15 / 60
第十五話『あなたが捨てたもの、私が手に入れたもの』
しおりを挟む
「なぜ……? まだ私を許せないのか……?」
フレデリック様の悲痛な問い。
その瞳にはまだわずかな期待の色が残っている。私が感情的に彼を拒絶しているだけだとそう思いたいのだろう。
でも違う。
私の心は驚くほど静かだった。
私は彼の目を見つめ返しはっきりと告げた。
「許せないのではありませんフレデリック様」
「もうあなたに関心がないのです」
その言葉はどんな罵倒よりも彼の心を抉ったようだった。
彼の顔からサッと血の気が引いていく。
「あなたが捨てたのはあなただけを見つめあなたに尽くすためだけに生きていた都合のいい一人の女です」
「……」
「そして私が手に入れたもの。それはイリス・フォン・アルメリアという一人の人間をその心ごと愛し信じ守り抜いてくれるただ一人の男性です」
私は隣に立つアレクシオス陛下の手にそっと自分の手を重ねた。
陛下はその手を力強く握り返してくれる。
「私にはこの人と共に歩む未来があります。あなたがいる過去をいちいち振り返っている時間などもうないのです」
それが私の答えだった。
私の完全な決別宣言。
フレデリック様はがっくりと肩を落としもう何も言えずに俯いた。
もはや彼にできることは何もなかった。
全てが終わったのだ。
「……連れて行け」
アレクシオス陛下の短い命令で控えていたライオス騎士団長が抜け殻のようになったフレデリック様の両脇を抱え部屋から連れ出していった。
一人になった部屋で私は大きく息を吐いた。
「……少し言い過ぎてしまいましたでしょうか」
心配になって陛下を見上げると彼は満面の笑みで私をぎゅっと抱きしめた。
「いや! 完璧だった! 100点満点どころか120点だ! よくぞ言った我が妃よ!」
「も、もう陛下……」
「素晴らしい! 実に爽快だった! 今夜は祝杯だ! 城中のワインを開けさせよう!」
子供のようにはしゃぐ陛下に私は呆れながらもつられて笑ってしまった。
これで本当に過去とのしがらみは全て断ち切れた。
その夜。
離宮の自室でアンナにお茶を淹れてもらいながら私はふと昼間の出来事を思い出していた。
「それにしてもあの古代魔法語……。おばあ様は一体どこであのような不思議な歌を覚えたのかしら」
私の問いにアンナは少し考え込んだ後、思い出したように言った。
「さあ……。ですがそういえば奥様……イリス様のお母様はおばあ様のことをよく気味悪がっておりました」
「え?」
「『あの人はまるで森の魔女のようだ』なんて言って……。おばあ様が亡くなられた時もどこかホッとしたようなご様子でしたね……」
森の魔女……?
優しいだけだと思っていた祖母にそんな一面があったなんて。
私の知らない祖母の秘密。
そして私の中に流れる不思議な力。
それは一体……。
そんな風に穏やかな謎に思いを馳せていたその時だった。
離宮の扉が慌ただしく叩かれた。
入ってきたのは血相を変えたダリウス宰相だった。
「陛下! 一大事でございます!」
彼のただならぬ様子に私とアレクシオス陛下は顔を見合わせる。
「どうしたダリウス。落ち着け」
「それが……! 先程アルメリア侯爵領から緊急の報せが!」
宰相はゴクリと息を飲んで衝撃の事実を告げた。
「セレーナ嬢が何者かに誘拐されたとのことでございます……!」
「そして犯人は……隣国の非合法魔術師ギルド『黒き蛇(ブラック・サーペント)』の者だと……!」
フレデリック様の悲痛な問い。
その瞳にはまだわずかな期待の色が残っている。私が感情的に彼を拒絶しているだけだとそう思いたいのだろう。
でも違う。
私の心は驚くほど静かだった。
私は彼の目を見つめ返しはっきりと告げた。
「許せないのではありませんフレデリック様」
「もうあなたに関心がないのです」
その言葉はどんな罵倒よりも彼の心を抉ったようだった。
彼の顔からサッと血の気が引いていく。
「あなたが捨てたのはあなただけを見つめあなたに尽くすためだけに生きていた都合のいい一人の女です」
「……」
「そして私が手に入れたもの。それはイリス・フォン・アルメリアという一人の人間をその心ごと愛し信じ守り抜いてくれるただ一人の男性です」
私は隣に立つアレクシオス陛下の手にそっと自分の手を重ねた。
陛下はその手を力強く握り返してくれる。
「私にはこの人と共に歩む未来があります。あなたがいる過去をいちいち振り返っている時間などもうないのです」
それが私の答えだった。
私の完全な決別宣言。
フレデリック様はがっくりと肩を落としもう何も言えずに俯いた。
もはや彼にできることは何もなかった。
全てが終わったのだ。
「……連れて行け」
アレクシオス陛下の短い命令で控えていたライオス騎士団長が抜け殻のようになったフレデリック様の両脇を抱え部屋から連れ出していった。
一人になった部屋で私は大きく息を吐いた。
「……少し言い過ぎてしまいましたでしょうか」
心配になって陛下を見上げると彼は満面の笑みで私をぎゅっと抱きしめた。
「いや! 完璧だった! 100点満点どころか120点だ! よくぞ言った我が妃よ!」
「も、もう陛下……」
「素晴らしい! 実に爽快だった! 今夜は祝杯だ! 城中のワインを開けさせよう!」
子供のようにはしゃぐ陛下に私は呆れながらもつられて笑ってしまった。
これで本当に過去とのしがらみは全て断ち切れた。
その夜。
離宮の自室でアンナにお茶を淹れてもらいながら私はふと昼間の出来事を思い出していた。
「それにしてもあの古代魔法語……。おばあ様は一体どこであのような不思議な歌を覚えたのかしら」
私の問いにアンナは少し考え込んだ後、思い出したように言った。
「さあ……。ですがそういえば奥様……イリス様のお母様はおばあ様のことをよく気味悪がっておりました」
「え?」
「『あの人はまるで森の魔女のようだ』なんて言って……。おばあ様が亡くなられた時もどこかホッとしたようなご様子でしたね……」
森の魔女……?
優しいだけだと思っていた祖母にそんな一面があったなんて。
私の知らない祖母の秘密。
そして私の中に流れる不思議な力。
それは一体……。
そんな風に穏やかな謎に思いを馳せていたその時だった。
離宮の扉が慌ただしく叩かれた。
入ってきたのは血相を変えたダリウス宰相だった。
「陛下! 一大事でございます!」
彼のただならぬ様子に私とアレクシオス陛下は顔を見合わせる。
「どうしたダリウス。落ち着け」
「それが……! 先程アルメリア侯爵領から緊急の報せが!」
宰相はゴクリと息を飲んで衝撃の事実を告げた。
「セレーナ嬢が何者かに誘拐されたとのことでございます……!」
「そして犯人は……隣国の非合法魔術師ギルド『黒き蛇(ブラック・サーペント)』の者だと……!」
573
あなたにおすすめの小説
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
婚約破棄を宣告した王子は慌てる?~公爵令嬢マリアの思惑~
岡暁舟
恋愛
第一王子ポワソンから不意に婚約破棄を宣告されることになった公爵令嬢のマリア。でも、彼女はなにも心配していなかった。ポワソンの本当の狙いはマリアの属するランドン家を破滅させることだった。
王家に成り代わって社会を牛耳っているランドン家を潰す……でも、マリアはただでは転ばなかった。
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
婚約破棄の夜の余韻~婚約者を奪った妹の高笑いを聞いて姉は旅に出る~
岡暁舟
恋愛
第一王子アンカロンは婚約者である公爵令嬢アンナの妹アリシアを陰で溺愛していた。そして、そのことに気が付いたアンナは二人の関係を糾弾した。
「ばれてしまっては仕方がないですわね?????」
開き直るアリシアの姿を見て、アンナはこれ以上、自分には何もできないことを悟った。そして……何か目的を見つけたアンナはそのまま旅に出るのだった……。
とある令嬢の勘違いに巻き込まれて、想いを寄せていた子息と婚約を解消することになったのですが、そこにも勘違いが潜んでいたようです
珠宮さくら
恋愛
ジュリア・レオミュールは、想いを寄せている子息と婚約したことを両親に聞いたはずが、その子息と婚約したと触れ回っている令嬢がいて混乱することになった。
令嬢の勘違いだと誰もが思っていたが、その勘違いの始まりが最近ではなかったことに気づいたのは、ジュリアだけだった。
皇太子殿下の御心のままに~悪役は誰なのか~
桜木弥生
恋愛
「この場にいる皆に証人となって欲しい。私、ウルグスタ皇太子、アーサー・ウルグスタは、レスガンティ公爵令嬢、ロベリア・レスガンティに婚約者の座を降りて貰おうと思う」
ウルグスタ皇国の立太子式典の最中、皇太子になったアーサーは婚約者のロベリアへの急な婚約破棄宣言?
◆本編◆
婚約破棄を回避しようとしたけれど物語の強制力に巻き込まれた公爵令嬢ロベリア。
物語の通りに進めようとして画策したヒロインエリー。
そして攻略者達の後日談の三部作です。
◆番外編◆
番外編を随時更新しています。
全てタイトルの人物が主役となっています。
ありがちな設定なので、もしかしたら同じようなお話があるかもしれません。もし似たような作品があったら大変申し訳ありません。
なろう様にも掲載中です。
結局、私の言っていたことが正しかったようですね、元旦那様?
睡蓮
恋愛
ルーグル伯爵は自身の妹リリアーナの事を溺愛するあまり、自身の婚約者であるエリナとの関係をおろそかにしてしまう。リリアーナもまたエリナに対する嫌がらせを繰り返し、その罪をすべてエリナに着せて楽しんでいた。そんなある日の事、エリナとの関係にしびれを切らしたルーグルはついにエリナとの婚約を破棄してしまう。その時、エリナからある言葉をかけられるのだが、負け惜しみに過ぎないと言ってその言葉を切り捨てる。それが後々、自分に跳ね返ってくるものとも知らず…。
なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?
ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。
だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。
これからは好き勝手やらせてもらいますわ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる