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第六話『国王陛下の赤面と、一つの決意』
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目の前で繰り広げられる信じられない光景。
私を「未来の王妃」と宣言したアレクシオス陛下。
そして顔面蒼白のまま彫像のように固まる家族と元婚約者。
静寂を破ったのは私のか細いけれど決意を込めた声だった。
「……はい」
私の声にアレクシオス陛下がハッと息を飲む。
「喜んで……。陛下のお申し出、お受けいたします」
その瞬間。
それまでの冷徹な王の仮面が嘘のようにアレクシオス陛下の表情がぱあっと輝いた。その笑顔はまるで宝物を見つけた少年のように無邪気で私の心臓が可愛らしく跳ねる。
「本当かイリス! 本当だな!」
「はい陛下」
私が頷き終わるか終わらないかのうちに陛下は力強い腕で私をぐっと抱きしめた。
「やった……! イリスが私の妃に……!」
陛下の胸に顔をうずめる形になり彼の心臓が力強く脈打っているのが伝わってくる。
その温かさに私の心の氷も完全に溶けていくのを感じた。
しかしその喜びも束の間。
「……へ、陛下……く、くるひいです……」
「えっ」
私のくぐもった声に陛下はハッと我に返ると慌てて腕の力を緩めた。
「す、すまない! あまりの嬉しさについ力が……! だ、大丈夫か怪我は!?」
見れば威厳に満ちた国王陛下の耳がほんのりと赤く染まっている。
その意外な一面に私は思わずくすりと笑ってしまった。
「ふふ、大丈夫です陛下」
私の笑みを見て陛下はさらに顔を赤くしながらもとても幸せそうに微笑み返してくれた。
そんな私たちの甘い空気をぶち壊したのは父だった。
「へ、陛下! おおなんと喜ばしい……! この出来の悪い娘めをどうか末永くよろしくお願いいたします!」
さっきまでの罵詈雑言はどこへやら。
父はこれ以上ないほど卑屈な笑みを浮かべ陛下の足元にすり寄ろうとする。
だがアレクシオス陛下はそんな父を氷点下の眼差しで一瞥した。
「……貴様が喜ぶ必要などない。イリス嬢は貴様らのような家族から解放されるのだ。むしろせいせいするだろう」
「ひっ……!」
「イリス嬢の身支度が整い次第リンドールへお連れする。異論は認めん。これは王命だ」
冷たく言い放つと陛下はもう彼らに一瞥もくれず私の腰を優しく抱いて屋敷の中へと促した。
残された父と母そしてセレーナとフレデリックはただ呆然と立ち尽くすだけだった。
特にフレデリックは自分が捨てた石が最高の輝きを放つダイヤモンドだったと今さら気づきその拳をわなわなと震わせ唇を噛みしめていた。
自室に戻るとアンナが泣きながら駆け寄ってきた。
「お嬢様……! おめでとうございます……! 本当に本当に……!」
「アンナ……ありがとう。あなたのおかげよ」
私とアンナは手を取り合って喜びを分かち合った。
これで、もうあの人たちに怯えなくていい。
私は新しい場所で新しい人生を始められるんだ。
「さあ荷造りを始めましょう! リンドールへ持っていくものを!」
アンナがぱたぱたと甲斐甲斐しく動き始める。
ドレスも本も何もかもこの薄暗い屋敷に置いていきたかった。
ただ一つだけどうしても手放せないものがあった。
アンナが古い木箱の中から一つのアクセサリーを取り出した。
「お嬢様、この古いペンダントもお持ちになりますか?」
それは私が幼い頃に亡くなった祖母から譲り受けた唯一の形見。
何の変哲もない小さな銀のロケットペンダントだ。
「ええもちろんよ」
私はそのペンダントをぎゅっと握りしめた。
これはただの形見じゃない。
幼い頃の淡くそして大切な思い出が詰まった私の宝物なのだから。
私を「未来の王妃」と宣言したアレクシオス陛下。
そして顔面蒼白のまま彫像のように固まる家族と元婚約者。
静寂を破ったのは私のか細いけれど決意を込めた声だった。
「……はい」
私の声にアレクシオス陛下がハッと息を飲む。
「喜んで……。陛下のお申し出、お受けいたします」
その瞬間。
それまでの冷徹な王の仮面が嘘のようにアレクシオス陛下の表情がぱあっと輝いた。その笑顔はまるで宝物を見つけた少年のように無邪気で私の心臓が可愛らしく跳ねる。
「本当かイリス! 本当だな!」
「はい陛下」
私が頷き終わるか終わらないかのうちに陛下は力強い腕で私をぐっと抱きしめた。
「やった……! イリスが私の妃に……!」
陛下の胸に顔をうずめる形になり彼の心臓が力強く脈打っているのが伝わってくる。
その温かさに私の心の氷も完全に溶けていくのを感じた。
しかしその喜びも束の間。
「……へ、陛下……く、くるひいです……」
「えっ」
私のくぐもった声に陛下はハッと我に返ると慌てて腕の力を緩めた。
「す、すまない! あまりの嬉しさについ力が……! だ、大丈夫か怪我は!?」
見れば威厳に満ちた国王陛下の耳がほんのりと赤く染まっている。
その意外な一面に私は思わずくすりと笑ってしまった。
「ふふ、大丈夫です陛下」
私の笑みを見て陛下はさらに顔を赤くしながらもとても幸せそうに微笑み返してくれた。
そんな私たちの甘い空気をぶち壊したのは父だった。
「へ、陛下! おおなんと喜ばしい……! この出来の悪い娘めをどうか末永くよろしくお願いいたします!」
さっきまでの罵詈雑言はどこへやら。
父はこれ以上ないほど卑屈な笑みを浮かべ陛下の足元にすり寄ろうとする。
だがアレクシオス陛下はそんな父を氷点下の眼差しで一瞥した。
「……貴様が喜ぶ必要などない。イリス嬢は貴様らのような家族から解放されるのだ。むしろせいせいするだろう」
「ひっ……!」
「イリス嬢の身支度が整い次第リンドールへお連れする。異論は認めん。これは王命だ」
冷たく言い放つと陛下はもう彼らに一瞥もくれず私の腰を優しく抱いて屋敷の中へと促した。
残された父と母そしてセレーナとフレデリックはただ呆然と立ち尽くすだけだった。
特にフレデリックは自分が捨てた石が最高の輝きを放つダイヤモンドだったと今さら気づきその拳をわなわなと震わせ唇を噛みしめていた。
自室に戻るとアンナが泣きながら駆け寄ってきた。
「お嬢様……! おめでとうございます……! 本当に本当に……!」
「アンナ……ありがとう。あなたのおかげよ」
私とアンナは手を取り合って喜びを分かち合った。
これで、もうあの人たちに怯えなくていい。
私は新しい場所で新しい人生を始められるんだ。
「さあ荷造りを始めましょう! リンドールへ持っていくものを!」
アンナがぱたぱたと甲斐甲斐しく動き始める。
ドレスも本も何もかもこの薄暗い屋敷に置いていきたかった。
ただ一つだけどうしても手放せないものがあった。
アンナが古い木箱の中から一つのアクセサリーを取り出した。
「お嬢様、この古いペンダントもお持ちになりますか?」
それは私が幼い頃に亡くなった祖母から譲り受けた唯一の形見。
何の変哲もない小さな銀のロケットペンダントだ。
「ええもちろんよ」
私はそのペンダントをぎゅっと握りしめた。
これはただの形見じゃない。
幼い頃の淡くそして大切な思い出が詰まった私の宝物なのだから。
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