私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人

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24話「手記の中身」

マーサの手記。
それは、セレナが被っている「被害者の仮面」を引き剥がすための、最も鋭利な刃だった。

「素晴らしい」

手記に目を通したルーカスは、感嘆の声を漏らした。
彼の灰色の瞳が、冷たい興奮に光っている。

「使用人への暴言、備品の私的流用、そして正妻の私室への不法侵入と印章の窃盗未遂……。これらが事実として法廷で示されれば、彼女の『虐げられていた』という主張は完全に崩壊します」

「ええ。マーサには、法廷での証言もお願いするつもりです」

私は手記を丁寧に布で包み直し、法務士へ渡す準備をした。

「親権裁判の行方は、これでほぼ決着がついたと言っていいでしょう。残るは、ルクレール伯爵自身の罪です」

ルーカスは自分の革鞄から、数枚の書類を取り出して机に並べた。
そこには、監査によって集められたオスヴァルドの不正の決定的な証拠が記されている。

「黒蛇商会との密輸取引について、裏が取れました」

ルーカスの言葉に、私は姿勢を正した。

「商会の拠点を家宅捜索し、彼らの裏帳簿を押収しました。そこには、ルクレール領から横流しされた穀物の量と、その代金として支払われた金額が明確に記載されています」

「オスヴァルドの関与を直接証明するものは?」

「もちろん、ありますよ」

ルーカスは書類の一番下から、一枚の羊皮紙を抜き出した。
それは、黒蛇商会とオスヴァルドの間で交わされた、穀物の定期取引を約束する密約の契約書だった。

紙の右下には、オスヴァルドの乱雑な直筆のサイン。
そして、ルクレール伯爵家の当主印が、赤いインクでくっきりと押されている。

「伯爵は、自分が何に署名しているのかすら理解していなかったのかもしれません。商会側が用意した書類に、金欲しさのあまり無造作に印を押したのでしょう。しかし、法において無知は免罪符にはなりません」

ルーカスは冷酷な笑みを浮かべた。

「これで、国家への反逆にも等しい横領と密輸の罪が確定しました。親権裁判の前に、監察院主導による『裁定会議』を開くことができます」

裁定会議。
それは、貴族の不正を裁き、領地運営権の停止や身分の剥奪を決定する、王国で最も厳格な審判の場だ。
登記院、監察院、法務院の三機関が合同で行う、逃げ場のない処刑台。

「日程はいつになりますか?」

「証拠はすべて揃っています。早急に手配し、一週間後には開廷できるでしょう」

一週間後。
ついに、すべてが終わる。

私は窓の外を見た。
厚い雲の隙間から、一筋の光が冷たい冬の庭園に差し込んでいる。
長く苦しかった正妻としての役目に、完全に終止符を打つ時が来たのだ。

「伯爵は今頃、この証拠の存在も知らずに、親権裁判で勝てると思い込んでいるでしょうね」

私が呟くと、ルーカスは静かに頷いた。

「ええ。彼が法廷で得意げに弁明を始めたその時に、この契約書を突きつけてやりましょう」

ルーカスは手元の契約書を指で軽く弾いた。

「伯爵様、あなたの署名がここにありますね?」

その言葉は、間もなく訪れるオスヴァルドの破滅を、静かに、しかし確実に予告していた。

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