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第五十五話:二人で越える、始まりの森
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「魔獣だと!?」
カシウス様の顔つきが一瞬で「公爵」のそれに変わった。
甘い溺愛夫の雰囲気は、もうどこにもない。
「......ゼノン!」
「はっ!」
隣の部屋から、ゼノン様が飛び出してきた。
さすがの反応速度だ。
「......状況を確認しろ」
「アリアは、ここにいろ。危険だ」
カシウス様が私にそう言い放つ。
(......え?)
私はカチンときた。
彼はまだ分かっていない。
五年前の私とは違うということを。
「......いいえ」
私は部屋の隅に置いてあった愛用の薬箱を掴んだ。
ヒルダが律儀に馬車から運んでくれていたものだ。
「......私も行くわ」
「アリア!?」
カシウス様が驚いた顔で私を見る。
「......怪我人がいるんでしょう?」
「......なら、私が行かないでどうするの」
「......私は薬師よ」
私が彼を真っ直ぐに見つめ返すと。
カシウス様は一瞬ためらった。
五年前の彼なら、きっと私を無理やり部屋に閉じ込めただろう。
だが、彼はフッと息を吐いた。
そして笑った。
「......ああ。そうだったな」
「......君はそういう女だった」
彼は私に手を差し出した。
「......分かった。行こう、アリア」
「......今度は二人だ」
(......!)
私の胸が熱くなった。
彼が私を信じてくれた。
対等なパートナーとして認めてくれた。
「......うん!」
私たちは、ルナを叩き起こされて不機嫌なヒルダに任せ、夜の森へと馬を走らせた。
◇ ◇ ◇
五年前。
私が一人で絶望の中、逃げたあの森。
今は、カシウス様が隣にいる。
何も怖くなかった。
森の奥。
魔獣の咆哮が聞こえる。
負傷した騎士たちが集まっている場所だ。
その時。
茂みから、巨大な狼型の魔獣が飛び出してきた。
「アリアは下がってろ!」
ドガァァン!
カシウス様の剣から放たれた氷の刃が、魔獣を一瞬で凍りつかせた。
粉々に砕け散る魔獣。
(......つ、強すぎる......)
これが本気の「氷の公爵」。
私は呆然とする暇もなかった。
「......こっちだ! 早く!」
騎士たちの呻き声が聞こえる。
岩陰に三人の騎士が倒れていた。
腕や足から血を流している。
「......ひどい傷......!」
「......止血帯を!」
私はすぐに治療を始めた。
薬草をすり潰し、傷口に当てる。
カシウス様は私の指示通り、騎士たちを安全な場所へ運んだり、水を持ってきたり。
完璧な連携プレーだ。
(......すごい)
(......五年前じゃ考えられない)
私たちが夫婦として一緒に戦っている。
その事実に胸が高鳴った。
治療が一段落した。
あとは街に運ぶだけ。
私がホッと息をついた。
その瞬間。
「......グルルルゥ」
まだ残党がいた。
物陰から、さっきの狼より一回り小さい魔獣が、私に飛びかかってきた。
(......あ!)
対応が遅れた。
もうダメだ。
「アリア!」
「危ない!」
カシウス様の絶叫。
ガッ!
ドン!
私を庇うように、カシウス様が私を突き飛ばした。
そして、彼の腕が魔獣の鋭い爪に深く切り裂かれた。
ザシュッ!
魔獣は、ゼノン様が投げた剣で絶命した。
だが。
「......カシウス!」
彼の左腕から、おびただしい血が噴き出していた。
(......嘘)
(......また、あなたが私のせいで......!)
五年前。
彼が私を庇い、呪いを受けたあの日の悪夢が、私の頭に蘇った。
「......カシウス!」
「しっかりして!」
私の悲鳴が、夜の森に響き渡った。
カシウス様の顔つきが一瞬で「公爵」のそれに変わった。
甘い溺愛夫の雰囲気は、もうどこにもない。
「......ゼノン!」
「はっ!」
隣の部屋から、ゼノン様が飛び出してきた。
さすがの反応速度だ。
「......状況を確認しろ」
「アリアは、ここにいろ。危険だ」
カシウス様が私にそう言い放つ。
(......え?)
私はカチンときた。
彼はまだ分かっていない。
五年前の私とは違うということを。
「......いいえ」
私は部屋の隅に置いてあった愛用の薬箱を掴んだ。
ヒルダが律儀に馬車から運んでくれていたものだ。
「......私も行くわ」
「アリア!?」
カシウス様が驚いた顔で私を見る。
「......怪我人がいるんでしょう?」
「......なら、私が行かないでどうするの」
「......私は薬師よ」
私が彼を真っ直ぐに見つめ返すと。
カシウス様は一瞬ためらった。
五年前の彼なら、きっと私を無理やり部屋に閉じ込めただろう。
だが、彼はフッと息を吐いた。
そして笑った。
「......ああ。そうだったな」
「......君はそういう女だった」
彼は私に手を差し出した。
「......分かった。行こう、アリア」
「......今度は二人だ」
(......!)
私の胸が熱くなった。
彼が私を信じてくれた。
対等なパートナーとして認めてくれた。
「......うん!」
私たちは、ルナを叩き起こされて不機嫌なヒルダに任せ、夜の森へと馬を走らせた。
◇ ◇ ◇
五年前。
私が一人で絶望の中、逃げたあの森。
今は、カシウス様が隣にいる。
何も怖くなかった。
森の奥。
魔獣の咆哮が聞こえる。
負傷した騎士たちが集まっている場所だ。
その時。
茂みから、巨大な狼型の魔獣が飛び出してきた。
「アリアは下がってろ!」
ドガァァン!
カシウス様の剣から放たれた氷の刃が、魔獣を一瞬で凍りつかせた。
粉々に砕け散る魔獣。
(......つ、強すぎる......)
これが本気の「氷の公爵」。
私は呆然とする暇もなかった。
「......こっちだ! 早く!」
騎士たちの呻き声が聞こえる。
岩陰に三人の騎士が倒れていた。
腕や足から血を流している。
「......ひどい傷......!」
「......止血帯を!」
私はすぐに治療を始めた。
薬草をすり潰し、傷口に当てる。
カシウス様は私の指示通り、騎士たちを安全な場所へ運んだり、水を持ってきたり。
完璧な連携プレーだ。
(......すごい)
(......五年前じゃ考えられない)
私たちが夫婦として一緒に戦っている。
その事実に胸が高鳴った。
治療が一段落した。
あとは街に運ぶだけ。
私がホッと息をついた。
その瞬間。
「......グルルルゥ」
まだ残党がいた。
物陰から、さっきの狼より一回り小さい魔獣が、私に飛びかかってきた。
(......あ!)
対応が遅れた。
もうダメだ。
「アリア!」
「危ない!」
カシウス様の絶叫。
ガッ!
ドン!
私を庇うように、カシウス様が私を突き飛ばした。
そして、彼の腕が魔獣の鋭い爪に深く切り裂かれた。
ザシュッ!
魔獣は、ゼノン様が投げた剣で絶命した。
だが。
「......カシウス!」
彼の左腕から、おびただしい血が噴き出していた。
(......嘘)
(......また、あなたが私のせいで......!)
五年前。
彼が私を庇い、呪いを受けたあの日の悪夢が、私の頭に蘇った。
「......カシウス!」
「しっかりして!」
私の悲鳴が、夜の森に響き渡った。
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