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35話「最後の足掻き」
「運営権停止……」
オスヴァルドの口から、掠れた声が漏れた。
彼は糸の切れた操り人形のように、その場に崩れ落ちた。
領地運営権。それは貴族としての身分そのものだ。それを失えば、彼はただの平民へと転落し、莫大な借金だけが残される。
ルクレール伯爵家は、今、完全に消滅したのだ。
法廷内がざわめきに包まれる中、オスヴァルドは虚ろな目で宙を見つめていた。
しかし、彼の視線が不意に傍聴席の最前列で止まった。
そこには、私の父である侯爵の膝の上に座る、レオンの姿があった。
証言のために連れてこられ、今は静かに裁判の行方を見守っている私の息子。
オスヴァルドの目に、狂気じみた光が宿った。
「……息子だ。レオンがいれば」
彼はうわ言のように呟きながら、ふらふらと立ち上がった。
「レオンは俺の息子だ! ヴァルモン侯爵家の血を引く跡取りだ! あいつを手元に置いておけば、侯爵家から援助を引き出せる……まだ、まだやり直せる!」
すべてを失った男が最後にすがりついたのは、自分が「下になれ」と切り捨てたはずの息子だった。
オスヴァルドは血走った目でレオンを睨みつけ、獣のような唸り声を上げながら、傍聴席へ向かって猛然と突進した。
「レオン! こっちへ来い! お前は俺の所有物だ!」
「きゃああ!」
「なんだこいつは!」
傍聴席の貴族たちが悲鳴を上げて逃げ惑う。
父が咄嗟にレオンを背中に庇い、立ち上がった。
「やめなさい!」
私が叫び声を上げたのと、黒い影がオスヴァルドの前に立ちはだかったのはほぼ同時だった。
ドガァァン!
鈍い衝撃音とともに、オスヴァルドの体が空宙を舞い、大理石の床に激しく叩きつけられた。
「ぐふっ……!?」
オスヴァルドが苦悶の声を上げてうずくまる。
彼を見下ろしていたのは、長い外套の裾を翻したルーカスだった。
ルーカスの灰色の瞳は、絶対零度の冷たさを帯びていた。
「法廷内で暴力を振るうとは、どこまで見苦しい真似をするのですか」
ルーカスはオスヴァルドの腕を背後にねじり上げ、容赦なく床に押さえつけた。
「い、痛い! 離せ! 俺は貴族だぞ!」
「いいえ。あなたはたった今、領地運営権を停止されただの犯罪者です」
ルーカスが冷酷に事実を突きつけると、オスヴァルドはビクッと体を痙攣させた。
「廷吏! 危険人物です、早く手枷を!」
ルーカスの指示で、武装した廷吏たちが一斉に駆け寄り、オスヴァルドの腕に重い鉄の手枷をはめた。
ガチャン、という冷たい金属音が法廷に響く。
「嫌だ……離せ! リディア、助けてくれ! 君の夫だろう!?」
床に這いつくばりながら、オスヴァルドは私に向かって懇願の叫びを上げた。
鼻水と涙で顔をぐしゃぐしゃにし、無様に命乞いをするその姿に、かつての夫の面影は微塵も残っていない。
私は彼を見下ろし、一切の感情を排した冷たい声で告げた。
「私はもう、あなたの妻ではありません」
私の言葉に、オスヴァルドは絶望の悲鳴を上げた。
ルーカスが冷ややかな視線で彼を一瞥し、廷吏たちに顎でしゃくった。
「拘束する。地下牢へ連行しなさい」
オスヴァルドの口から、掠れた声が漏れた。
彼は糸の切れた操り人形のように、その場に崩れ落ちた。
領地運営権。それは貴族としての身分そのものだ。それを失えば、彼はただの平民へと転落し、莫大な借金だけが残される。
ルクレール伯爵家は、今、完全に消滅したのだ。
法廷内がざわめきに包まれる中、オスヴァルドは虚ろな目で宙を見つめていた。
しかし、彼の視線が不意に傍聴席の最前列で止まった。
そこには、私の父である侯爵の膝の上に座る、レオンの姿があった。
証言のために連れてこられ、今は静かに裁判の行方を見守っている私の息子。
オスヴァルドの目に、狂気じみた光が宿った。
「……息子だ。レオンがいれば」
彼はうわ言のように呟きながら、ふらふらと立ち上がった。
「レオンは俺の息子だ! ヴァルモン侯爵家の血を引く跡取りだ! あいつを手元に置いておけば、侯爵家から援助を引き出せる……まだ、まだやり直せる!」
すべてを失った男が最後にすがりついたのは、自分が「下になれ」と切り捨てたはずの息子だった。
オスヴァルドは血走った目でレオンを睨みつけ、獣のような唸り声を上げながら、傍聴席へ向かって猛然と突進した。
「レオン! こっちへ来い! お前は俺の所有物だ!」
「きゃああ!」
「なんだこいつは!」
傍聴席の貴族たちが悲鳴を上げて逃げ惑う。
父が咄嗟にレオンを背中に庇い、立ち上がった。
「やめなさい!」
私が叫び声を上げたのと、黒い影がオスヴァルドの前に立ちはだかったのはほぼ同時だった。
ドガァァン!
鈍い衝撃音とともに、オスヴァルドの体が空宙を舞い、大理石の床に激しく叩きつけられた。
「ぐふっ……!?」
オスヴァルドが苦悶の声を上げてうずくまる。
彼を見下ろしていたのは、長い外套の裾を翻したルーカスだった。
ルーカスの灰色の瞳は、絶対零度の冷たさを帯びていた。
「法廷内で暴力を振るうとは、どこまで見苦しい真似をするのですか」
ルーカスはオスヴァルドの腕を背後にねじり上げ、容赦なく床に押さえつけた。
「い、痛い! 離せ! 俺は貴族だぞ!」
「いいえ。あなたはたった今、領地運営権を停止されただの犯罪者です」
ルーカスが冷酷に事実を突きつけると、オスヴァルドはビクッと体を痙攣させた。
「廷吏! 危険人物です、早く手枷を!」
ルーカスの指示で、武装した廷吏たちが一斉に駆け寄り、オスヴァルドの腕に重い鉄の手枷をはめた。
ガチャン、という冷たい金属音が法廷に響く。
「嫌だ……離せ! リディア、助けてくれ! 君の夫だろう!?」
床に這いつくばりながら、オスヴァルドは私に向かって懇願の叫びを上げた。
鼻水と涙で顔をぐしゃぐしゃにし、無様に命乞いをするその姿に、かつての夫の面影は微塵も残っていない。
私は彼を見下ろし、一切の感情を排した冷たい声で告げた。
「私はもう、あなたの妻ではありません」
私の言葉に、オスヴァルドは絶望の悲鳴を上げた。
ルーカスが冷ややかな視線で彼を一瞥し、廷吏たちに顎でしゃくった。
「拘束する。地下牢へ連行しなさい」
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