答えは聖書の中に

藤野 あずさ

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変化の時代1936

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中将が僕の前に出した書類は、1人の少女の経歴書のようなものだった。
「パウル・ユーディットラウト・アウグスト・シュツットガルト…有名な名前ですね。天才少女、の話は話題になりましたので。」
書類を手に取って、ざっと目を通す。
「27年1月生まれ、5歳にして聖体拝領をし、最少年で使徒の能力を獲得したが、33年に南ドイツからスイスへ亡命、連邦内で聖職活動を3年行った後、国教会が36年1月に秘密裏に保護。現在は─」
「ああ、今はロンドンの孤児院で暮らしている。まだ9才の少女を、国教会が大々的に匿っていては目立つからな。ロンドンに連れてきて2ヶ月が経ったが、彼女の処遇についてはまだ決まっていないのが現状だ。」
「国教会も手を余しているようですね。それで、彼女の使徒能力は、健在なのですか?」
「健在か、と言われればノーと答えざるを得ない。他の聖職者は全員ウェラインによって能力の無効化処置を受けさせられた。彼女もその1人で、聖体を持っていない。しかし、驚くべき事に、能力は完全消滅しなかった。」
聖体が無いのに…使徒としてあり続けている、だと?普通の人間の信仰力では、不可能に近い。尋常じゃない精神力を持っているのか、あるいは、身体の一部を聖体化させているとでもいうのか?
「不思議な少女ですね。とても興味が湧いてきました。今からでも会う事は可能ですか?」
「君にこの話をすればそう言うと思っていたさ。これが孤児院への紹介状だ。」
そう言って中将は僕に手紙を渡した。一礼して宛先を見ると、場所はロンドン教区ホーカー孤児院。寺院通り226番地。
「それと、もう一枚。」
今度は大きめの書類が入った封筒を渡された。封がされており、何も書かれてはいない。
「それは君の分だ」
「僕にですか?」
中将から直接の書類なんて珍しいものだ。
「おっと、まだ開けるんじゃない。向こうで彼女、アウグストお嬢ちゃんに会えたら開けるんだ。」
向こうで開ける?中将の意図がよく分からないが、悪い物では無さそうだ。ここは言葉通りに向こうで開けるべきか。
「受け取りました。わざわざありがとうございます。中将のような人がいてくださって、本当に助かります。」
今回の件に留まらず、これまでも幾度となく助けてもらったのは事実だ。
「いいんだ、これからは君たちの時代だ。我々疲れ果てた老いぼれは、君たちを全面的に支援するのが1番なんだよ。国教会を任せた。」
「そんなことありません。僕なんてまだまだです。」
「ははは、そうだな。そうでなくては…では、アーチリステ少佐、貴官の責務を全うしてこい。良い報告を待っている。」
「はい、では失礼します。」
手紙と書類を持ち、中将の部屋を出る。
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