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6話「共鳴熱」
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空気が震える。
耳の奥で、キーンという高い音が鳴り響いているような感覚。
「……どうしたの?」
私は弾かれたように体を起こした。
ストーブの火が消えかかっているのに、小屋の中は異様に明るかった。
光の源は、部屋の隅で丸くなっていた大狼だった。
白銀の毛並みの内側から、発光している。
いや、光そのものが彼の中から溢れ出しているようだった。
ハァ、ハァ、ハァ……!
大狼は酷く荒い呼吸を繰り返し、巨体を痙攣させていた。
床を掻きむしる鋭い爪の音が、暗い部屋に響く。
「痛いの!? 傷が開いたの!?」
私は慌てて駆け寄り、彼の体に手を伸ばした。
熱い。
火に触れたかと思うほどの、異常な高熱だった。
毛皮越しでも伝わってくるその熱は、命を燃やし尽くしてしまいそうなほど危険な温度だ。
(癒さなきゃ……痛みを、散らさなきゃ!)
私は反射的に『撫で癒し』の魔法を発動させた。
翠色の光が手のひらから溢れ、大狼の熱い体に吸い込まれていく。
いつもなら、これで熱が引き、穏やかな呼吸に戻るはずだ。
けれど。
カッ!
魔法が触れた瞬間、大狼の体がさらに強く光り輝いた。
まるで、私の魔力を薪にして、炎が燃え上がったように。
「きゃっ……!」
強烈な光と熱に弾き飛ばされ、私は床に尻餅をついた。
息が詰まるようなプレッシャーが、小屋の中に充満する。
グルアァァァァァァッ!
大狼が天を仰ぎ、苦痛に満ちた咆哮を上げた。
窓ガラスがビリビリと震え、棚から古い鍋が落ちてガランと音を立てる。
次の瞬間、信じられない光景が目の前に広がった。
バキバキッ、メキョッ……!
骨が組み替わるような、不気味で生々しい音。
巨大な狼のシルエットが、光の中でぐにゃりと歪む。
四つ足の獣の形が、どんどん縮み、真っ直ぐに伸びていく。
それはまるで、二本足で立つ『人間』の輪郭になろうとしているかのようだった。
「嘘……」
私は呆然と呟いた。
まばゆい光の向こう側に、一瞬だけ見えたもの。
それは、銀色の髪をした青年の姿だった。
広い肩幅。たくましい腕。
けれど、頭にはピーンと立った狼の耳があり、腰のあたりからはふさふさとした巨大な尻尾が揺れている。
獣と、人が混ざり合ったような、幻。
(神様、私はいったい何を見ているの……?)
あまりの出来事に、声も出ない。
青年はこちらに顔を向け、何かを叫ぼうと口を開いた。
パァァァン!
しかし、空気が破裂するような音と共に、眩い光は一瞬にして弾け飛んだ。
「……っ!」
思わず目を瞑り、再び恐る恐る目を開ける。
そこには青年の姿はなかった。
元の白銀の大狼が、ぐったりと床に横たわっているだけだ。
荒い呼吸を繰り返し、大量の汗をかいたように毛皮が濡れている。
幻だったのだろうか。
あまりの疲労に、私の頭がおかしくなってしまったのだろうか。
でも、部屋の空気は確かに熱を帯びていて。
大狼の背中からは、微かに白い湯気が立ち上っていた。
耳の奥で、キーンという高い音が鳴り響いているような感覚。
「……どうしたの?」
私は弾かれたように体を起こした。
ストーブの火が消えかかっているのに、小屋の中は異様に明るかった。
光の源は、部屋の隅で丸くなっていた大狼だった。
白銀の毛並みの内側から、発光している。
いや、光そのものが彼の中から溢れ出しているようだった。
ハァ、ハァ、ハァ……!
大狼は酷く荒い呼吸を繰り返し、巨体を痙攣させていた。
床を掻きむしる鋭い爪の音が、暗い部屋に響く。
「痛いの!? 傷が開いたの!?」
私は慌てて駆け寄り、彼の体に手を伸ばした。
熱い。
火に触れたかと思うほどの、異常な高熱だった。
毛皮越しでも伝わってくるその熱は、命を燃やし尽くしてしまいそうなほど危険な温度だ。
(癒さなきゃ……痛みを、散らさなきゃ!)
私は反射的に『撫で癒し』の魔法を発動させた。
翠色の光が手のひらから溢れ、大狼の熱い体に吸い込まれていく。
いつもなら、これで熱が引き、穏やかな呼吸に戻るはずだ。
けれど。
カッ!
魔法が触れた瞬間、大狼の体がさらに強く光り輝いた。
まるで、私の魔力を薪にして、炎が燃え上がったように。
「きゃっ……!」
強烈な光と熱に弾き飛ばされ、私は床に尻餅をついた。
息が詰まるようなプレッシャーが、小屋の中に充満する。
グルアァァァァァァッ!
大狼が天を仰ぎ、苦痛に満ちた咆哮を上げた。
窓ガラスがビリビリと震え、棚から古い鍋が落ちてガランと音を立てる。
次の瞬間、信じられない光景が目の前に広がった。
バキバキッ、メキョッ……!
骨が組み替わるような、不気味で生々しい音。
巨大な狼のシルエットが、光の中でぐにゃりと歪む。
四つ足の獣の形が、どんどん縮み、真っ直ぐに伸びていく。
それはまるで、二本足で立つ『人間』の輪郭になろうとしているかのようだった。
「嘘……」
私は呆然と呟いた。
まばゆい光の向こう側に、一瞬だけ見えたもの。
それは、銀色の髪をした青年の姿だった。
広い肩幅。たくましい腕。
けれど、頭にはピーンと立った狼の耳があり、腰のあたりからはふさふさとした巨大な尻尾が揺れている。
獣と、人が混ざり合ったような、幻。
(神様、私はいったい何を見ているの……?)
あまりの出来事に、声も出ない。
青年はこちらに顔を向け、何かを叫ぼうと口を開いた。
パァァァン!
しかし、空気が破裂するような音と共に、眩い光は一瞬にして弾け飛んだ。
「……っ!」
思わず目を瞑り、再び恐る恐る目を開ける。
そこには青年の姿はなかった。
元の白銀の大狼が、ぐったりと床に横たわっているだけだ。
荒い呼吸を繰り返し、大量の汗をかいたように毛皮が濡れている。
幻だったのだろうか。
あまりの疲労に、私の頭がおかしくなってしまったのだろうか。
でも、部屋の空気は確かに熱を帯びていて。
大狼の背中からは、微かに白い湯気が立ち上っていた。
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