39 / 60
第39話:黒幕の名と、父の非情なる決断
しおりを挟む
「宰相、ダリウス卿……」
アレクシス公爵が、忌々しげに、その名前を、繰り返した。
彼の、夜色の瞳に、冷たい、怒りの炎が、燃え盛っている。
「やはり、奴が、黒幕だったか。リリアを、聖女に仕立て上げ、その権威を、散々、利用してきた男だ。彼女が失脚すれば、自分の立場も、危うくなる。そう考えて、我々を、逆賊に仕立て上げようという、魂胆だろう」
「うむ。おそらくは、その通りだ」
父が、重々しく、頷く。
リリアの言っていた、『あの方』。
その正体は、やはり、宰相ダリウス卿だったのだ。
リリアは、彼に、操られていた、ただの、人形に過ぎなかったのかもしれない。
そして、私たちは、その、人形遣いの、本体と、戦わなければならなくなった。
相手は、国の、宰相。
王宮の、権力を、一手に、握る男。
あまりにも、巨大すぎる、敵。
「……では、わたくしたちは、どうすれば……」
私が、不安に、声を震わせると、父は、じっと、私を見つめた。
その目には、娘を、戦場に送り出す、父親の、苦悩と、そして、覚悟が、宿っていた。
「……もはや、一刻の、猶予もない」
父は、そう言うと、一つの、決断を、口にした。
それは、私の、想像を、遥かに、超えるものだった。
「――シュヴァルツシルト公」
「……何だ」
「貴公と、我が娘、イザベラの、婚約を、今、この場で、正式に、決定する」
「…………はい?」
私の、口から、素っ頓狂な声が、漏れた。
こ、婚約?
今、ここで?
正式に?
「お待ちください、お父様! それは、あまりにも、唐突すぎますわ!」
「黙れ、イザベラ!」
父の、一喝。
「これは、お前の、そして、我々、ヴァインベルク家の、未来を、守るための、最善の一手だ!」
父は、アレクシス公爵に、向き直った。
「ダリウス卿に対抗するには、我々、二大公爵家が、手を取り合うしかない。シュヴァルツシルト家と、ヴァインベルク家が、婚姻によって、強固な、同盟を結んだと、内外に、知らしめるのだ」
「……」
「そうなれば、いかに、老獪な、ダリウス卿とて、容易には、手出しはできまい。むしろ、我々を、敵に回すことの、愚かさを、思い知ることになるだろう」
政略、結婚。
それは、貴族の世界では、当たり前に行われる、家のための、道具。
分かっては、いた。
でも、それが、こんな形で、自分の身に、降りかかってくるとは。
「もちろん、これは、お前たちの、気持ちを、無視した、政のための、話だ。だが、今は、そうするしかない。……分かって、くれるな?」
父が、苦しそうに、そう言った。
それは、私に、というより、アレクシス公爵に、問いかけているようだった。
私の、気持ちは、どうなるの?
スローライフは?
いや、それ以前に、私の意思は、完全に、無視!?
私の頭の中が、パニックに陥っている、その横で。
今まで、黙って話を聞いていた、アレクシス公爵が、静かに、口を開いた。
その声は、驚くほど、落ち着いていた。
「ヴァインベルク公」
「……何だ」
「その話、謹んで、お受けいたします」
「……!」
彼は、即答した。
何の、迷いもなく。
そして、彼は、ゆっくりと、私の方を、振り返った。
その、真剣な、瞳に、射抜かれて、私は、息を、呑んだ。
彼は、私の、心の叫びなど、お見通しだ、とでもいうように、静かに、しかし、力強く、告げたのだ。
「イザベラ。これは、お前を守るための、最善の策だ。……異論は、認めん」
その言葉は、まるで、父の、セリフの、ようだった。
そして、それは、私の、全ての、逃げ道を、塞いでしまう、最後の一手でも、あった。
アレクシス公爵が、忌々しげに、その名前を、繰り返した。
彼の、夜色の瞳に、冷たい、怒りの炎が、燃え盛っている。
「やはり、奴が、黒幕だったか。リリアを、聖女に仕立て上げ、その権威を、散々、利用してきた男だ。彼女が失脚すれば、自分の立場も、危うくなる。そう考えて、我々を、逆賊に仕立て上げようという、魂胆だろう」
「うむ。おそらくは、その通りだ」
父が、重々しく、頷く。
リリアの言っていた、『あの方』。
その正体は、やはり、宰相ダリウス卿だったのだ。
リリアは、彼に、操られていた、ただの、人形に過ぎなかったのかもしれない。
そして、私たちは、その、人形遣いの、本体と、戦わなければならなくなった。
相手は、国の、宰相。
王宮の、権力を、一手に、握る男。
あまりにも、巨大すぎる、敵。
「……では、わたくしたちは、どうすれば……」
私が、不安に、声を震わせると、父は、じっと、私を見つめた。
その目には、娘を、戦場に送り出す、父親の、苦悩と、そして、覚悟が、宿っていた。
「……もはや、一刻の、猶予もない」
父は、そう言うと、一つの、決断を、口にした。
それは、私の、想像を、遥かに、超えるものだった。
「――シュヴァルツシルト公」
「……何だ」
「貴公と、我が娘、イザベラの、婚約を、今、この場で、正式に、決定する」
「…………はい?」
私の、口から、素っ頓狂な声が、漏れた。
こ、婚約?
今、ここで?
正式に?
「お待ちください、お父様! それは、あまりにも、唐突すぎますわ!」
「黙れ、イザベラ!」
父の、一喝。
「これは、お前の、そして、我々、ヴァインベルク家の、未来を、守るための、最善の一手だ!」
父は、アレクシス公爵に、向き直った。
「ダリウス卿に対抗するには、我々、二大公爵家が、手を取り合うしかない。シュヴァルツシルト家と、ヴァインベルク家が、婚姻によって、強固な、同盟を結んだと、内外に、知らしめるのだ」
「……」
「そうなれば、いかに、老獪な、ダリウス卿とて、容易には、手出しはできまい。むしろ、我々を、敵に回すことの、愚かさを、思い知ることになるだろう」
政略、結婚。
それは、貴族の世界では、当たり前に行われる、家のための、道具。
分かっては、いた。
でも、それが、こんな形で、自分の身に、降りかかってくるとは。
「もちろん、これは、お前たちの、気持ちを、無視した、政のための、話だ。だが、今は、そうするしかない。……分かって、くれるな?」
父が、苦しそうに、そう言った。
それは、私に、というより、アレクシス公爵に、問いかけているようだった。
私の、気持ちは、どうなるの?
スローライフは?
いや、それ以前に、私の意思は、完全に、無視!?
私の頭の中が、パニックに陥っている、その横で。
今まで、黙って話を聞いていた、アレクシス公爵が、静かに、口を開いた。
その声は、驚くほど、落ち着いていた。
「ヴァインベルク公」
「……何だ」
「その話、謹んで、お受けいたします」
「……!」
彼は、即答した。
何の、迷いもなく。
そして、彼は、ゆっくりと、私の方を、振り返った。
その、真剣な、瞳に、射抜かれて、私は、息を、呑んだ。
彼は、私の、心の叫びなど、お見通しだ、とでもいうように、静かに、しかし、力強く、告げたのだ。
「イザベラ。これは、お前を守るための、最善の策だ。……異論は、認めん」
その言葉は、まるで、父の、セリフの、ようだった。
そして、それは、私の、全ての、逃げ道を、塞いでしまう、最後の一手でも、あった。
59
あなたにおすすめの小説
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
悪役令嬢の断罪――え、いま婚約破棄と?聞こえませんでしたわ!
ちゃっぴー
恋愛
公爵令嬢アクア・ラズライトは、卒業パーティーの最中に婚約者であるジュリアス殿下から「悪役令嬢」として断罪を突きつけられる。普通なら泣き崩れるか激昂する場面――しかし、超合理的で節約家なアクアは違った。
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい
廻り
恋愛
第18回恋愛小説大賞にて奨励賞をいただきました。応援してくださりありがとうございました!
王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。
ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。
『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。
ならばと、シャルロットは別居を始める。
『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。
夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。
それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。
《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》
【完結】ゲーム序盤に殺されるモブに転生したのに、黒幕と契約結婚することになりました〜ここまで愛が重いのは聞いていない〜
紅城えりす☆VTuber
恋愛
激甘、重すぎる溺愛ストーリー!
主人公は推理ゲームの序盤に殺される悪徳令嬢シータに転生してしまうが――。
「黒幕の侯爵は悪徳貴族しか狙わないじゃない。つまり、清く正しく生きていれば殺されないでしょ!」
本人は全く気にしていなかった。
そのままシータは、前世知識を駆使しながら令嬢ライフをエンジョイすることを決意。
しかし、主人公を待っていたのは、シータを政略結婚の道具としか考えていない両親と暮らす地獄と呼ぶべき生活だった。
ある日シータは舞踏会にて、黒幕であるセシル侯爵と遭遇。
「一つゲームをしましょう。もし、貴方が勝てばご褒美をあげます」
さらに、その『ご褒美』とは彼と『契約結婚』をすることで――。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
もし「続きが読みたい!」「スカッとした」「面白い!」と思って頂けたエピソードがありましたら、♥コメントで反応していただけると嬉しいです。
読者様から頂いた反応は、今後の執筆活動にて参考にさせていただきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる