娘と二人、異世界に来たようです……頑張る母娘の異世界生活……ラブ少し!

十夜海

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第二章 異世界というものは

No.31

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頭に???をいっぱいつけ、ハロルドの意識が戻った。

「う、あ?な、なん?」
「ハロルドさん!」
「ん?しょ、ショウ?あれ?俺はなんだ?ブラックドラゴに食われ……てない?」

すぐに起き上がり、ハロルドは頭を捻る。

「は、ハロルド?お前……。」
「ああ、シズルか?俺はどうした?」

ハロルドが自分付き添うようにいた男性に声をかける。
だが、周りが騒ぎ出す。

「ヒカリ?」
「嘘だろ?」
「あんな、子供が?」
「あれは……天使か?」
「人にはありえねえ。」

周りがざわつきが広がっていき、私は自分がやばいことをしてしまったのを自覚した。
でも、あまり後悔はない。
だって知っている人が死にかけているのをみたら……勝手にからだかが動いてしまうもん。
たとえ、後に後悔しても、失ってから後悔するならやってしまったことを後悔するほうがいい!に決まってる。
それに、もしもあのままハロルドが失われたらと思うと……とても怖い。
きっと私の中でハロルドさんは既に失いたくない仲間なんだと思う。

「よかったよーハロルドしゃ……ふえ…ぇん。」

とぼけた言葉のハロルドに、私は安堵から泣き出してしまった。
……やっぱり、かなり体の年齢に引きずられているのかもしれない。
今まで感情も溢れ出しやすいみたいだ。
こんなことで泣くなんてなかったのに。

「ショウ!」

ロドリヌスが後ろから、私を抱きしめた。
あったかい腕の中で、さらに涙が止まらない。

「ロドリヌス様も?」

ハロルドがさらに首を捻る。

「もう、ママ!びっくりしたよ。でも、よかった。」

と奏歌とミリオンも側にくる。

「ほんとねえ。さすがショウ……ってとこかしら。」
「えっと、ソカにミリもか?なんだ?俺、いったい?」

さらに首を捻るハロルドに、ミリオンは苦笑する。

「ハロルド、お前覚えてないのか?」

『シズル』と呼ばれた男性が呆れたようにハロルドに話しかける。……目尻に光るものがあったけど、見ないことにしよう……。仲良いのかな?

「シズル、俺は?あ、ハリーは?ラナンは?仲間は?」
「仲間は無事だ。ハリーと英雄様がなんとか撃退したが……まだ、一触即発だ。まさか、あいつらがブラックドラゴを召喚するなんて……。」

ボソリと言った言葉にロドリヌスが反応する。

「ブラックドラゴだと?」
「え?あ、ロドリヌス様ぁ!あ、あれ?城に今、ロドリヌス様を、え?あ?」

どうやら、彼は安堵からか……焦りからか、私に構うロドリヌスに気づいていなかったようだ。
まあ、知り合いが死にかけていたんだもんね?

「シズル、落ち着きなさい?」
「え?ミリオン様!あ、あのお願いします。勇者のお力を!」

みんな知り合いなのかな?
でも静かに話を聞いていたけど、何やら物騒なことになっているようだ。
え?
いったい何、何なの?
何が起きてるの?
ねえ、ラナンは?
ねえ、ハリーは?
なんで?
だって、あんまり危なくないんじゃなかったの?
だって、強いんだよね?
私は泣きながら、頭の中でプチパニックを起こしていた。
みんなは、強いから大丈夫って!
言ったのに。

「予定より遅いと思ったら、そう、ブラックドラゴが……。」
「はい、怪我人が多くてポーションも底を尽き……。
光魔法を使える方はいないし。
水や緑では傷を塞ぐのが精一杯で。教会にもお願いしたのですが……。」

と、いきなりハロルドがあっ!とさけぶ。

「そうだ!俺、ブラックドラゴに食われて。」

今かよ!心で突っ込んだ私を許してください。

「あ、ああ。…… なんとか助けられたが、酷すぎてさ。教会に連れて行ったんだが……。」

でも、『シズル』さん?がそれに反応して答える。
もう、話が進まないじゃん。

「でも、断られたのね?」
「はい。」

えー、断るの?だって、教会って……癒し手がいるんじゃないの?
私らの世界でいうなら救急病院を兼ねてるんじゃないの?

「ギルドなら、水や緑の使い手がいるかもって。持たせてる間にロドリヌス様をお呼びして光魔法をと……。」
「悪いが俺じゃあ、あの状態からは無理だったな。」

ああ、そういえばロドリヌスは癒しは苦手だと言っていたな?

「はい、ラナンもたぶんロドリヌス様でも無理ではないかと。
でも、でも、何もせずに兄を死なせたくない。」

えー?兄?この二人兄弟なの?
いや、いま、それどころじゃないから……突っ込みたいのに突っ込めん。

「それに、ラナンが。もしかしたら、ギルドに……助かる道がって。」
「たぶん、思ったのはショウたちのことかもしれないわね。」
「私もそう思うし、その通りになったしね。さすが、わたしのママ!」
「え?じゃ、ショウが?」

びっくりまなこでハロルドが、私を見た。

「そうだ。」

ロドリヌスがそう頷いて、私を抱き上げる。結局、抱っこされてしまった。
ようやく、涙は止まったが……なんだかラナンたちが心配で心臓がドキドキする。
これは薬草取りなんてしてる場合じゃないんじゃないかな?

「……そうか。なら。
本当なら……まだ、駆け出しの二人にお願いすることじゃないかもしれない。
でも……頼む、ショウ。怪我人が大勢いるんだ。死んじまった奴らもたくさんで。このままじゃ、さらに増えるかもしれない。いや、全滅するかもしれない。」

ハロルドが私に懇願する。
そんなにもまずい状況なの?
教会とかの話も気になるけど、ラナンは、この世界で失いたくない人No.2なんだ。絶対に死んじゃいやだ!
もちろん、一番は奏歌だよ。
でも、ラナンは私たちにとってすごく大切な人なんだから!
ただ、指を咥えて待ってるだけでなんかいたくない。
もしかしたら、ロドリヌスやミリオンの足を引っ張るかもしれない。
それに……。

「……行ってもいい。私も助けたいって思うから。でも、一つ条件があるんだ。」
「お、おい、ショウ。」

私の答えにロドリヌスが慌てる。

「あたしの最優先は、ソカだから。たとえ、この世界で偉い人が死にかけてもソカを助ける方を優先するの。それだけ。それだけは譲れない。
でも、ソカの次に大切なラナンさんが危ないなら、あたしで力になれるなら……行く。ううん、行きたい。」
「ショウが行くなら私も。第一、ラナンさんを見殺しにしたくないし。あたしも水が使えるから、ミリオン、癒しの仕方教えてくれる?水の力なら少しは、対処できるんだよね?」
「ええ、貴女の力ならすぐに『癒し』を使えるわ。」
「基本、あたしとソカは怪我人のために行く。だ け ど も !
もちろん、降りかかる火の粉は払うけど。」

私の決意が固いことを知ると、ああもう!って感じで、ロドリヌスが付け足す。

「がーーーー!わかった!俺もいく!俺は、もう勇者じゃない。だから、この二人を守るためにいく。正式な討伐は勇者ミリオンに頼め。
あとな、この二人は冒険者だ。ちゃんと、報酬も用意してギルドに登録した依頼にしろ。
……でいいか?ショウ?」

なぜ、かっこよかったのに……最後にヘタレる?
なんか、ワンコが怒る?怒る?って聞いてるみたいです。

「うん。いい。」
「じゃ、飛びましょう。」
「場所わかるの?」
「ええ、それくらいは把握してるわ。」
「まってくれ、俺もいく。」
「「だめ!」」

ハロルドは馬鹿なの?

「あのさ、魔法で治癒しても血とかは無くなってるの!だから、ハロルドは、まず休むのが仕事!
もし、来たらもう治してあげないんだからね!」
「だそうだ。お前は休め。」
「そういことね?シズルはどうする?」
「戻ります。」
「そ、なら行きましょう。」

私はロドリヌスに抱っこのままで、ロドリヌスはソカの肩に手を置く。
ミリオンは、シズルの腕を掴む。
そして、飛んだ。

街の懸想が消え、前には恐ろしい風景が広がっていた。
ゲームの壮絶なスチール並みにひどい状態だった。これはホラーパニック映画か!と思うほどに。
そして、ゲームや映画にはない死臭と血臭に吐きそうになったのは、言うまでもないのだった。

そう、ここが現実リアルだと思い知った瞬間だった。


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