43 / 60
第43話:王都への帰還と、見えざる敵の洗礼
しおりを挟む
馬車に揺られて、数日。
見慣れた、ヴァインベルク領の、のどかな田園風景は、次第に、その姿を消していった。
代わりに、見えてきたのは、高く、そびえ立つ、王都の城壁。
久しぶりに、見る、その景色。
私の心は、期待よりも、むしろ、重い、緊張感に、包まれていた。
これから、この場所で、あの、老獪な宰相と、戦わなければならないのだ。
「……着いたな」
アレクシス公爵が、窓の外を、眺めながら、呟いた。
その声も、心なしか、いつもより、硬い。
馬車は、やがて、ヴァインベルク公爵家の、壮麗な、屋敷の門を、くぐった。
使用人たちが、ずらりと、並んで、私たちを、出迎えてくれる。
その顔には、安堵と、そして、一様に、疲労の色が、浮かんでいた。
「お帰りなさいませ、旦那様、お嬢様。そして、シュヴァルツシルト公爵閣下」
出迎えた、王都の屋敷の、執事長の言葉にも、どこか、力がなかった。
「……何か、あったのか」
父が、鋭く、尋ねる。
「は……。それが、我々が、手を尽くしてはいるのですが……」
執事長の話を、まとめると、こうだった。
私たちが、領地にいる間に、宰相ダリウス卿からの、陰湿な、嫌がらせが、始まっていたらしい。
長年、ヴァインベルク家と、取引のあった商会が、次々と、一方的に、契約を、打ち切ってきた。
父と、懇意にしていた、貴族たちが、理由もなく、距離を、置き始めた。
社交界では、『ヴァインベルク家は、聖女を陥れた、逆賊の一味だ』という、根も葉もない噂が、まことしやかに、囁かれている、と。
「……想定内、ではあるがな。思ったよりも、手が、早い」
父が、苦々しげに、吐き捨てる。
見えない、敵。
それは、じわじわと、私たちの、足元を、蝕み始めていた。
「ふん。小物が、ちょこざいな真似を」
アレクシス公爵が、冷たく、言い放った。
その瞳には、怒りの色が、燃えている。
「心配するな、イザベラ。あのような、雑魚、俺が、まとめて、薙ぎ払ってくれる」
「……ええ。頼りにしておりますわ、公爵様」
彼の、その、力強い言葉が、私の、不安な心を、少しだけ、軽くしてくれた。
その、数日後。
父のもとに、王家から、一通の、招待状が、届いた。
「……来たか」
父が、招待状を、テーブルの上に、置く。
国王陛下が、主催する、夜会。
それは、表向きは、季節の、定例行事。
しかし、その、本当の、意味。
「……私と、アレクシス公爵様の、婚約披露の、場、ですわね」
「うむ。そして、宰相派との、最初の、決戦の、舞台となるだろう」
父の言葉に、部屋の空気が、張り詰める。
この夜会で、私たちは、宰相派の、敵意に、真っ向から、立ち向かわなければならない。
そして、二大公爵家の、結束を、内外に、示さなければならないのだ。
私は、ごくり、と、唾を飲み込んだ。
怖い。
でも、逃げるわけには、いかない。
すると、私の手を、大きな手が、そっと、包み込んだ。
アレクシス公爵だった。
「心配するな」
彼は、私の目を、まっすぐに、見つめて、言った。
「俺が、ついている。お前は、ただ、堂々と、俺の隣で、笑っていればいい」
その、不器用だけど、絶対的な、安心感を与えてくれる、言葉。
私は、彼の手を、ぎゅっと、握り返した。
「……はい」
そう。
私は、もう、一人じゃないのだから。
愛する人と、そして、頼れる、父と、共に。
この、戦いを、乗り越えてみせる。
運命の夜会は、明後日の、夜。
決戦の、幕は、もう、すぐそこに、迫っていた。
見慣れた、ヴァインベルク領の、のどかな田園風景は、次第に、その姿を消していった。
代わりに、見えてきたのは、高く、そびえ立つ、王都の城壁。
久しぶりに、見る、その景色。
私の心は、期待よりも、むしろ、重い、緊張感に、包まれていた。
これから、この場所で、あの、老獪な宰相と、戦わなければならないのだ。
「……着いたな」
アレクシス公爵が、窓の外を、眺めながら、呟いた。
その声も、心なしか、いつもより、硬い。
馬車は、やがて、ヴァインベルク公爵家の、壮麗な、屋敷の門を、くぐった。
使用人たちが、ずらりと、並んで、私たちを、出迎えてくれる。
その顔には、安堵と、そして、一様に、疲労の色が、浮かんでいた。
「お帰りなさいませ、旦那様、お嬢様。そして、シュヴァルツシルト公爵閣下」
出迎えた、王都の屋敷の、執事長の言葉にも、どこか、力がなかった。
「……何か、あったのか」
父が、鋭く、尋ねる。
「は……。それが、我々が、手を尽くしてはいるのですが……」
執事長の話を、まとめると、こうだった。
私たちが、領地にいる間に、宰相ダリウス卿からの、陰湿な、嫌がらせが、始まっていたらしい。
長年、ヴァインベルク家と、取引のあった商会が、次々と、一方的に、契約を、打ち切ってきた。
父と、懇意にしていた、貴族たちが、理由もなく、距離を、置き始めた。
社交界では、『ヴァインベルク家は、聖女を陥れた、逆賊の一味だ』という、根も葉もない噂が、まことしやかに、囁かれている、と。
「……想定内、ではあるがな。思ったよりも、手が、早い」
父が、苦々しげに、吐き捨てる。
見えない、敵。
それは、じわじわと、私たちの、足元を、蝕み始めていた。
「ふん。小物が、ちょこざいな真似を」
アレクシス公爵が、冷たく、言い放った。
その瞳には、怒りの色が、燃えている。
「心配するな、イザベラ。あのような、雑魚、俺が、まとめて、薙ぎ払ってくれる」
「……ええ。頼りにしておりますわ、公爵様」
彼の、その、力強い言葉が、私の、不安な心を、少しだけ、軽くしてくれた。
その、数日後。
父のもとに、王家から、一通の、招待状が、届いた。
「……来たか」
父が、招待状を、テーブルの上に、置く。
国王陛下が、主催する、夜会。
それは、表向きは、季節の、定例行事。
しかし、その、本当の、意味。
「……私と、アレクシス公爵様の、婚約披露の、場、ですわね」
「うむ。そして、宰相派との、最初の、決戦の、舞台となるだろう」
父の言葉に、部屋の空気が、張り詰める。
この夜会で、私たちは、宰相派の、敵意に、真っ向から、立ち向かわなければならない。
そして、二大公爵家の、結束を、内外に、示さなければならないのだ。
私は、ごくり、と、唾を飲み込んだ。
怖い。
でも、逃げるわけには、いかない。
すると、私の手を、大きな手が、そっと、包み込んだ。
アレクシス公爵だった。
「心配するな」
彼は、私の目を、まっすぐに、見つめて、言った。
「俺が、ついている。お前は、ただ、堂々と、俺の隣で、笑っていればいい」
その、不器用だけど、絶対的な、安心感を与えてくれる、言葉。
私は、彼の手を、ぎゅっと、握り返した。
「……はい」
そう。
私は、もう、一人じゃないのだから。
愛する人と、そして、頼れる、父と、共に。
この、戦いを、乗り越えてみせる。
運命の夜会は、明後日の、夜。
決戦の、幕は、もう、すぐそこに、迫っていた。
67
あなたにおすすめの小説
何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています
鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。
指示を出さない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。
それなのに――
いつの間にか屋敷は落ち着き、
使用人たちは迷わなくなり、
人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。
誰かに依存しない。
誰かを支配しない。
それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。
必要とされなくてもいい。
役に立たなくてもいい。
それでも、ここにいていい。
これは、
「何もしない」ことで壊れなかった関係と、
「奪わない」ことで続いていった日常を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
待ち伏せされた悪役令嬢、幼馴染み騎士団長と初恋をやり直す。
待鳥園子
恋愛
悪役令嬢クラウディア・エズモンドとして転生し、前世の記憶が婚約破棄の夜会数日前に戻った。
もう婚約破棄されることは避けられない。覚悟を決めて夜会が開催される大広間に向かう途中、騎士団長であるオルランド・フィンリーに呼び止められ……。
【完結済】破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします
紫
恋愛
水不足に喘ぐ貧困侯爵家の次女エリルシアは、父親からの手紙で王都に向かう。
王子の婚約者選定に関して、白羽の矢が立ったのだが、どうやらその王子には恋人がいる…らしい?
つまりエリルシアが悪役令嬢ポジなのか!?
そんな役どころなんて御免被りたいが、王サマからの提案が魅力的過ぎて、王宮滞在を了承してしまう。
報酬に目が眩んだエリルシアだが、無事王宮を脱出出来るのか。
王子サマと恋人(もしかしてヒロイン?)の未来はどうなるのか。
2025年10月06日、初HOTランキング入りです! 本当にありがとうございます!!(2位だなんて……いやいや、ありえないと言うか…本気で夢でも見ているのではないでしょーか……)
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
※小説家になろう様にも掲載させていただいています。
※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。
※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。
※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。
※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。
※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。
※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。
※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。
婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた
夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。
そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。
婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる