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第一章

いよいよ合宿が始まる、はず……。#02

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☆☆☆


 高峰に起こされて途中駅で地下鉄に乗り換え、事務所の最寄り駅で降りるとまもなく六時になるところだった。
 高峰と相談して事務所ギリギリまではゆっくり歩き、直前で今まで全力疾走してきた感を出そうみたいな結論になった。
 けれど、地下鉄の駅から地上に出ると同時に高峰は「ほな、お先になー」と開幕早々裏切りを宣言して、全力で大逃げをかましてきた。
 お陰で私はスタートから出遅れ、ロケバスが待つ事務所前に大差でゴールイン……。
 まったく朝から余計な体力を使ってしまったぜ……。
 息を整えて周囲を見渡すと、既に到着していた高峰、眠そうに欠伸をかみ殺す豊栄、キャップとマスクで一瞬誰かわからなかったが美浜がいるけれど、ロリ担当由比の姿が見えない。
 どうやらマネージャーがどこかへ電話していることと関係しているらしい。
 しかも会話の内容を盗み聞きすると、警察とか保護とか家出みたいな不穏な用語が出てきてヤバい。
 少なくとも私たちみたいな舐めプをした遅刻ではないようだ。
 しばらくして、マネージャーがロケバスに乗って待っているように指示をしてきたのでおとなしくそれに従う。

「――やっぱりリーダーにはここに座っていただいて、皆の気を引き締めてもらわへんと」

「え、ここで良いのなら本当に現地までここにいるわよ」

「ぜひぜひに。さあさあよろしく頼みますわ、リーダーはん」

「……いや、無免許運転になるでしょそれ。色々アウトでは」

 高峰が流れるような動作で、豊栄をロケバスの運転席に座らせようとしているので止める。
 ……君たち、テンション高過ぎでは?
 美浜なんか無言で座席に腰掛け、アイマスクをして寝る体勢に入ってるんだが。

「私、元バス運転士だから免許的にも技術的にも運転できるわよ」

「……は、はあ」

 美浜の方へと視線を向けている間にしれっと運転席に腰掛けた豊栄は、嬉しそうにロケバスのエンジンを掛けた。
 しかも白手袋までして準備万端だ。
 それを見ながら高峰が事務所の周囲を一周しようとか言い出して、豊栄がだいぶ乗り気になってしまった。
 こんなのがリーダーとかグループの先行きが不安しかない。
 しかもあんたら私より年上だろ……。
 嘆息しながらキャリーケースをバスに乗せ、私も後ろの方に腰掛ける。
 さて、私も寝ようかしらんと私物のブランケットを取り出していると――。

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