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第17話:風雲児 都の星で ひと暴れ
#09
しおりを挟むだがノヴァルナの要請に対し、マグナー艦長の返答は思わぬものだった。
「こちらマグナー。申し訳ありません。『クォルガルード』は現在、急速接近して来た二隻の敵艦と交戦を余儀なくされており、捕捉は困難な状況です」
「交戦中!?」
「はっ。武装貨物船…おそらく、仮装巡航艦と思われる二隻が接近。距離を置いて砲撃戦を挑んで来ております」
それを聞いたノヴァルナは、チッ!…と舌打ちをする。シャトルの脱出は予め計画されていたに違いなく、二隻の仮装巡航艦はその援護に来たのだろう。
事実『ゴーショ東第二工場区』の上空では、『クォルガルード』に対し、クーケンが使用していた『エラントン』と、ビーダ達が乗って来た『ワーガロン』の、二隻の仮装巡航艦が、三角形を描く形で一定の距離を置いて砲火を交わしている。
仮装巡航艦は貨物船に見せかけてはいるが、軍艦であるだけに、民間が使用する武装貨物船などよりは遥かに強力で、それが二隻となると、軽巡航艦並みの砲戦力を持つ『クォルガルード』にとっても、油断ならない相手だった。
それぞれ距離およそ五万メートルで左右から挟み込む形の敵艦二隻に、『クォルガルード』は砲塔を振り分けて応戦する。都市構造体の表層からの砲戦高度は、双方が表層への流れ弾の着弾を恐れ、上からの撃ち下ろしを避けようと降下して行った結果、僅か千メートルほど。イースキー家側は青色、『クォルガルード』は黄色い曳光粒子を帯びさせた主砲のビームが飛び交い、それらの光に照らし出された表層部では、何の警報もなく頭上で開始された砲撃戦に、多くの人々が逃げ惑う。
「左舷の敵艦、228度。右舷の敵艦、043度に変針」
『クォルガルード』の艦橋で、二隻の敵の動きの報告を受けたマグナーは、新たな針路を命じる。
「針路350。砲戦を継続」
遠隔操作式のアクティブシールドを射出し、展開した『クォルガルード』は非常にゆっくりとした速度で変針した。アクティブシールドに敵の主砲弾が命中、しかしダメージは軽微だ。状況は有利とはいえないが、離脱するわけにはいかない。中層域の浄水・空調施設から脱出して来る敵のシャトルが、捕捉・確保は現時点で不可能でも、どちらの仮装巡航艦に収容されるかを、監視するためである。その敵艦の砲撃が火力をさらに高めた。シャトルが都市構造体から出て来るのだ。
「シャトルの出現に備えよ!」
マグナーの言葉の直後、都市構造体の中からシャトルが高速で飛び出して来た。だかそれは二隻の仮装巡航艦のどちらにも向かわず、一直線に空を駆け上がって行く、大気圏離脱速度で。
「なにっ!? どういう事だ!?」
眼を見開くマグナー。シャトルをトレースするオペレーターが報告する。
「シャトル、上昇。衛星軌道へ向かいます」
裏をかかれた!…戦術状況ホログラムに映し出される、上昇を続けるシャトルを睨み付け、マグナーはノヴァルナへ状況を告げた。
「そのまま宇宙へ向かっただと!? マジか!?」
敵が幾重にも重ねたノアの拉致計画を、ノヴァルナはようやく知る。眼下で次第に小さくなる、『クォルガルード』と二隻の仮装巡航艦の砲撃戦の光景を見据え、シャトルに乗るビーダ=ザイードは、「オッホホホホホ!」と笑い声を上げた。
「お馬鹿さん達ぃ。切り札は最後まで、取っておくものよぉ~!」
ビーダとラクシャスにとっては、主君オルグターツから命じられた、ノア姫の拉致任務の成功のみが全てである。クーケンらの任務にここまで付き合ってやれば、もう充分だった。
ビーダの心理分析では、ノア姫を救出するためにノヴァルナが動くのは明白で、浄水・空調施設突入部隊を直接指揮するにせよ、戦闘輸送艦『クォルガルード』上で指揮を執るにせよ、クーケン隊と仮装巡航艦を利用すれば、必ず足止めに成功すると確信していたのだ。この辺りは見た目や性格にクセが強すぎても、単なるオルグターツの性癖に即した寵臣ではない。ビーダとラクシャスは各々が通信回線を開いて、置き去りにする味方部隊に連絡を入れた。
「クーケン少佐。あとはお任せするから、頑張って頂戴」
とビーダがクーケンに告げれば、ラクシャスは二隻の仮装巡航艦に命じる。
「『ワーガロン』と『エラントン』、芝居はもういい。敵艦を撃破しろ」
二隻の仮装巡航艦が『クォルガルード』と距離を置き、砲戦を行っていたのは、シャトルを回収するためだと思わせていたのである。最初から、撃破されるのを覚悟で激しく攻撃すれば、回収が目的なのではないと勘づかれる恐れがあるからだ。
「敵艦が二隻ともこちらに向けて変針。接近して来ます」
オペレーターの報告に、マグナーは即座に下令する。
「応戦しつつ後退。高度を上げろ。それからシャトルのトレースを続行!」
マグナーの判断は冷静だった。ここでは後れを取ったが、ノア姫救出に繋がる情報は、少しでも多い方がいい。
そしてマグナーが見逃さなかったのが、ノア姫を連れ去ったシャトルは小型のものであり、いわゆる“短距離連絡艇”の類だという事である。あのタイプは恒星間はおろか、惑星間を飛ぶ事も出来ない。したがって大気圏外へ出ても、まずはそう遠くない場所へ向かうはずだ。
一方のノヴァルナは、シャトルが抜けていったVTOL機発着口を見上げ、次の手を考えていた。その中身はマグナーの判断と同じ、シャトルが短距離用である事だ。まだ何か手があるはずだ…と思考を巡らせる。
するとそこに通信が入って来た。増援のアーザイル家陸戦隊を指揮している、ナギ・マーサス=アーザイルからだ。少し切迫した調子でナギの声は提案する。
「ノヴァルナ様。状況はこちらでも把握しています。そちらの艦は足止めされているご様子。ここは我等の船をお使い下さい!」
▶#10につづく
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