き通し、悪名に塗れて滅びてゆく事でこそ、本懐を得るというものである。

“狂気こそ我等が本懐なり!”

 内心でそう叫び、ラフ・ザスは表情の無かった顔に、僅かばかりの笑みを浮かべた。アクティブシールドを虚しく打つ、敵駆逐艦の主砲弾の光が、ラフ・ザスの顔の陰影を深くする。だが、その時だった―――

「敵駆逐艦、突っ込んで来ます! 距離至近、回避不能!!」

 突然のオペレーターの報告。画像が捉えたのは先の無人駆逐艦の自爆攻撃の際、途中で脱落した最後尾の一隻だった。だがそれは、『ゴルワン』の主砲弾を艦尾に喰らって、漂流していたはずである。

「映像を拡大しろ!」

 珍しく口調を硬くして命じるラフ・ザス。そしてラフ・ザスは、映像が拡大された駆逐艦の艦尾に見え隠れする、『センクウNX』を発見した。

 ヨリューダッカ=ハッチとカール=モ・リーラの『シデンSC』と共に、『センクウNX』で駆逐艦を後ろから押すノヴァルナが叫ぶ。


「いっくぜぇえええええーーー!!!!」

 
 残されていた無人駆逐艦は遠隔操作が途切れ、機関部も停止していたため、『ゴルワン』の警戒センサーはこれを、“残骸”として識別してしまっていたのだ。

「押せぇええええ!!!!」

 ハッチとモ・リーラの『シデンSC』に声を掛け、駆逐艦を左のショルダーアーマーで押して突進させる、ノヴァルナの『センクウNX』。しかしこちらも反物質コアシリンダーが一基停止しており、もはや稼働時間は残り僅かだ。ノヴァルナがコクピットの視界の左端に浮かぶ、残り稼働時間表示の小振りなホログラムを一瞥する。表示されている数字は“00:03:13”だ。末尾の“3”は、瞬く間に“2”へ変わった。

 対する『ゴルワン』では、主砲の旋回と照準では間に合わないと、即座に判断した艦長が命令を下す。

「狙える副砲は全て向けろ。砲撃を集中!」

 戦艦の副砲とは軽巡航艦の主砲クラスで本来、雷撃目的で肉迫して来る駆逐艦などを、排除するための武装である。つごう八基の副砲塔が旋回し、突撃して来る無人駆逐艦へ連装砲を向けて猛然と射撃を開始した。至近距離であったため、ほぼ全弾が命中して駆逐艦は爆発。バラバラに砕け散る………


だが当然、こんな事で終わるノヴァルナではない―――


 砕け散った駆逐艦の艦体の間を擦り抜けて、『センクウNX』と二機の『シデンSC』が突撃して来た。まだ動く『センクウNX』の右手に握るのは、バックパックから抜き取った、損傷して機能を停止したコアシリンダーである。駆逐艦は体当たりが目的ではなく、『ゴルワン』へ取り付くための盾だったのだ。ノヴァルナの意図を悟り、カッ!…と見開いた双眸を向けるラフ・ザス。

「コイツが本命だぁあああ!!!!」

 そう叫んだノヴァルナは、『ゴルワン』の外殻スレスレで直角にターン。先の駆逐艦の自爆攻撃で発生した破孔の一つ、対消滅反応炉に一番近い位置の破孔へ辿り着くと、その中へコアシリンダーを突き刺した。

「ハッチ、モ・リーラ!」

 素早く離脱するノヴァルナは二人の『ホロウシュ』の名を呼ぶ。それを合図に、『センクウNX』に従う二人は声を揃えて「はっ!!」と短く応じ、『シデンSC』の超電磁ライフルでコアシリンダーを狙撃した。蒸発させずにいたシリンダー内の液化反転水素が銃弾を喰らい、一気に百パーセントエネルギー変換の対消滅反応を起こす。次の瞬間、目もくらむほどの閃光が『ゴルワン』から発せられれ、それが収まると、艦の左舷後方が大きく損壊した『ゴルワン』の姿が現れた。




▶#25につづく
 
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