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第22話:フォルクェ=ザマの戦い 前編
#09
しおりを挟むその後に続いた解説者と女性アナウンサーの交わす言葉は、イマーガラ家とその領民達側から見た、ノヴァルナとウォーダ家に対する考え方を端的に示していた。
「キヨウ上洛の途中でウォーダ家を討伐しておく事は、イマーガラ家にとって必要不可欠な案件です」
冷静な口調のガロム星人解説者に、女性アナウンサーは「それはなぜですか?」と事務的に問う。
「はい。ウォーダ家の現当主ノヴァルナ・ダン=ウォーダの父親で、故人のヒディラス・ダン=ウォーダは、ナグヤ=ウォーダ家の当主として生存していた頃、ミ・ガーワ宙域へ対する侵略拡張政策によって、家勢を高めようとしていました。その最たるものが、ミ・ガーワ宙域独立管領のミズンノッド家と結託した、七年前のアズーク・ザッカー星団への侵攻です」
「はい」と、合いの手ように言葉を挟む女性アナウンサー。
「その後この目論見は、我がイマーガラ家のトクルガル家への支援によって、領域の回復をもって打ち砕かれ、ヒディラス公も急死しました」
このヒディラスの急死は、当時のイマーガラ家宰相セッサーラ=タンゲンの策略によるものだが、情報統制によって領民達には知らぬところである。
「そして現在、ヒディラス公の遺志を継いだノヴァルナ・ダン=ウォーダが、内部紛争の末、ウォーダ家を統一してしまっています。これは危険な状態です」
「危険な状態とは、イマーガラ家にとってですか?」
「そうです。ノヴァルナ公は若い頃…今もまだ若いですが、粗野で攻撃的な性格をしていて、家中で問題ばかり起こしていました」
そこに女性アナウンサーが、ノヴァルナの粗暴さを視聴者に示す、エピソードを入れて来た。
「キオ・スー城では、中庭に植えられていた、星帥皇室から賜った“金華の松”の幹を、自分のBSHOで折ったと聞きます」
「ええ。これが星帥皇室の全盛期であったなら、それだけで死罪になるほど、星大名家にとっては重大な事件ですからね。星帥皇室の権威が落ちている現代だった事は、ノヴァルナ公にとっては悪運が味方したのでしょう」
頷いた女性アナウンサーは話を本筋に戻す。
「確かにそのような性格のノヴァルナ公が支配する、オ・ワーリ宙域を通過するのは、危険だと思われますね」
「はい。しかもノヴァルナ公も父親のヒディラス公と同じく、侵略拡張政策を取ると思われており、これを放置して上洛軍がキヨウへ向かえば留守を狙って、ウォーダ家が再びミ・ガーワ宙域を侵略する可能性は、大きいと言わざるを得ません」
「事前に和平交渉などを行って、危機を回避しておくなど、予防策は無かったのでしょうか?」
女性アナウンサーの問い掛けにガロム星人解説者は、ノヴァルナとカーネギー=シヴァの確執を引き合いに出し、都合のいいように解説する。
「それは尚更危険ですね。およそ二年前、ノヴァルナ公は名目上とは言え、ウォーダ家の主家で、オ・ワーリ宙域の領主であったシヴァ家のカーネギー姫を、謀反の嫌疑をかけて一方的に追放しました」
「カーネギー姫追放事件ですね」
「はい。そのシヴァ家は当時、ミ・ガーワ宙域の旧領主キラルーク家と、和平協定を結んでおり、両家の関係を挟んでイマーガラ家は、ウォーダ家とも停戦していたのです。この事を承知しながら、ノヴァルナ公はシヴァ家を追放したのですから、和平交渉を行って成立しても、それを利用して奇襲攻撃を仕掛けて来る、可能性の方が高いでしょう」
カーネギー=シヴァ姫の追放事件は、彼女の方から叛旗を翻そうとしていたのであって、ノヴァルナが先手を打って彼女を追放した事で、オ・ワーリ宙域に内戦が起きるのを、未然に防いだというのが真実である。それにシヴァ家とキラルーク家の和平協定に代わるものとして、アイノンザン=ウォーダ家とイマーガラ家の重臣モルトス=オガヴェイの間で、より実効性のある休戦協定が結ばれており、ウォーダ家とイマーガラ家の休戦は維持されていた。
ところが解説者の言葉には、そういった真実が全く含まれていない。これではまるで、暴虐なノヴァルナがイマーガラ家との停戦の破棄も念頭に置いたうえで、主筋であるシヴァ家をオ・ワーリ宙域から放逐したように聞こえる。これはこの解説者がイマーガラ家の退役軍人だということから、イマーガラ家の領民に対する喧伝のための役目を与えられているか、もしくはイマーガラ家が真実を一切、秘匿したままにしているかのどちらかであろう。
いずれにしても“新封建主義”下の宙域国では、それぞれの星大名によって情報統制が行われているのが当たり前であって、イマーガラ家の領民達は、ウォーダ家が侵略拡張政策をとる攻撃的な悪の星大名家で、イマーガラ家はそのウォーダ家のミ・ガーワ宙域への侵略行為を防いでいる、正義の星大名家だという情報しか与えられない社会状況の中で生活しているのであるから、キヨウ上洛の途中でウォーダ家を討伐しておくのは理に適っていると、大半の領民は考えていた。
▶#10につづく
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