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第12話:夜空のドレスと、嫉妬の炎
夜会当日。
私は侍女たちに手伝ってもらい、カイから贈られた夜空色のドレスに、初めて袖を通した。
鏡に映った自分の姿に、思わず息を呑む。
深い青色のドレスは、私の肌を雪のように白く見せ、銀の刺繍とダイヤモンドが、動くたびに光を乱反射させて、キラキラと輝いている。
まるで、本物の夜空をその身にまとっているかのようだ。
「まあ、アリア様! 本当にお美しい……!」
「まるで、夜の女神様が舞い降りたようですわ!」
侍女たちの心からの称賛の声が、なんだか気恥ずかしい。
「このドレスには、この髪飾りがお似合いでしょう」
侍女の一人が、星の形をしたダイヤモンドの髪飾りを、私の髪にそっと挿してくれた。これも、カイが用意してくれたものだろうか。
準備を終え、会場である大広間へと向かう。
重厚な扉の前で、カイが私を待っていた。
彼は、黒を基調とした、金の刺繍が豪華に施された公爵家の正礼装に身を包んでいた。
いつもより、さらに威厳と、そして抗いがたい色気が増して見える。
その姿に、思わず見惚れてしまった。
「……カイ」
「アリアか。……ああ、やはり、俺の思った通りだ」
カイは私の姿を認めると、一瞬、息を呑み、そして、心の底から感嘆したように言った。
その青い瞳が、熱っぽく、じっと私を見つめている。
「……その、ありがとうございます」
「いや。……行くぞ」
彼は、ごく自然に私に腕を差し出した。
エスコートをしてくれるということだろう。
私は少し戸惑いながらも、そっとその腕に自分の手を重ねた。
カイの腕は、硬く、逞しい。その感触に、また心臓がうるさく鳴った。
二人で並び、大広間の扉が開かれた、その瞬間。
会場中の視線が、一斉に、私たちに突き刺さった。
ざわめきと、好奇と、そして――隠しきれない、嫉妬。
「あれは、どこのご令嬢だ……?」
「公爵様が、女性をエスコートなさるなんて、初めて見たぞ……」
「まさか、噂の……王都を追放されたという、リンドバーグ公爵家の……」
ひそひそと交わされる会話が、鋭い針のように、私の肌を刺す。
居心地の悪さに身を縮こませそうになる私を、カイが力強く支えてくれた。
「案ずるな。堂々としていろ。お前は、俺の女だ」
耳元で囁かれた、力強い言葉。
そのあまりに直接的な響きに、私の不安はどこかへ吹き飛んでしまった。
そうだ。私は、カイの客なのだから。
私たちはそのまま、ダンスフロアの中央へと進み出た。
そして、ワルツの優雅な調べが始まると同時に、カイは私を優しくリードして、踊り始める。
彼のリードは、驚くほど上手だった。
まるで、ずっと前から、こうして二人で踊っていたかのように、私たちのステップは完璧に重なる。
彼の腕の中にいると、周囲の視線も、雑音も、すべてが遠のいていく。
二人だけの世界にいるような、不思議な、甘い感覚。
「……お上手ですのね、カイ」
「昔、嫌というほど叩き込まれただけだ」
ぶっきらぼうに答えながらも、彼は私をしっかりとホールドし、その青い瞳は、一瞬たりとも私から逸らされない。
その熱い視線に射抜かれて、私はもう、どうにかなってしまいそうだった。
一曲、夢見心地で踊り終えた、その時だった。
「ごきげんよう、ヴォルフガング公爵様。そして……そちらの方は?」
わざとらしい、猫なで声。
振り返ると、そこに立っていたのは、炎のように派手な真紅のドレスに身を包んだ、若い令嬢だった。
ヴォルフガング領の有力貴族、バーンズ伯爵家の令嬢、クラリスだ。
彼女は、以前からカイに執心していると、城の侍女たちが噂していた。
「まあ、噂には伺っておりましたけれど……。王都を追放された罪人の方が、まさか、このような晴れがましい席にいらっしゃるとは、驚きましたわ」
その目は、全く笑っていない。
あからさまな敵意と嫉妬が、その瞳の中で炎のように燃え盛っているのが、私には視えた。
「クラリス嬢」
カイが、氷のように冷たい声で、彼女の名前を呼んだ。
「彼女は、俺の大切な客だ。無礼な口の利き方は、許さん」
「まあ、怖い! 申し訳ありません、公爵様。ただ、あまりにも公爵様のお隣に***お似合いにならない方***がいらっしゃるものですから、つい、本音が……」
クラリス嬢は、扇で口元を隠し、くすくすと意地悪く笑う。
その視線は、私が着ている、夜空のドレスに向けられていた。
「そのドレス、とてもお美しいですわね。まるで、公爵様の瞳の色のようで。……けれど、追放された罪人が身にまとうには、少々、分不相応ではございませんこと?」
あからさまな、侮辱。
カッ、と頭に血が上る。
私が、何か言い返そうと口を開きかけた、その時だった。
「――そのドレスは、俺が彼女に贈ったものだ」
カイ様が、静かに、けれど、大広間の隅々まで響き渡るような、有無を言わさぬ迫力で言った。
「俺が、彼女のために選び、彼女のために贈った。何か問題でも?」
会場が、水を打ったように、しん、と静まり返る。
カイの言葉が、どれほどの意味を持つのか、ここにいる誰もが、痛いほど理解したからだ。
クラリス嬢の顔が、さっと青ざめる。
「そ、そ、そんな……公爵様が、この、こんな女のために……!?」
「この女、ではない。アリアだ」
カイは、私の腰を、ぐい、と力強く引き寄せた。
まるで、自らの所有物だと、その場にいるすべての者に見せつけるかのように。
「彼女は、俺の唯一無二の魔力鑑定士であり、俺の……大切な人間だ。今後、彼女を侮辱する者は、この俺が許さん。バーンズ伯爵家とて、例外ではないと知れ」
絶対零度の、宣告。
クラリス嬢は、わなわなと震え、今にも泣き出しそうだ。
(カイ……)
私を守るために、ここまで……。
嬉しい。嬉しいけれど、彼の敵を、増やしてしまったのではないか。
そんな不安も、同時に、私の胸をよぎる。
ざわめく会場の中で、私はカイの逞しい腕に抱かれながら、これから起こるであろう、大きな波乱の予感に、ただ身を固くするしかなかった。
私は侍女たちに手伝ってもらい、カイから贈られた夜空色のドレスに、初めて袖を通した。
鏡に映った自分の姿に、思わず息を呑む。
深い青色のドレスは、私の肌を雪のように白く見せ、銀の刺繍とダイヤモンドが、動くたびに光を乱反射させて、キラキラと輝いている。
まるで、本物の夜空をその身にまとっているかのようだ。
「まあ、アリア様! 本当にお美しい……!」
「まるで、夜の女神様が舞い降りたようですわ!」
侍女たちの心からの称賛の声が、なんだか気恥ずかしい。
「このドレスには、この髪飾りがお似合いでしょう」
侍女の一人が、星の形をしたダイヤモンドの髪飾りを、私の髪にそっと挿してくれた。これも、カイが用意してくれたものだろうか。
準備を終え、会場である大広間へと向かう。
重厚な扉の前で、カイが私を待っていた。
彼は、黒を基調とした、金の刺繍が豪華に施された公爵家の正礼装に身を包んでいた。
いつもより、さらに威厳と、そして抗いがたい色気が増して見える。
その姿に、思わず見惚れてしまった。
「……カイ」
「アリアか。……ああ、やはり、俺の思った通りだ」
カイは私の姿を認めると、一瞬、息を呑み、そして、心の底から感嘆したように言った。
その青い瞳が、熱っぽく、じっと私を見つめている。
「……その、ありがとうございます」
「いや。……行くぞ」
彼は、ごく自然に私に腕を差し出した。
エスコートをしてくれるということだろう。
私は少し戸惑いながらも、そっとその腕に自分の手を重ねた。
カイの腕は、硬く、逞しい。その感触に、また心臓がうるさく鳴った。
二人で並び、大広間の扉が開かれた、その瞬間。
会場中の視線が、一斉に、私たちに突き刺さった。
ざわめきと、好奇と、そして――隠しきれない、嫉妬。
「あれは、どこのご令嬢だ……?」
「公爵様が、女性をエスコートなさるなんて、初めて見たぞ……」
「まさか、噂の……王都を追放されたという、リンドバーグ公爵家の……」
ひそひそと交わされる会話が、鋭い針のように、私の肌を刺す。
居心地の悪さに身を縮こませそうになる私を、カイが力強く支えてくれた。
「案ずるな。堂々としていろ。お前は、俺の女だ」
耳元で囁かれた、力強い言葉。
そのあまりに直接的な響きに、私の不安はどこかへ吹き飛んでしまった。
そうだ。私は、カイの客なのだから。
私たちはそのまま、ダンスフロアの中央へと進み出た。
そして、ワルツの優雅な調べが始まると同時に、カイは私を優しくリードして、踊り始める。
彼のリードは、驚くほど上手だった。
まるで、ずっと前から、こうして二人で踊っていたかのように、私たちのステップは完璧に重なる。
彼の腕の中にいると、周囲の視線も、雑音も、すべてが遠のいていく。
二人だけの世界にいるような、不思議な、甘い感覚。
「……お上手ですのね、カイ」
「昔、嫌というほど叩き込まれただけだ」
ぶっきらぼうに答えながらも、彼は私をしっかりとホールドし、その青い瞳は、一瞬たりとも私から逸らされない。
その熱い視線に射抜かれて、私はもう、どうにかなってしまいそうだった。
一曲、夢見心地で踊り終えた、その時だった。
「ごきげんよう、ヴォルフガング公爵様。そして……そちらの方は?」
わざとらしい、猫なで声。
振り返ると、そこに立っていたのは、炎のように派手な真紅のドレスに身を包んだ、若い令嬢だった。
ヴォルフガング領の有力貴族、バーンズ伯爵家の令嬢、クラリスだ。
彼女は、以前からカイに執心していると、城の侍女たちが噂していた。
「まあ、噂には伺っておりましたけれど……。王都を追放された罪人の方が、まさか、このような晴れがましい席にいらっしゃるとは、驚きましたわ」
その目は、全く笑っていない。
あからさまな敵意と嫉妬が、その瞳の中で炎のように燃え盛っているのが、私には視えた。
「クラリス嬢」
カイが、氷のように冷たい声で、彼女の名前を呼んだ。
「彼女は、俺の大切な客だ。無礼な口の利き方は、許さん」
「まあ、怖い! 申し訳ありません、公爵様。ただ、あまりにも公爵様のお隣に***お似合いにならない方***がいらっしゃるものですから、つい、本音が……」
クラリス嬢は、扇で口元を隠し、くすくすと意地悪く笑う。
その視線は、私が着ている、夜空のドレスに向けられていた。
「そのドレス、とてもお美しいですわね。まるで、公爵様の瞳の色のようで。……けれど、追放された罪人が身にまとうには、少々、分不相応ではございませんこと?」
あからさまな、侮辱。
カッ、と頭に血が上る。
私が、何か言い返そうと口を開きかけた、その時だった。
「――そのドレスは、俺が彼女に贈ったものだ」
カイ様が、静かに、けれど、大広間の隅々まで響き渡るような、有無を言わさぬ迫力で言った。
「俺が、彼女のために選び、彼女のために贈った。何か問題でも?」
会場が、水を打ったように、しん、と静まり返る。
カイの言葉が、どれほどの意味を持つのか、ここにいる誰もが、痛いほど理解したからだ。
クラリス嬢の顔が、さっと青ざめる。
「そ、そ、そんな……公爵様が、この、こんな女のために……!?」
「この女、ではない。アリアだ」
カイは、私の腰を、ぐい、と力強く引き寄せた。
まるで、自らの所有物だと、その場にいるすべての者に見せつけるかのように。
「彼女は、俺の唯一無二の魔力鑑定士であり、俺の……大切な人間だ。今後、彼女を侮辱する者は、この俺が許さん。バーンズ伯爵家とて、例外ではないと知れ」
絶対零度の、宣告。
クラリス嬢は、わなわなと震え、今にも泣き出しそうだ。
(カイ……)
私を守るために、ここまで……。
嬉しい。嬉しいけれど、彼の敵を、増やしてしまったのではないか。
そんな不安も、同時に、私の胸をよぎる。
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