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第10話:宰相のデレ(心の声ダダ漏れ編)
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王妃陛下主催のガーデンパーティーで起きた「毒入りワイン未遂事件」は、瞬く間に王都中を駆け巡る大スキャンダルとなった。
男爵令嬢ミリア・ベルガーの逮捕。 彼女の実家であるベルガー男爵家への家宅捜索。 そして、毒を見抜いて身を守った私、エリス・フォン・ローゼンに対する称賛の嵐。
事件の翌日から、私の元には山のような手紙が届いた。 「貴女の勇気ある沈黙に感動しました」「悪に屈しない高潔な姿勢、見習いたいと思います」といった称賛の手紙に加え、なぜか「腹痛に効くお守り」とか「解毒作用のあるハーブティー」といった贈り物も大量に送られてきた。 みんな、私のことを「予知能力者」か「神の使い」だと思っている節があるが、実態はただの「下剤トラウマ持ちのビビリ」であることは、墓場まで持っていく秘密だ。
そして、何より大きく変わったのは――。
「……エリス。口を開けて」
宰相執務室。 私の目の前には、スプーンを持ったクラウス・ヴァン・アイゼンベルク閣下がいた。 スプーンの上には、プルプルと震える極上のプリンが乗っている。
「あ、あの……自分で食べられます」
私が小声で(ジェスチャーを交えて)伝えようとするが、クラウス様は頑としてスプーンを引かない。
「ダメだ。私が毒味をしたもの以外、口にしてはならない。……君を失うリスクを、0.001パーセントでも残したくはないんだ」
真剣な眼差し。 その瞳の奥には、先日の事件で私が死にかけていた(と彼が思っている)ことへの恐怖が、未だに色濃く残っていた。
彼は私がプリンを食べるのを見届けると、満足げに頷き、ハンカチで私の口元を拭った。 過保護だ。 過保護すぎる。 この一週間、私は食事のたびにこの「あーん」を強要されている。 最初は恥ずかしくて死ぬかと思ったが、人間とは恐ろしいもので、慣れてくると「楽でいいな」と思い始めている自分がいる。 ダメ人間への道まっしぐらだ。
「美味しいか?」 問いかけに、私はコクコクと頷く。 クラウス様はそれを見て、蕩けるような笑顔を見せた。
「そうか。君が美味しそうに食べていると、私も幸せだ。……さて、仕事に戻ろう」
彼は瞬時に表情を引き締め、鬼の形相で書類の山に向き直った。 その切り替えの早さには舌を巻く。 周りの文官たちは、「閣下のデレタイムが終わった……」「また地獄の業務が始まる……」と戦々恐々としているが、私にとっては、彼の背中を見ているこの時間が一番落ち着くようになっていた。
◇
その日の夜。 仕事を終えた私たちは、帰宅のために馬車に乗り込んだ。
宰相家の馬車は、防音・防振に優れた最高級品だ。 扉が閉まると、外の喧騒がふっつりと途切れ、完全な二人きりの空間になる。 窓の外には、冬の夜空が広がっている。 馬車の揺れは心地よく、私は一日の疲れからか、少しうとうとしていた。
隣にはクラウス様がいる。 いつもなら、移動中も書類に目を通したり、明日のスケジュールの確認をしたりしているのだが、今夜の彼は違っていた。 何もせず、ただじっと座っている。 そして、その視線はずっと私に向けられていた。
(……視線が熱い)
私は気まずくなって、狸寝入りを決め込むことにした。 目を閉じ、頭を窓枠にもたせかける。 寝息を立てるふりをする。
すると、ガタン、と馬車が小さく揺れた。 私の頭が窓枠にぶつかりそうになる。 痛っ、となるはずだったが、その前に温かい手が私の頭を支えた。
「……危ないな」
低い声が耳元で響く。 クラウス様だ。 彼は私の頭を優しく引き寄せ、自分の肩に乗せた。 硬い肩の感触。 上質な生地の肌触り。 そして、彼の体温がじんわりと伝わってくる。
私は心臓が跳ねるのを必死に抑えながら、寝たふりを続けた。 ここで起きたら気まずい。 このまま、屋敷に着くまで寝たふりを貫こう。
しかし、クラウス様は私が起きていることに気づいていないのか、あるいは寝ていると思っているからこそなのか、ポツリと独り言を漏らした。
「……本当に、無事でよかった」
その声は、いつもの自信に満ちた宰相の声ではなかった。 弱々しく、震えるような、迷子の子供のような声だった。
「あの時、君が毒を口にしていたらと思うと……心臓が凍りつきそうになる。君を失うかもしれないという恐怖が、未だに私を苛むんだ」
え。 そんなに? 私は薄目を開けたい衝動に駆られたが、我慢した。
クラウス様の手が、私の髪を梳くように撫でる。 優しい手つきだ。 まるで壊れ物を扱うような慎重さで。
「私は今まで、誰も愛さずに生きてきた。言葉は嘘をつく道具であり、人は利益のために裏切る生き物だと思っていたからだ。……だが、君は違う」
彼の独白は続く。 普段、誰にも見せない心の内を、眠っている(と思っている)私にだけ吐露するように。
「君の沈黙には、嘘がない。君の行動には、打算がない。ただ純粋に、私の安らぎとなり、私の過ちを正してくれる。……君に出会って初めて、私は『守りたい』と心から思える存在を得た」
買いかぶりすぎです。 打算ならあります。処刑されたくないという一心です。 でも、そんな私の卑屈な心の声など届くはずもなく、クラウス様の言葉は熱を帯びていく。
「エリス。……愛している」
ドキッ!! 心臓が爆発するかと思った。 愛している。 その言葉の響きが、あまりにも甘く、重く、私の胸に突き刺さった。
前世でアデルに言われた「好きだよ」とは、重みが違う。 アデルの言葉は軽かった。アクセサリーを褒めるような感覚だった。 でも、クラウス様の言葉は、魂の底から絞り出されたような切実さがある。
彼は私の肩を抱く腕に力を込めた。 ギュッ、と抱きしめられる。 苦しい。 でも、嫌じゃない。
私は緊張で身体が強張った。 金縛りのように動けない。 それがまた彼には「無言で身を委ねている」と解釈されたようだ。
「……起きているのか?」
ハッ。 バレた?
「いや、寝ているのか。……この身を委ねる信頼感。私の腕の中で、君はこんなにも無防備になってくれるのだな」
セーフ。 まだ寝ている判定だ。 私はホッとして、力を抜いた。
クラウス様は私の頭に頬を寄せ、さらに深く抱きしめた。 彼の吐息が首筋にかかる。 くすぐったい。 でも、彼の匂いに包まれていると、不思議なほど安心する。
「ずっと、こうしていたい。……国も、政治も、全てを忘れて。君と二人だけの世界に閉じこもりたい」
あの仕事中毒(ワーカーホリック)の宰相閣下が、そんなことを言うなんて。 相当参っているらしい。 それだけ、今回の毒事件がショックだったのだろうか。
私は彼の腕の中で、少しだけ申し訳ない気持ちになった。 私はただ、自分の身を守るために必死だっただけなのに。 彼をこんなに心配させてしまった。
(……ごめんなさい、クラウス様)
私は心の中で謝りながら、無意識に彼の上着の裾を掴んでいた。 ギュッ。 小さく握りしめる。
すると、クラウス様の身体がピクリと反応した。
「……!」
彼は私の手を見た。 そして、私の顔を覗き込んだ。
「エリス?」
私は観念して、ゆっくりと目を開けた。 至近距離に、彼の美しい顔がある。 灰色の瞳が、揺れていた。 驚きと、喜びと、そして隠しきれない情熱を湛えて。
私は何も言えず、ただ彼を見つめ返した。 言葉が出てこない。 「起きてました」と言うのも恥ずかしいし、「聞いてました」と言うのも気まずい。 だから、いつものように無言で、少しだけ微笑んでみせた。 引きつった笑いではなく、自然な笑みが浮かんだ気がした。
クラウス様は息を呑んだ。
「……聞いていたのか?」
私は小さく頷く。 彼の顔が、見る見るうちに赤く染まっていく。 あの「氷の閣下」が、耳まで真っ赤にして照れている。 可愛い。 不覚にも、そう思ってしまった。
「忘れてくれ。……いや、忘れないでくれ」
彼は片手で顔を覆い、呻くように言った。 普段の冷静沈着な彼からは想像もできない、人間味あふれる姿。
「本音だ。……君の前だと、私は理性を保てなくなる。格好悪いところばかり見せているな」
そんなことないです。 貴方はいつも完璧で、怖いくらい格好いいです。 たまにこうして崩れるところが、逆にズルいです。
私は無言のまま、彼の膝の上で(いつの間にか乗せられていた)、彼の手を両手で包み込んだ。 私の手は小さいけれど、彼の大きな手を温めることはできる。 ギュッ、と握る。
クラウス様は顔を覆っていた手を外し、私を見た。 その瞳は、もう迷っていなかった。
「エリス。……キスをしてもいいか?」
えっ。
直球すぎる。 ここで「はい」と言うのは恥ずかしい。 「いいえ」と言うのは嘘になる。 だから私は、黙って目を閉じた。
沈黙は肯定。 彼はそう教えてくれたから。
ふわり、と唇に柔らかい感触が触れた。 ほんの一瞬。 触れるだけの、優しいキス。 でも、それはどんな情熱的なキスよりも、私の心を揺さぶった。
離れていく彼の気配に、名残惜しさを感じている自分がいた。 目を開けると、クラウス様は今までで一番優しい顔で笑っていた。
「……甘いな。君の沈黙は」
私の心臓は、もう限界だった。 ときめき? これが、ときめきなの? 今まで恐怖でドキドキすることはあっても、こんなふうに胸がキュンとするのは初めてだ。
(この人、本当に私のこと好きなんだ……)
疑いようのない事実として、それが腑に落ちた。 勘違いから始まった関係だけれど。 私が「無言」を貫いているうちに、彼の中で私は理想化されてしまったけれど。 それでも、今、目の前にいる彼は、私自身を見てくれている気がした。
馬車が止まった。 屋敷に到着したようだ。 御者が扉を開ける音がする。
クラウス様は瞬時にいつもの「宰相の顔」に戻り、私の手を取ってエスコートしてくれた。 でも、繋いだ手のひらの汗ばんだ熱さが、先ほどの甘い時間の余韻を物語っていた。
◇
事件から数日後。 王宮の地下牢。 湿った石壁に囲まれた独房に、かつて華やかなドレスを纏っていた少女がうずくまっていた。
ミリア・ベルガー。 毒殺未遂の罪で収監された彼女は、やつれ果てていた。 自慢のピンクブロンドはボサボサになり、瞳からはかつての輝きが消えている。
「……出して。ここから出してよ」
彼女は鉄格子を掴み、力なく揺すった。 しかし、看守たちは見向きもしない。 「宰相閣下の婚約者を狙った大罪人」として、彼女への扱いは冷徹そのものだった。
カツ、カツ、カツ。 足音が近づいてくる。 ミリアが顔を上げると、そこには黒いフードを被った人物が立っていた。 看守ではない。 どこから入ってきたのか、音もなく現れた謎の人物。
「誰……?」 ミリアが掠れた声で問う。
フードの人物は、鉄格子の隙間から一枚の紙を差し出した。 そこには、奇妙な紋章が描かれていた。 双頭の蛇が絡み合う、不気味な紋章。
「ミリア・ベルガー。……貴様に取引を持ちかけに来た」 低く、性別すら判然としない声。
「取引……?」
「そうだ。貴様はエリス・フォン・ローゼンを憎んでいるな? 彼女を破滅させたいと願っているな?」
ミリアの瞳に、憎悪の炎が再燃する。 「当たり前よ! あいつのせいで私は……!」
「ならば、力を貸そう。我々もまた、あの国と、あの宰相を疎ましく思っている」
フードの人物は、小さな小瓶を取り出した。 それは以前、ミリアが使った毒とは違う。 もっと禍々しい、黒い液体が入っていた。
「これは『コキュートスの雫』。……ただの毒ではない。もっと広範囲に、もっと確実に、国を揺るがす災厄をもたらすものだ」
「それを……私にどうしろって言うの?」
「貴様にはまだ、利用価値がある。……ここから出してやる代わりに、我々の手駒になれ」
鉄格子の鍵が、音もなく開いた。 ミリアはごくりと唾を飲み込んだ。 これは悪魔の誘いだ。 乗れば二度と戻れない。 しかし、彼女の心の中にあるエリスへの復讐心は、理性を遥かに凌駕していた。
「……やるわ。エリスを地獄に落とせるなら、なんだってやってやる」
ミリアは黒い小瓶をひったくるように受け取った。 その顔には、狂気じみた笑みが張り付いていた。 一度は潰えたはずの悪意が、より強大で危険なものとなって蘇ろうとしていた。
◇
一方、そんなこととは露知らず。 私はクラウス様の屋敷で、平和な(?)日々を送っていた。
「エリス、今日は天気がいいから街へ出かけようか。もちろん、お忍びで」 「……(コクッ)」
休日のデート。 変装をして城下町を歩くことになった。 クラウス様は眼鏡をかけ、髪を下ろしている。それだけで雰囲気がガラリと変わり、知的な大学生のように見える。 私はフードを目深に被り、彼の腕にしっかりとしがみつく。
街は賑わっていた。 市場には活気があり、人々の笑顔が溢れている。 平和だ。 宰相としてのクラウス様の統治が行き届いている証拠だ。
「この平和を守るのが、私の仕事だ。……そして、君の笑顔を守るのが、私の生き甲斐だ」 彼はクレープを買ってきて、またしても「あーん」をしてくれた。 街中でもやるのか。 恥ずかしいけれど、美味しいから許す。
しかし。 ふと、路地裏から嫌な風が吹いた気がした。 生臭いような、腐ったような臭い。
私は足を止めた。 鼻を押さえる。
「どうした、エリス?」 クラウス様が心配そうに覗き込む。
私は無言で、路地裏の奥を指差した。 そこに何があるのかはわからない。 でも、本能が「近づくな」と警鐘を鳴らしている。 あるいは、前世の記憶――処刑前に流行った「謎の疫病」の記憶が、微かに疼いたのかもしれない。
クラウス様は私の指差す方向を鋭い目で見つめた。
「……あそこは、スラム街に続く道だ。何か気になるのか?」
私は首を横に振った。 ただ、臭かっただけかもしれない。 気のせいだと思いたかった。
でも、その時、路地の奥からゴホゴホという激しい咳の音が聞こえてきた。 それは、単なる風邪の咳ではなかった。 もっと深く、肺の底から絞り出すような、不気味な音。
クラウス様の表情が険しくなる。
「……行こう、エリス。ここは空気が悪い」
彼は私を庇うようにして、足早にその場を離れた。 でも、私は背中に冷たいものを感じていた。
平和な日常の裏側で、何かが始まろうとしている。 ミリアの影。 謎の病。 そして、隣国の動き。
私の「沈黙」が、再び試される時が近づいていた。 でも、今はまだ、隣にいる彼の温もりだけを信じていたかった。
男爵令嬢ミリア・ベルガーの逮捕。 彼女の実家であるベルガー男爵家への家宅捜索。 そして、毒を見抜いて身を守った私、エリス・フォン・ローゼンに対する称賛の嵐。
事件の翌日から、私の元には山のような手紙が届いた。 「貴女の勇気ある沈黙に感動しました」「悪に屈しない高潔な姿勢、見習いたいと思います」といった称賛の手紙に加え、なぜか「腹痛に効くお守り」とか「解毒作用のあるハーブティー」といった贈り物も大量に送られてきた。 みんな、私のことを「予知能力者」か「神の使い」だと思っている節があるが、実態はただの「下剤トラウマ持ちのビビリ」であることは、墓場まで持っていく秘密だ。
そして、何より大きく変わったのは――。
「……エリス。口を開けて」
宰相執務室。 私の目の前には、スプーンを持ったクラウス・ヴァン・アイゼンベルク閣下がいた。 スプーンの上には、プルプルと震える極上のプリンが乗っている。
「あ、あの……自分で食べられます」
私が小声で(ジェスチャーを交えて)伝えようとするが、クラウス様は頑としてスプーンを引かない。
「ダメだ。私が毒味をしたもの以外、口にしてはならない。……君を失うリスクを、0.001パーセントでも残したくはないんだ」
真剣な眼差し。 その瞳の奥には、先日の事件で私が死にかけていた(と彼が思っている)ことへの恐怖が、未だに色濃く残っていた。
彼は私がプリンを食べるのを見届けると、満足げに頷き、ハンカチで私の口元を拭った。 過保護だ。 過保護すぎる。 この一週間、私は食事のたびにこの「あーん」を強要されている。 最初は恥ずかしくて死ぬかと思ったが、人間とは恐ろしいもので、慣れてくると「楽でいいな」と思い始めている自分がいる。 ダメ人間への道まっしぐらだ。
「美味しいか?」 問いかけに、私はコクコクと頷く。 クラウス様はそれを見て、蕩けるような笑顔を見せた。
「そうか。君が美味しそうに食べていると、私も幸せだ。……さて、仕事に戻ろう」
彼は瞬時に表情を引き締め、鬼の形相で書類の山に向き直った。 その切り替えの早さには舌を巻く。 周りの文官たちは、「閣下のデレタイムが終わった……」「また地獄の業務が始まる……」と戦々恐々としているが、私にとっては、彼の背中を見ているこの時間が一番落ち着くようになっていた。
◇
その日の夜。 仕事を終えた私たちは、帰宅のために馬車に乗り込んだ。
宰相家の馬車は、防音・防振に優れた最高級品だ。 扉が閉まると、外の喧騒がふっつりと途切れ、完全な二人きりの空間になる。 窓の外には、冬の夜空が広がっている。 馬車の揺れは心地よく、私は一日の疲れからか、少しうとうとしていた。
隣にはクラウス様がいる。 いつもなら、移動中も書類に目を通したり、明日のスケジュールの確認をしたりしているのだが、今夜の彼は違っていた。 何もせず、ただじっと座っている。 そして、その視線はずっと私に向けられていた。
(……視線が熱い)
私は気まずくなって、狸寝入りを決め込むことにした。 目を閉じ、頭を窓枠にもたせかける。 寝息を立てるふりをする。
すると、ガタン、と馬車が小さく揺れた。 私の頭が窓枠にぶつかりそうになる。 痛っ、となるはずだったが、その前に温かい手が私の頭を支えた。
「……危ないな」
低い声が耳元で響く。 クラウス様だ。 彼は私の頭を優しく引き寄せ、自分の肩に乗せた。 硬い肩の感触。 上質な生地の肌触り。 そして、彼の体温がじんわりと伝わってくる。
私は心臓が跳ねるのを必死に抑えながら、寝たふりを続けた。 ここで起きたら気まずい。 このまま、屋敷に着くまで寝たふりを貫こう。
しかし、クラウス様は私が起きていることに気づいていないのか、あるいは寝ていると思っているからこそなのか、ポツリと独り言を漏らした。
「……本当に、無事でよかった」
その声は、いつもの自信に満ちた宰相の声ではなかった。 弱々しく、震えるような、迷子の子供のような声だった。
「あの時、君が毒を口にしていたらと思うと……心臓が凍りつきそうになる。君を失うかもしれないという恐怖が、未だに私を苛むんだ」
え。 そんなに? 私は薄目を開けたい衝動に駆られたが、我慢した。
クラウス様の手が、私の髪を梳くように撫でる。 優しい手つきだ。 まるで壊れ物を扱うような慎重さで。
「私は今まで、誰も愛さずに生きてきた。言葉は嘘をつく道具であり、人は利益のために裏切る生き物だと思っていたからだ。……だが、君は違う」
彼の独白は続く。 普段、誰にも見せない心の内を、眠っている(と思っている)私にだけ吐露するように。
「君の沈黙には、嘘がない。君の行動には、打算がない。ただ純粋に、私の安らぎとなり、私の過ちを正してくれる。……君に出会って初めて、私は『守りたい』と心から思える存在を得た」
買いかぶりすぎです。 打算ならあります。処刑されたくないという一心です。 でも、そんな私の卑屈な心の声など届くはずもなく、クラウス様の言葉は熱を帯びていく。
「エリス。……愛している」
ドキッ!! 心臓が爆発するかと思った。 愛している。 その言葉の響きが、あまりにも甘く、重く、私の胸に突き刺さった。
前世でアデルに言われた「好きだよ」とは、重みが違う。 アデルの言葉は軽かった。アクセサリーを褒めるような感覚だった。 でも、クラウス様の言葉は、魂の底から絞り出されたような切実さがある。
彼は私の肩を抱く腕に力を込めた。 ギュッ、と抱きしめられる。 苦しい。 でも、嫌じゃない。
私は緊張で身体が強張った。 金縛りのように動けない。 それがまた彼には「無言で身を委ねている」と解釈されたようだ。
「……起きているのか?」
ハッ。 バレた?
「いや、寝ているのか。……この身を委ねる信頼感。私の腕の中で、君はこんなにも無防備になってくれるのだな」
セーフ。 まだ寝ている判定だ。 私はホッとして、力を抜いた。
クラウス様は私の頭に頬を寄せ、さらに深く抱きしめた。 彼の吐息が首筋にかかる。 くすぐったい。 でも、彼の匂いに包まれていると、不思議なほど安心する。
「ずっと、こうしていたい。……国も、政治も、全てを忘れて。君と二人だけの世界に閉じこもりたい」
あの仕事中毒(ワーカーホリック)の宰相閣下が、そんなことを言うなんて。 相当参っているらしい。 それだけ、今回の毒事件がショックだったのだろうか。
私は彼の腕の中で、少しだけ申し訳ない気持ちになった。 私はただ、自分の身を守るために必死だっただけなのに。 彼をこんなに心配させてしまった。
(……ごめんなさい、クラウス様)
私は心の中で謝りながら、無意識に彼の上着の裾を掴んでいた。 ギュッ。 小さく握りしめる。
すると、クラウス様の身体がピクリと反応した。
「……!」
彼は私の手を見た。 そして、私の顔を覗き込んだ。
「エリス?」
私は観念して、ゆっくりと目を開けた。 至近距離に、彼の美しい顔がある。 灰色の瞳が、揺れていた。 驚きと、喜びと、そして隠しきれない情熱を湛えて。
私は何も言えず、ただ彼を見つめ返した。 言葉が出てこない。 「起きてました」と言うのも恥ずかしいし、「聞いてました」と言うのも気まずい。 だから、いつものように無言で、少しだけ微笑んでみせた。 引きつった笑いではなく、自然な笑みが浮かんだ気がした。
クラウス様は息を呑んだ。
「……聞いていたのか?」
私は小さく頷く。 彼の顔が、見る見るうちに赤く染まっていく。 あの「氷の閣下」が、耳まで真っ赤にして照れている。 可愛い。 不覚にも、そう思ってしまった。
「忘れてくれ。……いや、忘れないでくれ」
彼は片手で顔を覆い、呻くように言った。 普段の冷静沈着な彼からは想像もできない、人間味あふれる姿。
「本音だ。……君の前だと、私は理性を保てなくなる。格好悪いところばかり見せているな」
そんなことないです。 貴方はいつも完璧で、怖いくらい格好いいです。 たまにこうして崩れるところが、逆にズルいです。
私は無言のまま、彼の膝の上で(いつの間にか乗せられていた)、彼の手を両手で包み込んだ。 私の手は小さいけれど、彼の大きな手を温めることはできる。 ギュッ、と握る。
クラウス様は顔を覆っていた手を外し、私を見た。 その瞳は、もう迷っていなかった。
「エリス。……キスをしてもいいか?」
えっ。
直球すぎる。 ここで「はい」と言うのは恥ずかしい。 「いいえ」と言うのは嘘になる。 だから私は、黙って目を閉じた。
沈黙は肯定。 彼はそう教えてくれたから。
ふわり、と唇に柔らかい感触が触れた。 ほんの一瞬。 触れるだけの、優しいキス。 でも、それはどんな情熱的なキスよりも、私の心を揺さぶった。
離れていく彼の気配に、名残惜しさを感じている自分がいた。 目を開けると、クラウス様は今までで一番優しい顔で笑っていた。
「……甘いな。君の沈黙は」
私の心臓は、もう限界だった。 ときめき? これが、ときめきなの? 今まで恐怖でドキドキすることはあっても、こんなふうに胸がキュンとするのは初めてだ。
(この人、本当に私のこと好きなんだ……)
疑いようのない事実として、それが腑に落ちた。 勘違いから始まった関係だけれど。 私が「無言」を貫いているうちに、彼の中で私は理想化されてしまったけれど。 それでも、今、目の前にいる彼は、私自身を見てくれている気がした。
馬車が止まった。 屋敷に到着したようだ。 御者が扉を開ける音がする。
クラウス様は瞬時にいつもの「宰相の顔」に戻り、私の手を取ってエスコートしてくれた。 でも、繋いだ手のひらの汗ばんだ熱さが、先ほどの甘い時間の余韻を物語っていた。
◇
事件から数日後。 王宮の地下牢。 湿った石壁に囲まれた独房に、かつて華やかなドレスを纏っていた少女がうずくまっていた。
ミリア・ベルガー。 毒殺未遂の罪で収監された彼女は、やつれ果てていた。 自慢のピンクブロンドはボサボサになり、瞳からはかつての輝きが消えている。
「……出して。ここから出してよ」
彼女は鉄格子を掴み、力なく揺すった。 しかし、看守たちは見向きもしない。 「宰相閣下の婚約者を狙った大罪人」として、彼女への扱いは冷徹そのものだった。
カツ、カツ、カツ。 足音が近づいてくる。 ミリアが顔を上げると、そこには黒いフードを被った人物が立っていた。 看守ではない。 どこから入ってきたのか、音もなく現れた謎の人物。
「誰……?」 ミリアが掠れた声で問う。
フードの人物は、鉄格子の隙間から一枚の紙を差し出した。 そこには、奇妙な紋章が描かれていた。 双頭の蛇が絡み合う、不気味な紋章。
「ミリア・ベルガー。……貴様に取引を持ちかけに来た」 低く、性別すら判然としない声。
「取引……?」
「そうだ。貴様はエリス・フォン・ローゼンを憎んでいるな? 彼女を破滅させたいと願っているな?」
ミリアの瞳に、憎悪の炎が再燃する。 「当たり前よ! あいつのせいで私は……!」
「ならば、力を貸そう。我々もまた、あの国と、あの宰相を疎ましく思っている」
フードの人物は、小さな小瓶を取り出した。 それは以前、ミリアが使った毒とは違う。 もっと禍々しい、黒い液体が入っていた。
「これは『コキュートスの雫』。……ただの毒ではない。もっと広範囲に、もっと確実に、国を揺るがす災厄をもたらすものだ」
「それを……私にどうしろって言うの?」
「貴様にはまだ、利用価値がある。……ここから出してやる代わりに、我々の手駒になれ」
鉄格子の鍵が、音もなく開いた。 ミリアはごくりと唾を飲み込んだ。 これは悪魔の誘いだ。 乗れば二度と戻れない。 しかし、彼女の心の中にあるエリスへの復讐心は、理性を遥かに凌駕していた。
「……やるわ。エリスを地獄に落とせるなら、なんだってやってやる」
ミリアは黒い小瓶をひったくるように受け取った。 その顔には、狂気じみた笑みが張り付いていた。 一度は潰えたはずの悪意が、より強大で危険なものとなって蘇ろうとしていた。
◇
一方、そんなこととは露知らず。 私はクラウス様の屋敷で、平和な(?)日々を送っていた。
「エリス、今日は天気がいいから街へ出かけようか。もちろん、お忍びで」 「……(コクッ)」
休日のデート。 変装をして城下町を歩くことになった。 クラウス様は眼鏡をかけ、髪を下ろしている。それだけで雰囲気がガラリと変わり、知的な大学生のように見える。 私はフードを目深に被り、彼の腕にしっかりとしがみつく。
街は賑わっていた。 市場には活気があり、人々の笑顔が溢れている。 平和だ。 宰相としてのクラウス様の統治が行き届いている証拠だ。
「この平和を守るのが、私の仕事だ。……そして、君の笑顔を守るのが、私の生き甲斐だ」 彼はクレープを買ってきて、またしても「あーん」をしてくれた。 街中でもやるのか。 恥ずかしいけれど、美味しいから許す。
しかし。 ふと、路地裏から嫌な風が吹いた気がした。 生臭いような、腐ったような臭い。
私は足を止めた。 鼻を押さえる。
「どうした、エリス?」 クラウス様が心配そうに覗き込む。
私は無言で、路地裏の奥を指差した。 そこに何があるのかはわからない。 でも、本能が「近づくな」と警鐘を鳴らしている。 あるいは、前世の記憶――処刑前に流行った「謎の疫病」の記憶が、微かに疼いたのかもしれない。
クラウス様は私の指差す方向を鋭い目で見つめた。
「……あそこは、スラム街に続く道だ。何か気になるのか?」
私は首を横に振った。 ただ、臭かっただけかもしれない。 気のせいだと思いたかった。
でも、その時、路地の奥からゴホゴホという激しい咳の音が聞こえてきた。 それは、単なる風邪の咳ではなかった。 もっと深く、肺の底から絞り出すような、不気味な音。
クラウス様の表情が険しくなる。
「……行こう、エリス。ここは空気が悪い」
彼は私を庇うようにして、足早にその場を離れた。 でも、私は背中に冷たいものを感じていた。
平和な日常の裏側で、何かが始まろうとしている。 ミリアの影。 謎の病。 そして、隣国の動き。
私の「沈黙」が、再び試される時が近づいていた。 でも、今はまだ、隣にいる彼の温もりだけを信じていたかった。
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「『顔も見たくない』だと? つまり、直視できないほど私が好きだという照れ隠しか!」 「『探さないで』? 地の果てまで追いかけて抱きしめてほしいというフリだな!」
実は1周目からリーゼロッテを溺愛していた(が、コミュ障すぎて伝わっていなかった)アレクセイ王子は、彼女の拒絶を「愛の試練(かくれんぼ)」と超ポジティブに誤解! 国家権力と軍隊、そしてS級ダンジョンすら踏破するチート能力を総動員して、全力で追いかけてきた!?
物理で逃げる最強令嬢VS愛が重すぎる勘違い王子。 聖女もドラゴンも帝国も巻き込んだ、史上最大規模の「国境なき痴話喧嘩」が今、始まる!
※表紙はNano Bananaで作成しています
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