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第五十三話『最後の残り火、愚者の執念』
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フレデリック様が失踪……?
その報せに私たちは首を傾げるしかなかった。
今さらあの人が一体何をするというのだろう。
全てを失い表舞台から完全に消え去ったはずではなかったのか。
「ふん。なんだあの男は。しつこいにも程があるな。まるでゴキブリ並みの生命力ではないか」
アレクシオス陛下が心底うんざりしたように吐き捨てる。
「本当に懲りないお方ですわね……」
セレーナも呆れたようにため息をついた。
「わたくしがかつて婚約者として選んだ男(過去形)とはいえ自分の見る目のなさに涙がちょちょ切れそうですわ」
その反応はもっともだった。
フレデリック様はもはや私たちにとって何の脅威でもない過去の遺物のはず。
しかし私の胸にはなぜか小さな黒い染みのような不安が広がっていた。
あのサン・テラでの激しい戦い。
本当に全て終わったのだろうか。
何か見落としていることはないだろうか……。
その私の不安は残念ながら的中することになる。
その頃リンドール王国の遥か北。
雪深い辺境の領地。
フレデリックが代官として送られたその場所で。
一人の邪悪な魔術師がほくそ笑んでいた。
彼は『黒き蛇』の本当に最後の最後の生き残りだった。
サン・テラでの決戦の際、命からがらその場から逃げ出し復讐の機会を虎視眈々と窺っていたのだ。
そして彼は見つけ出した。
最高のそして最も操りやすい復讐の道具を。
聖女イリスに深い歪んだ執着を抱く哀れな男フレデリックを。
魔術師はバジリスクが死の間際に残した寄生神の細胞の一部。
それをフレデリックの体に埋め込んだ。
「イリス……イリス……イリス……!」
寄生神の邪悪な力はフレデリックの歪んだ執着心を何百倍にも増幅させた。
彼の人間としての理性は完全に喰い尽くされる。
その体はおぞましい怪物の姿へと変貌を遂げていった。
ただひたすらにイリスを求めイリスを自分のものにすることだけを渇望する哀れな化け物へと。
「そうだそれでいい……。行けフレデリック……。そして我らの最後の復讐を果たすのだ……」
「聖女イリスをその手で絶望の淵へと叩き落とせ……!」
魔術師は高らかに笑いそして自らの命を怪物の最後の糧として捧げた。
数日後。
サン・テラでの全ての後処理を終えリンドール城へと帰還した私たち。
その凱旋を祝うべき日の夜だった。
城に警鐘が鳴り響いた。
「敵襲! 敵襲ーッ!」
「正体不明の怪物が城壁を破り城内へ侵入!」
私たちは慌ててバルコニーへと駆け出した。
眼下ではリンドール騎士団が一体の巨大な怪物と激しい戦闘を繰り広げている。
その怪物は人間離れした再生能力を持ち騎士たちの剣を何度受けてもすぐにその傷を再生させてしまう。
そしてその怪物の顔を見て私は絶句した。
そこにはかつての私の婚約者フレデリックの面影が確かに残っていたからだ。
「イリス……!」
怪物が私に気づきその歪んだ顔を歓喜に歪ませた。
「イリス! イリス! やっと会えたな!」
「さあ私の元へ来い! あの忌々しい王の手から今度こそお前を取り返してやる!」
それは最後のそして最も醜悪な因縁との再会だった。
その報せに私たちは首を傾げるしかなかった。
今さらあの人が一体何をするというのだろう。
全てを失い表舞台から完全に消え去ったはずではなかったのか。
「ふん。なんだあの男は。しつこいにも程があるな。まるでゴキブリ並みの生命力ではないか」
アレクシオス陛下が心底うんざりしたように吐き捨てる。
「本当に懲りないお方ですわね……」
セレーナも呆れたようにため息をついた。
「わたくしがかつて婚約者として選んだ男(過去形)とはいえ自分の見る目のなさに涙がちょちょ切れそうですわ」
その反応はもっともだった。
フレデリック様はもはや私たちにとって何の脅威でもない過去の遺物のはず。
しかし私の胸にはなぜか小さな黒い染みのような不安が広がっていた。
あのサン・テラでの激しい戦い。
本当に全て終わったのだろうか。
何か見落としていることはないだろうか……。
その私の不安は残念ながら的中することになる。
その頃リンドール王国の遥か北。
雪深い辺境の領地。
フレデリックが代官として送られたその場所で。
一人の邪悪な魔術師がほくそ笑んでいた。
彼は『黒き蛇』の本当に最後の最後の生き残りだった。
サン・テラでの決戦の際、命からがらその場から逃げ出し復讐の機会を虎視眈々と窺っていたのだ。
そして彼は見つけ出した。
最高のそして最も操りやすい復讐の道具を。
聖女イリスに深い歪んだ執着を抱く哀れな男フレデリックを。
魔術師はバジリスクが死の間際に残した寄生神の細胞の一部。
それをフレデリックの体に埋め込んだ。
「イリス……イリス……イリス……!」
寄生神の邪悪な力はフレデリックの歪んだ執着心を何百倍にも増幅させた。
彼の人間としての理性は完全に喰い尽くされる。
その体はおぞましい怪物の姿へと変貌を遂げていった。
ただひたすらにイリスを求めイリスを自分のものにすることだけを渇望する哀れな化け物へと。
「そうだそれでいい……。行けフレデリック……。そして我らの最後の復讐を果たすのだ……」
「聖女イリスをその手で絶望の淵へと叩き落とせ……!」
魔術師は高らかに笑いそして自らの命を怪物の最後の糧として捧げた。
数日後。
サン・テラでの全ての後処理を終えリンドール城へと帰還した私たち。
その凱旋を祝うべき日の夜だった。
城に警鐘が鳴り響いた。
「敵襲! 敵襲ーッ!」
「正体不明の怪物が城壁を破り城内へ侵入!」
私たちは慌ててバルコニーへと駆け出した。
眼下ではリンドール騎士団が一体の巨大な怪物と激しい戦闘を繰り広げている。
その怪物は人間離れした再生能力を持ち騎士たちの剣を何度受けてもすぐにその傷を再生させてしまう。
そしてその怪物の顔を見て私は絶句した。
そこにはかつての私の婚約者フレデリックの面影が確かに残っていたからだ。
「イリス……!」
怪物が私に気づきその歪んだ顔を歓喜に歪ませた。
「イリス! イリス! やっと会えたな!」
「さあ私の元へ来い! あの忌々しい王の手から今度こそお前を取り返してやる!」
それは最後のそして最も醜悪な因縁との再会だった。
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