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33話「帳簿は嘘をつかない」
「――続いて、ルクレール伯爵領における穀税の横領、および密輸に関する審理に移る」
議長の重々しい宣言が、冷たい大理石の壁に反響した。
法廷の空気が、先ほどの親権問題の時よりもさらに張り詰める。
これは単なる家庭内の揉め事ではない。国家の税を誤魔化し、領民の命を危険に晒した、貴族としての根幹を揺るがす重大な犯罪の審理だ。
原告席の隣に座っていたルーカスが、静かに立ち上がった。
彼は黒い革鞄から分厚い帳簿の束を取り出し、廷吏を通じて議長席へと提出する。
「王国監察院、ルーカス・セルジェです。当院が実施した監査の結果、ルクレール伯爵領の過去三年間の穀物収穫量と、実際に倉庫に保管されていた備蓄量、および王国へ納入された税額との間に、決定的な矛盾が発見されました」
ルーカスの通る声が、静寂の法廷に響き渡る。
「消えた穀物の行方は、王都を拠点とする違法な密輸組織『黒蛇商会』への横流しであることが判明しています。証拠として、黒蛇商会の裏帳簿、および伯爵家の出納帳を提出いたします」
議長と裁判官たちが、提出された帳簿を険しい顔でめくり始めた。
紙の擦れる乾いた音が、やけに大きく聞こえる。
「被告。この帳簿の数字の不一致について、弁明はあるか?」
議長の鋭い視線がオスヴァルドを射抜いた。
オスヴァルドは顔面を蒼白にしながら、必死で首を振った。
「し、知りません! 私は領地の細かい数字など把握していないのです。実務はすべて、そこにいる妻の……リディアが取り仕切っていました。横領など、私は一切関知しておりません!」
恥も外聞もなく、自分の責任を私に押し付けようとする男。
傍聴席からは、呆れ果てたようなため息が漏れ聞こえた。
私はゆっくりと立ち上がり、議長に向かって一礼した。
「裁判長。被告の主張が偽りであることを、私の『計理術』をもってお見せしてもよろしいでしょうか」
「……許可する。前へ出なさい」
私は証言台へと進み出た。
廷吏が、オスヴァルドの執務室から押収された古い出納帳を私の前に置く。
私は目を閉じ、深く息を吸い込んだ。
冷たい冬の空気が肺を満たし、頭が冴え渡っていく。
そして目を開くと同時に、魔力を瞳に集中させた。
視界がふわりと青く染まり、帳簿に並んだ数字が微かに発光し始める。
「計理術は、正しい数字と改ざんされた数字の『魔力の歪み』を視覚化します。裁判長、この出納帳の五十七ページをご覧ください」
私がページを開くと、そこに並んだインクの文字の一部が、毒々しい赤い光を放って浮き上がった。
計理術の光は、魔力を持つ者であれば誰の目にも明らかに見える。
裁判官たちが「おお……」と驚きの声を上げた。
「赤い光を放っている箇所が、後から書き換えられた数字です。本来の収穫量を少なく見積もり、差額を隠蔽した痕跡。そして、この改ざんが行われた日付はすべて、私が領地の巡回で屋敷を不在にしていた日と完全に一致しています」
私は冷徹に事実を突きつけた。
「私が実務を取り仕切っていたのは事実ですが、私が書き記した正しい帳簿を、後からこっそりと書き換えていたのは被告自身です。帳簿は嘘をつきません」
「なっ……! そ、それは……!」
オスヴァルドは絶句し、ワナワナと唇を震わせた。
言い逃れのできない決定的な物的証拠と、魔術による証明。
もはや彼を庇う余地は、この法廷のどこにも残されていなかった。
周囲の冷たい視線に耐えきれなくなったオスヴァルドは、突然、狂ったように隣のセレナを指差した。
「俺は騙されたんだ!」
悲痛な叫び声が、法廷に響き渡る。
議長の重々しい宣言が、冷たい大理石の壁に反響した。
法廷の空気が、先ほどの親権問題の時よりもさらに張り詰める。
これは単なる家庭内の揉め事ではない。国家の税を誤魔化し、領民の命を危険に晒した、貴族としての根幹を揺るがす重大な犯罪の審理だ。
原告席の隣に座っていたルーカスが、静かに立ち上がった。
彼は黒い革鞄から分厚い帳簿の束を取り出し、廷吏を通じて議長席へと提出する。
「王国監察院、ルーカス・セルジェです。当院が実施した監査の結果、ルクレール伯爵領の過去三年間の穀物収穫量と、実際に倉庫に保管されていた備蓄量、および王国へ納入された税額との間に、決定的な矛盾が発見されました」
ルーカスの通る声が、静寂の法廷に響き渡る。
「消えた穀物の行方は、王都を拠点とする違法な密輸組織『黒蛇商会』への横流しであることが判明しています。証拠として、黒蛇商会の裏帳簿、および伯爵家の出納帳を提出いたします」
議長と裁判官たちが、提出された帳簿を険しい顔でめくり始めた。
紙の擦れる乾いた音が、やけに大きく聞こえる。
「被告。この帳簿の数字の不一致について、弁明はあるか?」
議長の鋭い視線がオスヴァルドを射抜いた。
オスヴァルドは顔面を蒼白にしながら、必死で首を振った。
「し、知りません! 私は領地の細かい数字など把握していないのです。実務はすべて、そこにいる妻の……リディアが取り仕切っていました。横領など、私は一切関知しておりません!」
恥も外聞もなく、自分の責任を私に押し付けようとする男。
傍聴席からは、呆れ果てたようなため息が漏れ聞こえた。
私はゆっくりと立ち上がり、議長に向かって一礼した。
「裁判長。被告の主張が偽りであることを、私の『計理術』をもってお見せしてもよろしいでしょうか」
「……許可する。前へ出なさい」
私は証言台へと進み出た。
廷吏が、オスヴァルドの執務室から押収された古い出納帳を私の前に置く。
私は目を閉じ、深く息を吸い込んだ。
冷たい冬の空気が肺を満たし、頭が冴え渡っていく。
そして目を開くと同時に、魔力を瞳に集中させた。
視界がふわりと青く染まり、帳簿に並んだ数字が微かに発光し始める。
「計理術は、正しい数字と改ざんされた数字の『魔力の歪み』を視覚化します。裁判長、この出納帳の五十七ページをご覧ください」
私がページを開くと、そこに並んだインクの文字の一部が、毒々しい赤い光を放って浮き上がった。
計理術の光は、魔力を持つ者であれば誰の目にも明らかに見える。
裁判官たちが「おお……」と驚きの声を上げた。
「赤い光を放っている箇所が、後から書き換えられた数字です。本来の収穫量を少なく見積もり、差額を隠蔽した痕跡。そして、この改ざんが行われた日付はすべて、私が領地の巡回で屋敷を不在にしていた日と完全に一致しています」
私は冷徹に事実を突きつけた。
「私が実務を取り仕切っていたのは事実ですが、私が書き記した正しい帳簿を、後からこっそりと書き換えていたのは被告自身です。帳簿は嘘をつきません」
「なっ……! そ、それは……!」
オスヴァルドは絶句し、ワナワナと唇を震わせた。
言い逃れのできない決定的な物的証拠と、魔術による証明。
もはや彼を庇う余地は、この法廷のどこにも残されていなかった。
周囲の冷たい視線に耐えきれなくなったオスヴァルドは、突然、狂ったように隣のセレナを指差した。
「俺は騙されたんだ!」
悲痛な叫び声が、法廷に響き渡る。
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