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18話「火種」
焦げた木の匂いと、黒い煙が村の空を覆っていた。
夜が明けても、見回り小屋の焼け跡からはくすぶった煙が上がり続けている。
幸い、小屋は無人だったため怪我人は出なかった。
けれど、集会所に集まった村人たちの顔には、色濃い疲労と恐怖が刻まれていた。
「ただの火事じゃねえ。周囲に、油をまいたような臭いが残ってた」
村長が、重苦しい声で告げる。
「黒牙の仕業だ……」
「俺たちが罠を外して回ったから、その腹いせに違いねえ」
「次は村の家が燃やされるかもしれねえぞ!」
村人たちの間に、パニックに近い動揺が広がっていく。
密猟ギルド『黒牙』からの、明確な威嚇。
辺境の小さな村が、悪意を持った武装集団に狙われているという事実は、人々の心を簡単にへし折ってしまう。
「……見回りのやり方を、変えましょう」
私は立ち上がり、ざわめく集会所の中で声を張り上げた。
「罠を外すだけじゃなく、森の入り口に交代で立つ見張りの数を増やします。それから、もし不審な影を見つけたら、絶対に戦わずに合図の鐘だけを鳴らして逃げる仕組みを作るんです」
「だがお嬢さん、相手は血の気の多い悪党だ。見つかったら殺されるかもしれねえ」
「だからこそ、見つかる前に気づく必要があります。……シロが、先導します」
足元で伏せていたもふもふのシロが、私の声に応えるように短く「ウォフ」と鳴いた。
彼の鼻と耳があれば、人間の密猟者が近づいてくるのを誰よりも早く察知できる。
私は、決して誰にも血を流させないという決意を込めて、村人たちを見回した。
♦︎♦︎♦︎
その日の午後。
シロは早速、村の若者たちと一緒により深い森の境界へと見回りに出かけていった。
私は手当て所で、万が一怪我人が出た時のために傷薬の調合を急いでいた。
乳鉢で薬草をすりつぶす手が、焦りからか少し震える。
(シロ、気をつけて……)
窓の外を見つめ、祈るような気持ちで帰りを待つ。
しかし。
夕暮れになり、太陽が山の向こうに沈んで、空が濃い紫色に染まっても。
シロは戻ってこなかった。
「リディア!」
手当て所の扉が勢いよく開き、一緒に見回りに出ていた若者の一人が駆け込んできた。
肩で息をし、顔面を蒼白にしている。
「シロが……戻ってこねえんだ。森の奥で何か匂いを嗅ぎつけて、俺たちを置いて一人で走っていっちまって……」
心臓が、ドクンと嫌な音を立てた。
私はすりこぎを放り出し、立ち上がった。
「森の、どのあたりですか」
「西の、霧が一番濃い谷のあたりだ。でもお嬢さん、今から行くのは危険すぎる!」
若者の制止を振り切り、私は小屋を飛び出した。
肩には、モチがちゃっかりと飛び乗っている。
冷たい風が頬を打つ。
森の入り口に差し掛かった時、私の鼻を突いたのは。
腐葉土の匂いでも、霧の匂いでもない。
生暖かい、強い血の匂いだった。
「……っ」
足元の木の根元に、何かが落ちている。
私はしゃがみ込み、震える指でそれに触れた。
べっとりと血のついた、白銀の毛の塊。
間違いなく、シロのものだった。
夜が明けても、見回り小屋の焼け跡からはくすぶった煙が上がり続けている。
幸い、小屋は無人だったため怪我人は出なかった。
けれど、集会所に集まった村人たちの顔には、色濃い疲労と恐怖が刻まれていた。
「ただの火事じゃねえ。周囲に、油をまいたような臭いが残ってた」
村長が、重苦しい声で告げる。
「黒牙の仕業だ……」
「俺たちが罠を外して回ったから、その腹いせに違いねえ」
「次は村の家が燃やされるかもしれねえぞ!」
村人たちの間に、パニックに近い動揺が広がっていく。
密猟ギルド『黒牙』からの、明確な威嚇。
辺境の小さな村が、悪意を持った武装集団に狙われているという事実は、人々の心を簡単にへし折ってしまう。
「……見回りのやり方を、変えましょう」
私は立ち上がり、ざわめく集会所の中で声を張り上げた。
「罠を外すだけじゃなく、森の入り口に交代で立つ見張りの数を増やします。それから、もし不審な影を見つけたら、絶対に戦わずに合図の鐘だけを鳴らして逃げる仕組みを作るんです」
「だがお嬢さん、相手は血の気の多い悪党だ。見つかったら殺されるかもしれねえ」
「だからこそ、見つかる前に気づく必要があります。……シロが、先導します」
足元で伏せていたもふもふのシロが、私の声に応えるように短く「ウォフ」と鳴いた。
彼の鼻と耳があれば、人間の密猟者が近づいてくるのを誰よりも早く察知できる。
私は、決して誰にも血を流させないという決意を込めて、村人たちを見回した。
♦︎♦︎♦︎
その日の午後。
シロは早速、村の若者たちと一緒により深い森の境界へと見回りに出かけていった。
私は手当て所で、万が一怪我人が出た時のために傷薬の調合を急いでいた。
乳鉢で薬草をすりつぶす手が、焦りからか少し震える。
(シロ、気をつけて……)
窓の外を見つめ、祈るような気持ちで帰りを待つ。
しかし。
夕暮れになり、太陽が山の向こうに沈んで、空が濃い紫色に染まっても。
シロは戻ってこなかった。
「リディア!」
手当て所の扉が勢いよく開き、一緒に見回りに出ていた若者の一人が駆け込んできた。
肩で息をし、顔面を蒼白にしている。
「シロが……戻ってこねえんだ。森の奥で何か匂いを嗅ぎつけて、俺たちを置いて一人で走っていっちまって……」
心臓が、ドクンと嫌な音を立てた。
私はすりこぎを放り出し、立ち上がった。
「森の、どのあたりですか」
「西の、霧が一番濃い谷のあたりだ。でもお嬢さん、今から行くのは危険すぎる!」
若者の制止を振り切り、私は小屋を飛び出した。
肩には、モチがちゃっかりと飛び乗っている。
冷たい風が頬を打つ。
森の入り口に差し掛かった時、私の鼻を突いたのは。
腐葉土の匂いでも、霧の匂いでもない。
生暖かい、強い血の匂いだった。
「……っ」
足元の木の根元に、何かが落ちている。
私はしゃがみ込み、震える指でそれに触れた。
べっとりと血のついた、白銀の毛の塊。
間違いなく、シロのものだった。
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