『「女は黙って従え」と婚約破棄されたので、実家の軍隊を率いて王都を包囲しますわ』

放浪人

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第三章:獅子の覚醒

第27話 騎士たちの忠誠

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暗殺未遂事件は私に辺境領主たちの支持をもたらしたが、同時にローゼンベルク城内に大きな衝撃と深い反省をもたらした。特に私の身辺警護を担当していた騎士たちのショックは計り知れないものがあった。

事件の翌日、私は騎士団の訓練場に全ての騎士たちを集めた。その中には私の忠実な側近であるコンラートの姿もあった。彼らは皆、まるで罪人のように私の前に深く頭を垂れている。

「……面目次第もございません!」

代表してコンラートが、絞り出すような声で言った。その声は悔しさに震えていた。

「我々はヴィクトリア様を危険な刃の前に晒してしまった。警護の責任者として、このコンラート、どのような罰でもお受けいたします!いえ、この命を以てお詫びを……!」

「――顔を上げなさい、コンラート」

私の静かだが有無を言わせぬ声に、彼らはびくりと肩を震わせた。そして恐る恐る顔を上げる。私は彼らの前に立ち、一人一人のその目をまっすぐに見つめた。

「あなたたちが自分を責めている気持ちは分かります。しかし私は、あなたたちを罰するつもりなど毛頭ありません」

「……しかし、ヴィクトリア様!」

「聞きなさい」

私はコンラートの言葉を手で制した。

「敵は王国最強と謳われる暗殺者ギルドでした。彼らは影に生き、影に死ぬ者たちだ。その気配を完全に察知することなど不可能です。今回のことは誰の責任でもない。……強いて言うなら、敵の存在を甘く見ていた私自身の油断が招いたことです」

私の言葉に、騎士たちは何も言えずただ唇を噛みしめている。

「だからこの話はもうおしまいにしましょう。過去を悔やむ時間があるのなら、未来に備えるべきですわ」

私はそこで一度言葉を切り、彼らに新たな提案を投げかけた。

「……今回の件で私は痛感しました。私個人の身辺警護をさらに強化する必要があると。そこであなたたちの中から選りすぐりの者たちを集め、私直属の親衛隊を結成したいと考えています」

私の提案に、騎士たちの目が一斉に輝いた。私を直接お守りできる。その役目は彼らにとって、これ以上ない名誉なのだ。

「おお……!」 「ぜひ私にその任を!」

誰もが我先にと名乗りを上げようとする。その熱い忠誠心が嬉しかった。しかし私は静かに首を振った。

「……待ちなさい。私の話はまだ終わっていません」

私は彼らの熱狂を鎮めるように続けた。

「確かに私個人の安全は重要です。私が倒れればこの戦いは終わってしまう。……けれど考えてもみなさい。この私一人が鉄壁の守りで守られて、一体何の意味があるというのですか?」

騎士たちは私の言葉の真意が分からず、戸惑っている。

「私が本当に守りたいものは何です?この私の命ですか?」

私はゆっくりと首を振った。

「――いいえ、違います。私が本当に守りたいのは、このローゼンベルクの地に住まう全ての領民たち。彼らの笑顔であり、平穏な暮らしです」

私は騎士たちに問いかけた。

「あなたたちは誰のためにその剣を振るうのですか?この私一人のためですか?」

「……っ!」

騎士たちははっとしたように顔を見合わせた。彼らは気づいたのだ。自分たちの忠誠が、あまりにも私個人に集中しすぎていたということに。

「あなたたちのその類稀なる武勇と揺るぎない忠誠心は、私一人のためだけに使われるべきものではない。あなたたちはローゼンベルクの全ての民を守るための『盾』となるべきなのです」

私は彼らに新たな使命を与えた。

「親衛隊は結成します。しかしその任務は私一人の警護ではない。領都の全ての場所を巡回し、民の中に紛れ込んだ不審な者を探し出し、領民をあらゆる脅威から守り抜くこと。……それがあなたたちに私が与える新しい任務です。できますね?」

私の言葉は彼らの魂を根底から揺さぶった。私利私欲のためではない。民のため、故郷のため。その崇高な使命感に、彼らの心は打ち震えていた。

やがてコンラートがゆっくりと私の前に進み出た。そして彼は剣を抜き天に掲げると、その場に跪(ひざまず)いた。騎士が主に捧げる最上級の、忠誠の誓いの作法だった。

「……ヴィクトリア様。我々はなんと愚かだったことでしょう。そして貴女様は、なんと気高く慈悲深いお方だ……」

彼の瞳から大粒の涙が溢れ落ちていた。

「このコンラート、そしてここにいる全ての騎士は、今この瞬間、改めて我が魂を貴女様とローゼンベルクの民に捧げることを誓います!我らは、貴女様がお示しくださった民を守る最強の『盾』となりましょうぞ!」

「我らも誓います!!」

コンラートに続き、全ての騎士たちがその場に跪き、天に剣を掲げて雄叫びを上げた。その光景はあまりにも荘厳で、神々しかった。

彼らの忠誠心はもはや、ただの主君への忠誠ではない。民を愛し民を守る、女神への狂信的なまでの信仰心へと昇華されたのだ。

この日結成されたローゼンベルク親衛隊は、後に王国全土でこう呼ばれることになる。女神を守護する無敵の騎士団――『銀薔薇騎士団』と。彼らの鉄壁の守りがある限り、もはやんなどんな卑劣な刃も、私に、そしてローゼンベルクの民に届くことはないだろう。

私の周りには最強の騎士たちがいる。その事実が、私の心をさらに強くさせた。
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