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第12話:国一番の淑女
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建国記念の祝典。 それは、この国で最も格式高く、そして最も残酷な選別の場でもあります。
王宮の白亜の大広間に集うのは、選ばれし王侯貴族のみ。 ここで失敗すれば、翌日には社交界での席を失うと言われるほどの緊張感が、煌びやかな空気の下に張り詰めていました。
「……震えているか? アリア」
エスコートするクラウス様が、私の耳元で囁きました。 私はふっと息を吐き、口角を上げました。
「武者震いですわ、閣下。これほどの晴れ舞台、私の『復讐劇』の仕上げにはお誂え向きではありませんか」
「フッ、頼もしいことだ」
今日の私は、公爵家の威信をかけた特注のドレスを身に纏っています。 色は「アイスブルー」。クラウス様の瞳と同じ色。 銀糸で刺繍された雪の結晶の文様が、動くたびに光を反射し、まるで冬の夜空を纏っているかのような輝きを放っていました。
髪には、王家から下賜されたという由緒あるダイヤモンドのティアラ。 これは本来、公爵夫人しか身につけることを許されないものです。 それを「秘書官」である私につけさせたクラウス様の意図は、明白でした。
『こいつに手を出すな。こいつは俺のモノだ』
そんな無言の警告を、全身で表現しているようなものです。
「参りましょう、アリア。私の隣を歩く覚悟はできているな?」
「ええ。地獄の底まででも」
大扉が開かれます。 ファンファーレが鳴り響き、衛兵が声を張り上げました。
「ラインハルト公爵、クラウス・フォン・ラインハルト閣下! ならびに、そのパートナー、アリア・ベルンシュタイン嬢!」
数百の視線が、一斉に私たちに突き刺さりました。 その中には、好奇心、羨望、そして隠しきれない嫉妬が含まれています。
かつて「貧乏伯爵の娘」「地味な女」と嘲笑された私が、今、この国で最も権力のある男の隣に立っている。 それが許せない者たちも多いでしょう。
けれど、私は背筋を伸ばし、堂々と歩き出しました。 カツ、カツ、カツ。 ヒールの音が、静まり返ったホールに響きます。
「……なんて美しいの」 「あれが本当に、あのベルンシュタイン家の?」 「氷の精霊のようだわ……」
ささやき声が聞こえてきます。 もはや嘲笑ではありません。 畏怖と、称賛です。
私たちは玉座の前まで進み、国王陛下と王妃殿下に最敬礼を行いました。
「面を上げよ」
国王陛下の威厳ある声。 顔を上げると、陛下は興味深そうに私を見ていました。
「ラインハルト公。噂は聞いておるぞ。なんでも、そちの『新しい秘書官』は、我が国の外交危機を救い、腐敗した貴族を排除し、さらにはあのじゃじゃ馬娘のエリザベートを手懐けたとか」
「過分なお言葉です、陛下。彼女は少々、やりすぎるきらいがありますが」
クラウス様が肩をすくめると、隣に座っていたエリザベート王女殿下が、扇子で口元を隠してウィンクをしてきました。 私たち、もうマブダチ(死語ですが、気分的にはそうです)ですからね。
「ほう。……アリアと言ったな」
陛下が私に問いかけました。
「そちの望みは何だ? これほどの功績、褒美を取らせてもよいぞ」
試されています。 ここで金銭や地位をねだれば、私はただの「欲深い女」として評価されるでしょう。 公爵のパートナーとしての品格が問われる場面です。
私は静かに一歩進み出ました。
「陛下。もったいないお言葉、身に余る光栄です。ですが、私はすでに十分な褒美をいただいております」
「ほう? それは何だ?」
「ラインハルト公爵閣下の隣で、この国の安寧のために尽くせる『機会』と『誇り』です。これ以上の宝石も、地位も、私には不要でございます」
優等生すぎる回答かもしれません。 ですが、これが正解です。 「私欲はありません。公爵と国に尽くします」というアピール。
陛下は満足げに頷きました。
「無欲か。あるいは、公爵そのものを手に入れたという自負か。……よいだろう、楽しむがよい」
最初の関門は突破しました。 私たちは一礼して下がり、ホールの中心へと移動しました。
しかし、平和な時間は長くは続きません。 「国一番の淑女」の座を狙うハイエナたちが、牙を剥いて待ち構えていたのです。
◇
「ごきげんよう、アリア様」
声をかけてきたのは、恰幅の良い初老の男性でした。 胸には勲章をジャラジャラとつけ、いかにも「権威」を服にして歩いているような人物です。
私の脳内データベースが即座に検索結果を弾き出します。 『式部卿・ゼフィルス伯爵。保守派の筆頭。家柄至上主義者で、新興貴族や没落貴族を毛嫌いしている』
「ごきげんよう、ゼフィルス様」
私は完璧なカーテシーで返しました。 クラウス様は別の貴族に捕まっており、少し離れた場所にいます。 狙い澄ましたようなタイミングです。
「いやはや、驚きましたな。没落した家の娘が、公爵閣下のパートナーとして建国祭に参加されるとは。……時代も変わったものです」
ゼフィルス伯爵は、笑顔のまま毒を吐きます。
「ですが、アリア様。貴女はご存知かな? この建国祭には、古くからの『しきたり』があることを」
「しきたり、ですか?」
「ええ。建国の英雄たちが愛した『四季の詩』になぞらえ、その年の主要な女性参加者が、即興で詩を詠み、花を生けるという教養の儀式です」
周囲の貴族たちが、ニヤニヤしながら集まってきました。 これは公開処刑の場です。 貧乏生活が長かった私に、そんな高尚な教養があるはずがないと踏んでいるのです。
「さあ、アリア様。公爵閣下のパートナーにふさわしい教養をお持ちか、ここで証明していただきたい。……もしできなければ、閣下の顔に泥を塗ることになりますが」
伯爵が合図をすると、使用人がワゴンを押してきました。 そこには、季節外れの花々や、雑草に近い野草が無造作に積まれています。 そして、詩を書き記すための羊皮紙とペン。
「お題は『冬の終わりと春の訪れ』です。さあ、どうぞ」
意地悪です。 用意された花材は、枯れかけた薔薇や、トゲだらけのヒイラギ、そして泥のついたタンポポなど、美しい生け花を作るにはあまりに粗末なものばかり。 これで失敗すれば、「美意識のない女」として笑い者にされるでしょう。
私は花材を見つめ、ふっと笑いました。
「……ゼフィルス様。貴方は花がお好きですか?」
「は? まあ、嗜む程度には」
「そうですか。では、教えて差し上げましょう。花に貴賎はありません。あるのは、それを扱う人間の『心』の美醜だけです」
私は迷わず、泥のついたタンポポを手に取りました。 周囲から「あれを使うのか?」「貧乏人にはお似合いだ」という失笑が漏れます。
私はタンポポの泥をあえて払わず、ガラスの花器に水を張り、そこに一輪だけ浮かべました。 そして、枯れかけた薔薇の花びらを一枚一枚丁寧にちぎり、タンポポの周りに散らしました。 最後に、トゲのあるヒイラギの枝を一本、鋭く空に向かって立てました。
所要時間、わずか三分。 完成した作品は、一見すると前衛的で、奇妙なものでした。
「……な、なんだこれは? ゴミを並べただけではないか!」
ゼフィルス伯爵が嘲笑しました。
「これだから素人は。美しさの欠片もない!」
「美しさとは、表面的な綺麗さだけではありません」
私は静かに羊皮紙にペンを走らせ、詩を書き上げました。 そして、朗々と読み上げました。
『氷雪の檻(ヒイラギ)を突き破り 血の涙(枯れた薔薇)を糧として 泥の中より黄金の星(タンポポ)は咲う これぞ、我が国の興りなり』
会場が静まり返りました。
「……解説いたします」
私は伯爵を真っ直ぐに見据えました。
「我が国の建国神話によれば、始祖王アルトリウスは、長く続いた冬の時代と戦乱の血の海を越え、泥沼の荒野に最初の城を築いたとされています。このタンポポは、泥の中でも強く咲く『希望』と『民草』の象徴。枯れた薔薇は、尊い犠牲。ヒイラギは、困難を切り裂く剣です」
私は一歩踏み込みました。
「ゼフィルス様。貴方が『ゴミ』と呼んだこのタンポポこそが、我が国の礎となった民の姿。それを否定することは……建国の精神を否定することと同義ではありませんか?」
「なっ……!?」
伯爵の顔色が、赤から青、そして白へと変わっていきました。 建国祭の場で、建国の精神を否定したとなれば、不敬罪にも問われかねません。
「そ、そんなつもりでは……! 私はただ、美的な観点から……!」
「真の美とは、歴史と精神の中に宿るものです。……見た目の華やかさだけに囚われるのは、三流の芸術家のすることですわ」
私が言い放った瞬間、パチパチパチ……と、一人分の拍手が聞こえました。 国王陛下でした。
「見事だ!」
陛下が玉座から立ち上がり、拍手を送っています。
「泥中のタンポポを民と見立て、建国の苦難を表現するとは。……ゼフィルスよ、一本取られたな」
「へ、陛下……!」
「アリアと言ったな。そちの解釈、実に気に入った。最近の貴族どもは、見た目の派手さばかり競って、この『泥臭い強さ』を忘れておったわ」
陛下が笑うと、会場全体から割れんばかりの拍手が巻き起こりました。 ゼフィルス伯爵は小さくなり、逃げるように人混みへと消えていきました。
「……またやったな、猛獣使い」
いつの間にか戻ってきたクラウス様が、私の腰に手を回しました。
「助けに来るのが遅いですわ、閣下」
「必要なかっただろう? お前なら、あの古狸くらい料理できると信じていた」
「買い被りすぎです。……心臓が止まるかと思いました」
「嘘をつけ。目が楽しそうだったぞ」
クラウス様は私の耳元で囁き、そしてホールの中心へと私をエスコートしました。
「さあ、仕上げだ。アリア」
オーケストラが、ワルツの調べを奏で始めました。 今夜のメインイベント、ファーストダンスです。
本来なら王族が踊る場面ですが、陛下が「今日の主役は若い二人だ」と譲ってくださったのです。 スポットライトが私たちを照らします。
「……私が、こんな場所に立つなんて」
公爵様の腕の中で回りながら、私は走馬灯のように過去を思い出しました。 借金取りに追われた日々。 カミロに婚約破棄された屈辱。 雨の中、公爵邸の門を叩いた絶望。 そして、地獄のような修業の日々。
すべてが、今のこの瞬間のためにあったような気がします。
「アリア。顔を上げろ」
クラウス様が言いました。
「お前はもう、誰もが見上げる『淑女』だ。誰に恥じることもない。胸を張れ」
「……はい」
私は顔を上げ、クラウス様を見つめました。 その瞳には、私だけが映っています。
「……好きだ」
不意に、クラウス様が呟きました。 音楽にかき消されそうな、小さな声。 でも、私の耳には雷鳴のように響きました。
「え……?」
「お前のその強さが。泥の中でも咲こうとする、その魂が。……どうしようもなく、愛おしい」
クラウス様は、踊りながら私の手を強く握りしめました。
「契約など、もうどうでもいい。アリア、私の妻になれ。そして、ずっと私の隣で笑っていてくれ」
これは、プロポーズ。 正式な、愛の告白。
涙が溢れそうになりました。 でも、ここで泣いたら化粧が崩れてしまいます。 私は「国一番の淑女」なのですから。
私は涙をこらえ、最高の笑顔で答えました。
「……条件があります、閣下」
「また条件か。今度はなんだ?」
「私のことを、一生飽きさせないでください。……退屈な人生は、もうこりごりですから」
「フッ、難題だな。だが、お前となら毎日が嵐のようだ。退屈する暇などないだろう」
「なら……謹んで、お受けいたします」
曲が終わると同時に、クラウス様は私の手の甲にキスを落としました。 会場からは、祝福の拍手と歓声が降り注ぎました。
「見ろ、あれがラインハルト公爵の選んだ女性だ」 「なんて気高く、美しいんだ」 「まさに、国一番の淑女だわ……」
その呼び名は、瞬く間に会場中へと広まりました。 私はアリア・ベルンシュタイン。 没落貴族の娘から、氷の公爵の最愛の妻へ。 そして、誰もが認める『国一番の淑女』へ。
私はバルコニーへと続く窓ガラスに映る自分を見ました。 そこには、かつての「地味で何の取り柄もない女」はいません。 自信に満ち溢れ、幸せに輝く一人の女性が立っていました。
◇
宴のあと。 公爵邸への帰りの馬車で、私は窓の外を見つめていました。 夜空には満月が輝いています。
「……終わりましたね、何もかも」
「いや、始まりだろ」
隣に座るクラウス様が、私の肩を抱き寄せました。
「結婚式の準備に、領地の視察。それに、お前の妹の学校行事もある。……忙しくなるぞ」
「ふふ、そうですね。……望むところです」
私はクラウス様の肩に頭を預けました。 幸せです。 本当に、夢のようです。
けれど。 私は知っています。 物語には、必ず「次の章」があることを。 そして、幸せの絶頂にある時こそ、足元に深い落とし穴が口を開けていることを。
「……閣下」
「なんだ」
「もし、私が……貴方の敵になるようなことがあったら、どうしますか?」
なぜそんなことを聞いたのか、自分でも分かりませんでした。 ただ、ふと不安になったのです。 幸せすぎて、怖くなったのかもしれません。
クラウス様は少しだけ沈黙し、それから私の髪にキスをして言いました。
「その時は、全力でお前を捕まえて、二度と逃げられないように鎖で繋いでおくさ」
「……監禁ですか? 相変わらず物騒ですね」
「愛の形だと言ってくれ」
私たちは笑い合いました。 その笑顔が、永遠に続くと信じて。
しかし、運命の歯車は、残酷な音を立てて回り始めていました。
翌朝。 公爵邸に、一通の手紙が届きました。 差出人の名前はありません。 ただ、漆黒の封筒に、真紅の蝋で封がされていました。
中に入っていたのは、一枚のカード。 そこには、たった一行、こう書かれていました。
『ベルンシュタイン家の借金は、まだ完済されていない』
「……え?」
私は手紙を取り落としました。 借金は、公爵様が肩代わりして、カミロを通じて返済したはず。 カミロは逮捕され、資産は没収された。 すべて終わったはずなのに。
『本当の債権者は、私だ。 ――アリア、お前の過去が、お前を迎えに行く』
背筋に、冷たいものが走りました。 カミロはただの駒だった? もっと巨大な、もっと恐ろしい「何か」が、私の背後に迫っている?
「アリア、どうした? 顔色が悪いぞ」
クラウス様が心配そうに覗き込みます。 私は咄嗟に手紙を隠しました。 なぜか、見せてはいけない気がしたのです。 これは、私だけの罪(過去)だから。
「……なんでも、ありません。ただの……ダイレクトメールでした」
嘘をつきました。 これが、私たちの関係に亀裂を入れる最初のひび割れになるとも知らずに。
『国一番の淑女』となった私を待っていたのは、ハッピーエンドではありませんでした。 それは、本当の絶望と、愛を試される『断罪編』の幕開けだったのです。
(待っていて、ミラ。クラウス様。……私が、必ず守るから)
私は震える手で、スカートを握りしめました。 戦いは、まだ終わっていなかったのです。
王宮の白亜の大広間に集うのは、選ばれし王侯貴族のみ。 ここで失敗すれば、翌日には社交界での席を失うと言われるほどの緊張感が、煌びやかな空気の下に張り詰めていました。
「……震えているか? アリア」
エスコートするクラウス様が、私の耳元で囁きました。 私はふっと息を吐き、口角を上げました。
「武者震いですわ、閣下。これほどの晴れ舞台、私の『復讐劇』の仕上げにはお誂え向きではありませんか」
「フッ、頼もしいことだ」
今日の私は、公爵家の威信をかけた特注のドレスを身に纏っています。 色は「アイスブルー」。クラウス様の瞳と同じ色。 銀糸で刺繍された雪の結晶の文様が、動くたびに光を反射し、まるで冬の夜空を纏っているかのような輝きを放っていました。
髪には、王家から下賜されたという由緒あるダイヤモンドのティアラ。 これは本来、公爵夫人しか身につけることを許されないものです。 それを「秘書官」である私につけさせたクラウス様の意図は、明白でした。
『こいつに手を出すな。こいつは俺のモノだ』
そんな無言の警告を、全身で表現しているようなものです。
「参りましょう、アリア。私の隣を歩く覚悟はできているな?」
「ええ。地獄の底まででも」
大扉が開かれます。 ファンファーレが鳴り響き、衛兵が声を張り上げました。
「ラインハルト公爵、クラウス・フォン・ラインハルト閣下! ならびに、そのパートナー、アリア・ベルンシュタイン嬢!」
数百の視線が、一斉に私たちに突き刺さりました。 その中には、好奇心、羨望、そして隠しきれない嫉妬が含まれています。
かつて「貧乏伯爵の娘」「地味な女」と嘲笑された私が、今、この国で最も権力のある男の隣に立っている。 それが許せない者たちも多いでしょう。
けれど、私は背筋を伸ばし、堂々と歩き出しました。 カツ、カツ、カツ。 ヒールの音が、静まり返ったホールに響きます。
「……なんて美しいの」 「あれが本当に、あのベルンシュタイン家の?」 「氷の精霊のようだわ……」
ささやき声が聞こえてきます。 もはや嘲笑ではありません。 畏怖と、称賛です。
私たちは玉座の前まで進み、国王陛下と王妃殿下に最敬礼を行いました。
「面を上げよ」
国王陛下の威厳ある声。 顔を上げると、陛下は興味深そうに私を見ていました。
「ラインハルト公。噂は聞いておるぞ。なんでも、そちの『新しい秘書官』は、我が国の外交危機を救い、腐敗した貴族を排除し、さらにはあのじゃじゃ馬娘のエリザベートを手懐けたとか」
「過分なお言葉です、陛下。彼女は少々、やりすぎるきらいがありますが」
クラウス様が肩をすくめると、隣に座っていたエリザベート王女殿下が、扇子で口元を隠してウィンクをしてきました。 私たち、もうマブダチ(死語ですが、気分的にはそうです)ですからね。
「ほう。……アリアと言ったな」
陛下が私に問いかけました。
「そちの望みは何だ? これほどの功績、褒美を取らせてもよいぞ」
試されています。 ここで金銭や地位をねだれば、私はただの「欲深い女」として評価されるでしょう。 公爵のパートナーとしての品格が問われる場面です。
私は静かに一歩進み出ました。
「陛下。もったいないお言葉、身に余る光栄です。ですが、私はすでに十分な褒美をいただいております」
「ほう? それは何だ?」
「ラインハルト公爵閣下の隣で、この国の安寧のために尽くせる『機会』と『誇り』です。これ以上の宝石も、地位も、私には不要でございます」
優等生すぎる回答かもしれません。 ですが、これが正解です。 「私欲はありません。公爵と国に尽くします」というアピール。
陛下は満足げに頷きました。
「無欲か。あるいは、公爵そのものを手に入れたという自負か。……よいだろう、楽しむがよい」
最初の関門は突破しました。 私たちは一礼して下がり、ホールの中心へと移動しました。
しかし、平和な時間は長くは続きません。 「国一番の淑女」の座を狙うハイエナたちが、牙を剥いて待ち構えていたのです。
◇
「ごきげんよう、アリア様」
声をかけてきたのは、恰幅の良い初老の男性でした。 胸には勲章をジャラジャラとつけ、いかにも「権威」を服にして歩いているような人物です。
私の脳内データベースが即座に検索結果を弾き出します。 『式部卿・ゼフィルス伯爵。保守派の筆頭。家柄至上主義者で、新興貴族や没落貴族を毛嫌いしている』
「ごきげんよう、ゼフィルス様」
私は完璧なカーテシーで返しました。 クラウス様は別の貴族に捕まっており、少し離れた場所にいます。 狙い澄ましたようなタイミングです。
「いやはや、驚きましたな。没落した家の娘が、公爵閣下のパートナーとして建国祭に参加されるとは。……時代も変わったものです」
ゼフィルス伯爵は、笑顔のまま毒を吐きます。
「ですが、アリア様。貴女はご存知かな? この建国祭には、古くからの『しきたり』があることを」
「しきたり、ですか?」
「ええ。建国の英雄たちが愛した『四季の詩』になぞらえ、その年の主要な女性参加者が、即興で詩を詠み、花を生けるという教養の儀式です」
周囲の貴族たちが、ニヤニヤしながら集まってきました。 これは公開処刑の場です。 貧乏生活が長かった私に、そんな高尚な教養があるはずがないと踏んでいるのです。
「さあ、アリア様。公爵閣下のパートナーにふさわしい教養をお持ちか、ここで証明していただきたい。……もしできなければ、閣下の顔に泥を塗ることになりますが」
伯爵が合図をすると、使用人がワゴンを押してきました。 そこには、季節外れの花々や、雑草に近い野草が無造作に積まれています。 そして、詩を書き記すための羊皮紙とペン。
「お題は『冬の終わりと春の訪れ』です。さあ、どうぞ」
意地悪です。 用意された花材は、枯れかけた薔薇や、トゲだらけのヒイラギ、そして泥のついたタンポポなど、美しい生け花を作るにはあまりに粗末なものばかり。 これで失敗すれば、「美意識のない女」として笑い者にされるでしょう。
私は花材を見つめ、ふっと笑いました。
「……ゼフィルス様。貴方は花がお好きですか?」
「は? まあ、嗜む程度には」
「そうですか。では、教えて差し上げましょう。花に貴賎はありません。あるのは、それを扱う人間の『心』の美醜だけです」
私は迷わず、泥のついたタンポポを手に取りました。 周囲から「あれを使うのか?」「貧乏人にはお似合いだ」という失笑が漏れます。
私はタンポポの泥をあえて払わず、ガラスの花器に水を張り、そこに一輪だけ浮かべました。 そして、枯れかけた薔薇の花びらを一枚一枚丁寧にちぎり、タンポポの周りに散らしました。 最後に、トゲのあるヒイラギの枝を一本、鋭く空に向かって立てました。
所要時間、わずか三分。 完成した作品は、一見すると前衛的で、奇妙なものでした。
「……な、なんだこれは? ゴミを並べただけではないか!」
ゼフィルス伯爵が嘲笑しました。
「これだから素人は。美しさの欠片もない!」
「美しさとは、表面的な綺麗さだけではありません」
私は静かに羊皮紙にペンを走らせ、詩を書き上げました。 そして、朗々と読み上げました。
『氷雪の檻(ヒイラギ)を突き破り 血の涙(枯れた薔薇)を糧として 泥の中より黄金の星(タンポポ)は咲う これぞ、我が国の興りなり』
会場が静まり返りました。
「……解説いたします」
私は伯爵を真っ直ぐに見据えました。
「我が国の建国神話によれば、始祖王アルトリウスは、長く続いた冬の時代と戦乱の血の海を越え、泥沼の荒野に最初の城を築いたとされています。このタンポポは、泥の中でも強く咲く『希望』と『民草』の象徴。枯れた薔薇は、尊い犠牲。ヒイラギは、困難を切り裂く剣です」
私は一歩踏み込みました。
「ゼフィルス様。貴方が『ゴミ』と呼んだこのタンポポこそが、我が国の礎となった民の姿。それを否定することは……建国の精神を否定することと同義ではありませんか?」
「なっ……!?」
伯爵の顔色が、赤から青、そして白へと変わっていきました。 建国祭の場で、建国の精神を否定したとなれば、不敬罪にも問われかねません。
「そ、そんなつもりでは……! 私はただ、美的な観点から……!」
「真の美とは、歴史と精神の中に宿るものです。……見た目の華やかさだけに囚われるのは、三流の芸術家のすることですわ」
私が言い放った瞬間、パチパチパチ……と、一人分の拍手が聞こえました。 国王陛下でした。
「見事だ!」
陛下が玉座から立ち上がり、拍手を送っています。
「泥中のタンポポを民と見立て、建国の苦難を表現するとは。……ゼフィルスよ、一本取られたな」
「へ、陛下……!」
「アリアと言ったな。そちの解釈、実に気に入った。最近の貴族どもは、見た目の派手さばかり競って、この『泥臭い強さ』を忘れておったわ」
陛下が笑うと、会場全体から割れんばかりの拍手が巻き起こりました。 ゼフィルス伯爵は小さくなり、逃げるように人混みへと消えていきました。
「……またやったな、猛獣使い」
いつの間にか戻ってきたクラウス様が、私の腰に手を回しました。
「助けに来るのが遅いですわ、閣下」
「必要なかっただろう? お前なら、あの古狸くらい料理できると信じていた」
「買い被りすぎです。……心臓が止まるかと思いました」
「嘘をつけ。目が楽しそうだったぞ」
クラウス様は私の耳元で囁き、そしてホールの中心へと私をエスコートしました。
「さあ、仕上げだ。アリア」
オーケストラが、ワルツの調べを奏で始めました。 今夜のメインイベント、ファーストダンスです。
本来なら王族が踊る場面ですが、陛下が「今日の主役は若い二人だ」と譲ってくださったのです。 スポットライトが私たちを照らします。
「……私が、こんな場所に立つなんて」
公爵様の腕の中で回りながら、私は走馬灯のように過去を思い出しました。 借金取りに追われた日々。 カミロに婚約破棄された屈辱。 雨の中、公爵邸の門を叩いた絶望。 そして、地獄のような修業の日々。
すべてが、今のこの瞬間のためにあったような気がします。
「アリア。顔を上げろ」
クラウス様が言いました。
「お前はもう、誰もが見上げる『淑女』だ。誰に恥じることもない。胸を張れ」
「……はい」
私は顔を上げ、クラウス様を見つめました。 その瞳には、私だけが映っています。
「……好きだ」
不意に、クラウス様が呟きました。 音楽にかき消されそうな、小さな声。 でも、私の耳には雷鳴のように響きました。
「え……?」
「お前のその強さが。泥の中でも咲こうとする、その魂が。……どうしようもなく、愛おしい」
クラウス様は、踊りながら私の手を強く握りしめました。
「契約など、もうどうでもいい。アリア、私の妻になれ。そして、ずっと私の隣で笑っていてくれ」
これは、プロポーズ。 正式な、愛の告白。
涙が溢れそうになりました。 でも、ここで泣いたら化粧が崩れてしまいます。 私は「国一番の淑女」なのですから。
私は涙をこらえ、最高の笑顔で答えました。
「……条件があります、閣下」
「また条件か。今度はなんだ?」
「私のことを、一生飽きさせないでください。……退屈な人生は、もうこりごりですから」
「フッ、難題だな。だが、お前となら毎日が嵐のようだ。退屈する暇などないだろう」
「なら……謹んで、お受けいたします」
曲が終わると同時に、クラウス様は私の手の甲にキスを落としました。 会場からは、祝福の拍手と歓声が降り注ぎました。
「見ろ、あれがラインハルト公爵の選んだ女性だ」 「なんて気高く、美しいんだ」 「まさに、国一番の淑女だわ……」
その呼び名は、瞬く間に会場中へと広まりました。 私はアリア・ベルンシュタイン。 没落貴族の娘から、氷の公爵の最愛の妻へ。 そして、誰もが認める『国一番の淑女』へ。
私はバルコニーへと続く窓ガラスに映る自分を見ました。 そこには、かつての「地味で何の取り柄もない女」はいません。 自信に満ち溢れ、幸せに輝く一人の女性が立っていました。
◇
宴のあと。 公爵邸への帰りの馬車で、私は窓の外を見つめていました。 夜空には満月が輝いています。
「……終わりましたね、何もかも」
「いや、始まりだろ」
隣に座るクラウス様が、私の肩を抱き寄せました。
「結婚式の準備に、領地の視察。それに、お前の妹の学校行事もある。……忙しくなるぞ」
「ふふ、そうですね。……望むところです」
私はクラウス様の肩に頭を預けました。 幸せです。 本当に、夢のようです。
けれど。 私は知っています。 物語には、必ず「次の章」があることを。 そして、幸せの絶頂にある時こそ、足元に深い落とし穴が口を開けていることを。
「……閣下」
「なんだ」
「もし、私が……貴方の敵になるようなことがあったら、どうしますか?」
なぜそんなことを聞いたのか、自分でも分かりませんでした。 ただ、ふと不安になったのです。 幸せすぎて、怖くなったのかもしれません。
クラウス様は少しだけ沈黙し、それから私の髪にキスをして言いました。
「その時は、全力でお前を捕まえて、二度と逃げられないように鎖で繋いでおくさ」
「……監禁ですか? 相変わらず物騒ですね」
「愛の形だと言ってくれ」
私たちは笑い合いました。 その笑顔が、永遠に続くと信じて。
しかし、運命の歯車は、残酷な音を立てて回り始めていました。
翌朝。 公爵邸に、一通の手紙が届きました。 差出人の名前はありません。 ただ、漆黒の封筒に、真紅の蝋で封がされていました。
中に入っていたのは、一枚のカード。 そこには、たった一行、こう書かれていました。
『ベルンシュタイン家の借金は、まだ完済されていない』
「……え?」
私は手紙を取り落としました。 借金は、公爵様が肩代わりして、カミロを通じて返済したはず。 カミロは逮捕され、資産は没収された。 すべて終わったはずなのに。
『本当の債権者は、私だ。 ――アリア、お前の過去が、お前を迎えに行く』
背筋に、冷たいものが走りました。 カミロはただの駒だった? もっと巨大な、もっと恐ろしい「何か」が、私の背後に迫っている?
「アリア、どうした? 顔色が悪いぞ」
クラウス様が心配そうに覗き込みます。 私は咄嗟に手紙を隠しました。 なぜか、見せてはいけない気がしたのです。 これは、私だけの罪(過去)だから。
「……なんでも、ありません。ただの……ダイレクトメールでした」
嘘をつきました。 これが、私たちの関係に亀裂を入れる最初のひび割れになるとも知らずに。
『国一番の淑女』となった私を待っていたのは、ハッピーエンドではありませんでした。 それは、本当の絶望と、愛を試される『断罪編』の幕開けだったのです。
(待っていて、ミラ。クラウス様。……私が、必ず守るから)
私は震える手で、スカートを握りしめました。 戦いは、まだ終わっていなかったのです。
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婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
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