銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第22話:フォルクェ=ザマの戦い 前編

#08

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 ただそれでも現実は現実だった。スルガルム宙域首都星系スルガルム、その第四惑星シズハルダは、周囲をおよそ2500隻の宇宙艦に囲まれている。スルガルム宙域とトーミ宙域を領有する星大名、イマーガラ家の恒星間打撃艦隊の総力が集結しているのだ。
 そしてそれらは決して、漫然とシズハルダの周囲に浮かんでいるのではなく、イマーガラ家が保有する二十七の基幹宇宙艦隊ごとに、見事な隊列を組んでいた。まるでこれから彼等が為そうとしている事に対し、鉄の意思を示さんとしているかの如くに。

 この光景は惑星シズハルダだけでなく、スルガルム宙域、トーミ宙域、そしてイマーガラ家が事実上支配しているミ・ガーワ宙域の全域に、当主のギィゲルト・ジヴ=イマーガラによる、皇都惑星キヨウ上洛軍進発の演説と共に中継されている。

「―――これをもって、我は皇都の政情を安定化させる事が、すなわち全銀河、ヤヴァルト銀河皇国に暮らす全ての人民に、秩序に基づく平和で穏やかな日常を与える事となり、それを為す事が出来るのが我がイマーガラ家であり、我等はそれを為さねばならぬと確信したのである! それは何故か!? 正義が我等と共にあるからに他ならないからだ!!」

 演台の上で拳を振り上げるギィゲルトの、よく肥えた腹が揺れる。背後の巨大な紫紺のタペストリーに、蓄光性の錦糸で縫い描かれた“丸に二つ重ね銀河”の、イマーガラ家家紋が、銀色の光を帯びて浮かび上がっていた。そのギィゲルトの両側には、嫡男のザネル・ギョヴ=イマーガラと二十六人の艦隊司令官が、並んで立っている。そしてギィゲルトはさらに演説を続けた。

「スルガルム、トーミ、千八百億の民よ。そなた達は皆、我の子である。我と共に立ち、我と共に進め! そして銀河に平和と安寧をもたらす、誇りある者としての栄光を、その手に掴み取るのだ!!!!」

 締めくくりの言葉と共に、スルガルム、トーミの両宙域中で、中継を見る領民の間から歓声と拍手が巻き起こる。ノヴァルナ達からの視点では、悪の権化のようなギィゲルトとイマーガラ家だが、その領域統治はあらゆる面で良性で、領民達からも高い支持を得ていたからだ。

 すると演説を終え、演台を降りかけたところでギィゲルトと嫡男、艦隊司令官達の姿は霧のように消えた。演説会場にいた彼等は全て等身大ホログラムで、実体の彼等はすでに、各々が座乗する艦隊旗艦の中にいたのである。

 総旗艦『ギョウビャク』の艦橋、参謀達が半円状に囲む総司令官席に着いたギィゲルトは、演説の際の熱量を全く感じさせない声で、上洛軍の進発を命じた。

「これより出航する」


 
 NNL(ニューロネットライン)の中継放送の画面は、ギィゲルトの演説から宇宙空間に切り替わり、キヨウ上洛軍の進発風景を捉える。取材用のシャトルで現地にいるリポーターが、動き始める艦隊の状況を伝えて来た。

「あ。いま動き始めました! 整然と並んだ上洛軍艦隊の前方部分、四つの艦隊が今、前進を始めました。数は合わせて四百隻ほどでしょうか!」

 するとこの中継画面に合成される形で、女性アナウンサーと解説者らしき異星人の、初老の男が映し出される。異星人の男はササーラと同族のガロム星人だった。こういう場に呼ばれているのであるから、退役軍人の軍事評論家か何かだろう。

「イマーガラ家上洛艦隊が動き出しました。まず四つの艦隊だけという事ですが、これはどのような意味があるのでしょう?」

 女性アナウンサーが解説者に尋ねると、ガロム星人の解説者は厳めしい顔つきには似つかわしくない、非常に穏やかな言葉遣いで応じた。

「これはですね、今回のような非常に大規模な艦隊が出航する場合、全部の艦隊が一斉に動き出すというのではなく、幾つかの集団に分かれて出航する決まりになっているんです」

「それはなぜですか?」

「航行序列というものがありましてですね、目的地まではその序列に従って行動した方が、全体の統制が取り易いわけです。宇宙空間は広いですから、各々の艦隊がバラバラに動くと、艦隊ごと迷子になってしまという事も起きますので」

「迷子ですか?」

「ええ。その結果、戦場に遅参し、味方戦力が減った状態で、戦闘に突入しなければならなくなるというケースもあります」

「なるほど…すると次の集団が動き出すのは、いつになりますでしょう?」」

「第一陣が全艦、出航し終わったあとになりますので、一時間後ぐらいになると思います」

 女性アナウンサーと解説者のやり取りは、予め用意されていたものらしく、“一時間”という待ち時間の長さにも、女性アナウンサーは何の反応も見せずに、話題をイマーガラ家上洛軍の戦略に向ける。

「はい。さてそこで、今後のイマーガラ家上洛軍の戦略ですが、どのようなものになるとお考えですか?」

「はい。作戦の詳細はイマーガラ家から公式には発表されておりませんので、推測に留まりますが、まず上洛軍はミ・ガーワ宙域へ入り、同盟を結んでいるトクルガル家がらの応援部隊と合流。そこからオ・ワーリ宙域を抜け、中立宙域を通ってヤヴァルト宙域の皇都惑星キヨウを目指す事になるのは、ほぼ間違いないでしょう」

「オ・ワーリ宙域は、イマーガラ家と敵対するウォーダ家が治めていますね。やはり戦う事になるとお考えですか?」

 女性アナウンサーの問いに、ガロム星人の解説者は、さも当たり前のように軽く頷いた。





▶#09につづく
 
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