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第五十四話『リンドール城の決戦、そして…』
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「イリスは私のものだッ!」
変わり果てたフレデリック様の姿。
彼の狂気に満ちた叫びがリンドール城の夜空に響き渡る。
彼は城壁をいとも簡単に駆け上がると私たちがいるバルコニーへとその巨体を躍らせた。
「させるかッ!」
アレクシオス陛下が聖剣を抜き放ち私の前に立ちはだかる。
二つの異常な力が激突した。
「どけ! リンドールの王よ! イリスは元々私の婚約者だったのだ! それを貴様が横から奪い取った!」
「戯言を! 貴様がその手で彼女を捨てたのだろうが!」
激しい剣戟。
しかし相手は寄生神の驚異的な再生能力を持っている。
陛下が聖剣でその腕を切り落としてもすぐにおぞましい肉塊が蠢き元通りに再生してしまう。
「無駄だ無駄だ! 今の私には神の力が宿っているのだ! お前ごときに傷一つつけられはしない!」
フレデリック様は高笑いするとその矛先を私へと向けた。
「イリス! さあ私のためにあの頃のように美しい歌を歌ってくれ! 私の勝利を祝福する歌を!」
「黙れ外道がッ!」
アレクシオス陛下が激昂する。
「彼女のその天使のような歌声はこの私のものだ! 貴様のような醜悪な怪物に聞かせてやる歌など一曲たりとも存在しないわ!」
(あの……陛下……。そういう問題ではないような……)
私は緊迫した戦いの最中、心の中でそっとツッコミを入れた。
「お姉様、危ない!」
セレーナが守り手の力で地面から蔓の壁を作り出し私を守ってくれる。
私も聖女の力を解放し浄化の光をフレデリック様に放った。
しかし彼の私へのあまりに深い執念が寄生神の力をさらに増幅させているのか浄化の光さえも弾き返されてしまう。
このままでは埒が明かない。
そう思ったその時だった。
陛下の聖剣の一撃がフレデリック様の仮面のように歪んだ顔を深く切り裂いた。
その瞬間怪物の動きがぴたりと止まる。
そしてその傷口の奥から一瞬だけ。
ほんの一瞬だけかつてのフレデリック様の理性の光が宿った。
「……イリス……」
彼の瞳が私を捉える。
そこには狂気ではなく深い深い後悔の色が浮かんでいた。
「……すま……な……い……」
彼は目で私に訴えていた。
もう楽にしてくれと。
これ以上醜い化け物として生き恥を晒す前に自分をその手で終わらせてくれと。
私は覚悟を決めた。
「陛下!」
「……ああ分かっている!」
私と陛下の心が通じ合う。
陛下が聖剣に全ての力を込めてフレデリック様の両腕を城の壁に縫い付けた。
「今だイリス!」
私は両手を天に掲げた。
そして私の聖女の力のその全てを一本の鋭い光の槍へと変える。
狙うは彼の心臓。
いやその心臓に巣食う寄生神の邪悪な細胞ただ一点のみ。
「……さようならフレデリック様」
私の手から放たれた最後の浄化の光。
それは寸分の狂いもなく彼の胸を貫いた。
「ああ……」
フレデリック様の体から寄生神の邪悪な細胞が黒い煙となって消滅していく。
彼の歪んだ顔にほんの一瞬だけ安らかな笑みが浮かんだように見えた。
そして彼は力なくその場に崩れ落ちた。
今度こそ本当に全ての因縁が断ち切られたのだ。
戦いが終わった。
アレクシオス陛下は私の手を取り静かに城の一番高い場所にあるバルコニーへと私を導いた。
眼下にはリンドール王国の美しい夜景が広がっている。
「イリス」
陛下が私の名前を優しく呼ぶ。
「長かったな。本当に色々なことがあった。だがこれでようやく……」
彼の言葉の続きを私は静かに待った。
変わり果てたフレデリック様の姿。
彼の狂気に満ちた叫びがリンドール城の夜空に響き渡る。
彼は城壁をいとも簡単に駆け上がると私たちがいるバルコニーへとその巨体を躍らせた。
「させるかッ!」
アレクシオス陛下が聖剣を抜き放ち私の前に立ちはだかる。
二つの異常な力が激突した。
「どけ! リンドールの王よ! イリスは元々私の婚約者だったのだ! それを貴様が横から奪い取った!」
「戯言を! 貴様がその手で彼女を捨てたのだろうが!」
激しい剣戟。
しかし相手は寄生神の驚異的な再生能力を持っている。
陛下が聖剣でその腕を切り落としてもすぐにおぞましい肉塊が蠢き元通りに再生してしまう。
「無駄だ無駄だ! 今の私には神の力が宿っているのだ! お前ごときに傷一つつけられはしない!」
フレデリック様は高笑いするとその矛先を私へと向けた。
「イリス! さあ私のためにあの頃のように美しい歌を歌ってくれ! 私の勝利を祝福する歌を!」
「黙れ外道がッ!」
アレクシオス陛下が激昂する。
「彼女のその天使のような歌声はこの私のものだ! 貴様のような醜悪な怪物に聞かせてやる歌など一曲たりとも存在しないわ!」
(あの……陛下……。そういう問題ではないような……)
私は緊迫した戦いの最中、心の中でそっとツッコミを入れた。
「お姉様、危ない!」
セレーナが守り手の力で地面から蔓の壁を作り出し私を守ってくれる。
私も聖女の力を解放し浄化の光をフレデリック様に放った。
しかし彼の私へのあまりに深い執念が寄生神の力をさらに増幅させているのか浄化の光さえも弾き返されてしまう。
このままでは埒が明かない。
そう思ったその時だった。
陛下の聖剣の一撃がフレデリック様の仮面のように歪んだ顔を深く切り裂いた。
その瞬間怪物の動きがぴたりと止まる。
そしてその傷口の奥から一瞬だけ。
ほんの一瞬だけかつてのフレデリック様の理性の光が宿った。
「……イリス……」
彼の瞳が私を捉える。
そこには狂気ではなく深い深い後悔の色が浮かんでいた。
「……すま……な……い……」
彼は目で私に訴えていた。
もう楽にしてくれと。
これ以上醜い化け物として生き恥を晒す前に自分をその手で終わらせてくれと。
私は覚悟を決めた。
「陛下!」
「……ああ分かっている!」
私と陛下の心が通じ合う。
陛下が聖剣に全ての力を込めてフレデリック様の両腕を城の壁に縫い付けた。
「今だイリス!」
私は両手を天に掲げた。
そして私の聖女の力のその全てを一本の鋭い光の槍へと変える。
狙うは彼の心臓。
いやその心臓に巣食う寄生神の邪悪な細胞ただ一点のみ。
「……さようならフレデリック様」
私の手から放たれた最後の浄化の光。
それは寸分の狂いもなく彼の胸を貫いた。
「ああ……」
フレデリック様の体から寄生神の邪悪な細胞が黒い煙となって消滅していく。
彼の歪んだ顔にほんの一瞬だけ安らかな笑みが浮かんだように見えた。
そして彼は力なくその場に崩れ落ちた。
今度こそ本当に全ての因縁が断ち切られたのだ。
戦いが終わった。
アレクシオス陛下は私の手を取り静かに城の一番高い場所にあるバルコニーへと私を導いた。
眼下にはリンドール王国の美しい夜景が広がっている。
「イリス」
陛下が私の名前を優しく呼ぶ。
「長かったな。本当に色々なことがあった。だがこれでようやく……」
彼の言葉の続きを私は静かに待った。
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