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第五十五話『世界で一番のプロポーズ』
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リンドール城の一番高いバルコニー。
眼下に広がる美しい王都の灯りを二人で見下ろす。
ようやく訪れた静寂。
全ての戦いが本当に終わったのだ。
アレクシオス陛下は私の手を取ったままゆっくりとその場にひざまずいた。
「イリス」
彼の真剣なアメジストの瞳がまっすぐに私を見つめている。
「君と初めて出会ったのは夜会のあの絶望の夜だった。いや本当はもっとずっと昔、十年前のあの森の中だったな」
彼は少し照れくさそうに笑った。
「それから本当に色々なことがあった。君が聖女だと分かったり南の国の王女だと判明したり……。正直驚きの連続だったよ」
「でもねイリス」
陛下は私の手を自分の胸にそっと当てた。
「私が愛した理由はそんな君の特別な力や高貴な身分なんかじゃない」
「私が心から愛しているのはどんなに辛い状況に置かれても決してその優しさと気高さを失わなかった君という一人の人間だ」
「不遇に耐えそれでも他者を思いやれるその強く美しい魂に私はどうしようもなく惹かれたんだ」
彼の飾らない心からの言葉。
一つ一つが私の心に温かく染み渡っていく。
私の瞳から涙が一筋また一筋とこぼれ落ちた。
「だからイリス・フォン・アルメリア」
「聖女でも王女でもないただのイリスとして聞いてほしい」
「どうか私の本当の妻になってください。生涯をかけて君を世界で一番幸せにすることをここに誓う」
それは世界で一番誠実でそして甘いプロポーズだった。
私は涙でぐしゃぐしゃの顔のままそれでも精一杯の笑顔で答えた。
「……はいっ……!」
「喜んで……!」
私の答えを聞いた陛下は満面の笑みを浮かべると私の薬指に美しい蒼い宝石が輝く指輪をそっとはめてくれた。
しかしその手は感動のあまりか少しだけ震えていた。
「だ、だめだ……。緊張でうまく力が入らん……」
「陛下、しっかりしてくださいませ」
「う、うるさい! 男にはこういう不器用な時があるんだ!」
その愛らしい姿に私たちは二人で顔を見合わせて笑い合った。
その瞬間眼下の王都の広場から私たちの姿を見守っていた民衆たちの割れんばかりの歓声と祝福の拍手が夜空に響き渡った。
数日後。
リンドール王城では私たちの盛大な結婚式が執り行われた。
式にはサン・テラの新女王となったセレーナが立派な姿で駆けつけてくれた。
水の都からはすっかり元気になったリーナ様とヴァスコ総督も。
かつて敵対したリンドール公爵も今では心からの笑顔で私たちを祝福してくれている。
アンナは式の最初から最後まで感動で号泣しっぱなしだった。
いつもポーカーフェイスのライオス団長もその目頭をほんの少しだけ熱くしているのが見えた。
たくさんの人々に祝福されて。
私はアレクシオス陛下の本当の妻になった。
そしてその夜。
ようやく二人きりになれた月の離宮で。
私たちはバルコニーに立ち美しい月を眺めていた。
「これからどんな未来が待っているのかしら」
私の独り言のような呟きに陛下は私を後ろから優しく抱きしめて答えた。
「さあな。でも一つだけ確かなことがある」
「君と一緒ならばどんな未来も間違いなく最高の未来だ」
私たちはどちらからともなく顔を寄せ合い幸せなそして永遠を誓うキスを交わした。
こうして私イリス・フォン・アルメリアの波乱に満ちた物語は最高のハッピーエンドを迎えたのだった。
眼下に広がる美しい王都の灯りを二人で見下ろす。
ようやく訪れた静寂。
全ての戦いが本当に終わったのだ。
アレクシオス陛下は私の手を取ったままゆっくりとその場にひざまずいた。
「イリス」
彼の真剣なアメジストの瞳がまっすぐに私を見つめている。
「君と初めて出会ったのは夜会のあの絶望の夜だった。いや本当はもっとずっと昔、十年前のあの森の中だったな」
彼は少し照れくさそうに笑った。
「それから本当に色々なことがあった。君が聖女だと分かったり南の国の王女だと判明したり……。正直驚きの連続だったよ」
「でもねイリス」
陛下は私の手を自分の胸にそっと当てた。
「私が愛した理由はそんな君の特別な力や高貴な身分なんかじゃない」
「私が心から愛しているのはどんなに辛い状況に置かれても決してその優しさと気高さを失わなかった君という一人の人間だ」
「不遇に耐えそれでも他者を思いやれるその強く美しい魂に私はどうしようもなく惹かれたんだ」
彼の飾らない心からの言葉。
一つ一つが私の心に温かく染み渡っていく。
私の瞳から涙が一筋また一筋とこぼれ落ちた。
「だからイリス・フォン・アルメリア」
「聖女でも王女でもないただのイリスとして聞いてほしい」
「どうか私の本当の妻になってください。生涯をかけて君を世界で一番幸せにすることをここに誓う」
それは世界で一番誠実でそして甘いプロポーズだった。
私は涙でぐしゃぐしゃの顔のままそれでも精一杯の笑顔で答えた。
「……はいっ……!」
「喜んで……!」
私の答えを聞いた陛下は満面の笑みを浮かべると私の薬指に美しい蒼い宝石が輝く指輪をそっとはめてくれた。
しかしその手は感動のあまりか少しだけ震えていた。
「だ、だめだ……。緊張でうまく力が入らん……」
「陛下、しっかりしてくださいませ」
「う、うるさい! 男にはこういう不器用な時があるんだ!」
その愛らしい姿に私たちは二人で顔を見合わせて笑い合った。
その瞬間眼下の王都の広場から私たちの姿を見守っていた民衆たちの割れんばかりの歓声と祝福の拍手が夜空に響き渡った。
数日後。
リンドール王城では私たちの盛大な結婚式が執り行われた。
式にはサン・テラの新女王となったセレーナが立派な姿で駆けつけてくれた。
水の都からはすっかり元気になったリーナ様とヴァスコ総督も。
かつて敵対したリンドール公爵も今では心からの笑顔で私たちを祝福してくれている。
アンナは式の最初から最後まで感動で号泣しっぱなしだった。
いつもポーカーフェイスのライオス団長もその目頭をほんの少しだけ熱くしているのが見えた。
たくさんの人々に祝福されて。
私はアレクシオス陛下の本当の妻になった。
そしてその夜。
ようやく二人きりになれた月の離宮で。
私たちはバルコニーに立ち美しい月を眺めていた。
「これからどんな未来が待っているのかしら」
私の独り言のような呟きに陛下は私を後ろから優しく抱きしめて答えた。
「さあな。でも一つだけ確かなことがある」
「君と一緒ならばどんな未来も間違いなく最高の未来だ」
私たちはどちらからともなく顔を寄せ合い幸せなそして永遠を誓うキスを交わした。
こうして私イリス・フォン・アルメリアの波乱に満ちた物語は最高のハッピーエンドを迎えたのだった。
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