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第八話:王立図書館の探索と意外な協力者
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アレクシス様の尽力により、わたくしは特別に王立図書館への立ち入りを許可された。
広大な図書館は、古い革の匂いと静寂に満ちており、壁一面に並ぶ書架には膨大な量の書物が収められている。その光景に、わたくしはただただ圧倒されるばかりだった。
「すごい……こんなにたくさんの本、見たことがありませんわ」
「ああ。だが、この中から月の泉に関する記述を見つけ出すのは、骨が折れそうだ」
アレクシス様はそう言いながらも、その瞳には探索への意欲が燃えているように見えた。
わたくしたちは手分けをして、古い地図や地方の伝承、薬草に関する古文書などを片っ端から調べていくことにした。
しかし、作業は困難を極めた。
月の泉という名前は、どの文献にも見当たらない。月の雫草に関する記述も、あの「古代治癒術集成」以外には発見できなかった。
時間だけが刻々と過ぎていく。
焦りと疲労が、じわじわとわたくしたちを追い詰めていくようだった。
「……やはり、幻の薬草というのは、ただの言い伝えなのかもしれませんわね」
弱音を吐いてしまったわたくしに、アレクシス様は静かに首を振った。
「いや、まだだ。何か、見落としていることがあるのかもしれない」
彼の諦めない姿勢に励まされ、わたくしは再び書物を手に取る。
その時だった。
「お困りのようですね、アレクシス様、リリア様」
不意にかけられた声に、わたくしたちは顔を上げた。
そこに立っていたのは、柔和な笑みを浮かべたセドリック・アシュフォード様だった。
「セドリック様……! どうしてここに?」
驚くわたくしに、セドリック様は悪戯っぽく片目をつぶった。
「アシュフォード家は代々、王立図書館の管理を一部任されているのですよ。お二人が熱心に何かを探されているとお見受けしたので、少し気になりまして」
「そうだったのですか……」
偶然の再会に、わたくしは少しだけ安堵感を覚えた。
セドリック様の穏やかな雰囲気は、張り詰めていたわたくしの心を和ませてくれる。
アレクシス様は、セドリック様に対しては貴族としての礼儀正しい態度を崩さなかったが、その瞳には僅かな警戒の色が浮かんでいるように見えた。
「実は、我々は古い薬草に関する記述を探しておりまして」
アレクシス様が簡潔に事情を説明すると、セドリック様は興味深そうに頷いた。
「古い薬草、ですか。どのような?」
「……月の雫草、という名です。ご存じありませんか?」
わたくしが尋ねると、セドリック様は少しの間考え込むような仕草を見せた。
そして、ポンと手を打つ。
「月の雫草……ああ、もしかしたら、あれのことかもしれません」
「「えっ!?」」
わたくしとアレクシス様は、思わず声を上げた。
「古いアシュフォード家の領地台帳に、そのような記述があったような気がします。『月影の泉に咲く、奇跡の癒しをもたらす白き花』と……。月の雫草という直接的な名前ではありませんでしたが、特徴は似ているかもしれません」
月影の泉……!
それは、わたくしたちが探していた月の泉の、別の呼び名なのかもしれない。
希望の光が、目の前に差し込んできたようだった。
「セドリック様、その台帳を拝見することはできますでしょうか!?」
わたくしが必死に頼み込むと、セドリック様は快く頷いてくれた。
「もちろんです。こちらへどうぞ」
セドリック様に案内され、わたくしたちは図書館の奥深く、特別な書庫へと足を踏み入れた。
そこで見せられた古い台帳には、確かに「月影の泉」と、そこに咲く白い花のスケッチが記されていた。そして、その泉の場所を示す、大まかな地図も。
「これは……間違いありませんわ! アレクシス様!」
「ああ。ようやく、手がかりが見つかったな」
アレクシス様の声にも、安堵の色が滲んでいる。
わたくしは、セドリック様に向かって深々と頭を下げた。
「セドリック様、本当にありがとうございます……! このご恩は、決して忘れませんわ」
「いえいえ、お役に立てて光栄です。リリア様」
セドリック様は、どこまでも優しく微笑む。
その笑顔に、アレクシス様が何か言いたげな表情を浮かべたことに、わたくしは気づかなかった。
ついに掴んだ、月の雫草への手がかり。
わたくしたちの旅は、新たな局面を迎えようとしていた。
広大な図書館は、古い革の匂いと静寂に満ちており、壁一面に並ぶ書架には膨大な量の書物が収められている。その光景に、わたくしはただただ圧倒されるばかりだった。
「すごい……こんなにたくさんの本、見たことがありませんわ」
「ああ。だが、この中から月の泉に関する記述を見つけ出すのは、骨が折れそうだ」
アレクシス様はそう言いながらも、その瞳には探索への意欲が燃えているように見えた。
わたくしたちは手分けをして、古い地図や地方の伝承、薬草に関する古文書などを片っ端から調べていくことにした。
しかし、作業は困難を極めた。
月の泉という名前は、どの文献にも見当たらない。月の雫草に関する記述も、あの「古代治癒術集成」以外には発見できなかった。
時間だけが刻々と過ぎていく。
焦りと疲労が、じわじわとわたくしたちを追い詰めていくようだった。
「……やはり、幻の薬草というのは、ただの言い伝えなのかもしれませんわね」
弱音を吐いてしまったわたくしに、アレクシス様は静かに首を振った。
「いや、まだだ。何か、見落としていることがあるのかもしれない」
彼の諦めない姿勢に励まされ、わたくしは再び書物を手に取る。
その時だった。
「お困りのようですね、アレクシス様、リリア様」
不意にかけられた声に、わたくしたちは顔を上げた。
そこに立っていたのは、柔和な笑みを浮かべたセドリック・アシュフォード様だった。
「セドリック様……! どうしてここに?」
驚くわたくしに、セドリック様は悪戯っぽく片目をつぶった。
「アシュフォード家は代々、王立図書館の管理を一部任されているのですよ。お二人が熱心に何かを探されているとお見受けしたので、少し気になりまして」
「そうだったのですか……」
偶然の再会に、わたくしは少しだけ安堵感を覚えた。
セドリック様の穏やかな雰囲気は、張り詰めていたわたくしの心を和ませてくれる。
アレクシス様は、セドリック様に対しては貴族としての礼儀正しい態度を崩さなかったが、その瞳には僅かな警戒の色が浮かんでいるように見えた。
「実は、我々は古い薬草に関する記述を探しておりまして」
アレクシス様が簡潔に事情を説明すると、セドリック様は興味深そうに頷いた。
「古い薬草、ですか。どのような?」
「……月の雫草、という名です。ご存じありませんか?」
わたくしが尋ねると、セドリック様は少しの間考え込むような仕草を見せた。
そして、ポンと手を打つ。
「月の雫草……ああ、もしかしたら、あれのことかもしれません」
「「えっ!?」」
わたくしとアレクシス様は、思わず声を上げた。
「古いアシュフォード家の領地台帳に、そのような記述があったような気がします。『月影の泉に咲く、奇跡の癒しをもたらす白き花』と……。月の雫草という直接的な名前ではありませんでしたが、特徴は似ているかもしれません」
月影の泉……!
それは、わたくしたちが探していた月の泉の、別の呼び名なのかもしれない。
希望の光が、目の前に差し込んできたようだった。
「セドリック様、その台帳を拝見することはできますでしょうか!?」
わたくしが必死に頼み込むと、セドリック様は快く頷いてくれた。
「もちろんです。こちらへどうぞ」
セドリック様に案内され、わたくしたちは図書館の奥深く、特別な書庫へと足を踏み入れた。
そこで見せられた古い台帳には、確かに「月影の泉」と、そこに咲く白い花のスケッチが記されていた。そして、その泉の場所を示す、大まかな地図も。
「これは……間違いありませんわ! アレクシス様!」
「ああ。ようやく、手がかりが見つかったな」
アレクシス様の声にも、安堵の色が滲んでいる。
わたくしは、セドリック様に向かって深々と頭を下げた。
「セドリック様、本当にありがとうございます……! このご恩は、決して忘れませんわ」
「いえいえ、お役に立てて光栄です。リリア様」
セドリック様は、どこまでも優しく微笑む。
その笑顔に、アレクシス様が何か言いたげな表情を浮かべたことに、わたくしは気づかなかった。
ついに掴んだ、月の雫草への手がかり。
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