妹が私の全てを奪いました。婚約者も家族も。でも、隣国の国王陛下が私を選んでくれました

放浪人

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第五十六話『女王セレーナの多忙な一日』

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(本話はセレーナの一人称視点でお送りします)

「女王サマー! 朝ですヨ! サンシャインが女王様のビューティフルなお目覚めを待ちわびていマース!」

けたたましい声と共に私の寝室の扉が勢いよく開かれた。
現れたのは私の教育係兼宰相代理を務めるカルロスさん。
その無駄に高いテンションは朝から私の頭にキーンと響く。

「……あと五分……」
「ノー! ファイブミニッツ! 女王たるもの太陽より早く起きるのがデスティニー(運命)デース!」

ベッドから無理やり引きずり出される。
ああお姉様が女王にならなくて本当に良かったと心の底から思う瞬間だった。

私がこのサン・テラ王国の女王に即位してから早三ヶ月。
その日々は私がかつてアルメリア侯爵家で送っていた優雅な生活とは百八十度違っていた。

朝は山のような執務書類との格闘から始まる。
治水工事の計画書、隣国との貿易協定の見直し、国民からの陳情書……。
今まで見たこともないような難しい漢字の羅列に私の頭は毎日ショート寸前だ。

「うぅ……。この予算案の数字全く意味が分かりませんわ……」
執務室で私がペンを放り出して机に突っ伏していると。

「女王サマ! スリープは夜にするものデース! さあシャキッとプリーズ!」
カルロスさんがどこからか冷たい水の入ったグラスを私の額にぴとっと当ててくる。

「ひゃっ!?」

そんなスパルタ教育を受けながらも私はなんとか女王としての務めを果たしていた。
私がこの国でまず最初に取り組んだこと。
それは守り手としての力を使って枯れ果てた大地を少しずつ癒していくことだった。

最初は、お城の庭の小さな花壇から。
今では王都の周りの畑が緑の恵みでいっぱいになるまでに回復した。
民たちはそんな私を「若き緑の女王」と呼び心からの信頼を寄せてくれている。
それはかつて誰かから奪うことでしか得られなかった私にとって初めての本物の誇りだった。

そんな私の、一番の心の支え。
それは月に一度リンドール王国から届くお姉様からの手紙だった。
そこにはお姉様の優しくそして温かい言葉がいつも綴られている。

『――セレーナ、元気にしていますか? あなたの頑張りは、こちらまで届いていますよ。でもあまり無理はしないでね――』

その手紙を夜ベッドの中で繰り返し読むのが私の一番の幸せな時間だった。

時々その手紙にアンナ先輩からの追伸が添えられていることがある。
『女王としての心得百箇条その三十八! 民の前であくびをしないこと!』
といった厳しい厳しいダメ出しリストだ。
それを読むたびに私は少しだけ泣きそうになるけれど。

ある日の午後。
そんな私の元に一つの報せが舞い込んだ。

「女王サマ! 隣のアジュール王国から友好の使者として第一王子が表敬訪問にいらっしゃいましたデース!」

「まあ王子様が?」
私は慌てて身なりを整え謁見の間へと向かった。

そこに立っていたのは。
海のように深い青色の髪と空のように澄んだ瞳を持つとてもとても美しい青年だった。
彼は私を見るなりその場に優雅にひざまずき私の手を取った。

「お初にお目にかかりますセレーナ女王陛下。私アジュール王国第一王子マリウスと申します」
「あなたのその美しさと気高さの噂は我が国まで届いております。どうか私と友好の証を……」

その甘い声と熱のこもった視線。
私の女王としての冷静な心が少しだけぐらりと揺れた。

(こ、このパターンは……!)

もしかしたらこれは私に訪れた新しい恋の始まり……なのかもしれない。
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