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第1話 断罪イベント? 布団から出たくないので欠席します
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「――エリザベート! エリザベート・フォン・ローゼンバーグ! 貴様のその性根、もはや看過できん! 今ここで聖女マリアへの数々の狼藉を詫び、婚約破棄を受け入れよ!」
高い天井に響き渡る怒号。 きらびやかなシャンデリアの下、軽蔑の眼差しを向ける貴族たち。 そして、私の目の前で腕を組み、勝ち誇ったように鼻を鳴らす元婚約者の王太子フレデリックと、彼の背後に隠れるようにして震える(ふりをしている)男爵令嬢マリア。
ああ、またか。
また、この光景だ。
私は、そのあまりの既視感にめまいを覚えた。 これは私の『1回目の人生』の終わりの光景だ。 この後、私は無実の罪を被せられ、冷たい地下牢に幽閉された挙句、断頭台の露と消える。
痛みは一瞬だったけれど、首が落ちる感覚というのはどうにも気持ちのいいものじゃない。
そして、目が覚めると『2回目の人生』が始まっていた。 私は反省した。 悪役令嬢なんて割に合わない役回りは辞めようと。 だから2回目は、心を入れ替えて『聖女』として生きた。 困っている人がいれば手を差し伸べ、怪我人がいれば治癒魔法をかけ、国のために、民のために、それこそ馬車馬のように働いた。
睡眠時間は1日3時間。 食事は移動中にサンドイッチを齧るだけ。 肌は荒れ、目の下には隈ができ、美しい銀髪はパサパサになった。
その結果どうなったか?
25歳の若さで、過労死した。
執務室の机に突っ伏して、書きかけの書類に血を吐いて死んだのだ。 最期に思ったのは、「感謝されたい」でも「愛されたい」でもなかった。
ただ一言。
『――もっと、寝たかった』
それだけだった。
◇
「……はっ!」
私はガバッ、と勢いよく上半身を起こした。 心臓が早鐘を打っている。 額にはじっとりと冷たい汗が滲んでいた。
荒い呼吸を整えながら、周囲を見渡す。 見慣れた天蓋付きのベッド。 最高級の羽毛布団の感触。 窓から差し込む、柔らかい朝の光。
そこは、実家であるローゼンバーグ公爵邸の、私の自室だった。
「……戻って、きた……?」
震える手で自分の頬に触れる。 温かい。 肌には張りがあり、指先も滑らかだ。 過労でボロボロだった指先も、断頭台で切り落とされた首の痛みもない。
私は恐る恐る、サイドテーブルに置かれたカレンダーに目をやった。 そこに記された日付を見た瞬間、全身の血が引いていくのを感じた。
『建国記念祝賀パーティー』
今日だ。 1回目の人生で、私が断罪され、婚約破棄を言い渡された、あの日だ。
つまり、私は『3回目の人生』をスタートさせてしまったということになる。
「……嘘でしょ」
絶望のあまり、声が漏れた。 神様、あなたは鬼ですか。悪魔ですか。 あんなに苦しんで死んだのに、また最初からやり直せというのですか。
また、あの面倒くさい王太子のご機嫌を取り、マリアとかいう性悪女の嫌がらせに耐え、身に覚えのない罪を擦り付けられる日々を送れと? あるいは、聖女として崇め奉られながら、書類の山に埋もれて死ぬ未来を選べと?
「……嫌よ」
私は呟いた。 「……絶対に、嫌」
ふつふつと、腹の底から怒りが湧き上がってくる。 冗談じゃない。 もう十分だ。私は十分に苦しんだ。 1回目は悪役として殺され、2回目は聖女として搾取されて死んだ。
なら、3回目は?
3回目は、どう生きればいい?
私は、ふかふかの枕に背中を預け、天井を見上げた。 最高級の羽毛布団が、優しく私を包み込んでくれる。 なんて心地いいんだろう。 なんて幸せなんだろう。
労働。 責任。 義務。 社交。 礼儀。
それら全てが、私の安眠を妨げる『敵』だ。
その時、私の脳裏に天啓が閃いた。
そうだ。 頑張るから、不幸になるのだ。 期待に応えようとするから、利用されるのだ。 愛されようとするから、傷つくのだ。
ならば。
「――引きこもろう」
私は、固く、強く、決意した。
今世は、この部屋から一歩も出ない。 誰とも関わらない。 公爵令嬢としての義務も、王太子の婚約者としての責務も、聖女としての力も、すべて放棄する。
ただひたすらに、惰眠を貪る。 好きな時に寝て、好きな時に起き、好きなお菓子を食べて、好きな本を読む。 そんな、自堕落で、生産性のない、最高に贅沢な人生を送るのだ。
そうと決まれば、行動は迅速でなければならない。 私はベッドから飛び起きる……ことはせず、もぞもぞと布団の中で体勢を整えた。 枕元のベルを鳴らす。
チリンチリン、と澄んだ音が響くと、すぐにドアがノックされた。
「お嬢様、おはようございます。お目覚めでしょうか?」
専属侍女のアンナだ。 彼女は真面目だが、少しお節介焼きなところがある。 1回目も2回目も、彼女には世話になった。 だが、今の私にとっては、彼女こそが『平穏な引きこもりライフ』を脅かす最初の刺客だ。
「……アンナ、入って」
私は、できるだけ虚弱そうな、消え入りそうな声を意識して言った。
ガチャリ、とドアが開き、アンナが入ってくる。 彼女は私の顔を見るなり、目を見開いた。
「お、お嬢様!? 顔色が真っ青ですわ! どこかお加減が悪いのですか!?」
演技ではない。 これから始まるはずだった『労働の日々』を想像して、本当に具合が悪くなっていたのだ。
「ええ……なんだか、急に目眩が……。体が鉛のように重くて、起き上がれないの……」
「大変! すぐにドクターを呼びます!」
「待って」
私は慌ててアンナを止める。 医者なんて呼ばれたら、「異常なし」と診断されて、パーティーに連れて行かれてしまう。 それは困る。非常に困る。
「……医者はいいわ。ただの、精神的な疲れだと思うの。少し休めば良くなるはずだから」
「しかし、今夜は王宮での祝賀パーティーがございます! フレデリック殿下も、お嬢様のエスコートを楽しみにしておられますし……」
出た。フレデリック。 あの男の名前を聞くだけで、胃のあたりがキリキリと痛む。 あいつは私をエスコートしたいわけじゃない。 私の隣に立つことで、自分の王太子としての権威を誇示したいだけだ。 そしてパーティーの最中にマリアを見つけ、私を放置して彼女の元へ走るのだ。
そんな茶番に付き合う気力は、今の私には1ミクロンも残っていない。
「……アンナ。残念だけど、今夜のパーティーは欠席するわ」
「ええっ!? け、欠席!? なりませぬお嬢様! これは王家主催の重要行事、しかも婚約者であるお嬢様が欠席などとなれば、社交界でどんな噂が立つか……!」
「いいのよ」
私は布団を頭まで被り、蚕の繭のように丸まった。
「どんな噂が立とうと構わない。私は、今日は絶対に、このベッドから出ない」
私の強い意志を感じ取ったのか、アンナは困惑したように口ごもった。 しかし、すぐに「ですが……」と食い下がろうとする。
ここで押し切られては、私の3回目の人生が終わる。 私は布団から顔だけを出し、アンナを睨みつけた。 いや、睨むほどの気力もないので、半開きのジト目で見つめた。
「……アンナ。私、決めたの」
「は、はい?」
「今日から、私は『病弱で繊細な深窓の令嬢』になるわ。だから、日光とか、人混みとか、そういうのは全部ドクターストップがかかっていると思ってちょうだい」
「は、はあ……?」
アンナが理解不能という顔をしている隙に、私は次なる指示を出した。
「とりあえず、今すぐ私の部屋のドアに鍵をかけて。あと、誰も入れないで。お父様もお母様も、もちろん殿下もよ。食事はドアの前に置いておいてくれれば、私が勝手に回収するから」
「そ、そんな……監禁生活ではありませんか!」
「違うわ。これは『療養』よ。崇高なる休息なの」
私は言い切ると、再び布団の中に潜り込んだ。 アンナはしばらくオロオロしていたが、私がテコでも動かない様子を見て、諦めたようにため息をついた。
「……わかりました。旦那様には、私が上手くお伝えしておきます。ですが、後で叱られても知りませんよ?」
「ええ、ありがとうアンナ。愛してるわ。おやすみ」
バタン、とドアが閉まる音がした。 カチャリ、と鍵がかかる音も聞こえる。
静寂。
訪れたのは、完全なる静寂だ。
「……勝った」
私はガッツポーズをした。 勝ったのだ。 運命に。 社会に。 そして、労働に。
私は勝利の美酒ならぬ、勝利の二度寝を味わうべく、枕に顔を埋めた。
……はずだったのだが。
30分も経たないうちに、廊下が騒がしくなった。
「エリザベート! 病気とは本当か!?」
ドンドンドンドン! 無遠慮にドアを叩く音。 父だ。ローゼンバーグ公爵だ。 彼は娘の心配をしているのではない。 「王太子との婚約に傷がつくこと」を心配しているのだ。
「エリザベート! 開けなさい! 這ってでもパーティーに行くんだ! それが公爵令嬢の義務だろう!」
ああ、うるさい。 せっかくのまどろみが台無しだ。
私は不機嫌に眉を寄せた。 這ってでも行け? お前が行けよ、ドレス着て。
このままでは、父が合鍵を使って入ってくるか、最悪の場合、ドアを破壊して押し入ってくる可能性がある。 物理的な障壁だけでは、私の平穏は守れないらしい。
仕方がない。 私はベッドから這い出し、とっておきの魔法を使うことにした。
2回目の人生で、聖女として極めた結界魔法。 本来は国を守るための、あるいは魔王の攻撃すら防ぐための、最高位の防御魔法だ。 それを、こんなくだらない目的のために使う。 魔力の無駄遣い? 知ったことか。 私の安眠は、国家予算よりも重いのだ。
「――聖なる光よ、我が領域を拒絶の壁で包み込め。何人たりとも、我が聖域を侵すこと能わず」
詠唱とともに、部屋全体が淡い光に包まれる。 私が独自にアレンジを加えた固有魔法。 名付けて、【絶対領域(サンクチュアリ)】。
この結界は、物理攻撃はもちろん、魔法攻撃、音、視線、そして「働け」というプレッシャーすらも遮断する。 内側からは外の様子が分かるが、外からは中の様子は一切分からない。 最強の引きこもり要塞の完成だ。
ドガンッ!
外で何か大きな音がした。 おそらく、父が体当たりでもしたのだろう。 だが、ドアはびくともしない。 むしろ、跳ね返された父が「ぐわっ!?」と悲鳴を上げているのが気配で分かる。
ふっ。 無駄よ、お父様。 この結界は、かつて魔王のブレスすら弾き返した聖女の力の結晶なのだから。
私は満足げに頷くと、部屋の隅にある書き物机に向かった。 ペンを取り、さらさらと手紙を書く。 宛先は、私の唯一の協力者(になる予定の男)だ。
『親愛なるノアへ。 約束通り、極上の情報をあげるわ。 その代わり、私の代わりにこの手紙を王太子に叩きつけてきてちょうだい』
そして、もう一通。 王太子フレデリック宛の手紙。 本来なら、婚約破棄は王家から言い渡されるものだ。 こちらから破棄するなど、不敬極まりない行為だろう。
だが、そんな常識は前世に置いてきた。
『王太子殿下へ。 一身上の都合により、婚約を辞退させていただきます。 理由は、貴方と一緒にいると寿命が縮むからです。 あと、マリアさんとお幸せに。 私のことは探さないでください。 追伸:慰謝料はいりませんが、手切れ金として高級寝具セットをいただけると幸いです』
よし、完璧だ。 簡潔にして明瞭。 これ以上ないほど誠実な絶縁状である。
私は窓を開け、口笛を吹いた。 すると、どこからともなく一羽の青い鳥が飛んでくる。 隣国のスパイであるノアが使役している使い魔だ。 1回目の人生で彼と知り合い、2回目の人生では裏の情報を融通し合った仲だ。 3回目の今、まだ彼とは面識がないことになっているが、まあ些細な問題だ。
「これ、ノアに届けて。あと、帰りに新作のチョコレートケーキを買ってくるように伝えて」
鳥は「解せぬ」という顔をしたが、手紙を足に結びつけると、大人しく飛び去っていった。
これで、やるべきことは全て終わった。 婚約破棄も済ませた(一方的に)。 親との対話も拒否した(物理的に)。 あとは、この聖域で平和な夜を過ごすだけだ。
私はサイドボードから、隠しておいたクッキーの缶を取り出した。 バターの濃厚な香りが漂う。 サクッ、という軽快な音とともに、甘さが口いっぱいに広がる。
「……幸せ」
これだ。 私が求めていたのは、この平穏だ。 華やかなドレスも、煌びやかな宝石も、王子様の愛もいらない。 ただ、パジャマとクッキーと、誰にも邪魔されない時間があれば、それでいい。
私はクッションに身を沈め、読みかけの恋愛小説を開いた。 外では父がまだ何か叫んでいるようだが、結界のおかげで蚊の羽音ほどにしか聞こえない。
今頃、王宮ではパーティーが始まっている頃だろうか。 私がいないことで、フレデリックはカンカンに怒っているに違いない。 「あの女、僕に恥をかかせやがって!」と顔を真っ赤にしている姿が目に浮かぶ。
ざまあみろ、である。
私はページをめくりながら、意地悪く微笑んだ。 さあ、私の素晴らしい『引きこもり令嬢』としての人生の幕開けだ。
――しかし、私はまだ知らなかった。
私のこの行動が、とんでもない誤解を生み出そうとしていることを。
◇ ◇ ◇
王宮、大広間。 豪華絢爛なシャンデリアの下、着飾った貴族たちが談笑している。 だが、その中心にいる王太子フレデリックの表情は、焦燥に満ちていた。
「……来ない」
彼は、何度も入り口の方を振り返っていた。 婚約者であるエリザベートが、現れないのだ。 約束の時間はとっくに過ぎている。
「殿下、ローゼンバーグ公爵令嬢は、体調不良とのことで……」
側近が恐る恐る告げる言葉に、フレデリックの顔色が変わった。 怒りではない。 それは、深い絶望と、縋るような哀願の色だった。
「……嘘だ」
フレデリックは震える手で顔を覆った。
「彼女は……リズは、気づいているんだ。僕が、マリアという女に現を抜かしているふりをしていたことに」
「は? いえ、殿下、ふりというか、実際にかなり親密に……」
「黙れ! あれは、嫉妬してほしかっただけなんだ! いつも完璧で、冷徹な彼女の、感情を乱したかっただけなんだ!」
フレデリックの声が悲痛に響く。 周囲の貴族たちがざわめき始める。
「なのに、彼女は来ない。怒鳴り込んでくることも、泣きついてくることもせず……ただ、静かに身を引こうとしている」
その時、開け放たれた窓から、一羽の青い鳥が飛び込んできた。 鳥はフレデリックの目の前に舞い降り、一通の手紙を落とす。
フレデリックは、貪るようにその手紙を開いた。 そこには、私の書いた『絶縁状』があった。
『一身上の都合により……』 『寿命が縮む……』 『探さないでください……』
読み進めるにつれ、フレデリックの瞳から、ボロボロと涙が溢れ出した。
「……なんてことだ」
彼は手紙を胸に抱きしめ、天を仰いだ。
「『寿命が縮む』……それほどまでに、僕との関係に悩み、心を痛めていたというのか……! 僕が彼女を追い詰め、死の淵まで追いやってしまったのか!」
側近は「いや、文字通り面倒くさいという意味では?」と言いたげな顔をしたが、今のフレデリックには届かない。
「『探さないで』……それはつまり、『探して』ということだ。そうだろう? 彼女は今、一人で泣いているんだ。僕の罪深さを嘆きながら、それでも僕の幸せを願って、身を引こうとしているんだ!」
とんでもない超解釈だった。 彼の脳内では、パジャマ姿でクッキーを貪る私の姿は、『涙に濡れて窓辺に佇む薄幸の美少女』に変換されていた。
「許さない……許さないぞ、自分を! リズ、待っていてくれ。今すぐ君を迎えに行く! いや、一生君の部屋の前で土下座してでも、この愛を証明してみせる!」
フレデリックはマントを翻し、パーティー会場を飛び出した。 主役の不在に、会場は大混乱に陥る。
しかし、彼を止める者はいない。 その瞳には、狂気にも似た、燃え上がるような愛の炎が宿っていたのだから。
さらに悪いことに。 その様子を、会場の隅で静かに見つめる、もう一人の男がいた。
近衛騎士団長、アレクセイ。 彼もまた、かつて『2回目の人生』で私と深く関わり、そして私を喪った記憶の片鱗を持つ男。
「……エリザベート様が、引きこもった?」
アレクセイは、腰の剣に手をかけた。 その瞳が、獲物を狙う猛獣のように鋭く光る。
「素晴らしい……。あの可憐な花を、誰の目にも触れさせず、檻の中に閉じ込めておきたいと願っていたのは、私だけではなかったのか」
彼は歪んだ笑みを浮かべ、重厚な足取りで歩き出した。
「待っていてください、我が主。その部屋の窓も、壁も、全て私が粉砕して、貴女を迎えに参ります」
こうして。 私の安眠を脅かす『ヤンデレ王太子』と『脳筋騎士団長』が、同時に私の部屋へ向けて進撃を開始したのである。
高い天井に響き渡る怒号。 きらびやかなシャンデリアの下、軽蔑の眼差しを向ける貴族たち。 そして、私の目の前で腕を組み、勝ち誇ったように鼻を鳴らす元婚約者の王太子フレデリックと、彼の背後に隠れるようにして震える(ふりをしている)男爵令嬢マリア。
ああ、またか。
また、この光景だ。
私は、そのあまりの既視感にめまいを覚えた。 これは私の『1回目の人生』の終わりの光景だ。 この後、私は無実の罪を被せられ、冷たい地下牢に幽閉された挙句、断頭台の露と消える。
痛みは一瞬だったけれど、首が落ちる感覚というのはどうにも気持ちのいいものじゃない。
そして、目が覚めると『2回目の人生』が始まっていた。 私は反省した。 悪役令嬢なんて割に合わない役回りは辞めようと。 だから2回目は、心を入れ替えて『聖女』として生きた。 困っている人がいれば手を差し伸べ、怪我人がいれば治癒魔法をかけ、国のために、民のために、それこそ馬車馬のように働いた。
睡眠時間は1日3時間。 食事は移動中にサンドイッチを齧るだけ。 肌は荒れ、目の下には隈ができ、美しい銀髪はパサパサになった。
その結果どうなったか?
25歳の若さで、過労死した。
執務室の机に突っ伏して、書きかけの書類に血を吐いて死んだのだ。 最期に思ったのは、「感謝されたい」でも「愛されたい」でもなかった。
ただ一言。
『――もっと、寝たかった』
それだけだった。
◇
「……はっ!」
私はガバッ、と勢いよく上半身を起こした。 心臓が早鐘を打っている。 額にはじっとりと冷たい汗が滲んでいた。
荒い呼吸を整えながら、周囲を見渡す。 見慣れた天蓋付きのベッド。 最高級の羽毛布団の感触。 窓から差し込む、柔らかい朝の光。
そこは、実家であるローゼンバーグ公爵邸の、私の自室だった。
「……戻って、きた……?」
震える手で自分の頬に触れる。 温かい。 肌には張りがあり、指先も滑らかだ。 過労でボロボロだった指先も、断頭台で切り落とされた首の痛みもない。
私は恐る恐る、サイドテーブルに置かれたカレンダーに目をやった。 そこに記された日付を見た瞬間、全身の血が引いていくのを感じた。
『建国記念祝賀パーティー』
今日だ。 1回目の人生で、私が断罪され、婚約破棄を言い渡された、あの日だ。
つまり、私は『3回目の人生』をスタートさせてしまったということになる。
「……嘘でしょ」
絶望のあまり、声が漏れた。 神様、あなたは鬼ですか。悪魔ですか。 あんなに苦しんで死んだのに、また最初からやり直せというのですか。
また、あの面倒くさい王太子のご機嫌を取り、マリアとかいう性悪女の嫌がらせに耐え、身に覚えのない罪を擦り付けられる日々を送れと? あるいは、聖女として崇め奉られながら、書類の山に埋もれて死ぬ未来を選べと?
「……嫌よ」
私は呟いた。 「……絶対に、嫌」
ふつふつと、腹の底から怒りが湧き上がってくる。 冗談じゃない。 もう十分だ。私は十分に苦しんだ。 1回目は悪役として殺され、2回目は聖女として搾取されて死んだ。
なら、3回目は?
3回目は、どう生きればいい?
私は、ふかふかの枕に背中を預け、天井を見上げた。 最高級の羽毛布団が、優しく私を包み込んでくれる。 なんて心地いいんだろう。 なんて幸せなんだろう。
労働。 責任。 義務。 社交。 礼儀。
それら全てが、私の安眠を妨げる『敵』だ。
その時、私の脳裏に天啓が閃いた。
そうだ。 頑張るから、不幸になるのだ。 期待に応えようとするから、利用されるのだ。 愛されようとするから、傷つくのだ。
ならば。
「――引きこもろう」
私は、固く、強く、決意した。
今世は、この部屋から一歩も出ない。 誰とも関わらない。 公爵令嬢としての義務も、王太子の婚約者としての責務も、聖女としての力も、すべて放棄する。
ただひたすらに、惰眠を貪る。 好きな時に寝て、好きな時に起き、好きなお菓子を食べて、好きな本を読む。 そんな、自堕落で、生産性のない、最高に贅沢な人生を送るのだ。
そうと決まれば、行動は迅速でなければならない。 私はベッドから飛び起きる……ことはせず、もぞもぞと布団の中で体勢を整えた。 枕元のベルを鳴らす。
チリンチリン、と澄んだ音が響くと、すぐにドアがノックされた。
「お嬢様、おはようございます。お目覚めでしょうか?」
専属侍女のアンナだ。 彼女は真面目だが、少しお節介焼きなところがある。 1回目も2回目も、彼女には世話になった。 だが、今の私にとっては、彼女こそが『平穏な引きこもりライフ』を脅かす最初の刺客だ。
「……アンナ、入って」
私は、できるだけ虚弱そうな、消え入りそうな声を意識して言った。
ガチャリ、とドアが開き、アンナが入ってくる。 彼女は私の顔を見るなり、目を見開いた。
「お、お嬢様!? 顔色が真っ青ですわ! どこかお加減が悪いのですか!?」
演技ではない。 これから始まるはずだった『労働の日々』を想像して、本当に具合が悪くなっていたのだ。
「ええ……なんだか、急に目眩が……。体が鉛のように重くて、起き上がれないの……」
「大変! すぐにドクターを呼びます!」
「待って」
私は慌ててアンナを止める。 医者なんて呼ばれたら、「異常なし」と診断されて、パーティーに連れて行かれてしまう。 それは困る。非常に困る。
「……医者はいいわ。ただの、精神的な疲れだと思うの。少し休めば良くなるはずだから」
「しかし、今夜は王宮での祝賀パーティーがございます! フレデリック殿下も、お嬢様のエスコートを楽しみにしておられますし……」
出た。フレデリック。 あの男の名前を聞くだけで、胃のあたりがキリキリと痛む。 あいつは私をエスコートしたいわけじゃない。 私の隣に立つことで、自分の王太子としての権威を誇示したいだけだ。 そしてパーティーの最中にマリアを見つけ、私を放置して彼女の元へ走るのだ。
そんな茶番に付き合う気力は、今の私には1ミクロンも残っていない。
「……アンナ。残念だけど、今夜のパーティーは欠席するわ」
「ええっ!? け、欠席!? なりませぬお嬢様! これは王家主催の重要行事、しかも婚約者であるお嬢様が欠席などとなれば、社交界でどんな噂が立つか……!」
「いいのよ」
私は布団を頭まで被り、蚕の繭のように丸まった。
「どんな噂が立とうと構わない。私は、今日は絶対に、このベッドから出ない」
私の強い意志を感じ取ったのか、アンナは困惑したように口ごもった。 しかし、すぐに「ですが……」と食い下がろうとする。
ここで押し切られては、私の3回目の人生が終わる。 私は布団から顔だけを出し、アンナを睨みつけた。 いや、睨むほどの気力もないので、半開きのジト目で見つめた。
「……アンナ。私、決めたの」
「は、はい?」
「今日から、私は『病弱で繊細な深窓の令嬢』になるわ。だから、日光とか、人混みとか、そういうのは全部ドクターストップがかかっていると思ってちょうだい」
「は、はあ……?」
アンナが理解不能という顔をしている隙に、私は次なる指示を出した。
「とりあえず、今すぐ私の部屋のドアに鍵をかけて。あと、誰も入れないで。お父様もお母様も、もちろん殿下もよ。食事はドアの前に置いておいてくれれば、私が勝手に回収するから」
「そ、そんな……監禁生活ではありませんか!」
「違うわ。これは『療養』よ。崇高なる休息なの」
私は言い切ると、再び布団の中に潜り込んだ。 アンナはしばらくオロオロしていたが、私がテコでも動かない様子を見て、諦めたようにため息をついた。
「……わかりました。旦那様には、私が上手くお伝えしておきます。ですが、後で叱られても知りませんよ?」
「ええ、ありがとうアンナ。愛してるわ。おやすみ」
バタン、とドアが閉まる音がした。 カチャリ、と鍵がかかる音も聞こえる。
静寂。
訪れたのは、完全なる静寂だ。
「……勝った」
私はガッツポーズをした。 勝ったのだ。 運命に。 社会に。 そして、労働に。
私は勝利の美酒ならぬ、勝利の二度寝を味わうべく、枕に顔を埋めた。
……はずだったのだが。
30分も経たないうちに、廊下が騒がしくなった。
「エリザベート! 病気とは本当か!?」
ドンドンドンドン! 無遠慮にドアを叩く音。 父だ。ローゼンバーグ公爵だ。 彼は娘の心配をしているのではない。 「王太子との婚約に傷がつくこと」を心配しているのだ。
「エリザベート! 開けなさい! 這ってでもパーティーに行くんだ! それが公爵令嬢の義務だろう!」
ああ、うるさい。 せっかくのまどろみが台無しだ。
私は不機嫌に眉を寄せた。 這ってでも行け? お前が行けよ、ドレス着て。
このままでは、父が合鍵を使って入ってくるか、最悪の場合、ドアを破壊して押し入ってくる可能性がある。 物理的な障壁だけでは、私の平穏は守れないらしい。
仕方がない。 私はベッドから這い出し、とっておきの魔法を使うことにした。
2回目の人生で、聖女として極めた結界魔法。 本来は国を守るための、あるいは魔王の攻撃すら防ぐための、最高位の防御魔法だ。 それを、こんなくだらない目的のために使う。 魔力の無駄遣い? 知ったことか。 私の安眠は、国家予算よりも重いのだ。
「――聖なる光よ、我が領域を拒絶の壁で包み込め。何人たりとも、我が聖域を侵すこと能わず」
詠唱とともに、部屋全体が淡い光に包まれる。 私が独自にアレンジを加えた固有魔法。 名付けて、【絶対領域(サンクチュアリ)】。
この結界は、物理攻撃はもちろん、魔法攻撃、音、視線、そして「働け」というプレッシャーすらも遮断する。 内側からは外の様子が分かるが、外からは中の様子は一切分からない。 最強の引きこもり要塞の完成だ。
ドガンッ!
外で何か大きな音がした。 おそらく、父が体当たりでもしたのだろう。 だが、ドアはびくともしない。 むしろ、跳ね返された父が「ぐわっ!?」と悲鳴を上げているのが気配で分かる。
ふっ。 無駄よ、お父様。 この結界は、かつて魔王のブレスすら弾き返した聖女の力の結晶なのだから。
私は満足げに頷くと、部屋の隅にある書き物机に向かった。 ペンを取り、さらさらと手紙を書く。 宛先は、私の唯一の協力者(になる予定の男)だ。
『親愛なるノアへ。 約束通り、極上の情報をあげるわ。 その代わり、私の代わりにこの手紙を王太子に叩きつけてきてちょうだい』
そして、もう一通。 王太子フレデリック宛の手紙。 本来なら、婚約破棄は王家から言い渡されるものだ。 こちらから破棄するなど、不敬極まりない行為だろう。
だが、そんな常識は前世に置いてきた。
『王太子殿下へ。 一身上の都合により、婚約を辞退させていただきます。 理由は、貴方と一緒にいると寿命が縮むからです。 あと、マリアさんとお幸せに。 私のことは探さないでください。 追伸:慰謝料はいりませんが、手切れ金として高級寝具セットをいただけると幸いです』
よし、完璧だ。 簡潔にして明瞭。 これ以上ないほど誠実な絶縁状である。
私は窓を開け、口笛を吹いた。 すると、どこからともなく一羽の青い鳥が飛んでくる。 隣国のスパイであるノアが使役している使い魔だ。 1回目の人生で彼と知り合い、2回目の人生では裏の情報を融通し合った仲だ。 3回目の今、まだ彼とは面識がないことになっているが、まあ些細な問題だ。
「これ、ノアに届けて。あと、帰りに新作のチョコレートケーキを買ってくるように伝えて」
鳥は「解せぬ」という顔をしたが、手紙を足に結びつけると、大人しく飛び去っていった。
これで、やるべきことは全て終わった。 婚約破棄も済ませた(一方的に)。 親との対話も拒否した(物理的に)。 あとは、この聖域で平和な夜を過ごすだけだ。
私はサイドボードから、隠しておいたクッキーの缶を取り出した。 バターの濃厚な香りが漂う。 サクッ、という軽快な音とともに、甘さが口いっぱいに広がる。
「……幸せ」
これだ。 私が求めていたのは、この平穏だ。 華やかなドレスも、煌びやかな宝石も、王子様の愛もいらない。 ただ、パジャマとクッキーと、誰にも邪魔されない時間があれば、それでいい。
私はクッションに身を沈め、読みかけの恋愛小説を開いた。 外では父がまだ何か叫んでいるようだが、結界のおかげで蚊の羽音ほどにしか聞こえない。
今頃、王宮ではパーティーが始まっている頃だろうか。 私がいないことで、フレデリックはカンカンに怒っているに違いない。 「あの女、僕に恥をかかせやがって!」と顔を真っ赤にしている姿が目に浮かぶ。
ざまあみろ、である。
私はページをめくりながら、意地悪く微笑んだ。 さあ、私の素晴らしい『引きこもり令嬢』としての人生の幕開けだ。
――しかし、私はまだ知らなかった。
私のこの行動が、とんでもない誤解を生み出そうとしていることを。
◇ ◇ ◇
王宮、大広間。 豪華絢爛なシャンデリアの下、着飾った貴族たちが談笑している。 だが、その中心にいる王太子フレデリックの表情は、焦燥に満ちていた。
「……来ない」
彼は、何度も入り口の方を振り返っていた。 婚約者であるエリザベートが、現れないのだ。 約束の時間はとっくに過ぎている。
「殿下、ローゼンバーグ公爵令嬢は、体調不良とのことで……」
側近が恐る恐る告げる言葉に、フレデリックの顔色が変わった。 怒りではない。 それは、深い絶望と、縋るような哀願の色だった。
「……嘘だ」
フレデリックは震える手で顔を覆った。
「彼女は……リズは、気づいているんだ。僕が、マリアという女に現を抜かしているふりをしていたことに」
「は? いえ、殿下、ふりというか、実際にかなり親密に……」
「黙れ! あれは、嫉妬してほしかっただけなんだ! いつも完璧で、冷徹な彼女の、感情を乱したかっただけなんだ!」
フレデリックの声が悲痛に響く。 周囲の貴族たちがざわめき始める。
「なのに、彼女は来ない。怒鳴り込んでくることも、泣きついてくることもせず……ただ、静かに身を引こうとしている」
その時、開け放たれた窓から、一羽の青い鳥が飛び込んできた。 鳥はフレデリックの目の前に舞い降り、一通の手紙を落とす。
フレデリックは、貪るようにその手紙を開いた。 そこには、私の書いた『絶縁状』があった。
『一身上の都合により……』 『寿命が縮む……』 『探さないでください……』
読み進めるにつれ、フレデリックの瞳から、ボロボロと涙が溢れ出した。
「……なんてことだ」
彼は手紙を胸に抱きしめ、天を仰いだ。
「『寿命が縮む』……それほどまでに、僕との関係に悩み、心を痛めていたというのか……! 僕が彼女を追い詰め、死の淵まで追いやってしまったのか!」
側近は「いや、文字通り面倒くさいという意味では?」と言いたげな顔をしたが、今のフレデリックには届かない。
「『探さないで』……それはつまり、『探して』ということだ。そうだろう? 彼女は今、一人で泣いているんだ。僕の罪深さを嘆きながら、それでも僕の幸せを願って、身を引こうとしているんだ!」
とんでもない超解釈だった。 彼の脳内では、パジャマ姿でクッキーを貪る私の姿は、『涙に濡れて窓辺に佇む薄幸の美少女』に変換されていた。
「許さない……許さないぞ、自分を! リズ、待っていてくれ。今すぐ君を迎えに行く! いや、一生君の部屋の前で土下座してでも、この愛を証明してみせる!」
フレデリックはマントを翻し、パーティー会場を飛び出した。 主役の不在に、会場は大混乱に陥る。
しかし、彼を止める者はいない。 その瞳には、狂気にも似た、燃え上がるような愛の炎が宿っていたのだから。
さらに悪いことに。 その様子を、会場の隅で静かに見つめる、もう一人の男がいた。
近衛騎士団長、アレクセイ。 彼もまた、かつて『2回目の人生』で私と深く関わり、そして私を喪った記憶の片鱗を持つ男。
「……エリザベート様が、引きこもった?」
アレクセイは、腰の剣に手をかけた。 その瞳が、獲物を狙う猛獣のように鋭く光る。
「素晴らしい……。あの可憐な花を、誰の目にも触れさせず、檻の中に閉じ込めておきたいと願っていたのは、私だけではなかったのか」
彼は歪んだ笑みを浮かべ、重厚な足取りで歩き出した。
「待っていてください、我が主。その部屋の窓も、壁も、全て私が粉砕して、貴女を迎えに参ります」
こうして。 私の安眠を脅かす『ヤンデレ王太子』と『脳筋騎士団長』が、同時に私の部屋へ向けて進撃を開始したのである。
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