301 / 508
第14話:死線を超える風雲児
#24
しおりを挟む駆逐艦の爆発は通常のものより遥かに大きかった。それは艦が爆発する際に作動する、対消滅反応炉の最終安全装置を解除しており、燃料であるコアシリンダー内の反転液化水素を蒸発させずに、全て対消滅爆発させたからである。
三隻の駆逐艦の爆発は、ラフ・ザスの戦艦三隻を包み込んだ。
その中から飛び出して来たのは、キノッサとネイミアを乗せたシャトルだった。ただ操縦できているわけではなく、斜めになった機体をコマのように回転させて、である。
「ひえええええーー!」
「きゃああああーー!」
操縦室で悲鳴を上げるのはキノッサとネイミア。するとそんなシャトルを、人型に変型した二機のASGUL『アヴァロン』が受け止めた。『ホロウシュ』のセゾとヴェールのイーテス兄弟だ。セゾが通信で「大丈夫か?」とキノッサに呼び掛ける一方、ヴェールは収まりつつある爆発光を見据えて言う。
「やったか!?」
いずれかのものとも分からない、引き裂かれた艦の一部が広がる中…しかしそれらを押しのけて、ラフ・ザスの『ゴルワン』が巨体を現した。
「!!!!」
仕留めきれなかった事に、ノヴァルナ側の兵士達は誰しもが、表情を強張らせて息を呑む。
『ゴルワン』は外殻の数箇所が大きく抉られているものの、自力航行していた。しかも遠隔操作式のアクティブシールドも、まだ二枚が稼働しており、艦の両舷を守っている。駆逐艦が自爆する直前、随伴する二隻の戦艦が『ゴルワン』の前へ進み出て盾となったのだ。司令官ラフ・ザス=ヴァンドルデンと共に、修羅の道を行くことを決意した彼等の、恐るべき鉄血の結束力の発露である。
ラフ・ザスの巨艦は茫然とした感の漂うノヴァルナ側の隙を突くように、破損した重力子ノズルが出せるだけの速度で一気に加速をかけた。針路は無論、惑星ザーランダだ。
「くそッ!!」
「奴を止めろ!!」
我に返ったノヴァルナ側の兵士が声を上げ、座席の肘掛けを叩き、『ゴルワン』への阻止行動を開始した。だがノヴァルナ側は対艦誘導弾も宇宙魚雷も尽き、残っているのは軽巡クラスや駆逐艦クラスの主砲、そしてそれ以下の兵器だけである。それでも全艦が、持てる兵器を『ゴルワン』へ向けた。
「ザーランダには!…俺達の星だけには行かせるな!!」
異口同音にそう叫んだのは、三隻の軽巡航艦を運用している、ザーランダの志願兵達である。母星の目前まで迫られ、その声には悲愴感があった。
「距離を詰めろ! 至近距離ならこの艦の主砲でも効果ある!」
「そうだ、いざとなったらさっきの駆逐艦のように、体当たりだ!!」
だがザーランダの兵士達の焦りは、完全に裏目に出た。勝手に全速前進に入る三隻の軽巡航艦に、『クォルガルード』のマグナー艦長が戻るように命じるが、時すでに遅しである。『ゴルワン』の左舷から接近しながら、三隻はしきりに主砲を撃つが、『ゴルワン』は残った二基のアクティブシールドを左舷側へ回し、艦体への直撃をほとんど防いでいた。対する『ゴルワン』は、待ち構えていたように主砲塔を素早く旋回すると、三連装の主砲を放つ。
引き付けられた形の軽巡航艦達は、まず先頭を走る一隻が、多数の直撃弾によって瞬時に砕け散った。そして後続の一隻も、ひとたまりもなく火の玉と化す。艦の三分の二ほどが吹き飛ばされ、プラズマスパークが纏わりつく艦底部だけが、火球の中から姿を現す恐ろしい光景だ。
三隻目はこの光景を見て我に返ったのか、急速左回頭して退避行動を取る。そこに襲い掛かる『ゴルワン』の主砲ビーム。その一撃は軽巡航艦の右舷側を、エネルギーシールドごと抉っていった。
「ザーランダまでの距離は?」
破片を撒き散らしながら、苦しみのたうつように逃走する、三隻目の敵軽巡の姿に、何の感慨もない眼を向けながら、ラフ・ザスはオペレーターに問い掛ける。
「約五万です」
その報告を聞き、ラフ・ザスは軽く頷いた。あと十分もすれば、集束延伸射撃を使用せずに、『ゴルワン』の主砲を惑星ザーランダの地表に、直撃させる距離へ到達できるだろう。
もはや『ヴァンドルデン・フォース』は潰滅だ。だがラフ・ザスも、ここまで彼について来た将兵も、いつかはこうなる事を覚悟していた。無力な他者に不条理な恐怖と絶望を与える事で、刹那的にならざるを得ない過去から、目を逸らして来た報いが来る日の事を覚悟していたのだ。そうであるなら、最後までその意思を貫き通し、悪名に塗れて滅びてゆく事でこそ、本懐を得るというものである。
“狂気こそ我等が本懐なり!”
内心でそう叫び、ラフ・ザスは表情の無かった顔に、僅かばかりの笑みを浮かべた。アクティブシールドを虚しく打つ、敵駆逐艦の主砲弾の光が、ラフ・ザスの顔の陰影を深くする。だが、その時だった―――
「敵駆逐艦、突っ込んで来ます! 距離至近、回避不能!!」
突然のオペレーターの報告。画像が捉えたのは先の無人駆逐艦の自爆攻撃の際、途中で脱落した最後尾の一隻だった。だがそれは、『ゴルワン』の主砲弾を艦尾に喰らって、漂流していたはずである。
「映像を拡大しろ!」
珍しく口調を硬くして命じるラフ・ザス。そしてラフ・ザスは、映像が拡大された駆逐艦の艦尾に見え隠れする、『センクウNX』を発見した。
ヨリューダッカ=ハッチとカール=モ・リーラの『シデンSC』と共に、『センクウNX』で駆逐艦を後ろから押すノヴァルナが叫ぶ。
「いっくぜぇえええええーーー!!!!」
残されていた無人駆逐艦は遠隔操作が途切れ、機関部も停止していたため、『ゴルワン』の警戒センサーはこれを、“残骸”として識別してしまっていたのだ。
「押せぇええええ!!!!」
ハッチとモ・リーラの『シデンSC』に声を掛け、駆逐艦を左のショルダーアーマーで押して突進させる、ノヴァルナの『センクウNX』。しかしこちらも反物質コアシリンダーが一基停止しており、もはや稼働時間は残り僅かだ。ノヴァルナがコクピットの視界の左端に浮かぶ、残り稼働時間表示の小振りなホログラムを一瞥する。表示されている数字は“00:03:13”だ。末尾の“3”は、瞬く間に“2”へ変わった。
対する『ゴルワン』では、主砲の旋回と照準では間に合わないと、即座に判断した艦長が命令を下す。
「狙える副砲は全て向けろ。砲撃を集中!」
戦艦の副砲とは軽巡航艦の主砲クラスで本来、雷撃目的で肉迫して来る駆逐艦などを、排除するための武装である。つごう八基の副砲塔が旋回し、突撃して来る無人駆逐艦へ連装砲を向けて猛然と射撃を開始した。至近距離であったため、ほぼ全弾が命中して駆逐艦は爆発。バラバラに砕け散る………
だが当然、こんな事で終わるノヴァルナではない―――
砕け散った駆逐艦の艦体の間を擦り抜けて、『センクウNX』と二機の『シデンSC』が突撃して来た。まだ動く『センクウNX』の右手に握るのは、バックパックから抜き取った、損傷して機能を停止したコアシリンダーである。駆逐艦は体当たりが目的ではなく、『ゴルワン』へ取り付くための盾だったのだ。ノヴァルナの意図を悟り、カッ!…と見開いた双眸を向けるラフ・ザス。
「コイツが本命だぁあああ!!!!」
そう叫んだノヴァルナは、『ゴルワン』の外殻スレスレで直角にターン。先の駆逐艦の自爆攻撃で発生した破孔の一つ、対消滅反応炉に一番近い位置の破孔へ辿り着くと、その中へコアシリンダーを突き刺した。
「ハッチ、モ・リーラ!」
素早く離脱するノヴァルナは二人の『ホロウシュ』の名を呼ぶ。それを合図に、『センクウNX』に従う二人は声を揃えて「はっ!!」と短く応じ、『シデンSC』の超電磁ライフルでコアシリンダーを狙撃した。蒸発させずにいたシリンダー内の液化反転水素が銃弾を喰らい、一気に百パーセントエネルギー変換の対消滅反応を起こす。次の瞬間、目もくらむほどの閃光が『ゴルワン』から発せられれ、それが収まると、艦の左舷後方が大きく損壊した『ゴルワン』の姿が現れた。
▶#25につづく
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中
あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。
結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。
定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。
だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。
唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。
化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。
彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。
現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。
これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ソラノカケラ ⦅Shattered Skies⦆
みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始
台湾側は地の利を生かし善戦するも
人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね
たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される
背に腹を変えられなくなった台湾政府は
傭兵を雇うことを決定
世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった
これは、その中の1人
台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと
舞時景都と
台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと
佐世野榛名のコンビによる
台湾開放戦を描いた物語である
※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる