『五年後、私を捨てたはずの「氷の公爵様」と再会しました。 ~隣にいるこの幼い娘が「貴方の娘です」とは、今更とても言えません~』

放浪人

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第二十六話: 辺境の夜と、公爵の宣言

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「......公爵夫人として、許したわけじゃ、ないんだから!」

私が、精一杯の強がりを叫ぶ。

森の朝日は、やけに眩しい。

カシウス様は、私とルナを抱きしめたまま。

一瞬、きょとんとした顔をした。

そして。

彼が、ゆっくりと、微笑んだ。

(......え)

(わ、笑った......?)

あの「氷の公爵」が。

五年前でも、記憶を失ってからも、見せなかった。

心の底から、幸せそうな、笑顔。

ドクン。

私の心臓が、うるさく鳴った。

(ダメダメダメ!)

(この顔に、私は、弱いのよ......!)

「......ああ。分かっている」

カシウス様が、私を、さらに強く抱きしめる。

(......近い!)

「ゼロからだ」

「いや。君を、雨の中に捨てた俺は」

「マイナス、からのスタートだ」

彼は、私にだけ聞こえる声で、囁いた。

その声が、甘すぎて、耳が、熱くなる。

「これから、もう一度」

「君に、惚れてもらう」

(......な)

(何を、言ってるの、この人!?)

(きゅんきゅん、しちゃうじゃない!)

「閣下」

「......お取り込み中、失礼します」

ゼノン様が、わざとらしく、咳払いをした。

その目は、完全に、笑っている。

(クスッ......)

「閣下。あまり、デレデレされると」

「部下の、士気が、下がります」

「......うるさいぞ、ゼノン」

カシウス様は、不満そうに、私を離した。

(あ......ちょっと、残念......)

(って、違う!)

「ルナ! パパとママ、チュウした!」

ルナが、私の腕の中で、パチパチと手を叩く。

(......してない!)

(キスは、髪に、したけど!)

「「「「......!」」」」

周りにいた、騎士たちが、全員、固まった。

そして、一斉に、顔を赤くして、そっぽを向いた。

「アリア!」

「ほら、お前も!」

カシウス様が、顔を、真っ赤にしている。

(あなたの、せいでしょ!)

「......ひとまず、街に戻る」

「アリアとルナの、荷物を、まとめるぞ」

「......え?」

「当然だ。一緒に、王都に、帰るんだ」

「ま、待って! 私は、まだ......!」

「問答無用だ」

彼は、私を、ひょいと、横抱きにした。

「きゃあ!?」

「ルナは、俺が、抱く」

ゼノン様が、ルナを、抱き上げる。

「パパ、カッコいー!」

(......そういう、問題じゃ!)

こうして、私とルナは。

半ば、強引に、辺境の街へ、連れ戻された。

街で、一番、立派な宿屋。

その、一番、広い部屋。

カシウス様は、当然のように、言った。

「家族だ。今夜は、三人で、ここに泊まる」

(......そんなどころじゃない!)

(もう、どうなっちゃうのよ、私!)
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