冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人

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第3話:優しい第二王子

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あの屈辱的な日から、数日が過ぎた。
私の生活は、何も変わらない。

朝になると誰かが無言で食事を部屋の前に置き、夜になるとカインが自ら食事を運んでくる。
彼は相変わらず口数が少なく、私に冷たい視線を向けるだけ。
そして、私は一日中、この薄暗い物置部屋で、ただ時が過ぎるのを待つだけだった。

「このままじゃ、本当におかしくなっちゃう……」

鉄格子の嵌まった小さな窓から差し込むわずかな光を見つめながら、ため息をつく。
元の世界に帰る方法を探したいのに、部屋から出ることすら許されない。
焦りと不安で、胸がぎりぎりと締め付けられるようだった。

そんなある日の昼下がり。
いつものように、ドアの外に食事が置かれる気配がした。
少し待ってからドアノブに手をかけると、今日はなぜか、鍵が開いていることに気づいた。

(……かけ忘れたのかな?)

千載一遇のチャンスかもしれない。
心臓がどきどきと激しく高鳴るのを感じながら、私はそっとドアを開けた。
廊下には、誰もいない。

(少しだけなら……バレないよね……?)

好奇心と、現状を打破したいという強い思いに突き動かされ、私は部屋から一歩、足を踏み出した。

どこへ行けばいいのかもわからないまま、壁伝いにそろそろと歩く。
とにかく、誰かに会って、話を聞きたかった。
元の世界に帰る方法を、知っている人がいるかもしれないから。

長い廊下を曲がった先、中庭に面した渡り廊下に出た。
ガラス窓の外には、手入れの行き届いた美しい庭園が広がっている。色とりどりの花が咲き乱れ、優しい光が降り注いでいた。
ずっと薄暗い部屋にいたから、その光景が目に眩しい。

思わず足を止め、窓の外に見とれていると、不意に後ろから優しい声が聞こえた。

「君は……見ない顔だね。どうしてこんな場所に?」

びくりとして振り返ると、そこに立っていたのは、柔らかな金色の髪を持つ、優しげな顔立ちの青年だった。
歳は、カインと同じくらいだろうか。
高価そうな、しかし華美ではない上品な服を着ている。
その穏やかな微笑みは、私のささくれだった警戒心を、あっという間に解いてしまった。

「あ、あの、私は……」

「もしかして、先日召喚されたという聖女様かい?」

彼が私の正体を言い当てたことに、驚いて目を見開く。
私がこくりと頷くと、青年は納得したように微笑んだ。

「そうか。話は聞いているよ。大変だったね」

「……!」

彼の言葉には、侮蔑も同情もなかった。
ただ、純粋な労いだけが込められていて、思わず胸が熱くなる。
この世界に来てから、こんなふうに優しくされたのは、初めてだった。

「私はエリアス。この国の第二王子さ。よろしく、リリア」

「え……***王子様!?***」

慌てて頭を下げようとする私を、エリアス王子は「まあまあ」と手で制した。

「そんなに畏まらなくていい。君は僕たちの都合で、無理やりこの世界に連れてこられたんだからね。むしろ、僕たちが君に謝るべきだ」

「そ、そんな……」

「兄上……いや、カイン騎士団長が君を引き取ったと聞いて、心配していたんだ。あの人は、少し不器用なところがあるから」

カインのことを〝兄上〟と呼んだ?
いや、すぐに言い直していた。どういう関係なんだろう。
それに、あの冷酷な騎士団長を「不器用」と評するなんて。

エリアス王子は、私の戸惑いを見透かしたように、苦笑した。

「何か困っていることはないかい? 僕にできることがあれば、力になるよ」

その言葉は、まるで暗闇に差し込んだ一筋の光のようだった。
私は、思い切って彼に尋ねてみることにした。

「あの、私……元の世界に、帰りたいんです。何か方法を知りませんか?」

私の必死の問いに、エリアス王子は少し悲しそうな顔をした。

「……帰る方法、か。聖女召喚の儀式は、古文書にも断片的な記述しか残っていないんだ。召喚の方法は記されていても、送還の方法については、残念ながら……」

「そんな……」

「でも、諦めるのはまだ早い。城の地下には、膨大な書物を収めた大書庫がある。もしかしたら、そこに何か手がかりが眠っているかもしれない」

大書庫──!
その言葉に、私は顔を上げた。

「本当ですか!?」

「ああ。ただ、あそこは管理が厳重でね。僕の許可があれば、君も入ることができる。今度、こっそり案内してあげよう」

「いいんですか!?」

「もちろん。君の力になりたいんだ」

にっこりと微笑むエリアス王子は、本当に天使のように見えた。
絶望の淵にいた私にとって、彼の存在は大きな、大きな希望だった。

「ありがとうございます……! エリアス様……!」

感謝の気持ちで胸がいっぱいになり、涙ぐむ私。
エリアス王子は、そんな私の頭を優しく撫でてくれた。

その時だった。

渡り廊下の向こう側から、***突き刺すような冷たい視線***を感じたのは。

ハッとしてそちらを見ると、柱の影に、カインが立っていた。
いつからそこにいたのだろう。
彼は何も言わず、ただじっと、私と、私の頭を撫でるエリアス王子の手を見ていた。

その血のように赤い瞳が、今まで見たこともないほど、***暗く、冷たい色***を宿していることに、私はまだ気づかなかった。
彼が、握りしめた拳が白くなるほど力を込めていることにも。

ただ、背筋をぞくりと這い上がる悪寒に、私は首をすくめることしかできなかった。
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