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第七話『過保護な陛下と騎士団長』
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翌朝、アルメリア侯爵家の門前は前代未聞の光景に包まれていた。
リンドール王国の金獅子の紋章が輝く壮麗な王族専用の馬車。
それを護衛するのは一糸乱れぬ隊列を組んだ精鋭中の精鋭である王宮騎士団。
「す、すごい……」
「本物の王宮騎士団だわ……」
屋敷の使用人たちは窓からその光景を覗き見ては感嘆の声を漏らしている。
もちろんその馬車と騎士団は私イリスを迎えるためにアレクシオス陛下が手配してくれたものだ。
「さあイリス。行こうか」
陛下が優しく私の手を引く。
そのエスコートは昨日からずっと続いている。
私がほんの少しでもつまずきそうになればすかさず支えられ、
少しでも寒そうな素振りを見せればその大きなマントで包み込まれる。
あまりの過保護っぷりに私が恐縮していると騎士団の中から一人の厳つい男性が進み出た。
熊のように大柄で顔には歴戦の傷跡が刻まれている。彼こそがリンドール王宮騎士団の団長ライオス・ベルクだ。
「陛下」
ライオス団長は表情一つ変えずに陛下に言った。
「馬車の乗り降り程度、未来の王妃殿下がお一人で出来ないとでも? あまりご心配なさいますとかえって妃殿下のご負担になりましょう」
その言葉はあまりにも実直で正論だった。
「む……。ライオスは固いな。私の妃を気遣って何が悪い」
陛下は少しだけ口を尖らせて不満そうにする。
「公衆の面前でございますぞ。陛下の威厳に関わります」
「むむ……」
国王と騎士団長のどこかコミカルなやり取りに私の緊張も少しほぐれた。
私はライオス団長に向かってにっこりと微笑んだ。
「お気遣いありがとうございますライオス団長。ですが陛下のお気持ちがとても嬉しいのです。ご心配なさらないでください」
私の言葉にライオス団長は少しだけ驚いたように目を見開いたがすぐに「はっ」と力強く頷き道を開けた。
屋敷の玄関前には私を支えてくれた使用人たちが勢揃いしていた。
私は一人一人に感謝の言葉を伝えて回る。
「アンナ、今まで本当にありがとう。あなたも一緒に来てくれるわよね?」
「もちろんでございますお嬢様! どこまでもお供いたします!」
「ハンス、いつも綺麗なお花をありがとう。あなたの育てたお花にどれだけ励まされたか」
「もったいないお言葉でございます……」
涙ぐむ彼らに別れを告げ私は馬車に乗り込んだ。
遠くの窓からセレーナとフレデリックが嫉妬と憎悪に満ちた目でこちらを睨みつけているのが見えたけれどもう私の心は少しも揺らがなかった。
豪華な馬車は静かに走り出す。
中に入るとアレクシオス陛下が私の隣に座りその顔を覗き込んできた。
「疲れていないか? 何か飲むかい?」
「大丈夫です陛下。それより……」
私はずっと胸にしまっていたペンダントを握りしめた。
「あの……このペンダントなのですが……」
私の言葉に陛下はふと視線を落とした。
そしてその紫の瞳をわずかに細める。
「ん……? そのペンダント……」
アレクシオス陛下はまるで何かを思い出すかのように私のペンダントをじっと見つめている。
「どこかで見覚えがあるような気がするのだが……」
その言葉に私の心臓がトクンと小さく跳ねた。
リンドール王国の金獅子の紋章が輝く壮麗な王族専用の馬車。
それを護衛するのは一糸乱れぬ隊列を組んだ精鋭中の精鋭である王宮騎士団。
「す、すごい……」
「本物の王宮騎士団だわ……」
屋敷の使用人たちは窓からその光景を覗き見ては感嘆の声を漏らしている。
もちろんその馬車と騎士団は私イリスを迎えるためにアレクシオス陛下が手配してくれたものだ。
「さあイリス。行こうか」
陛下が優しく私の手を引く。
そのエスコートは昨日からずっと続いている。
私がほんの少しでもつまずきそうになればすかさず支えられ、
少しでも寒そうな素振りを見せればその大きなマントで包み込まれる。
あまりの過保護っぷりに私が恐縮していると騎士団の中から一人の厳つい男性が進み出た。
熊のように大柄で顔には歴戦の傷跡が刻まれている。彼こそがリンドール王宮騎士団の団長ライオス・ベルクだ。
「陛下」
ライオス団長は表情一つ変えずに陛下に言った。
「馬車の乗り降り程度、未来の王妃殿下がお一人で出来ないとでも? あまりご心配なさいますとかえって妃殿下のご負担になりましょう」
その言葉はあまりにも実直で正論だった。
「む……。ライオスは固いな。私の妃を気遣って何が悪い」
陛下は少しだけ口を尖らせて不満そうにする。
「公衆の面前でございますぞ。陛下の威厳に関わります」
「むむ……」
国王と騎士団長のどこかコミカルなやり取りに私の緊張も少しほぐれた。
私はライオス団長に向かってにっこりと微笑んだ。
「お気遣いありがとうございますライオス団長。ですが陛下のお気持ちがとても嬉しいのです。ご心配なさらないでください」
私の言葉にライオス団長は少しだけ驚いたように目を見開いたがすぐに「はっ」と力強く頷き道を開けた。
屋敷の玄関前には私を支えてくれた使用人たちが勢揃いしていた。
私は一人一人に感謝の言葉を伝えて回る。
「アンナ、今まで本当にありがとう。あなたも一緒に来てくれるわよね?」
「もちろんでございますお嬢様! どこまでもお供いたします!」
「ハンス、いつも綺麗なお花をありがとう。あなたの育てたお花にどれだけ励まされたか」
「もったいないお言葉でございます……」
涙ぐむ彼らに別れを告げ私は馬車に乗り込んだ。
遠くの窓からセレーナとフレデリックが嫉妬と憎悪に満ちた目でこちらを睨みつけているのが見えたけれどもう私の心は少しも揺らがなかった。
豪華な馬車は静かに走り出す。
中に入るとアレクシオス陛下が私の隣に座りその顔を覗き込んできた。
「疲れていないか? 何か飲むかい?」
「大丈夫です陛下。それより……」
私はずっと胸にしまっていたペンダントを握りしめた。
「あの……このペンダントなのですが……」
私の言葉に陛下はふと視線を落とした。
そしてその紫の瞳をわずかに細める。
「ん……? そのペンダント……」
アレクシオス陛下はまるで何かを思い出すかのように私のペンダントをじっと見つめている。
「どこかで見覚えがあるような気がするのだが……」
その言葉に私の心臓がトクンと小さく跳ねた。
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