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第6話:暗躍の星海

#03

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 やがてマリーナのホログラムも立ち去り、食事会が終了すると、ノヴァルナはトレーナー姿のまま執務室へ入った。そこには後見人のセルシュ=ヒ・ラティオと、ノヴァルナの親衛隊『ホロウシュ』の筆頭、トゥ・シェイ=マーディンがともに軍服姿ですでに待っている。

「すまねー。朝メシに手間取った」

 ノヴァルナは詫びながら執務室の机を回り込み、席に着いた。

「猶子の方々はいかがでしたか?」

 セルシュが気遣うように尋ねると、ノヴァルナはいつもの不敵な笑みで応じる。

「まあ、弟が増えたみたいなもんだな。宿題ももらったぜ」

「?」

 宿題とはクローン猶子達のために『ムシャレンジャー』の動画を探してやる事だが、当然、事情の分からないセルシュとマーディンは首をひねる。
 ただセルシュはノヴァルナの言葉に安堵もしたようであった。自分のクローン猶子に嫌悪感を抱く星大名の嫡子も、珍しくはないからだ。ノヴァルナはまだ眠気が残っているのか、気だるそうに背中側の首筋を右手でさすり、二人に問い掛ける。

「んで? どこの部隊が動いてるだって?」

「キオ・スー家の部隊です」と応えるマーディン。

「イル・ワークラン向けの威嚇じゃないのか?」

 かつては合議制による非独裁政体として発足したキオ・スー家とイル・ワークラン家の二つのウォーダ宗家も、今では双方にとって相手が目障りな存在でしかなくなっている。
 それがひと月前の騒動で、イル・ワークラン=ウォーダ家とオウ・ルミル宙域のロッガ家との関係が発覚し、水面下で両家の間は険悪さを増していた。

 このような一触即発の今の状況なら、キオ・スー家が何かを目的に部隊を動かしてもおかしくはない。だが今回の動きはそれとは違うようだ。その事をセルシュが口にする。

「いいえ。外郭警備部隊の演習の名目で我がナグヤと、イル・ワークラン家にも通達が出ております」

「ふーん…このタイミングで演習ねえ」

 父ヒディラスのナグヤ軍がミノネリラ宙域で大敗してから、およそ三か月経っていた。オ・ワーリ内でもゴタゴタしているが、周辺国が動き出すのもそろそろのはずで、迂闊に部隊を動かしていい時期ではない。ヒディラスやマーディンもその辺りを怪しんで、起き抜けで食事会に向かう前のノヴァルナに、予め声を掛けておいたのである。

「―――確かに胡散臭せぇな。その演習…どこでやるって?」

 眠気も晴れてきたらしいノヴァルナが、視線を鋭くし始めて問い質す。

「それが…中立宙域付近です。ミノネリラ近くの」

 マーディンが困惑気味に応えると、ノヴァルナは眉を吊り上げた。

「なに?」

 ミノネリラ近くの中立宙域といえば、ひと月前にノヴァルナがクーギス家残党と手を組んで、イル・ワークラン=ウォーダ家とロッガ家の合同部隊と戦った辺りである。距離的にはDFドライヴで丸一日といったところだ。

“あの中継はキオ・スー家の連中も見てたはずだが…まさか自分らでもMD-36521星系の戦場跡を調査するわけでもねーだろし、第一、それならわざわざ演習名目で部隊を出す必要もねーし…こいつは、ますます怪しくなって来たぜ”

 どういうわけか脅威の香りを嗅ぎ付けるとニヤついてしまう、ノヴァルナの口元が歪む。

「演習実施日は?」

「明日となってございますが…」

 と、慎重に告げるヒディラス。こちらはこちらでノヴァルナがまた、突拍子もない事を始めそうなオーラを感じ取ったらしい。そしてその懸念は、次の瞬間には現実となってヒディラスを呆れさせた。

「よし!」

  ひっぱたくような口調で声を上げて、ノヴァルナは席を立つ。

「その演習、俺達も見物に行くとすっか!! 支度しろ、マーディン!」

「は、あ…支度と仰せられるは、どのような?」

 戸惑うマーディンに、ノヴァルナは“なにを分かり切った事を”とばかりに言い放った。

「足の速い重巡…『ヴァルゲン』型が一隻でいいだろ。護衛の駆逐艦は二隻だな。重巡搭載は俺の『センクウ』に、ランとおまえの『シデンSC』の合わせて三機…って、ランは当然もう城に来てるよな? じゃ、二時間後に出発するぜ。爺、今日明日、明後日の予定は全てキャンセルだ」

「に、二時間後でございますか?」声を揃えるヒディラスとマーディン。

「たりめーだ。なんだっておまえらは毎回そんな顔しやがる? 敵に奇襲喰らったら、二時間なんてもんじゃ済まねーだろが!」

 見物と言いながら、BSHOやBSIまで搭載した重巡と駆逐艦で出掛けるなど剣呑この上ない。そしてノヴァルナが命じた通り、およそ二時間後には、この危ない見物客達は惑星ラゴンを離れ、星の海に滑り出して行った………



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