銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

文字の大きさ
430 / 508
第21話:野心、矜持、覚悟…

#02

しおりを挟む
 
 惑星ラゴンの地上へ降下したカルツェのシャトルが着陸したのは、『ヒテン』の格納庫でシルバータに告げたキオ・スー城ではなかった。そこはキオ・スー宇宙港に隣接する倉庫街の、小型シャトル専用ポートだ。

 専用ポートにはカルツェの側近クラード=トゥズークが、スェルモル城陸戦隊の小隊長と、さらに皇国貴族院情報調査部のベリン・サールス=バハーザと共に待っていた。バハーザは以前、ノヴァルナの爆殺を謀った人物であり、今回の策謀でも背後からカルツェらに指示を出している。それが大詰めを迎え、自らも指揮下の小隊を率いて出張って来たようである。

 人目を忍ぶため、戦闘用消音モードで降下して来るカルツェのシャトル。それがやや前傾姿勢で専用ポートに着地すると、クラードら三人はシャトルに向け歩を進め、機体の前で片膝をついた。側面の扉がスライドし、カルツェが降りて来る。頭を下げる三人にカルツェは間を置かず、「首尾は?」と尋ねた。無論、現在進行中のノヴァルナ暗殺計画についてだ。クラードが頭を下げたまま応じる。

「ノヴァルナ様はキオ・スー城には、まだ戻られておられません。外食して帰城する旨の連絡があったそうです」

「そうか…」

 まだノヴァルナが生きているという状況に、カルツェは複雑な表情になった。当初の予定では今頃ノヴァルナは城内で死んでいる可能性もあり、そうなっていた場合、混乱に乗じて城に乗り込み、新当主を宣言するつもりだったのだ。些か奇妙ではあるが、カルツェが当主継承権の第一位である現状では、この世界において、そういった手段での当主簒奪も有りなのである。つまりはギルターツ=イースキーが父のドゥ・ザン=サイドゥを討ち、当主の座を奪い取ったのと同じだ。

「ノヴァルナ様の気紛れが、命を長らえさせた…といったところですか」

 立ち上がったクラードは、手にしていたデータパッドに視線を落としながら、皮肉めいた声で言う。そのデータパッドにはどこから撮影しているのか不明だが、ライブ映像らしいノヴァルナとノアの暮らす私室が映し出されていた。

「如何致しますか?」

 バハーザの問いに、カルツェは淡々と告げる。

「誤差の範囲だ。いつでも動けるようにして待つとしよう」

「人質はどのように?」

 クラードが口にしたのは、倉庫に捕えているキノッサの事だ。

「作戦が終われば逃がしてやれ。無用な死人は望まない」

「女の方は、死ぬ事になりましょう…」

 再び問うクラード。だがカルツェにとっては、些末な問題のようだった。今しがたと同じように淡々と言い捨てる。

「そちらは必要な死だ」
 
 ただ淡々としてはいても、カルツェにもあまり余裕は無かった。この計画が失敗すれば、もはや自分に生きる道は残されていないからだ。以前の謀叛の際、次は無いとノヴァルナに許されたカルツェであり、自分も直接手を下す今回の計画は、ノヴァルナが告げた“次”なのである。

 すると不意に、カルツェの懐の通信機が呼出音を鳴らす。それを手に取り「カルツェ・ジュ=ウォーダだ」と応じると、女性の通信相手が焦ったような声で報告して来た。

「カルツェ様! こちらはスェルモル城です。シルバータ様が!…シルバータ様の乗っておられたシャトルが、大気圏突入直前で事故を起こしました!!」

 それを聞いたカルツェは「なにっ! 本当か!?」と言うが、緊迫した口調にはどこか“わざとらしさ”を感じさせる。またカルツェと共にいるクラードやバハーザにも、女性通信士の声は聞こえているが、驚いた様子は無い。

 カルツェは深刻な調子で、「至急、救難隊を出せ。何か分かったら報告せよ」と指示を出し、通信を終えた。そうしてクラード達から目を逸らし、後悔を滲ませる声で言う。

「本当に…ゴーンロッグを殺す必要があったのか…?」

 それに答えたのはバハーザだ。

「シルバータ殿は無骨で直情的な御方ですからね。今この時点で我々の計画を知って、引き返せないとなっても、何をしでかすか分かりません。致し方無い事です」

 さらにクラードも口を開くが、以前の謀叛の失敗以来、ノヴァルナに傾倒して来ているシルバータの存在を煙たがっていただけあって、こちらは他人のバハーザ以上にドライなものだ。

「これも必要な死でございますよ。カルツェ様」

「………」

 無言になるカルツェに、クラードはさらに言う。

「カルツェ様こそをウォーダのご当主に、と支持する者共の思い。此度こたびこそ、その成就の時にございます」

 そう焚きつけるクラードは、この計画がバハーザに半ば脅されて実行しているのを忘れ、まるで自分が立案したような勢いだった。

「わかっている」

 僅かに奥歯を噛みしめて告げるカルツェ。先にも言った通り、野心のままに起こした三年前の謀叛で、死んでいてもおかしく無い自分に、もはや後戻りは出来ないのだ。そして兄ノヴァルナが当主のままでは、ウォーダ家はイマーガラ家に滅ぼされてしまう。ギィゲルト・ジヴ=イマーガラは、傍流のヴァルキスにウォーダ家を継がせて傀儡にするつもりらしいが、それでは滅ぶのと同じであって、矜持が許さない。ならば覚悟を見せるまでだ。

 その時、今度はバハーザの懐で通信機が鳴る。小声で応答したバハーザは、カルツェを振り向いて報告した。

「ノヴァルナ様とノア様が、キオ・スー城へ戻られたそうです」




▶#03につづく
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中

あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。 結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。 定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。 だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。 唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。 化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。 彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。 現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。 これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

ソラノカケラ    ⦅Shattered Skies⦆

みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始 台湾側は地の利を生かし善戦するも 人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される 背に腹を変えられなくなった台湾政府は 傭兵を雇うことを決定 世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった これは、その中の1人 台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと 舞時景都と 台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと 佐世野榛名のコンビによる 台湾開放戦を描いた物語である ※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()

処理中です...