妹が私の全てを奪いました。婚約者も家族も。でも、隣国の国王陛下が私を選んでくれました

放浪人

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第六十話『未来へ続く物語』

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(本話はイリスの一人称視点でお送りします)

最近少しだけ体の調子が優れない。
朝起きるのが少し億劫だったり。
大好きだったレモンのタルトがなぜか食べたくなくなったり。

そんな私の小さな変化に誰よりも早く気づいてくれたのはやはり侍女のアンナだった。
彼女は私の体調を心配しこっそりと城の侍医を呼んでくれた。

そして侍医から告げられた診断結果。

「……おめでとうございます妃殿下。ご懐妊三ヶ月でございます」

私とアレクシオス陛下の赤ちゃん。
新しい命がこのお腹の中に宿っている。

その事実がゆっくりと私の心に染み渡っていく。
喜びとそしてほんの少しの母親になることへの不安。
色々な感情がごちゃ混ぜになって涙が溢れてきた。

その夜私はアレクシオス陛下にそのことを打ち明けた。

「……陛下。あの私……」
「私たちの赤ちゃんが……できました」

私の言葉を聞いた陛下は最初きょとんとしていた。
そしてその言葉の意味を理解した瞬間。

「……え……。えええええええええええええええっ!?」

彼は天にも昇るかのような大歓声を上げた。

「本当かイリス! 私と君の子供が……! 私が父親に……! やった、やったぞーーーっ!」
陛下は私を軽々と抱き上げると部屋の中をくるくると回り始める。

そしてそのままの勢いでバルコニーに出ると国中に向かって叫んだ。

「聞けーーーっ! リンドールの民よ! 我が妃イリスが懐妊したぞーーーっ!」
「よって明日より一ヶ月間国を挙げての盛大なる『懐妊祝い祭り』を開催する!」

「へ、陛下!?」
「今すぐライオスに祭りの準備を命じなければ!」

もちろんそのあまりに気が早すぎるお祭りの計画は駆けつけたライオス団長によって全力で阻止された。

私の懐妊の知らせはすぐに世界中を駆け巡った。

サン・テラからは女王となったセレーナが山のようなお祝いの品々と共に駆けつけてくれた。
「お姉様! おめでとうございます! 私叔母になるのですわね! 今から名前を考えておきますわ!」

商業ギルドを見事に立て直したロザリア様もお祝いに来てくれた。
「まあ妃殿下! 本当におめでとうございます。ギルドの総力を挙げて世界一安全なベビーベッドを作らせますわ!」

水の都のリーナ様からも祝福の手紙が届いた。
みんなが新しい命の誕生を自分のことのように喜んでくれた。

穏やかで幸せな時間が流れていく。
私は大きくなってきた自分のお腹を愛おしそうに撫でた。

(……こんにちは赤ちゃん)
心の中で語りかける。

(あなたには本当にたくさんの優しい人たちがついているわ)
(お父様も叔母様もアンナもライオス団長もみんなあなたが生まれてくるのを心待ちにしている)

これからあなたが生きていくこの世界。
それが争いのない平和でそしてたくさんの愛に満ちた世界であるように。
私はこの国の王妃としてそしてあなたの母としてこのかけがえのない幸せをずっとずっと守り続けていこう。

そう誓ったその時。
アレクシオス陛下が私を後ろから優しく抱きしめてくれた。

「……愛しているよイリス」

彼の温かい胸に身を委ねる。

「私たちの未来も。そしてこれから生まれてくる私たちの宝物も」

私たちは顔を見合わせそして幸せに微笑み合った。

私の物語はここで一つの区切りを迎える。
けれどそれは決して終わりではない。

これから生まれてくる新しい命と共に。
私たちの物語は未来へとどこまでもどこまでも続いていくのだから。

―― 完 ――
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