断罪フラグをへし折った悪役令嬢は、なぜか冷徹公爵様に溺愛されています ~スローライフはどこへいった?~

放浪人

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第39話:黒幕の名と、父の非情なる決断

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「宰相、ダリウス卿……」

アレクシス公爵が、忌々しげに、その名前を、繰り返した。
彼の、夜色の瞳に、冷たい、怒りの炎が、燃え盛っている。

「やはり、奴が、黒幕だったか。リリアを、聖女に仕立て上げ、その権威を、散々、利用してきた男だ。彼女が失脚すれば、自分の立場も、危うくなる。そう考えて、我々を、逆賊に仕立て上げようという、魂胆だろう」

「うむ。おそらくは、その通りだ」

父が、重々しく、頷く。

リリアの言っていた、『あの方』。
その正体は、やはり、宰相ダリウス卿だったのだ。
リリアは、彼に、操られていた、ただの、人形に過ぎなかったのかもしれない。
そして、私たちは、その、人形遣いの、本体と、戦わなければならなくなった。

相手は、国の、宰相。
王宮の、権力を、一手に、握る男。
あまりにも、巨大すぎる、敵。

「……では、わたくしたちは、どうすれば……」

私が、不安に、声を震わせると、父は、じっと、私を見つめた。
その目には、娘を、戦場に送り出す、父親の、苦悩と、そして、覚悟が、宿っていた。

「……もはや、一刻の、猶予もない」

父は、そう言うと、一つの、決断を、口にした。
それは、私の、想像を、遥かに、超えるものだった。

「――シュヴァルツシルト公」

「……何だ」

「貴公と、我が娘、イザベラの、婚約を、今、この場で、正式に、決定する」

「…………はい?」

私の、口から、素っ頓狂な声が、漏れた。
こ、婚約?
今、ここで?
正式に?

「お待ちください、お父様! それは、あまりにも、唐突すぎますわ!」
「黙れ、イザベラ!」

父の、一喝。

「これは、お前の、そして、我々、ヴァインベルク家の、未来を、守るための、最善の一手だ!」

父は、アレクシス公爵に、向き直った。

「ダリウス卿に対抗するには、我々、二大公爵家が、手を取り合うしかない。シュヴァルツシルト家と、ヴァインベルク家が、婚姻によって、強固な、同盟を結んだと、内外に、知らしめるのだ」

「……」

「そうなれば、いかに、老獪な、ダリウス卿とて、容易には、手出しはできまい。むしろ、我々を、敵に回すことの、愚かさを、思い知ることになるだろう」

政略、結婚。
それは、貴族の世界では、当たり前に行われる、家のための、道具。
分かっては、いた。
でも、それが、こんな形で、自分の身に、降りかかってくるとは。

「もちろん、これは、お前たちの、気持ちを、無視した、政のための、話だ。だが、今は、そうするしかない。……分かって、くれるな?」

父が、苦しそうに、そう言った。
それは、私に、というより、アレクシス公爵に、問いかけているようだった。

私の、気持ちは、どうなるの?
スローライフは?
いや、それ以前に、私の意思は、完全に、無視!?

私の頭の中が、パニックに陥っている、その横で。
今まで、黙って話を聞いていた、アレクシス公爵が、静かに、口を開いた。

その声は、驚くほど、落ち着いていた。

「ヴァインベルク公」
「……何だ」
「その話、謹んで、お受けいたします」

「……!」

彼は、即答した。
何の、迷いもなく。
そして、彼は、ゆっくりと、私の方を、振り返った。
その、真剣な、瞳に、射抜かれて、私は、息を、呑んだ。

彼は、私の、心の叫びなど、お見通しだ、とでもいうように、静かに、しかし、力強く、告げたのだ。

「イザベラ。これは、お前を守るための、最善の策だ。……異論は、認めん」

その言葉は、まるで、父の、セリフの、ようだった。
そして、それは、私の、全ての、逃げ道を、塞いでしまう、最後の一手でも、あった。
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