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13話「母方相続の特例」
「レオンを、ヴァルモン侯爵家の跡取りとして迎える」
父の重々しい言葉が、書斎の静寂に響き渡った。
私は驚きのあまり、手元の羽ペンを落としそうになった。
「お父様……それは、本気ですか?」
「もちろんだ。レオンはお前の血を引く、聡明で優しい子だ。ルクレールのような腐った泥舟と運命を共にさせるわけにはいかない」
父の強い眼差しに、私は言葉を失った。
母方相続の特例。
それは、男子の直系跡取りが絶えた場合にのみ発動できる、王国でも極めて稀な制度だ。
侯爵家に嫁いだ娘の産んだ男児を、実家の後継者として登記し直すことができる。
だが、それには厳しい条件があった。
「しかし、特例を認めさせるには、レオンがヴァルモン家の『家紋』に適合する魔力を持っていなければなりません。彼はまだ六歳です。魔力の質が定まるには早すぎるのでは……」
「わかっている。だが、あの状況から逃げ出してきたのだ。試す価値はあるだろう。それに、私はレオンの目の中に、確かな理知の光を見た」
父の言葉に、隣で黙って話を聞いていたルーカスが、静かに口を開いた。
「監察院の立場から申し上げますと、レオン殿が侯爵家の後継者として正式に登記されれば、ルクレール伯爵による親権の主張は極めて弱くなります。国家の重要機関である侯爵家の跡取りを、監査対象の容疑者が引き取るなど、法が許しませんからね」
ルーカスの冷静な分析が、私の背中を押してくれた。
レオンを守るための、最強の盾。
それが手に入るかもしれないのだ。
「……わかりました。レオンに、家紋適合の儀式を受けさせましょう」
私は深く頷き、決意を固めた。
♦︎♦︎♦︎
数日後。
侯爵家の地下にある、厳かな儀式の間。
冷たい石造りの床の中央には、ヴァルモン家の紋章である『双頭の鷲』が刻まれた巨大な石板が鎮座している。
レオンは少し緊張した面持ちで、その石板の前に立っていた。
「怖くないわ、レオン。ただ、この石板に手を触れて、お母様のことを強く思い浮かべてちょうだい」
私はレオンの小さな背中を優しく撫で、勇気づけた。
「うん、わかった」
レオンはこくりと頷き、小さな両手を石板の表面にそっと置いた。
静寂が部屋を包み込む。
息を呑んで見守る中、数秒の沈黙の後――。
カァァァッ!
石板の紋章が、眩いほどの翠緑の光を放ち始めた。
それは、私の持つ『計理術』の魔力と同じ、ヴァルモン家の血が濃く現れた証の光だった。
「おお……見事な輝きだ!」
父が感嘆の声を上げる。
光に包まれたレオンは、不思議そうに自分の手を見つめていた。
「お母様、これ、あったかいよ」
「ええ、そうね。それは、あなたを守る光よ」
私は安堵の涙を堪えながら、レオンを強く抱きしめた。
これで、レオンは正式に侯爵家の後継候補となった。オスヴァルドの魔の手から、完全に遠ざけることができる。
♦︎♦︎♦︎
一方その頃。
監査官たちによって荒らされ、すっかり静まり返ったルクレール伯爵家の執務室。
オスヴァルドは、未処理の書類の山に囲まれながら、頭を抱えていた。
「クソッ……何もかもめちゃくちゃだ。リディアの奴、本当に戻ってこないつもりか……!」
苛立ちに任せて机を叩くオスヴァルド。
そこへ、セレナがおずおずと入ってきた。
「オスヴァルド様……。カイルが、レオンお兄ちゃんはいつ帰ってくるのって……。お友達がいなくて、寂しいみたいで……」
セレナの言葉に、オスヴァルドは顔を上げた。
その目には、歪んだ執着の光が宿っていた。
そうだ。レオンは自分の息子だ。長男だ。
妻が出て行ったとしても、息子を手放す理由はない。息子さえ手元にいれば、リディアもいずれ折れて戻ってくるはずだ。
「……あいつらは、ヴァルモン侯爵家にいるのだったな」
オスヴァルドは低く呟き、口元に薄暗い笑みを浮かべた。
「レオンは私の跡取りだ。跡取りなら、取り返せばいい」
父の重々しい言葉が、書斎の静寂に響き渡った。
私は驚きのあまり、手元の羽ペンを落としそうになった。
「お父様……それは、本気ですか?」
「もちろんだ。レオンはお前の血を引く、聡明で優しい子だ。ルクレールのような腐った泥舟と運命を共にさせるわけにはいかない」
父の強い眼差しに、私は言葉を失った。
母方相続の特例。
それは、男子の直系跡取りが絶えた場合にのみ発動できる、王国でも極めて稀な制度だ。
侯爵家に嫁いだ娘の産んだ男児を、実家の後継者として登記し直すことができる。
だが、それには厳しい条件があった。
「しかし、特例を認めさせるには、レオンがヴァルモン家の『家紋』に適合する魔力を持っていなければなりません。彼はまだ六歳です。魔力の質が定まるには早すぎるのでは……」
「わかっている。だが、あの状況から逃げ出してきたのだ。試す価値はあるだろう。それに、私はレオンの目の中に、確かな理知の光を見た」
父の言葉に、隣で黙って話を聞いていたルーカスが、静かに口を開いた。
「監察院の立場から申し上げますと、レオン殿が侯爵家の後継者として正式に登記されれば、ルクレール伯爵による親権の主張は極めて弱くなります。国家の重要機関である侯爵家の跡取りを、監査対象の容疑者が引き取るなど、法が許しませんからね」
ルーカスの冷静な分析が、私の背中を押してくれた。
レオンを守るための、最強の盾。
それが手に入るかもしれないのだ。
「……わかりました。レオンに、家紋適合の儀式を受けさせましょう」
私は深く頷き、決意を固めた。
♦︎♦︎♦︎
数日後。
侯爵家の地下にある、厳かな儀式の間。
冷たい石造りの床の中央には、ヴァルモン家の紋章である『双頭の鷲』が刻まれた巨大な石板が鎮座している。
レオンは少し緊張した面持ちで、その石板の前に立っていた。
「怖くないわ、レオン。ただ、この石板に手を触れて、お母様のことを強く思い浮かべてちょうだい」
私はレオンの小さな背中を優しく撫で、勇気づけた。
「うん、わかった」
レオンはこくりと頷き、小さな両手を石板の表面にそっと置いた。
静寂が部屋を包み込む。
息を呑んで見守る中、数秒の沈黙の後――。
カァァァッ!
石板の紋章が、眩いほどの翠緑の光を放ち始めた。
それは、私の持つ『計理術』の魔力と同じ、ヴァルモン家の血が濃く現れた証の光だった。
「おお……見事な輝きだ!」
父が感嘆の声を上げる。
光に包まれたレオンは、不思議そうに自分の手を見つめていた。
「お母様、これ、あったかいよ」
「ええ、そうね。それは、あなたを守る光よ」
私は安堵の涙を堪えながら、レオンを強く抱きしめた。
これで、レオンは正式に侯爵家の後継候補となった。オスヴァルドの魔の手から、完全に遠ざけることができる。
♦︎♦︎♦︎
一方その頃。
監査官たちによって荒らされ、すっかり静まり返ったルクレール伯爵家の執務室。
オスヴァルドは、未処理の書類の山に囲まれながら、頭を抱えていた。
「クソッ……何もかもめちゃくちゃだ。リディアの奴、本当に戻ってこないつもりか……!」
苛立ちに任せて机を叩くオスヴァルド。
そこへ、セレナがおずおずと入ってきた。
「オスヴァルド様……。カイルが、レオンお兄ちゃんはいつ帰ってくるのって……。お友達がいなくて、寂しいみたいで……」
セレナの言葉に、オスヴァルドは顔を上げた。
その目には、歪んだ執着の光が宿っていた。
そうだ。レオンは自分の息子だ。長男だ。
妻が出て行ったとしても、息子を手放す理由はない。息子さえ手元にいれば、リディアもいずれ折れて戻ってくるはずだ。
「……あいつらは、ヴァルモン侯爵家にいるのだったな」
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「レオンは私の跡取りだ。跡取りなら、取り返せばいい」
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