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36話「返還と賠償」
オスヴァルドが引きずられるようにして法廷から連れ出された後、残されたのは民事的な賠償の裁定だった。
議長は咳払いをして場を落ち着かせると、手元の書類に目を落とした。
「……被告オスヴァルド・ルクレールの罪状が確定したことに伴い、原告リディア・ヴァルモンからの持参金返還請求について審理する」
議長の声が淡々と響く。
法廷の真ん中には、オスヴァルドに見捨てられ、一人取り残されたセレナが震えながら座り込んでいた。
「『持参金契約書』第7条、および第12条の違反は明白である。よって当法廷は、ルクレール家に対し、リディア・ヴァルモンが持ち込んだ持参金の全額返還、および契約違反に対する違約金の支払いを命ずる」
莫大な金額が読み上げられると、傍聴席からは再びどよめきが起きた。
すでに領地を失い、財産も底をついているルクレール家に、そんな大金を支払えるはずがない。
「なお、被告には支払い能力がないと認められるため、ルクレール伯爵家が所有する王都の別邸、領地の屋敷、およびすべての美術品・調度品を即時差し押さえ、競売にかけることとする」
競売。それは、ルクレール家という存在が物理的にも解体され、完全に歴史から消え去ることを意味していた。
「また、同席しているセレナ・グランツについて」
議長が冷たい視線を向けると、セレナはヒッと息を呑んだ。
「貴女には、伯爵家の財産を不当に詐取した罪、および正妻の私室への窃盗未遂の罪が認められる。情状酌量の余地なしとし、王都北部の修道院での三カ年における強制労働を命ずる」
「修道院での……労働!?」
セレナの顔から完全に血の気が引いた。
華やかなドレスと宝石で着飾り、人から同情されて甘い汁を吸うことしかしてこなかった彼女にとって、それは死刑宣告にも等しい罰だった。
「嫌……嫌よ! 私は何も悪くない! 私はただ、可哀想な未亡人で……誰かに守ってほしかっただけで……!」
セレナは髪を振り乱し、這いずるようにして私の方へ近づいてきた。
彼女の汚れた手が、私のドレスの裾を掴もうとする。
「奥様! お願いです、助けてください! 私にはカイルという子供がいるんです! この子が下になってもいいから、どうか私を見捨てないで……!」
かつて、私の息子を「下」にすると平然と笑っていた女が、今度は自分の息子を犠牲にしてでも助かろうとしている。
その浅ましさに、私は冷たい嫌悪感を抱いた。
私は一歩下がり、彼女の手を避けた。
「誰かに守ってほしいなら、自分の足で立ちなさい。他人のものを奪って生きてきたあなたに、同情する人間はもうどこにもいません」
「そんな……私、可哀想なのに……ずっと不幸だったのに……!」
泣き喚く彼女を見下ろし、私は氷のような声で言い放った。
「あなたは“可哀想”ではありません。ただの加害者です」
私の決定的な一言に、セレナは絶望したように顔を覆い、その場に泣き崩れた。
すぐに廷吏たちが近寄り、彼女の両腕を掴んで法廷の外へと引きずり出していく。
バタン、と重厚なオーク材の扉が閉まる。
法廷に、再び静寂が戻った。
私の正妻としての、長く苦しかった戦いが、今、完全に終わったのだ。
窓から差し込む冬の光が、私の冷え切った頬を微かに温めていた。
議長は咳払いをして場を落ち着かせると、手元の書類に目を落とした。
「……被告オスヴァルド・ルクレールの罪状が確定したことに伴い、原告リディア・ヴァルモンからの持参金返還請求について審理する」
議長の声が淡々と響く。
法廷の真ん中には、オスヴァルドに見捨てられ、一人取り残されたセレナが震えながら座り込んでいた。
「『持参金契約書』第7条、および第12条の違反は明白である。よって当法廷は、ルクレール家に対し、リディア・ヴァルモンが持ち込んだ持参金の全額返還、および契約違反に対する違約金の支払いを命ずる」
莫大な金額が読み上げられると、傍聴席からは再びどよめきが起きた。
すでに領地を失い、財産も底をついているルクレール家に、そんな大金を支払えるはずがない。
「なお、被告には支払い能力がないと認められるため、ルクレール伯爵家が所有する王都の別邸、領地の屋敷、およびすべての美術品・調度品を即時差し押さえ、競売にかけることとする」
競売。それは、ルクレール家という存在が物理的にも解体され、完全に歴史から消え去ることを意味していた。
「また、同席しているセレナ・グランツについて」
議長が冷たい視線を向けると、セレナはヒッと息を呑んだ。
「貴女には、伯爵家の財産を不当に詐取した罪、および正妻の私室への窃盗未遂の罪が認められる。情状酌量の余地なしとし、王都北部の修道院での三カ年における強制労働を命ずる」
「修道院での……労働!?」
セレナの顔から完全に血の気が引いた。
華やかなドレスと宝石で着飾り、人から同情されて甘い汁を吸うことしかしてこなかった彼女にとって、それは死刑宣告にも等しい罰だった。
「嫌……嫌よ! 私は何も悪くない! 私はただ、可哀想な未亡人で……誰かに守ってほしかっただけで……!」
セレナは髪を振り乱し、這いずるようにして私の方へ近づいてきた。
彼女の汚れた手が、私のドレスの裾を掴もうとする。
「奥様! お願いです、助けてください! 私にはカイルという子供がいるんです! この子が下になってもいいから、どうか私を見捨てないで……!」
かつて、私の息子を「下」にすると平然と笑っていた女が、今度は自分の息子を犠牲にしてでも助かろうとしている。
その浅ましさに、私は冷たい嫌悪感を抱いた。
私は一歩下がり、彼女の手を避けた。
「誰かに守ってほしいなら、自分の足で立ちなさい。他人のものを奪って生きてきたあなたに、同情する人間はもうどこにもいません」
「そんな……私、可哀想なのに……ずっと不幸だったのに……!」
泣き喚く彼女を見下ろし、私は氷のような声で言い放った。
「あなたは“可哀想”ではありません。ただの加害者です」
私の決定的な一言に、セレナは絶望したように顔を覆い、その場に泣き崩れた。
すぐに廷吏たちが近寄り、彼女の両腕を掴んで法廷の外へと引きずり出していく。
バタン、と重厚なオーク材の扉が閉まる。
法廷に、再び静寂が戻った。
私の正妻としての、長く苦しかった戦いが、今、完全に終わったのだ。
窓から差し込む冬の光が、私の冷え切った頬を微かに温めていた。
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