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第六章:王都包囲と新時代
第56話 王都開城
新しい王エリオットの命令は絶対だった。近衛騎士団は、その崇高な意志の前に全ての武器を置いた。そして王都を外界から隔絶していた巨大な城門が、ゆっくりとその重い扉を開き始めた。
ゴゴゴゴゴ……。
地響きのようなその音は、旧時代の終わりと新しい時代の幕開けを告げる荘厳なファンファーレだった。開かれた門の向こう側には、朝日を浴びて輝く十万のローゼンベルク軍が、静かに整然とその時を待っていた。
しかし私の軍勢が鬨の声を上げてなだれ込むことはなかった。私はただ一人、白銀の鎧を纏い愛馬に跨って、ゆっくりとその門をくぐった。私の後方に続いたのは、コンラートをはじめとするわずか数十名の親衛隊だけだ。我々は征服者ではない。この国を救うために来た解放者なのだから。その無言の意思表示だった。
王都の大通りは静まり返っていた。市民たちは恐怖からか、あるいは好奇心からか、家の窓や路地の影から固唾を飲んで私の姿を見守っている。彼らの目に映っているのは、噂に聞く血に飢えた戦狂いのじゃじゃ馬ではない。朝日を浴びて神々しいまでに輝く白銀の鎧を纏い、凛とした気品を漂わせる、一人の若く美しい女性騎士の姿だった。
やがて王宮へと続く大階段の前で、私は馬を止めた。そこには一人の青年が、静かに私を待っていた。簡素だが品の良い王族の礼服に身を包んだエリオット。もはや第二王子ではない。この国の若き新国王、その人だ。
彼の後ろにはセドリック伯爵をはじめとする改革派の貴族たちが並んでいる。彼らの顔には安堵と、そして新しい時代への期待が浮かんでいた。
私は馬から降りると、ゆっくりと彼に歩み寄った。数ヶ月ぶりだろうか。最後に会ったのは、あの王宮の庭園だった。あの時、彼は私に希望を託してくれた。そして私はその希望に応えるために、ここまで来たのだ。
私たちは何も言わなかった。ただ互いの目をまっすぐに見つめ合う。彼の瞳は昔と変わらず聡明で、そして優しかった。しかしその奥には、国の未来を一身に背負う王としての、強い覚悟が宿っている。
「……ヴィクトリア」
先に口を開いたのはエリオットだった。その声は少しだけ掠れていた。
「……よく来てくれた。……長くて辛い旅だっただろう」
「……エリオット殿下。いえ、陛下」
私は彼に臣下の礼を取ろうと、その場に跪こうとした。しかしエリオットはそれを素早く手で制した。
「……やめてくれ。君はもはや私の臣下ではない。この国を救ってくれた英雄だ。……そして、私のたった一人のパートナーだ」
パートナー。その言葉の持つ温かい響きに、私の胸は熱くなった。王と臣下ではない。対等な仲間として、彼は私を認めてくれているのだ。
「……お顔の色が優れませんわ。陛下も眠れない夜を過ごされたのでしょう?」
私は彼の少しやつれた頬を案じるように見つめた。
「ああ。だが、それも今日で終わりだ。……君が来てくれたからな」
エリオットはそう言うと、ふわりと微笑んだ。その笑顔を見た瞬間、今まで私の全身を支配していた戦姫としての緊張が、すうっと解けていくのを感じた。
ああ、終わったのだ。私の長かった戦いが。そして彼の孤独だった戦いも。
王都開城。それは血も炎も悲鳴もない、あまりにも静かな幕開けだった。しかしその静けさこそが、これから始まる新しい時代が平和で穏やかなものになることを、何よりも雄弁に物語っているようだった。
遠くから教会の鐘の音が聞こえてくる。それはまるで我々二人の再会を祝福しているかのようだった。市民たちが家の影から一人、また一人と姿を現し、その歴史的な光景を遠巻きに見守っていた。彼らの顔から恐怖の色が消え、代わりに希望の光が灯り始めていた。
ゴゴゴゴゴ……。
地響きのようなその音は、旧時代の終わりと新しい時代の幕開けを告げる荘厳なファンファーレだった。開かれた門の向こう側には、朝日を浴びて輝く十万のローゼンベルク軍が、静かに整然とその時を待っていた。
しかし私の軍勢が鬨の声を上げてなだれ込むことはなかった。私はただ一人、白銀の鎧を纏い愛馬に跨って、ゆっくりとその門をくぐった。私の後方に続いたのは、コンラートをはじめとするわずか数十名の親衛隊だけだ。我々は征服者ではない。この国を救うために来た解放者なのだから。その無言の意思表示だった。
王都の大通りは静まり返っていた。市民たちは恐怖からか、あるいは好奇心からか、家の窓や路地の影から固唾を飲んで私の姿を見守っている。彼らの目に映っているのは、噂に聞く血に飢えた戦狂いのじゃじゃ馬ではない。朝日を浴びて神々しいまでに輝く白銀の鎧を纏い、凛とした気品を漂わせる、一人の若く美しい女性騎士の姿だった。
やがて王宮へと続く大階段の前で、私は馬を止めた。そこには一人の青年が、静かに私を待っていた。簡素だが品の良い王族の礼服に身を包んだエリオット。もはや第二王子ではない。この国の若き新国王、その人だ。
彼の後ろにはセドリック伯爵をはじめとする改革派の貴族たちが並んでいる。彼らの顔には安堵と、そして新しい時代への期待が浮かんでいた。
私は馬から降りると、ゆっくりと彼に歩み寄った。数ヶ月ぶりだろうか。最後に会ったのは、あの王宮の庭園だった。あの時、彼は私に希望を託してくれた。そして私はその希望に応えるために、ここまで来たのだ。
私たちは何も言わなかった。ただ互いの目をまっすぐに見つめ合う。彼の瞳は昔と変わらず聡明で、そして優しかった。しかしその奥には、国の未来を一身に背負う王としての、強い覚悟が宿っている。
「……ヴィクトリア」
先に口を開いたのはエリオットだった。その声は少しだけ掠れていた。
「……よく来てくれた。……長くて辛い旅だっただろう」
「……エリオット殿下。いえ、陛下」
私は彼に臣下の礼を取ろうと、その場に跪こうとした。しかしエリオットはそれを素早く手で制した。
「……やめてくれ。君はもはや私の臣下ではない。この国を救ってくれた英雄だ。……そして、私のたった一人のパートナーだ」
パートナー。その言葉の持つ温かい響きに、私の胸は熱くなった。王と臣下ではない。対等な仲間として、彼は私を認めてくれているのだ。
「……お顔の色が優れませんわ。陛下も眠れない夜を過ごされたのでしょう?」
私は彼の少しやつれた頬を案じるように見つめた。
「ああ。だが、それも今日で終わりだ。……君が来てくれたからな」
エリオットはそう言うと、ふわりと微笑んだ。その笑顔を見た瞬間、今まで私の全身を支配していた戦姫としての緊張が、すうっと解けていくのを感じた。
ああ、終わったのだ。私の長かった戦いが。そして彼の孤独だった戦いも。
王都開城。それは血も炎も悲鳴もない、あまりにも静かな幕開けだった。しかしその静けさこそが、これから始まる新しい時代が平和で穏やかなものになることを、何よりも雄弁に物語っているようだった。
遠くから教会の鐘の音が聞こえてくる。それはまるで我々二人の再会を祝福しているかのようだった。市民たちが家の影から一人、また一人と姿を現し、その歴史的な光景を遠巻きに見守っていた。彼らの顔から恐怖の色が消え、代わりに希望の光が灯り始めていた。
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