『五年後、私を捨てたはずの「氷の公爵様」と再会しました。 ~隣にいるこの幼い娘が「貴方の娘です」とは、今更とても言えません~』

放浪人

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第二十七話: ぎこちない家族の、誓い

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「だ、ダメよ!」

「ダメに、決まってるでしょ!」

私は、宿屋の、一番広い部屋の、真ん中で叫んだ。

(無駄に、天蓋とか、ついてるし!)

「私は、まだ、あなたを、許してないの!」

「ルナと、二人で、別の部屋を......」

「却下だ」

カシウス様が、私の言葉を、遮る。

彼は、窓辺の椅子に、深く、腰掛けていた。

呪いの痣は、薄くなった。

でも、まだ、顔色は、良くない。

(......そうだった)

(この人、大怪我、したばかり)

「......ママ」

「パパと、ケンカ?」

ルナが、不安そうに、私の服を、引っ張る。

(あ......)

(この子を、不安にさせちゃ、ダメね)

私は、しゃがみこんで、ルナの頭を撫でた。

「ケンカじゃ、ないのよ、ルナ」

「でもね。ママとパパは、ちょっと、お話が......」

「そうではない」

カシウス様の、低い声。

「俺が、君に、謝りたいだけだ」

彼は、ルナに、手招きをした。

「ルナ。そこに、座ってくれるか」

ルナは、こくりと頷き、カシウス様の、足元に、ちょこんと座った。

木彫りの熊を、大事そうに、抱きしめている。

カシウス様は、私を、真っ直ぐに、見た。

「アリア」

「この、五年間のことを、聞かせてくれ」

「......」

「君が、どれほど、辛かったか」

「俺が、どれほどの、罪を犯したか」

「全て、知る、義務がある」

彼の、真剣な、青い瞳。

私は、もう、逃げられないと、悟った。

私は、ゆっくりと、話し始めた。

雨の中、倒れたこと。

商人に、助けられたこと。

この街で、薬師として、必死に、働いたこと。

そして。

ルナが、生まれた日のこと。

「......銀色の、髪だった」

「あなたの、髪と、同じ」

「私は、嬉しかった。でも、怖かった」

「この子が、あなたの子だと、知られたら」

「取り上げられて、しまうんじゃないかって」

「......アリア」

カシウス様の、声が、震えている。

彼は、拳を、強く、握りしめていた。

血が、滲みそうだ。

「......ごめん。もう、いいわ」

私は、慌てて、話を、止めた。

(これ以上は、彼が、壊れてしまう)

「......いいや」

彼は、立ち上がった。

そして、私と、ルナの、前に、膝をついた。

あの日、森で見た、土下座、じゃない。

同じ、目線に、立つための、姿。

「ルナ」

「アリア」

「俺は、お前たちを、二度と、悲しませない」

「この、命に、誓う」

彼は、ルナの、小さな手を、取った。

そして、私の、手も。

三人の、手が、重なる。

(......温かい)

「......パパ」

「ママ」

ルナが、嬉しそうに、笑う。

「三人、いっしょだね!」

「......ああ」

カシウス様の、目に、また、涙が、浮かんでいた。

(もう、本当に、しょうがない人......)

その夜。

ルナが、当然のように、言い出した。

「パパとママと、いっしょに寝る!」

「「!」」

私と、カシウス様の、顔が、真っ赤になる。

結局、私たちは。

ルナを、真ん中に、挟んで。

一つの、大きなベッドに、横たわることになった。

(......信じられない)

(五年間、夢にも、思わなかった)

カシウス様の、寝息が、すぐ、隣に。

私の、人生で、一番、長くて、眠れない夜が、始まった。
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