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第32話 徒弟志願
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「事情のある、志願者ですか」
エリシアが首を傾げると、ヨアヒムは背後に隠れていた小さな人影を前に促した。
現れたのは、擦り切れた薄汚い麻の服を着た、十代半ばほどの少女だった。
栄養状態が悪いのか、頬はこけ、肩は小刻みに震えている。
下を向いたままの彼女から、旧市街のどん底特有の、カビと泥の入り混じった湿った匂いがした。
「……身寄りがないそうです。河港で荷運びの雑用をしていましたが、冬を越すための寝床も仕事もないと、ギルドに泣きついてきまして」
ヨアヒムが淡々と事情を説明する。
少女は怯えた獣のように、エリシアの顔をチラリと見てはすぐに視線を落とした。
その姿に、エリシアはハッと息を呑んだ。
五年前。大聖堂を追い出され、身一つでこの旧市街に流れ着いた自分の姿と、目の前の少女が重なって見えたのだ。
寒さと飢えに怯え、ギルドで門前払いを食らって路地裏を彷徨っていたあの夜。
エリシアはゆっくりと少女の前にしゃがみ込み、視線を合わせた。
「名前は、なんというの?」
「……ティナ、です」
かすれた声。エリシアは彼女のひび割れた手を取り、自分の温かい手で包み込んだ。
「ティナ。ランタン織房は、無償の施しはしません。ここは私の大切な仕事場だから」
少女の肩が、ビクッと跳ねる。拒絶されたと思ったのだろう。
だが、エリシアはかつてリュシアンが自分にしてくれたように、真っ直ぐに彼女の目を見て告げた。
「その代わり、あなたに技術を教えます。真面目に働いてくれるなら、きちんとした寝床と食事、そして正当な対価を約束します。……私と、取引をしてくれる?」
それは同情ではなく、誇りを取り戻させるための救いだった。
ティナの目から、ボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちる。彼女は何度も何度も、深く首を縦に振った。
人を雇い入れる。それは、エリシアの工房がまた一つ、大きな成長を遂げた証だった。
安堵の空気が流れたのも束の間、ヨアヒムが手元の書類を一枚めくり、重々しい声を出した。
「引き受けていただき感謝します。……ところでエリシア殿。本題は別にあるのです」
ヨアヒムの眼鏡が、冬の朝日を反射して冷たく光る。
「王都の商業ギルド本部から、全工房の『登録更新』の厳格な査察を行うと通達がありました。これに合格しなければ、工房の権利を取り消されます」
エリシアが首を傾げると、ヨアヒムは背後に隠れていた小さな人影を前に促した。
現れたのは、擦り切れた薄汚い麻の服を着た、十代半ばほどの少女だった。
栄養状態が悪いのか、頬はこけ、肩は小刻みに震えている。
下を向いたままの彼女から、旧市街のどん底特有の、カビと泥の入り混じった湿った匂いがした。
「……身寄りがないそうです。河港で荷運びの雑用をしていましたが、冬を越すための寝床も仕事もないと、ギルドに泣きついてきまして」
ヨアヒムが淡々と事情を説明する。
少女は怯えた獣のように、エリシアの顔をチラリと見てはすぐに視線を落とした。
その姿に、エリシアはハッと息を呑んだ。
五年前。大聖堂を追い出され、身一つでこの旧市街に流れ着いた自分の姿と、目の前の少女が重なって見えたのだ。
寒さと飢えに怯え、ギルドで門前払いを食らって路地裏を彷徨っていたあの夜。
エリシアはゆっくりと少女の前にしゃがみ込み、視線を合わせた。
「名前は、なんというの?」
「……ティナ、です」
かすれた声。エリシアは彼女のひび割れた手を取り、自分の温かい手で包み込んだ。
「ティナ。ランタン織房は、無償の施しはしません。ここは私の大切な仕事場だから」
少女の肩が、ビクッと跳ねる。拒絶されたと思ったのだろう。
だが、エリシアはかつてリュシアンが自分にしてくれたように、真っ直ぐに彼女の目を見て告げた。
「その代わり、あなたに技術を教えます。真面目に働いてくれるなら、きちんとした寝床と食事、そして正当な対価を約束します。……私と、取引をしてくれる?」
それは同情ではなく、誇りを取り戻させるための救いだった。
ティナの目から、ボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちる。彼女は何度も何度も、深く首を縦に振った。
人を雇い入れる。それは、エリシアの工房がまた一つ、大きな成長を遂げた証だった。
安堵の空気が流れたのも束の間、ヨアヒムが手元の書類を一枚めくり、重々しい声を出した。
「引き受けていただき感謝します。……ところでエリシア殿。本題は別にあるのです」
ヨアヒムの眼鏡が、冬の朝日を反射して冷たく光る。
「王都の商業ギルド本部から、全工房の『登録更新』の厳格な査察を行うと通達がありました。これに合格しなければ、工房の権利を取り消されます」
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