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第四章 ありえないよね?不憫なのはハノエルだけじゃないのかも・・・
ヒャクジュウイチ
しおりを挟む目が覚めると……『知らない天井だ』とボケることも出来なかった。
知ってる天井なんだけどね?
お約束もなんか……虚しくて。
……薬に狂って全てを忘れていたらよかったのに。
正気になんて戻ってなければよかったのにとさえ、思ってしまう。
アレが『夢』なんかじゃないって知っている。
アレが『現実』だって覚えてる。
全ては全部無かったことになんてできない。
薬のせいだってわかってる。
でも、身がすくみ……魔法で身を守ることができなかった。
なんのために?
あれだけ魔法を勉強したの?
……エロムービー化しないためだったじゃん。
なのに……。
結果は、それ以上に悲惨で。
俺はこのまま……何も無かったことになんてできない。
『今時、彼氏以外としたっていーじゃない?』
いいのかもしれない。
でも、俺は存外に古いタイプなのかな?
自分で自分が許せないんだよ。
ハノエルにあんなに偉そうに言っておいて、ポジティブに行こうだなんて。
いざ、当事者になったらこの様だ。
……ふ、なんて弱い心。
ネガティブ以外何者でもないじゃん。
兄が俺を許しても、俺が自分を許せない。
どうしても『汚い』って思ってしまう。だから、許せない。
自分が汚物のようで。
悦んでた体が気持ち悪い。
いっそ、あのまま死んでいたらよかったのに……。
ゲームから逸れてほっとしたのに……。
主人公に近づかなければ大丈夫だって。
なのに、結局はゲームと同じようになるのかな?
ううん、もっとひどい?
なら、姉様も悪役令嬢になってしまうの?
嫌だ。
それだけは嫌なんだよ。
姉様は、幸せになってほしい。
幸せにしたい。
だって、俺は妹の幸せを見守れなかったんだもん。
せめて、今世は姉様を守りたい。
妹を守る力はあまりなかったけど、今は力がある……魔力って魔法って、力が。
だから……きっと守れるはずだったんだ。
でも自分自身さえ、守れずに人を守れるの?
ああ、そういえば、妹の言葉を聞いた気がする。
でも、守華の声じゃ無かった?
セバスの声で、目の前にいたのもセバスで…?
……夢?
うん、それだけは夢だったのかな?
自分に都合のいいゆめ。
大好きって、まだ言ってくれる最愛の妹の夢。
あのまま、目覚めなかったらよかった。
そして、最悪なことに苅野先輩まで、転生していたみたいだけど。
……でも、たぶん?
助けようとしてくれたのかな?
あの苦手以上に気持ち悪さに輪をかけた状態って、アレ
の影響だったとか?
あのあと……気配が変わった気がする。
……でも、どうでもいい。
俺にとっては、家族たち以外どうでもいいの。
もちろん、『家族』にセバスやルイ、アズリアたちもはいる。
でも……。
もう、無邪気には笑えない。
だって……。
「なぁーん。」
「………!」
声が出ない!
でないよ。
「……………。」
……でない。
喋れない。
ガチャリ、と音がして兄の気配がする。
一番会いたくて、一番会いたくない大切で大好きな兄様。
「ヴァル、ハルを見ていてくれたの?」
「うなぁん。」
「ハル?目が覚めたんだね?……よかった。痛いところはない?」
「…………。」
ごめんなさい。ごめんなさい。
口はたぶん開いた。
でも、声は出ない。
「ハル?」
俺は大事な『自分の声』を失ったのだった。
俺のアイデンティティ。
それは今だけなのか、それともこれから先もか……。
でも、たぶん。
俺はここにはいたくない。
兄のそばにいたくない。
父にお願いしよう。
俺を領地に戻してと。
―――そしたら、『ゲーム』はどうなるの?
―――そしたら『姉』はどうなるの?
―――そして、カレイドはどうなるの?
沢山の言葉が浮かんだ。
でも、俺は頭を振ってその言葉を払った。
だって、俺……声をうしなったんだよ?
もう、姉様さえ助けられない。
助ける資格もないのかもしれない。
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