五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人

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第26話 回収宣言

 重苦しい鐘の音が、王都の鉛色の空に響き渡る。
 五年前と同じ、大聖堂の教会裁判所。
 冷たい石畳の感触と、獣脂の蝋燭が燃える特有の匂いが、エリシアの胃を容赦なく締め付けた。

 円形の法廷の中央に、エリシアは一人で立たされていた。
 背後には、心配そうに付き添ってくれたリュシアンとヨアヒムが控えているが、審問の場に直接介入することはできない。

 一段高い席には、赤い法衣を着た司祭たち。
 そして右側の傍聴席には、豪奢なドレスを着飾った伯母イルザと、辺境伯家の親族たちが冷たい笑みを浮かべて座っていた。

 「母親であるエリシアは、劣悪な旧市街で子どもを育てており、先日も誘拐未遂事件に巻き込まれました」

 イルザが雇った代理人の男が、よく通る声で高らかに主張する。

 「辺境伯家の尊い血を引く子どもを、これ以上危険に晒すわけにはいきません。教会は直ちに養育誓約を破棄し、子どもを当家へ引き渡すよう命じるべきです」

 暴力が通用しないと悟った彼らは、「家」という巨大な権力と体裁を使って、法的にクララを奪いに来たのだ。
 どれだけ私が必死に働き、愛情を注いでいようと、彼らにとっては「平民同然の女が育てている」という事実が攻撃の材料になる。

 「異議を唱えます! 私は、自分の手で娘を養うだけの基盤を持っています!」

 エリシアは声を張り上げたが、その声は広大な法廷の天井に虚しく吸い込まれていく。
 司祭たちは難しそうな顔で書類に目を落としている。辺境伯家という大貴族からの公式な申し立てを、無下に却下することは教会とて容易ではないのだ。

 家か、子か。
 圧倒的な身分の差という暴力が、再びエリシアからすべてを奪おうとしている。
 視界が歪み、膝から崩れ落ちそうになったその時だった。

 バァァン!

 法廷の重厚な木扉が、乱暴に蹴り開けられた。

 「その申し立ては、当主である私の許可を得ていない無効なものだ」

 静まり返った法廷に、底冷えのするような低い声が響いた。
 現れたのは、軍服の上に黒い外套を羽織ったロルフだった。
 彼の氷のような青い瞳が、傍聴席で青ざめる親族たちを鋭く射抜く。

 「ロ、ロルフ! お前は何を言っているの!」

 イルザが金切り声を上げる。
 だがロルフは彼女を一瞥もせず、司祭に向かって真っ直ぐに歩み寄り、懐から一枚の分厚い羊皮紙を取り出して叩きつけた。

♦︎♦︎♦︎

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