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第三章:獅子の覚醒
第23話 鉄と炎の改革
軍の再編成に目処が立った私が次に取り組んだのは、領内の経済と産業を完全に戦時体制へと移行させることだった。来るべき王都との全面戦争は長期戦になる可能性が高い。そうなれば勝敗を決するのは兵士の数や士気だけではない。それを支える兵站――つまり、武器、食料、そして資金力だ。
私はローゼンベルク領内の主要な商人や工房の親方たちを、城に集めた。彼らは突然の召集に何事かと、緊張した面持ちで私の前にひれ伏している。
「皆、顔を上げなさい。今日はあなたたちにお願いがあって集まってもらいました」
私の穏やかな口調に、彼らは少しだけ緊張を解いたようだ。
「ご存知の通り、我々ローゼンベルクは腐敗した王家と戦うことを決意しました。これは我々の未来と生活を守るための正義の戦いです。……しかし戦には金がかかる。武器が必要です」
私は単刀直入に本題を切り出した。
「私はあなたたちに最大限の協力を求めたい。領内の全ての鉱山、全ての工房をこれから二十四時間フル稼働させてほしいのです。鉄を掘り、剣を打ち、鎧を作り、矢を作り続けてほしい」
私の要求に、商人たちはざわめいた。一人の最も有力な商人ギルドの長が、恐る恐る口を開く。
「……ヴィクトリア様。お言葉ですが、それほどの増産となりますと我々の手持ちの資金だけでは到底立ち行かなくなります。それに職人たちも、休みなく働かせれば体を壊してしまいます」
彼の言うことはもっともだ。無茶な要求であることは、私自身が一番分かっている。
「もちろん、あなたたちに一方的な負担を強いるつもりはありません」
私は一枚の詳細な計画書を、彼らの前に広げた。
「まず軍需品の生産に必要な資金は、全てローゼンベルク家が前払いで融資します。金利はありません。そして生産された武具は、全て市場価格の一割増しで我が軍が買い上げます」
「なっ……!?」 「金利なしで融資……!?しかも一割増しで……!?」
商人たちの目が驚きと欲望で色めき立つ。これは彼らにとって、またとない儲け話だ。
「さらに職人たちには特別な手当を支給します。通常の倍の賃金を私が保証しましょう。食事も休憩もこちらで全て用意します。彼らにはただ、最高の武具を作ることに専念してもらいたい」
私の破格の提案に、商人たちの顔から完全に迷いの色が消えた。彼らはもはや損得勘定で動いている。そしてそれは決して悪いことではない。人の心を動かすのは理想だけではないのだ。現実的な利益もまた、強力な動機付けとなる。
「どうかしら?私のこの提案、乗っていただけますか?」
「お、お受けいたします!ヴィクトリア様!我々商人ギルド、いえ、ローゼンベルクの全ての商人と職人は、命に代えましてもヴィクトリア様のご期待にお応えしてみせますぞ!」
ギルド長が床に頭を擦り付けんばかりの勢いで誓いを立てた。他の者たちもそれに続く。こうして私は、領内の経済と産業を完全に掌握したのだ。
鉄と炎の改革。その日からローゼンベルクの様相は一変した。鉱山では昼夜を問わずつるはしの音が響き渡り、工房の炉は炎を絶やすことなく燃え盛った。街は武器を運ぶ荷馬車と活気に満ちた職人たちで溢れかえった。ローゼンベルクは一つの巨大な兵器工場へと、変貌を遂げたのだ。
そして私の改革は、それだけでは終わらなかった。私は武具の大量生産と並行して、全く新しい兵器の開発にも着手していた。
私は城の地下にある秘密の工房に、領内で最も腕の良い数名の職人だけを集めた。彼らの前に私が広げたのは、私自身が夜なべをして描き上げた数枚の設計図だった。
「こ、これは……!?」
職人たちはその設計図を覗き込み、驚愕の声を上げた。
「歯車と巻き上げ機を使った、連射式の大型弩(バリスタ)……?」 「油を詰めた壺を遠くまで飛ばす、小型の投石機(カタパルト)……?」 「鉄の盾を亀の甲羅のように連結させて矢を防ぐ、移動式の陣地……?」
そこに描かれていたのは、彼らが今まで見たことも聞いたこともないような独創的な兵器の数々だった。これらは私が王都の書庫で読んだ古今東西の戦術書や他国の技術書からヒントを得て考案したものだ。この世界の今の技術レベルでも、十分に実現可能なものばかり。
「……ヴィクトリア様。あなたは一体……。軍略家であるだけでなく、発明家でもあられたのか……」
老いた職人の棟梁が、畏敬の念を込めて私を見つめる。
「ただの思いつきよ。でもこれらがあれば、我々の兵士はより少ない犠牲で、より大きな勝利を掴むことができるはず」
私は職人たちの肩を叩いた。
「あなたたちの腕を信じているわ。このローゼンベルクの未来を、創り出してほしいの」
「……お任せください!このじじいの生涯の全てを懸けて、必ずや完成させてみせまする!」
職人たちの瞳に創造の炎が燃え上がった。彼らはその日から寝食も忘れ、新兵器の開発に没頭した。
鉄と炎の改革は着実に、ローゼンベルクを王国最強の軍事国家へと変貌させていく。王都の者たちがまだ我々を辺境の蛮族だと侮っている間に。私たちは彼らの想像を遥かに超える力で、その喉元に喰らいつく準備を整えているのだ。
その日が来るのが、待ち遠しくて仕方がなかった。
私はローゼンベルク領内の主要な商人や工房の親方たちを、城に集めた。彼らは突然の召集に何事かと、緊張した面持ちで私の前にひれ伏している。
「皆、顔を上げなさい。今日はあなたたちにお願いがあって集まってもらいました」
私の穏やかな口調に、彼らは少しだけ緊張を解いたようだ。
「ご存知の通り、我々ローゼンベルクは腐敗した王家と戦うことを決意しました。これは我々の未来と生活を守るための正義の戦いです。……しかし戦には金がかかる。武器が必要です」
私は単刀直入に本題を切り出した。
「私はあなたたちに最大限の協力を求めたい。領内の全ての鉱山、全ての工房をこれから二十四時間フル稼働させてほしいのです。鉄を掘り、剣を打ち、鎧を作り、矢を作り続けてほしい」
私の要求に、商人たちはざわめいた。一人の最も有力な商人ギルドの長が、恐る恐る口を開く。
「……ヴィクトリア様。お言葉ですが、それほどの増産となりますと我々の手持ちの資金だけでは到底立ち行かなくなります。それに職人たちも、休みなく働かせれば体を壊してしまいます」
彼の言うことはもっともだ。無茶な要求であることは、私自身が一番分かっている。
「もちろん、あなたたちに一方的な負担を強いるつもりはありません」
私は一枚の詳細な計画書を、彼らの前に広げた。
「まず軍需品の生産に必要な資金は、全てローゼンベルク家が前払いで融資します。金利はありません。そして生産された武具は、全て市場価格の一割増しで我が軍が買い上げます」
「なっ……!?」 「金利なしで融資……!?しかも一割増しで……!?」
商人たちの目が驚きと欲望で色めき立つ。これは彼らにとって、またとない儲け話だ。
「さらに職人たちには特別な手当を支給します。通常の倍の賃金を私が保証しましょう。食事も休憩もこちらで全て用意します。彼らにはただ、最高の武具を作ることに専念してもらいたい」
私の破格の提案に、商人たちの顔から完全に迷いの色が消えた。彼らはもはや損得勘定で動いている。そしてそれは決して悪いことではない。人の心を動かすのは理想だけではないのだ。現実的な利益もまた、強力な動機付けとなる。
「どうかしら?私のこの提案、乗っていただけますか?」
「お、お受けいたします!ヴィクトリア様!我々商人ギルド、いえ、ローゼンベルクの全ての商人と職人は、命に代えましてもヴィクトリア様のご期待にお応えしてみせますぞ!」
ギルド長が床に頭を擦り付けんばかりの勢いで誓いを立てた。他の者たちもそれに続く。こうして私は、領内の経済と産業を完全に掌握したのだ。
鉄と炎の改革。その日からローゼンベルクの様相は一変した。鉱山では昼夜を問わずつるはしの音が響き渡り、工房の炉は炎を絶やすことなく燃え盛った。街は武器を運ぶ荷馬車と活気に満ちた職人たちで溢れかえった。ローゼンベルクは一つの巨大な兵器工場へと、変貌を遂げたのだ。
そして私の改革は、それだけでは終わらなかった。私は武具の大量生産と並行して、全く新しい兵器の開発にも着手していた。
私は城の地下にある秘密の工房に、領内で最も腕の良い数名の職人だけを集めた。彼らの前に私が広げたのは、私自身が夜なべをして描き上げた数枚の設計図だった。
「こ、これは……!?」
職人たちはその設計図を覗き込み、驚愕の声を上げた。
「歯車と巻き上げ機を使った、連射式の大型弩(バリスタ)……?」 「油を詰めた壺を遠くまで飛ばす、小型の投石機(カタパルト)……?」 「鉄の盾を亀の甲羅のように連結させて矢を防ぐ、移動式の陣地……?」
そこに描かれていたのは、彼らが今まで見たことも聞いたこともないような独創的な兵器の数々だった。これらは私が王都の書庫で読んだ古今東西の戦術書や他国の技術書からヒントを得て考案したものだ。この世界の今の技術レベルでも、十分に実現可能なものばかり。
「……ヴィクトリア様。あなたは一体……。軍略家であるだけでなく、発明家でもあられたのか……」
老いた職人の棟梁が、畏敬の念を込めて私を見つめる。
「ただの思いつきよ。でもこれらがあれば、我々の兵士はより少ない犠牲で、より大きな勝利を掴むことができるはず」
私は職人たちの肩を叩いた。
「あなたたちの腕を信じているわ。このローゼンベルクの未来を、創り出してほしいの」
「……お任せください!このじじいの生涯の全てを懸けて、必ずや完成させてみせまする!」
職人たちの瞳に創造の炎が燃え上がった。彼らはその日から寝食も忘れ、新兵器の開発に没頭した。
鉄と炎の改革は着実に、ローゼンベルクを王国最強の軍事国家へと変貌させていく。王都の者たちがまだ我々を辺境の蛮族だと侮っている間に。私たちは彼らの想像を遥かに超える力で、その喉元に喰らいつく準備を整えているのだ。
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