偽聖女と蔑まれた私、実は【魔力鑑定EX】の持ち主でした~追放先で出会った無愛想な公爵様に見初められ、今更帰ってきて言われてももう遅いです

放浪人

文字の大きさ
13 / 32

第13話:王国からの使者、愚者の後悔

夜会での一件は、翼が生えたかのように、あっという間に城中に、そして領内へと広まっていた。

『氷の公爵様が、あの追放された令嬢を溺愛している』
『公爵様は、彼女を侮辱したバーンズ伯爵家を、夜会の席で一喝されたそうだ』
『なんでも、その令嬢は、公爵様にとって唯一無二の、それはそれは大切な方らしい』

城の使用人たちが、遠巻きに私を見ては、畏敬と好奇の入り混じった眼差しで、ひそひそと噂話に花を咲かせているのが分かる。
昨日まで私に向けられていた憐れみの視線は、どこにもなかった。

(……居心地が悪い……というより、なんだか、むず痒いわね)

カイの、あのあまりにも堂々とした所有物宣言。
思い出すだけで、顔から火が出そうだ。
自室で一人、ため息をついていると、ゼバスさんが血相を変えて部屋に飛び込んできた。

「アリア様! 大変でございます!」

「どうしたのですか、ゼバスさん。そんなに慌てて」

「お、王国からの正式な使者団が、城門の前まで……! そして、使節団を率いておられるのは……エドワード王太子殿下、ご本人でございます!」

「……!」

ついに、来たか。
父からの手紙を無視したのだから、当然の対応だろう。けれど、まさか王太子自らが出向いてくるとは。

「カイは?」
「すでに、謁見の間でお待ちです。アリア様も、と……」
「分かりましたわ。すぐに向かいます」

覚悟を決めて、謁見の間へ向かう。
衛兵が重厚な扉を開けると、そこには、玉座にふんぞり返るように座るカイと、その前に、見慣れた金色の髪の男が立っていた。

「……エドワード殿下」

私の元婚約者、エドワード・フォン・クライネルト王太子その人だった。
彼の隣には、近衛騎士団の者たちが数名、緊張した面持ちで控えている。

「アリア! 無事だったか!」

エドワード様は、私の姿を見るなり、安堵したような、それでいて少し気まずそうな、複雑な表情で駆け寄ってきた。

「……何の御用でしょうか、王太子殿下」

私は一歩も動かず、氷のように冷ややかな視線で彼を見つめる。
その、かつてないほどの冷たい態度に、エドワード様は一瞬、怯んだようだった。

「な、何のだ……? 君を、迎えに来たに決まっているだろう!」

「お断りしますわ」

「なっ!?」

私の、間髪入れぬ即答に、エドワード様は絶句した。

「アリア、君は自分が何を言っているのか分かっているのか!? 僕は、君を許すと、そう言っているんだ! リナを虐げた罪は、この僕が不問にしてやろう! だから、一緒に王都へ帰るんだ!」

なんて、身勝手で、傲慢な言い分だろう。
まるで、私が悪いことをした前提で、それを寛大にも許してやるとでも言いたげだ。
この人は、根本的に、何も分かっていない。

(本当に、救いようのない、愚かな人)

怒りを通り越して、呆れてしまう。

「待て」

その時、玉座に座っていたカイが、地を這うような低い声で制した。

「彼女は帰らないと、そう言ったはずだ。王太子殿下ともあろうお方が、人の言葉が理解できないとでも?」

「ヴォルフガング公爵……! 貴様、王太子であるこの僕に向かって、なんという口の利き方を!」

「ここは、俺の城だ。俺の法が、王国の法に優先する。そして、彼女の意思こそが、この城の、絶対の法だ」

カイは、エドワード様を、虫けらでも見るかのように冷たく見下ろす。
その絶対的な王者の威圧感に、エドワード様はぐっと言葉を詰まらせた。

「アリア、頼む! 帰ってきてくれ! 君の力が必要なんだ!」

エドワード様は、今度は情に訴えかける作戦に出たらしい。
その顔は、必死そのものだ。

「……リナが、リナの聖なる力が、暴走しているんだ! もはや、誰にも止められない! このままでは、王国が……! 王国が、滅んでしまう!」

「……それで?」

私は、心の温度を一切乗せずに、問い返した。

「それが、私に何の関係がございますの? 聖女様は、リナなのでしょう? 私のような『偽りの聖女』に、一体何ができると、お思いで?」

「そ、それは……君なら、何か、方法を知っているかもしれないだろう!」

「存じませんわ。それに、たとえ知っていたとしても、あなた方にお教えする義理は、ございません」

きっぱりとした私の拒絶に、エドワード様は顔を歪ませる。
そして、その矛先をカイに向けた。

「ヴォルフガント公爵! 貴様が、アリアを唆したのか! 彼女を人質に、王国を脅すつもりか!」

「人聞きの悪いことを言うな」

カイは、玉座からゆっくりと立ち上がった。
その巨体が、エドワード様の前に、重圧となってのしかかる。

「俺はただ、貴様らがその価値も知らずに、泥の中に捨てた***至宝***を、拾って、磨いて、大切にしているだけだ」

「至宝、だと……?」

「そうだ。彼女は、万物の魔力を視る、唯一無二の瞳を持つ。お前たちが、その本当の価値も知らずに捨てた、国宝級の魔力鑑定士だ」

カイの言葉に、エドワード様の顔が、みるみるうちに血の気を失っていく。
ようやく、自分が何を手放してしまったのか、その重大さの片鱗に気づいたのだろう。

「そん、な……魔力鑑定……? アリア、本当なのか……?」

「今更ですわね」

私は、ふ、と嘲笑を浮かべた。
ずっと、心の奥底に溜め込んでいた想いが、言葉になって溢れ出す。

「あなたがたは、私の言葉など、一度たりとも信じようとはしませんでしたわ。リナの嘘と、偽りの涙だけを信じ、私を断罪し、追放した。その結果が、これです」

私は、エドワード様を真っ直ぐに見据えた。

「私は、もう二度と、あなたたちの元へは戻りません。私の居場所は、ここ。カイの隣です」

私の、揺るぎない決意表明。
それを聞いたカイが、満足そうに、私の肩を力強く抱き寄せた。

「……話は、それだけか? ならば、失せろ。これ以上、俺の城の、アリアのいる空気を汚すな」

絶対王者の、宣告。
エドワード様は、わなわなと唇を震わせ、悔しそうに、そして羨ましそうに、私とカイを睨みつけた。

「……覚えていろ……! アリア、必ず、必ず連れ戻しに来るからな!」

負け犬の遠吠えを残し、彼は騎士たちと共に、逃げるように謁見の間を去っていった。

嵐が、去った。
けれど、これはきっと、序章に過ぎない。
エド-ワ-ド様が、このまま大人しく引き下がるとは、到底思えなかった。
感想 1

あなたにおすすめの小説

「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった

歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。 だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」 追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。 一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。 誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。 「その言葉は、もう翻訳できません」

国外追放ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私は、セイラ・アズナブル。聖女候補として全寮制の聖女学園に通っています。1番成績が優秀なので、第1王子の婚約者です。けれど、突然婚約を破棄され学園を追い出され国外追放になりました。やった〜っ!!これで好きな事が出来るわ〜っ!! 隣国で夢だったオムライス屋はじめますっ!!そしたら何故か騎士達が常連になって!?精霊も現れ!? 何故かとっても幸せな日々になっちゃいます。

【結婚式当日に捨てられました】身代わりの役目は不要だと姉を選んだ王子は、隣国皇帝が私を国ごと奪いに来てから後悔しても手遅れです。

唯崎りいち
恋愛
結婚式当日、私は“替え玉”として捨てられた。 本物の姉が戻ってきたから、もう必要ないのだと。 けれど—— 私こそが、誰も知らなかった“本物の価値”を持っていた。 世界でただ一人、すべてを癒す力。 そして、その価値を知るただ一人の人が、皇帝となって私を迎えに来る。 これは、すべてを失った少女が、本当に必要とされる場所へ辿り着く物語。

すみっこ婚約破棄同盟〜王子様による婚約破棄のすみっこで〜

まりー
恋愛
   ある夜会で王子とその側近達の婚約破棄が行われた。腕に恋人をぶら下げて。所謂、王道断罪劇である。  でもこのお話の主役は麗しのヒロインでも、キラキラ王子でも、学園一の秀才や騎士団期待のホープでもない。これは王道のすみっこで行われた、弱小貴族と商人の子息たちの婚約破棄のお話である。 _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ 「もう俺ら、恋なんてしない!」と言う小学生の息子の話を参考に書きました。登場人物の男子たちの頭は小学生レベルだと思って読んでください。    

偽りの呪いで追放された聖女です。辺境で薬屋を開いたら、国一番の不運な王子様に拾われ「幸運の女神」と溺愛されています

黒崎隼人
ファンタジー
「君に触れると、不幸が起きるんだ」――偽りの呪いをかけられ、聖女の座を追われた少女、ルナ。 彼女は正体を隠し、辺境のミモザ村で薬師として静かな暮らしを始める。 ようやく手に入れた穏やかな日々。 しかし、そんな彼女の前に現れたのは、「王国一の不運王子」リオネスだった。 彼が歩けば嵐が起き、彼が触れば物が壊れる。 そんな王子が、なぜか彼女の薬草店の前で派手に転倒し、大怪我を負ってしまう。 「私の呪いのせいです!」と青ざめるルナに、王子は笑った。 「いつものことだから、君のせいじゃないよ」 これは、自分を不幸だと思い込む元聖女と、天性の不運をものともしない王子の、勘違いから始まる癒やしと幸運の物語。 二人が出会う時、本当の奇跡が目を覚ます。 心温まるスローライフ・ラブファンタジー、ここに開幕。

【完結】廃墟送りの悪役令嬢、大陸一の都市を爆誕させる~冷酷伯爵の溺愛も限界突破しています~

遠野エン
恋愛
王太子から理不尽な婚約破棄を突きつけられた伯爵令嬢ルティア。聖女であるライバルの策略で「悪女」の烙印を押され、すべてを奪われた彼女が追放された先は荒れ果てた「廃墟の街」。人生のどん底――かと思いきや、ルティアは不敵に微笑んだ。 「問題が山積み? つまり、改善の余地(チャンス)しかありませんわ!」 彼女には前世で凄腕【経営コンサルタント】だった知識が眠っていた。 瓦礫を資材に変えてインフラ整備、ゴロツキたちを警備隊として雇用、嫌われ者のキノコや雑草(?)を名物料理「キノコスープ」や「うどん」に変えて大ヒット! 彼女の手腕によって、死んだ街は瞬く間に大陸随一の活気あふれる自由交易都市へと変貌を遂げる! その姿に、当初彼女を蔑んでいた冷酷伯爵シオンの心も次第に溶かされていき…。 一方、ルティアを追放した王国は経済が破綻し、崩壊寸前。焦った元婚約者の王太子がやってくるが、幸せな市民と最愛の伯爵に守られた彼女にもう死角なんてない――――。 知恵と才覚で運命を切り拓く、痛快逆転サクセス&シンデレラストーリー、ここに開幕!

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

婚約破棄された伯爵令嬢ですが、辺境で有能すぎて若き領主に求婚されました

おりあ
恋愛
 アーデルベルト伯爵家の令嬢セリナは、王太子レオニスの婚約者として静かに、慎ましく、その務めを果たそうとしていた。 だが、感情を上手に伝えられない性格は誤解を生み、社交界で人気の令嬢リーナに心を奪われた王太子は、ある日一方的に婚約を破棄する。  失意のなかでも感情をあらわにすることなく、セリナは婚約を受け入れ、王都を離れ故郷へ戻る。そこで彼女は、自身の分析力や実務能力を買われ、辺境の行政視察に加わる機会を得る。  赴任先の北方の地で、若き領主アレイスターと出会ったセリナ。言葉で丁寧に思いを伝え、誠実に接する彼に少しずつ心を開いていく。 そして静かに、しかし確かに才能を発揮するセリナの姿は、やがて辺境を支える柱となっていく。  一方、王太子レオニスとリーナの婚約生活には次第に綻びが生じ、セリナの名は再び王都でも囁かれるようになる。  静かで無表情だと思われた令嬢は、実は誰よりも他者に寄り添う力を持っていた。 これは、「声なき優しさ」が、真に理解され、尊ばれていく物語。