私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人

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32話 母の証明

「明確な証拠、だと?」

オスヴァルドが鼻で笑う音が、静かな法廷に響いた。
私の代理人である法務士は、机の上に積まれた書類の束から数枚の羊皮紙を取り出し、高く掲げた。

「ここに、レオン殿の養育に直接関わってきた者たちの宣誓供述書があります。まずは、元侍女長マーサの証言から」

法務士はよく通る声で読み上げ始めた。

「『リディア夫人は、どれほど執務で多忙な夜であっても、必ず就寝前にレオン坊ちゃまのベッドへ行き、絵本を読み聞かせておられました。坊ちゃまが熱を出した三日間は、一睡もせずに看病を続けられました』」

傍聴席が、水を打ったように静まり返る。
法務士は次々と書類をめくっていった。

「『家庭教師の証言。リディア夫人はレオン殿の教育方針に深く関与し、週に一度は必ず学習の進捗を確認し、自ら歴史や算術を教えておられた。一方、オスヴァルド伯爵が教室に顔を出したことは、過去二年間で一度もない』」

「『専属医の証言。レオン殿の健康状態を常に気遣い、食事の栄養素まで細かく指示を出していたのはリディア夫人である。伯爵は息子の年齢すら正確に把握していなかった』」

冷酷な事実の羅列が、オスヴァルドの「愛情深い父親」という嘘を一枚ずつ剥がしていく。
オスヴァルドの顔から、先ほどの勝ち誇った笑みが消え失せ、代わりに焦燥の汗が吹き出しているのが見えた。

「で、でたらめだ! 使用人どもは金で買収されたに決まっている!」

オスヴァルドが立ち上がり、声を裏返して叫んだ。

「静粛に! 被告は着席しなさい」

議長の鋭い一喝で、彼はビクッと肩を揺らして席に座り込んだ。

「さらに、決定的な証拠を提出いたします」

法務士は、最後の一枚の書類を議長席へと提出した。

「これは、レオン殿ご本人の意思を確認した、王国登記院の役人による公式な録取記録です。法により、六歳児であっても、その発言は記録として効力を持ちます」

法務士が読み上げたのは、ほんの短い、しかし何よりも重い一言だった。

『母上は僕の味方です。僕を“下”にするって言ったお父様のところには、絶対に帰りたくありません』

その瞬間、傍聴席から非難の的が完全にオスヴァルドへと移った。
「息子にそんなことを言ったのか」「なんと非道な父親だ」という囁きが波のように広がる。
オスヴァルドは両手で頭を抱え、ガタガタと震え始めた。
彼の隣に座るセレナも、自分に火の粉が降りかかるのを恐れて顔を伏せている。

議長は提出された書類すべてに目を通し、両隣の裁判官たちと短く言葉を交わした。
そして、木槌を一度だけ小さく鳴らした。

「これまでの証拠および証言を総合し、当法廷は以下のように暫定的な決定を下す」

重厚な声が、法廷の空気を震わせた。

「養育実績、生活環境、そして子の意思を鑑み、オスヴァルド・ルクレールによる親権の主張は不当と認める。よって、レオン・ルクレールの親権は母リディアに帰属する」

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